軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今後の方針と。

時を同じくして、レンはとある村を出たところだった。

その恰好は今日まで経験のない薄汚れたローブ姿である。

これは目立たぬための変装だ。一昨日見つけた村で、途中で狩った魔物の素材と物々交換で手に入れた粗末なものだった。

当然、リシアも同じ格好に身を包んでいる。

代わりに二人が着ていた服はもう捨ててある。

いくらポーションで食事代わりの世話をされていたと言っても、その他、人が生きていくうえで当然の 穢れ(、、) までは完ぺきには世話をされておらず、不衛生だったからだ。

「お嬢様、少し離れたところで馬を止めますから」

馬に乗ったレンが前方に座るリシアに言った。

「……ァ……あり……が……と……」

馬を十数分ほど進めれば森に差し掛かる。

この辺りに点在する村々はレンが住んでいた村と同じで、少し進めばすぐに森にたどり着ける地形にあった。

レンは木々の影に馬を止めて馬から降りた。

まだ少年のレンでは身長が足りず、傍から見れば飛び降りたように見える。

(さすがにカッコつかないな)

両腕を伸ばしてもリシアを下ろしてあげることはできない。だから今日までは、馬を段差の横に止めることで降りていた。

今日は倒木や岩が見当たらなかったから、どうしようかと考えていた。

(……ま、もう今更か)

思い付きがあった。

それには木の魔剣を使わないといけなかったから一瞬迷ったが、どうせ魔獣使いから逃げる際にも見せたし、森を逃げるうちに魔物と戦うときにも見せたから、今更だった。

「お嬢様、ちょっと失礼します」

レンは木の魔剣で生み出した木の根を足場にして高さを稼ぎ、腕が届く高さになったらリシアの両脇に手を差し入れ、彼女を抱き寄せるようにして馬から下ろした。

そのまま木の根を背に座らせると、リシアは憔悴しながらも弱々しく微笑んだ。

「……ほんと、不思議な力……なんだから……」

「自分でもそう思います。――――さぁ、まずは水を」

レンは革の水筒をリシアに渡し、水を飲ませる。

つづけて、先ほどの村で入手した小さな木の器を取り出した。

中には青臭い香りを放つ、ドロッと薄緑の液体がある。

「これは ミール草(、、、、) をすりおろしたものですから、安心してください。ちゃんと俺……じゃなくて、私の目の前ですりおろしてもらいましたから、間違いありませんよ」

ミール草は状態異常に効果がある薬草だ。七英雄の伝説では頭痛や高熱にも効果があると説明があった。

ただこの薬草は、ロンド草ほどの価値はない。

だからよそ者のレンでも、あっさり交換して貰えたのだ。

(覚えておいて良かった)

