軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

順調に勝ち進んでいく中で。

何をしていたのか、そう尋ねられたエステルが腕組み。

決して慌てた様子はなく、平然とだった。

「エレンディルに派遣する騎士のためにございます。私は年単位でレオメルを離れておりましたから、この目で直に様子を確認する必要がありました」

「万全を喫するためだったと言うのだな」

実際エステルは堂々と町中を歩いていた。何かを隠すならギルドで朝から酒を呷るような真似はしなかっただろう。その姿を見られたからといって、何を疑うと言うのか。

……そんな、不遜ではなくとも当たり前のように事情を説明してみせる。

「――――結構だ。しかし話はつづけさせてもらう」

いつの間にこんな覇気を宿し、こんな目をするようになったのだろうか。

エステルはラディウスを彼が生まれた頃から知るが、これほどの圧を放つ少年になっていたとは思ってもみなかった。

「やはり……レンのおかげなのだろうか」

その声はラディウスに届かないほど小さく、吐息のような声だった。

彼女が呟いた後に、ラディウスの声が馬車の中に滔々と響く。

「エステルがしばしエレンディルにいたことは私も知っている。当然だ。それ自体はエステルも隠していなかったのだからな。しかし、エレンディルを発って街道へ向かったのは何故だ? 人々の目をかいくぐり、隠密のように振る舞っていた理由も聞かせてくれ」

エステルは誰にも動きを悟られぬようにしていた、ラディウスは暗にそう告げた。

ラディウスも、エレンディルの町中でエステルがいようと何も気にしない。あくまでも、彼女が密かに不審な動きをしていたことだけが焦点となっていた。

けれどそれを、

「人違いではないかと」

「人違い?」

「はっ。仮に私が身をひそめて動こうとしていたら、いくらラディウス殿下でも――――」

エステルは短い言葉で終わらせようとした。

ただ、忘れてはならないことがある。後でエステルに不審な動きがあると知ったところで、連休中に彼女が何かしていたかはわからない。何故なら、過去には戻れないから。彼女が行動を起こす前に察知して動いていなければ、ラディウスも気が付けなかっただろう。即ち、ラディウスはかなり早い段階から動いていたということになる。

それにもう一つ、ラディウスの傍にいるケットシーとの混血の少女。

ミレイ・アークハイセの存在を、エステルは一瞬だけ失念していた。

「私でも――――何だ?」

「いえ。何でもありません」

ミレイは文官だ。隠密ではない。

多少の真似事ならできるだろうが、エステルを欺けるほどではない。けれどミレイの実力は、こと調べ事においてはラディウスを凌駕する。

まるで未来予知かのように、エステルですら驚く力を発揮する。

更にそこへラディウスの力が加われば……。

「そう言えば該当する日の朝、レンもまたエレンディルを発った。どうやらエステルも近くに向かっていたようだが、知っていたか?」

「恐れながら、私がレンの傍にいた事実はございません」

「不思議なことを言うじゃないか。器用にも、意図的に記憶を失ったか?」

「こうも容易く記憶を失うことなどありませぬ。最初からそのようなことがなかったということにございます」

「これはすまなかった。だが、エステルも知っていよう? 議会によくいる愚かしく老獪な貴族がしばしば、都合の悪い記憶を忘れることを。しかしすまなかった。エステルともあろう者が、その愚か者になるとは思えんな」

