軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パーティ前夜に。

手に入れた白金の羽を加工してもらうために奔走しつつ、手つかずだった旧館の掃除にも手を付ければ、日常はまた慌ただしく過ぎ去っていった。

気が付けば数日、また数日と時間が経つ。

やがて、リシアの誕生日パーティが開かれる数日前。

レンの下に、服を買った店の店主から髪飾りが完成したとの連絡が届いた。

「先日はありがとうございました。驚きのあまり正気を失いかけましたが、レン様であれば……と思う自分もおりました」

足を運んだ先の店内で、店主がそう言いながらレンに微笑みかける。

「レン様の強運には驚かされるばかりです」

「あはは……はい。自分でもびっくりしました」

「きっと、レン様は主神の加護があるのでしょう。――――さて、それではご用命いただいておりましたお品物を」

店主がそう言い、二人を隔てていたカウンターに小さな木箱を乗せた。

「白金の羽と言えば、私が帝都で修行していた際には、子供が見つけてきた事例も聞いたことがございます。それを思えば不思議ではないのですが、他でもないレン様が見つけたとあらば、何か運命を感じてしまいますね」

彼は木箱をレンの方に差し出しながらこう言う。

「それに、久しぶりに本業を楽しませていただきました」

「え? 本業って、服などの制作ではないんですか?」

「実は私の本業は宝飾品の制作なのです。この店を継ぐために縫製を学びましたが、やはり得意なのは本業でして」

だから店主は、レンが髪飾りの作成を頼んでも引き受けたのだ。

作成にかかった費用は決して安い金額ではなかったが、本業だったと聞けば期待感が煽られる。

(鋼食いのガーゴイルを討伐しておいてよかったな)

こう思えるくらいには値が張る仕事だった。

しかし素材が素材なため、そうした費用は覚悟していた。

その費用が足りたのならば、上々である。

だから、細かいことは考えないことにしていた。

もうここまできたら、リシアが喜んでくれれば構わない。

「さぁ、レン様。是非ご覧ください」

店主が髪飾りを確認するよう言った。

急な申し出にも関わらず、彼がおよそ一週間で完成させた髪飾り。

よく見れば、店主の目元は化粧が施されているが、それでも隠し切れない隈などの疲れが垣間見えた。

だがそのことを告げるは無粋と思い、レンは店主の厚意に甘え静かに頭を下げる。

レンはカウンターに置かれた木箱の蓋に手を伸ばし、それを静かに開けた。

蓋と木箱の間から、徐々に徐々に髪飾りの姿が見えてくる。

――――それは、聖女リシアの髪を飾るに相応しい美しさを湛えていた。

◇ ◇ ◇ ◇

レンはその後も忙しい日々を過ごした。

夜な夜な本邸のキッチンで給仕たちからパーティでの作法を教わり、主君のレザードの顔を汚さぬよう努めた。

それはパーティ前日の夜までつづけられた。

「ところで、レン様にお尋ねしたいことがございます」

この夜、最後の指南をレンに施していた給仕が言う。

「いい機会だとは思うのですが、執事にお客様の迎え方も聞いていたのは何故でしょう?」

「もちろん、明日のパーティのためです。俺はあくまでもアシュトン家の者ですから、そうしたことも学び、手伝う機会があるかと思って」

まだ仕事を頼まれているわけではないが、誰も手が空いておらず頼まれることがあるかも、と思えば学ばずには得られなかった。

基本的にはないと思うが、あくまでも念のためだった。

……のだが、

「あ、あらら?」

給仕が手を頬に当て、困った様子で首を傾げる。

「もしかして、聞いておられませんか? このクラウゼルで開かれるお嬢様の誕生日パーティに関しては、外部からのお客様はいらっしゃいませんよ」

「――――え?」

「帝都近くの町で開く場合でしたら、間違いなく招待していたでしょう。ですが、クラウゼルはどうしても大きな町や領地からは遠いので……」

一応、この町に足を運ぶ商人などが挨拶に来ることはある。

だがそれも、誕生日パーティが開かれる夜までで、基本的にそういった客は日中のうちに来訪を終える。

つまり、貴族が集う夜会が如く催し事ではない。

言ってしまえば、本邸に居る者たちだけで祝う集いだ。

「いずれにせよ、今回は色々といい経験になりましたから……」

「私も楽しかったですよ。レン様は意欲的でしたし、こちらも教え甲斐がありました」

学べたこと自体は悪くない。

レンは若干肩透かしをくらったものの、給仕に深く頭を下げた。

(考えてみたら、誰もそんな感じの仕事をしてなかったじゃん)

