軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お返しは大事なはず。

今日の反省点はいくつかある。

まず、こうして長い間狩りに出かけるなら、昼食のみならず夕食も持参するべきということ。

もう一つは運搬だ。久しぶりだからと張り切り過ぎてしまったのもあるが、魔物を引きずりながら帰るのは見てくれが悪い。

しかしながら、台車を引きながら森に行くのもどうかと思う。

結局、一人で狩りをするなら頑張るしかないのだ。

これに帰結したところで、レンは今日の調査結果と狩りの戦果を確認する。

(ミツメが 八匹(、、) 、アースワームが 二匹(、、) か)

アースワームと言うのは、Eランクの魔物だ。

イェルククゥも使役していた地中を這う巨大な虫の魔物のことで、さすがに担ぐことはできないから、引きずりながら町を目指している。

街道を汚しては申し訳ないから、そこを外れての道すがらだ。

しかしそれでも、時折すれ違う冒険者たちからは、奇妙な物をみたと言わんばかりの視線を向けられた。

計十匹の魔物をレンのような少年が引きずってるのだ。仕方のないことだろう。

朝はレザードにそれほど狩らないはずと言ったのに、まったくそうはなっていなかった。

(これ、このまま通っていいんだろうか)

やがて、クラウゼルに入る門が見えてきた。

もちろん門なのだから、幅は広い。

何を言いたいのかと言うと、レンが多くの魔物を引きずりながらでも十分通れる幅があるということだ。

問題は、あまりにも目立つということ。

「…………これはこれは」

やはり、だった。

門に立つ騎士は当然のようにレンのことを知っている。

その彼は、帰ったレンの様子を見て苦笑した。

「ご当主様より、レン殿が町の外で活動を開始したことは聞いておりました――――が、初日から大漁ですね」

「他の冒険者の方は、あまりこういう狩りはしないんですか?」

「小型の魔物が多いかと。ご存じのように運搬に苦労しますので、狩っても現地で解体してしまうか、素材を吟味して運ぶことが多いでしょうね」

(……俺もそうした方がいいかも)

「特にアースワームとなれば、Eランクながらその生態のせいで狩り辛いのが実情です。なので甲殻は良い値が付きますよ。使い道が多いわりに、狩る者が少ないので」

それを聞いたレンは素直に喜んだ。

レンが町の外に出るのは魔物の調査という仕事のためだが、出稼ぎの側面も小さくない。

「そうだ。これからギルドに行くんですが、このまま運んでも大丈夫ですか?」

「え、ええ……どうやら血や体液で道を汚すこともなさそうなので、問題ありませんが……」

騎士が「ですが、」と言ってつづける。

「今更ながら、お一人でここまで運ばれたのですか?」

「はい。パーティを組んでるわけでもないので、森からずっと引きずってきました」

「な、なるほど……かしこまりました」

どうやらこの騎士、レンが一人で運べるかどうか心配していたようだ。

城門まで一人で歩いてきたのだから、一人で運べて当然と言えば当然なのだが、それでもまだ半信半疑だったらしい。

でも、レンがまた歩きはじめると乾いた笑みを浮かべる。

「――――我らが英雄は、私が思う以上にすごいお方なのかもしれんな」

彼はレンの背を見送りながら、行き交う住民たちの驚きの声に耳を傾けながら思った。

私も同じ気持ちですよ、と。

一方で、先を進むレンは声に出さずに喜ぶ。

(いやー、ギルドが門から近くて助かった)