だが、話は終わらなかった。

ラディウスは明言せずとも、多くを知っていると言いたげだ。

「しかしこれは、エレンディルでの件に限った話ではない。いくら陰に潜んで振る舞おうと、この私が勘付かないと思ったか?」

「ラディウス殿下、私は――――」

「言い逃れの言葉は結構だ。私が知りたいのはただ一つ。エステルが何故、レンの周りで動いていたのかだけだ」

この返事如何によって、ラディウスの対応は大きく変わっただろう。

間違えるなよ、これが最後の質問だ。

まるでそう言っているように見えるラディウスを眼前に、

「……ふぅ」

エステルが観念した様子でため息を吐く。

同時にラディウスが放っていた圧も鳴りを潜めた。

「失礼いたしました。どうやら失念していたことがあったです」

「ああ、そうだろうと思ったぞ」

「ところで――――私が思いだせないままだったら、どうされておりましたか?」

「少なくとも、今後私から仕事を頼むことはなかっただろう」

「それ以上の罰はありませんな。……さて」

エステルがラディウスの前で 思い出す(、、、、) 。

ここでも演技の入った、わざとらしさとともに。

「私が何をしていたか、その答えは私の口からは何も申し上げられない――――そう答えるよう、仰せつかっております」

「仰せつかって……だと?」

「はっ。それで相違ありませぬ」

それはつまり、そういうこと。

言葉通りに受け取ると、エステルに何かを命じた者は、いつかラディウスに看破されることを想定していたことになる。

「……では仮に、私が別の誰かにエステルの動きを尋ねるのはどう思う?」

「私からは何も。どう処理するかは、すべてラディウス殿下のお心次第です」

「ふふっ、ならばそうさせてもらうとしよう」

幸いにもラディウスは笑っていた。

不敵な笑みを前に、エステルは胸を撫で下ろす。

「時間を取らせて済まなかった。いつも通り、エステルはこの辺りで警備に当たってくれ」

「はっ!」

ラディウスは馬車を降りた。つづけて降りたエステルは少ししてから咳払い。わざとらしい仕草で居住まいを正した。

石畳の上を歩きながら、二人はいつものように言葉を交わす。

「……ラディウス殿下、私は先ほど真実を述べていましたよ」

「ほう、どれが真実だったのか聞かせてくれ」

「私がレンと会っていないことが、です」

「連休中の、森の件か?」

「はっ。予定ではレンの近くに行くつもりでしたが、無理だったのです。不思議とレンに気が付かれてしまいそうな気がして、断念したのですから」

だから、本当になかった。

エステルが口にしたように、同じ場所にいるようなことはなかったのだ。

「く、くくっ……レンの勘を警戒したのか?」

「それはもう。あれは命を懸けた経験のある者によくある勘ですが、レンはそうした者の中でも特に鋭いのです」

「はっはっはっ! ああ! レンは色々とぶっとんでいるからな!」

馬車の外を少し歩いた先にはミレイが待っていた。彼女は外の暑さにもかかわらず、額に汗を浮かべることなくいつもと同じ姿でそこにいた。

ここでエステルは一歩離れたところで控える。

「殿下、行きますかニャ?」

「そうしよう。今日も皆で頑張らなくてはな」

「はいですニャっ!」

「ではエステル、今日も頼んだぞ」

「はっ!」

命じられたエステルが目で追うラディウスとミレイ。

二人はこれまでと同じように、広場に設けられた本部へ歩いて行きながら、

「エステルが吐いた。何も言えない――――そう答えろと命じられていた、とな」

「うっわぁー……手の上で転がされていた感がすごいですニャ~……」

「ああ。正直気に入らん」

「どうしますかニャ? 早速、謁見の予定を組みますかニャ?」

「頼んだ。日程は獅子王大祭七日目の夜だ。この祭りが落ち着いた日に陛下を――――いいや、父上を問い詰める」

ラディウスは肩の荷が下りた思いだったが、ここで終わりじゃない。

すべて余すことなく問いただし、どんな思惑があったのか知ってからだ。

◇ ◇ ◇ ◇

(武闘大会って、今日は準々決勝までだっけ)

朝、自室で目を覚ましたレンが思い返した。

今日には準決勝へ進む四人が決まる。帝国士官学院の代表は全員勝ち進んでいるため、準決勝の四人が埋まる可能性が高い。七英雄の伝説でどうなるのかはさておき、レンはそのことを考えた。