主人公たちが風邪を引くなんてことはないから、おまけ程度の情報だった。

しかし、いまこうして役立てられたのだから、自分の記憶力を褒めたいところだ。

「……どう、したら……」

「舐めてください。物凄く苦いって話ですが、我慢して嚥下してほしいんです」

「わかっ……た……」

しかし、リシアの手元が弱々しく震えている。

さすがにどうかと思ったが、レンは木の器を自分の手に持ち直し、指先ですりおろされたミール草を掬った。

すみません、謝ってから指先をリシアの唇まで運ぶ。

リシアはほんの一瞬だけ迷ったが、すぐに唇を空けて受け入れた。

「に……苦……っ」

「水をどうぞ。我慢して、吐かないように」

リシアは何度も嚥下を繰り返し、木の器が空になるまで数分を要した。

ただでさえ病で辛いところに追い打ちをかけるようだったが、すべてリシアのためだ。それでも心が痛むのは、レンにはどうしようもなかった。

◇ ◇ ◇ ◇

夕方を過ぎると、リシアの様態に改善が見られた。

常に不規則だった呼吸が落ち着きはじめ、後ろで彼女を支えるレンにも体温が下がりはじめたことが伝わっていた。

劣悪な環境下で悪化した様態が、いまは屋敷で顔をあわせたときに近づいていた。

「ねぇ」

「はい。どうしましたか?」

「……ありがと」

「いえいえ、お気になさらず」

リシアの声色には少し彼女らしさがもどっていた。

………交換で得たミール草はまだ他にも残っている。安堵したレンは、今夜またミール草を飲ませることを決意した。

「――――私たち、ギヴェン子爵領の端っこに居たのね」

「え」

「え、ってなによ」

「どうしてわかるんですか。俺――――私は」

「もう、俺でいいわよ。その方が話しやすいんでしょ?」

迷った挙句、レンはリシアの言葉に甘えることにした。

いまよりもっと緊急時に言いよどむことを危惧し、せめてこの旅路だけでもと考えたからだ。

「…… 俺は(、、) 村を探すので手いっぱいだったのに、お嬢様はどうしてここがギヴェン子爵領だとわかったんですか?」

余談だが、レンもここがギヴェン子爵領であることは知っていた。

知ったのは最初の村を見つけた際、旅人を装い村人に聞いたからである。

……こんな小さい少年が旅をするなんて、と自分でも思ったし、村人たちからも不審な目で見られたけど、聞かないわけにはいかなかったのだ。

「あれを見て」

リシアは木々の奥の空に見える山脈を力なく指さした。

その先にあるのは、頂上付近にまだ銀雪が残る巨大な山脈だ。

それはどこまでもつづいていそうなほど壮大で、岩肌の斜面は磨き上げられた刃に似て鋭利だった。

「あれは?」

「 バルドル山脈(、、、、、、) よ。あれを見上げればおおよその場所はわかるわ」

レンはその返事を受けて神妙な面持ちで頷く。

「なるほど。あれがバルドル山脈だったんですね」

「知ってたの?」

「はい。名前だけですが」

他にも多くのことを知っている。

あの場所は、七英雄の伝説Iのラスボスと戦う場所なのだ。

(ゲーム時代は 魔導船(、、、) で移動してたから、よくわからなかったや)

魔導船は魔道具の一種だ。

他にも魔導列車と呼ばれる移動手段もあって、どちらも魔石を動力源にして動く巨大な乗り物である。

レオメルでは中規模以上の都市には、必ずその駅が敷設されている。

して、そのバルドル山脈だが、レンになってからも地図上では確認してある。

だが考えたように、移動方法が違ったから地理を理解しきれていなかった。

「――――ということは、お嬢様が道案内をしてくださるのですか?」

「ええ。きっとできると思う」

「それは良かった。闇雲に移動しないで済むのは助かります」

今日までリシアの様態を優先しての村探しだったけど、当然、その最中も見慣れた景色を探しながら馬を進めていた。

リシアのおかげで、ようやく光明が見えてきた気がした。

(出会った村人たちも、クラウゼルへの経路をよく知らないって言ってたしな)

皆、レンと同じく、生まれた村から出たことのない者ばかりだったのだ。

「ひとまず、クラウゼル男爵様の領内に戻らないといけませんね」

「……そうね」

返事をしたリシアの声色は何処かはっきりしなかった。

「どうかしましたか?」

リシアがすぐに頷いて言う。

「ここからだと、貴方が居た村が遠すぎるの」

「ああー……考えてみれば確かに。ちなみにここからクラウゼルに向かうとすれば、今日から何日くらいかかりますか?」

「……四日くらいだと思う」

レンが住んでいた村からクラウゼルまで、馬で十日前後の日数を要する。

これは真っすぐ向かった場合であったが、どうやら魔獣使いはその道をあまり逸れずどこかへ向かっていたらしい。

これが幸いにも、あまり変わらぬ日数でクラウゼルまで行ける要因になっていた。

「では、このままお嬢様の屋敷を目指しましょう」

すると、レンに身体を支えられたリシアが間髪おかずに口を開く。

「ダメ。貴方を家族の下に帰すのが先よ」

「何言ってるんですか。お嬢様を屋敷に送るのが優先ですよ」

「はぁ!? 迷惑を掛けたのは私なんだから、先に変えるべきなのは貴方で――――ッ」

「大丈夫です。父さんたちなら心配要りません」

確証なんてないはずなのに言い切ったレンの声は頼もしかった。

「絶対にクラウゼルに向かった方がいいですよ。道中の村々でも安全が保障されてませんし、そもそもあの襲撃の後、俺の村がどうなってるかわかりませんから。父さんたちが避難してたら、合流も何もありませんしね」

微苦笑を浮かべて言われた言葉に、リシアは自身の無力さを感じた。

この際、レンの優しさに心を打たれたが、同時に甘えっぱなしの自分に強い嫌悪感を覚えた。

気だるく頭の回転が鈍い中でも、瞳に薄っすらと涙が浮かびはじめていた。

だが、

「せっかくなんで、俺はクラウゼルを観光してから家族と合流します。男爵様にもご挨拶できますから、意外とちょうどいいかもしれません」

大人びた言葉に優しさを滲ませたレンの声に、頬が自然と緩みだす。

わかり切っている気遣いの言葉であろうと、いまのリシアには貴重な言葉だ。

「……ありがと」

リシアは自分でも気が付かないうちに、背中に感じた温かさへ更に身体を預けていた。