諸々のことが腑に落ちる。

道理で来客に対する用意や、あまり仰々しい飾り付けが大広間に施される様子もなかったのだ。

「お力になれたようでよかったです。――――さて、本日はこれで終了ですが、何か気になることはございましたか?」

「いえ、大丈夫です」

レンが首を横に振ってから「今日もありがとうございました」と言えば、給仕は笑みを浮かべてレンの下を去る。

残されたレンも、間もなく旧館に戻ることにした。

僅かに強張っていた身体をうんと伸ばして息を吐き、給仕に倣ってキッチンを出る。

「ふわぁ……ねむ……」

最近は給仕から学ぶ時間のほか、旧館の管理やリシアへの贈り物に加え、ヴァイスから教わる帝国剣術の件もあって忙しない日々を過ごしていた。

その影響か、気を抜けばすぐにでも寝つけそうな気がする。

(……流派かー)

いまでこそ帝国剣術を指南してもらっているけど、他の流派にも触れる機会があればいい経験になるはず。特に、リシアにとっては。

レンも強くなることを一つの目標に掲げているから、その機会は大歓迎だ。

問題は、その機会がいつになるだろうということなのだが――――

(|嫌な思い出を植え付けられた《あの強さを知っている》身としては、剛剣技を覚えたいところなんだけど)

となれば剛剣技の使い手に教えを請わなければいけないのだが、そもそも使い手が少ないとあって難しい気がした。ゲーム時代の人物以外にも扱える人はいるはずだが、縁が無ければ難しそうに感じる。

……そもそも、適性があるかどうかも不明なのだが。

――――と考えていたら、先ほどまで脳裏に浮かんでいたリシアの姿が視界に映った。

(めっちゃ見られてる)

リシアは曲がり角からそっとレンの方を覗き込み、じとっと細めで様子を伺っていた。

当然、無視はできない。

そもそも、彼女が居たのはレンが旧館に向かう廊下なのだ。

「あの、リシア様?」

近づくと姿を隠してしまったリシアだけど、レンが曲がり角まで来ると、その先で壁に背を預けて佇んでいた。

「あらレン。奇遇ね」

「奇遇っていうか、さっき俺の方を見てましたよね?」

「ううん、知らないわ」

「……左様ですか」

リシアの挙動不審さはどうしたものかと思ったが、彼女が口を割らないのなら仕方ない。

そう、諦めかけたところで、

「ねぇ。どうして最近、キッチンに通ってるの?」

どうやらリシアは、レンが何をしているのか気になっていただけのようだ。

レンとしても隠す必要はないから、素直に答える。

何をするためにキッチンを借りていたのかや、来客はいないから若干肩透かしを食らったという話を語った。

「もう! それなら私が教えたかったのに!」

むすっと可愛らしく唇を尖らせたリシアに対し、レンは何とも言えず苦笑した。

「一応お尋ねしたいんですが」

「ええ。何かしら?」

「リシア様はそれを確認しようとしてたんですか?」

その言葉にリシアはすぐ頷いた。

「だって、寝る前に話したいって思っても、レンが見つからなかったんだもの」

今日はいつにも増してすね方が可愛らしい。

レンに向けた上目遣いはその一言に尽きたが、その双眸に孕んだ微かな寂しさは見間違いではないだろう。

(どうしよ)

明日は誕生日パーティ当日だから、リシアは早く寝た方がいい気がする。

ただ、ここで彼女に寝ろというのも厳しい一言に思った。

「もしよければ、俺が学んだ成果をご覧いただけますか?」

「どういうこと?」

「給仕の方には諸々の作法とは別に、お茶の淹れ方も教わったんです。ちなみに、披露してもリシア様に満足いただける自信は皆無です」

「さ、誘ってくれたのは本当に嬉しいのだけど……自信満々に皆無って言われるとは思わなかったわ」

開き直ったように言ったレンの前で、リシアはつい本音を漏らした。

だが、その清々しさもどこかレンらしさが漂う。

「いやぁ……実際のところ、数日教わった程度なので」

「はいはい。でも、楽しみにしてるからね」

返事を聞いたレンはリシアと共にキッチンへ戻った。

その後、レンが披露した茶の腕前は意外にも好評だったことが、レンを密かに安堵させる。

『美味しい。あ、でも、ちょっとだけ苦いかも』

ちょっとだけ苦いかもしれない、こう評価しつつもリシアは微笑んでいた。

レンに告げることはなかったが、その茶を飲み干す頃には、そのことに名残惜しさを覚えていた。