「ふわぁ……」

そして今日も実行委員の仕事に励むために身支度を整え、部屋を出る。レザードは既に屋敷を発っているため、食堂に足を運んだレンに遅れてリシアがやってくるだけだった。

「レン、おはよ」

「おはようございます。――――リシア様、ちょっと髪が跳ねてますよ」

「う、うそっ!? どこっ!?」

レンが場所を指で示すと、リシアはそこを手で押さえた。

僅かに頬を上気させた彼女はわざとらしく咳払いをすると、神に手を押し当てたままレンの傍の席に腰を下ろした。

やがて運ばれてきた朝食を楽しみながら、

「今日も頑張らないとね」

リシアの言葉にレンは「ですね」と答えた。

すぐに朝食を終えた二人が、

「体力ならばっちりです。あれ以来、変な夢を見てないからちゃんと眠れてますし」

「私もよ。――――それにしても何だったのかしらね、あの夢」

「よくわかりませんねー……ただあの日って、朝から夜までずっと一緒にいたので、同じ光景を見てたから似た夢を見たのかもしれませんよ」

「そうかも」

数分後にはリシアも朝食を終え、食堂を出る。

鞄を持って屋敷を出ると、外に出た二人を眩い朝日が迎えた。

日差しを手で遮ったリシアが眩しそうに目を細める。

「今日もいい天気」

相も変わらず、リシアの笑みは朝日に負けじと眩かった。

◇ ◇ ◇ ◇

この日の午後、レンが本部で昼食を終えてから。

本部の扉をノックする音が聞き、レンが扉を開けにいった。外にはセーラとヴェイン、それにネムの三人がいた。彼女たちの姿に気が付いて、リシアもレンの傍に向かい二人で本部を出る。

「聞いてっ! あたしたち今日も勝てたの!」

レンとリシアが話を聞く前に、セーラが喜びに満ちた声を上げた。

喜びのあまり抱き着いてきたセーラの勢いで、リシアの身体が半歩後退した。セーラを受け止めたリシアはぎゅっと抱き着かれながら、

「さすが。セーラたちなら絶対に勝てるって思ってたわ」

「リシアちゃん、準々決勝は四つともうちの代表が勝ったんだよ」

「あら、それじゃ準決勝からは帝国士官学院の生徒だけってこと?」

「うんうん。びっくりだよねー。毎回うちの代表がかなり勝ち進んでるけど、準決勝から独占になるのは久しぶりらしいよ」

「そうなの! ねね、リシア! だから準決勝と決勝は見に来れたりしない? あたしたちが戦うところを見てほしいのっ!」

リシアは傍に立つレンを見て、どう? と声に出すことなく目配せした。

「六日目は余裕がありますから、大丈夫だと思います」

獅子王大祭の終盤は実行委員も楽しめるよう、どの学び舎においても仕事が少なくなるよう調整されていた。各学び舎の教員はもちろん、獅子王大祭の運営も連携して仕事にあたるため、主役となる生徒たちのための時間は多くなる。

「ほんと!? 二人も知ってると思うけど、武闘大会の最終日は午後からなの! 午前中に他の競技が全部終わるから、あたしたちが最後に戦うのよっ!」

「……うん。わかった。急な仕事がない限り行けると思うから、セーラの活躍を楽しみにしてるわ」

「やったっ!」

「あっ……もう、セーラ。急に抱き着かないの」

セーラに抱き着かれたリシアが微笑みを浮かべていた。

「レンのおかげだ。本当にありがとう」

武闘大会がはじまった初日、ヴェインはレンのおかげで緊張がほぐれた。七英雄の伝説ではその緊張が影響してステータスが下がるという、ユーザーの不満を買うイベントがあったのだが、今回はその影響がなかったようだ。

「――――あのさ、レン」

いま礼をしたばかりのヴェインが、新たな話題を口にする。