もしかすると、魔物の運搬などのための立地なのかも。こうしたことも考えられているのだと思い、レンは一つ賢くなれた気がした。

「で」

ここから先はどうしたらいいだろうか。

注目を集めながらやってきたギルドの前で、レンはその出入り口を見て佇んでいた。

いや、さすがに通らないだろう。

無理無理通っても扉や壁が割れてしまいそうだし、ギルド内を魔物の死体を連れて運ぶのは疑問が残る。

なので、ぼーっとどうしたものかと迷ってしまった。

だが、そうしていると、

「……こりゃすげぇ」

「ああ、驚いたな」

昨日言葉を交わした二人の冒険者が現れて、レンの傍で唖然としていた。

その二人が、レンの疑問に答えをくれる。

「横に搬入口があるから、そっちから行った方がいいぜ」

「え、そんなのがあるんですか?」

「そうとも。君のような戦果を上げた者は、自分でギルドの搬入口に運ぶんだ。それでも収まらない魔物を狩ったのなら、ギルドに依頼して外で査定して貰うことになる」

(……ちゃんと聞いとけばよかった)

ゲームと同じだろうと思って手続きを手短に終わらせたが、ここは実際にレンが生きる世界なのだから、素直に説明を受けておけばよかった。

その後悔に身を狩られたレンは二人に礼を言って別れ、来たとき同様に魔物を運ぶ。

運んだ先では既にギルドの職員が待っていて、驚いた様子でレンを迎えた。

「す……すべて買取でよろしいでしょうか?」

昨日言葉を交わした受付嬢が言った。

「お願いします」

魔石だけ抜いてある旨を伝え、職員たちが査定する様子を眺める。

気が付けば、辺りには人だかりができていた。

町の住民にもクラウゼル家の英雄、と名が知れているレンは、不意にこれでよかったのだろうかと悩んだ。

(……よくラノベにあるように、姿を隠して活動するべきだったのかな)

それは偏に、死亡フラグを回避するために。

だが考えてみれば、姿を隠そうが隠さなかろうがあまり関係ない。

クラウゼルに限れは、既にレンのことは広く知れ渡っている。というか、シーフウルフェンを単独討伐したことになれば、クラウゼルを離れて元・ギヴェン子爵領にも届いているのだ。

だから、目立ちたくないと思っても今更だ。

隠すならシーフウルフェンを倒すときからだし、あのときレンが戦わなければ村が危なかったため、戦う以外の選択肢はなかった。

家族と生まれ故郷を捨てるなんて、考えられるはずもなかった。

それに思い返せば、レンは目立たずにいることを目標にしたわけでもないし、これと死亡フラグには明確な関係はない。

だから彼が、この世に生を受けてすぐに考えたのは、

『平和に生きよう。皇帝に討伐を命じられるなんて絶対に嫌だ』

これだ。

レンはいまでも一言一句違わず覚えている。

ついでに言えば、ゲームのレン・アシュトンと同じ未来を歩まないのが目的で、あるのは清く真っ当に生きようという思いだけ。

レンは誰に言い訳するでもなく、自分の気持ちを再確認する。

(つまるところ、)

こうした戦果をあげてしまうことがゲームの結末につながる、とはならない。

あくまでもレンの目標は、リシアと学院長の二人を殺す未来を避けること。

なぜかと言うと、皇帝に討伐命令を下されてしまうのは、レンがその二人を殺してしまうからに他ならない。

逆に言えば、目立つ個人だから駄目なのではない。

……だが結局のところ、一切の波風を立てないためには、村に引きこもるしかないのだ。

でも、リシアとはもう切っても切れぬ縁があり、先日思った自分が火種になるかも、という考えもあって素直にそうすることもできない。

村に引きこもったことが原因で、予期せぬ事態に陥ってしまう可能性だってあるのだ。

それこそ、ギヴェン子爵の謀のように。

(ほんと、何が正解なんだろ)

目立つことで貴族同士の争いに巻き込まれるかも、という考えもあった。

しかしそれも、レンがシーフウルフェンを完ぺきな状態で討伐してしまった時点で、関係ないことになっているのも事実。

静かに暮らしていようが、世界がレンを見逃さなかったのだ。

が、それがすべて歓迎できないということでもなかった。

派閥は違えど、イグナート侯爵ほどの者と友誼があるとなれば、他の貴族も安易に手出しはできないはずだ。

これはレンがゲームのストーリーと別に生み出せた、特筆すべき戦果なのだ。

(この庇護が新たな火種にとか考えると、もう何が正解かわからなくなるしな)

そのためレンは、今日のことに後悔は覚えていない。

何が正解で何が間違いなのかわからなくなっていたけど、生まれ故郷のため、家族のための出稼ぎに後ろめたさはなかった。

「査定が終了致しました」

これまで考えごとをしていたレンが、受付嬢へ意識を戻す。

随分と早い査定だと思った。

レンがその理由を受付嬢に尋ねてみると、一定の判断基準があるため早いとのことだ。

「なるほど。道理で」

「金額はこちらになります。解体費用などを差し引いての金額となりますが、いかがでしょうか?」

受付嬢は懐から取り出した一枚の紙へと、さらさらっ……とペンを滑らせた。

受け取ったレンはそれを見て、思わず「おお」という声を漏らす。

「こんなに貰えるんですね」

ゲーム時代はあっても一部の素材の売却だけで、いまほど詳細な見積りをもらうことがなかった。

だから驚いてしまったレンが見たのは、60万Gの文字だ。

以前、ヴァイスが平民の日給は1万Gくらいと言っていたから、それになぞらえれば六十倍となる。

事実上、二か月ちょっとの生活費を得たも同然だ。

「アースワームはその性質上、ランクの割に買取価格が高く設定されております。そのため手数料を引いても、単価は25万Gとなります。ただ、ミツメは狩りやすいため1万2千Gでございます」

それでは60万Gには到達しないが、ちょうどアースワームの素材を欲している者がいたらしく、色を付けてくれたらしい。

「わかりました。それでお願いします」

「では、中でお支払いいたします」

レンは受付嬢に連れられてギルドの中に足を運ぶ。

カウンターへ出向いて金色の硬貨こと金貨を六枚受け取り、確かに受け取ったという旨のサインをした。

(確か金貨が10万Gで、銀貨が1万Gだったっけ)

また、銅貨が1000Gであり、最後に鉄貨が100Gとなる。

金貨を六枚受け取ったレンは、その金貨をポケットにしまう。

受付嬢に挨拶をして、冒険者たちの注目を浴びながらギルドを出ると、歩くたびに金貨が擦れる音に自嘲した。

「財布くらい買わなきゃ駄目か」

せっかくだから、今からでも買いに行こう。

かと言って、それらしき店を知っているわけでもないのが玉に瑕なのだが、不意にレンの脳裏を一件の店のことが掠めた。それは、先日リシアの案内で行った店だ。

だがあそこは高級店。

ともあれ、代わりに丈夫な財布でもないだろうかと思い、自然と足がその店に向かう。

「……ちゃんとした財布がいいしな」

高いものはすべていいもの、とは言わない。

あくまでも、あの店ならしっかりとしたものがありそうだと思ってのこと。

レンはそれから、坂道をしばらく進んであの店を目指した。

道中で他の店を探すことも考えたけど、もう遅いからやめておく。

幸い、あの店はまだ開いていた。

しかしレンは店先で立ち止り、次に足を動かしたときには屋敷へ向かっていた。

狩りが終わってからは、森で見かけた水場で汚れは多少落としている。けど、多少残された汚れはあるため、あのような店には背かない格好だと思ったのだ。

「おや? レン様ではありませんか」

しかし、扉を開けて姿を見せた店主が、レンの背中に声を掛けた。

「よろしければ、お立ち寄りくださいませ」

彼はレンの様子に気が付いていながらも、気にすることなく店に来るよう促した。

明らかに気遣っているであろう言葉だったけど、店主は笑みを崩さず、また何度もレンに来るように言ったため、レンはどうしたものかと思いながら店先に戻る。

「すみません。また後日、身だしなみを整えてから来ようと思ったんです」

「お気になさらず。他でもないレン様のご来店ですし、もう他のお客様はいらっしゃいませんから」

すると店主は、店先に閉店した旨を示す看板を置いた。

中はレンの貸し切りになるようだ。

「でも……」

「私の顔を立てると思ってください。英雄様をお迎えできないとあらば、私は先代に叱られてしまいます」

店主は笑みを崩さず、引きつづきレンを店内へ入るよう促した。

(財布があったら、絶対にここで買わせてもらおう)

格別の厚意に感謝して、レンは店主の言葉に甘えて店内へ足を踏み入れる。

レンは店主へいくつかのことを話した。レザードに仕事を任されたこと。それが町の外での調査で、ついでに魔物を狩る機会も増えると思うこと。

最後に、あくまでもリシアにはまだ内緒である旨を店主に告げた。

「なので財布を買いたいと思ったんです」

「では丈夫なお品がよろしいかと存じます。あちらにいくつかご用意がございますので、是非ご覧ください」

言われるがまま、レンは財布が置かれた一角に足を運ぶ。

おかれていた財布は見事なものだ。

革自体の鞣しに加えて、縫製も丁寧で、見た目だけでないことが見て取れる。

明らかに高そうだが、果たしてレンの手持ちで足りるかどうか。

(前世の価値観と一緒にはできないな)

それは、魔物という存在の素材の影響によって。

一見、ただの革に見えたそれが、実は貴重な素材の可能性もある。

レンは密かに値札がないかと思って探してみるが、それがない。

……首筋を、若干冷たい汗が伝った。

すると、レンはおもむろに財布の棚から外れた一角に目を向けた。

(……うん?)

ふと、財布以外の品に目が留まった。

視線の先にあったのは、女性が着る服が置かれた一角である。

先日はなかったと思ったが、少し店内の模様替えをしたのだろうか?

レンはその一角の中でも、少女が着るような服に気を引かれた。

「どうなさいましたか?」

「あ、えっと……すみません、ちょっと」

「……ふふっ、なるほど」

リシアに贈ってもらったことを思い出して、足が勝手に動き出す。

財布を探すという目的はすぐに忘れ、次の目的が脳内を占領した。

(アレとか似合いそうかも)

注目したのは白いワンピースだった。

シンプルだけど、清楚な装いがリシアに良く似合いそうだ。

「お嬢様に合わせて仕立てることができますよ」

レンがこのような服を買う理由は容易に察しが付こう。だが店主はあまり詳しく尋ねることもなく、レンが欲しているであろう情報だけを述べた。

それを聞いたレンは、バレて当然と思い照れくさそうにすることもなかった。

「本人が居なくても大丈夫なんですか?」

「はい。お嬢様の服は当店で調整しておりますから、ご安心ください」

だったら、買ってしまおう。

気に入ってもらえるか不明だが、貰いっぱなしは性に合わない。

リシアも服に関しては、お礼と言うより贈り物という言い方だったから、返礼は普通のことのはず。

「あの服をお願いします」

「畏まりました。では、あちらで」

店主がカウンターを示し、二人はそちらに足を進める。

「ちなみにお値段は……」

「こちらですと、お仕立て料込でこのくらいになります」

店主が料金を紙に書いてレンに見せた。

良かった。十分払える範囲だ。

しかしはじめての贈り物が随分と高価な品である。

相手が貴族だから仕方ないのもあるが、考えてみれば、自分は更に二着贈ってもらうことになっている。

これを高いと思うことは、レンにはできなかった。

「出来上がり次第、レン様宛でお屋敷までお持ち致します」

「はい、お願いします」

「ところで、お財布はいかが致しますか?」

そういえば、この店に来た理由は財布を買うためだ。

だが、リシアに服を贈ると決め、店主と話しているうちに思っていた以上に時間が過ぎている。

このことに気が付いたレンは、今日は財布を諦めることに決めた。

「そちらは今度、身だしなみを整えて来た際にまた。そろそろリシア様たちがお帰りになりそうですから」

「かしこまりました。では、本日はお嬢様のお召し物で承ります」

目的の財布は買えなかったけど、お返しができることには満足した。

そのおかげか、この日の帰り道は不思議と足が軽かった。

屋敷に帰ってからは報告書を書く仕事が待っていたけど、その際も悪くない気分で臨むことができたのである。