軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

成長を実感しつつ、変わらないところもあって。

同じ頃、エレンディルから馬で一時間半ほどの場所にある山の奥。山肌には絶壁と、険しくとがった岩々が目立つ場所があった。

そこに二人の騎士と、一人の少年がいた。

彼らが相対する魔物との戦いは、もうすぐ終わろうとしていた。

(そろそろ決めないと――――ッ!)

レンが心の内で強く思った。

リシアより一足先に十四歳になった彼は、母のミレイユの優しい顔立ちと、父のロイの精悍な顔立ちを受け継いだ、中性的な容貌が女生徒の注目を集めることもある少年だ。

いま、彼はその顔に覇気を滾らせて、必ず仕留めてみせる! という意思に満ち満ちていた。

「レン殿ッ!」

「奴は上へ飛んでいきますぞ!」

「はい! わかってますッ!」

漆黒の甲冑に身を包んだ騎士たちの声を聞き、レンが岩肌を駆けあがる。

尖った斜面が目立つ岩肌は、足を踏み外して転がり落ちれば人の身体を容易に貫くだろう。しかしレンは怖気づくことなく足を動かし、急な斜面を撫でるように上へ上へ飛んでいく魔物の後を追った。

「レ、レン殿ッ!? まさか――――」

「俺はこのまま戦いを終わらせますッ!」

彼が追う魔物は、巨大な二対の翼をはためかせる怪鳥だった。

羽や羽毛がすべて濃い緑色に染まった魔物である。

(逃がさないぞ……『シンリンクライ』!)

レンは怪鳥を見上げながら、今朝のことを思い出す。

朝からレザード・クラウゼルを尋ねる使者がいた。クラウゼル邸にやってきたラディウスの使者は、レンに協力を仰ぐためにいくつかの伝言を残した。

いまでも鮮明にその言葉を思いだせる。

『人里を離れたところに、力ある魔物が飛来した。まだ情報は公になっていないが、昨晩、怪我を負わせられた冒険者がいる。だが、軍や冒険者に討伐を依頼する前に私の下で様子を見たい。大時計台の騒動から間もないとあって、なるべく手早くな』

魔王教が関係してる可能性があるから、レンに手を貸してくれと言う言葉だった。

現状、特筆するほど危険性は高くないが打てる手は早めに打ちたいとのことで、レザードは朝食を終えたレンに声を掛け、学院へ通う前に執務室へ呼び出した。

レンもその懸念には迷うことなく応じたのだ。

『……という話が第三皇子殿下から届いた』

『わかりました。では、俺も念のために行って確認します』

即答したレンはリシアに学院には遅れていくと言い、屋敷を出てから彼女と別れた。念のためにリシアを屋敷に残すことも考えたが、学院の方が安全だろう。

レンが屋敷を発ってすぐ、物陰からレンに声を掛ける人物が現れる。レンが獅子聖庁で何度か顔を合わせたことのある若い騎士が、私服姿で潜んでいたのだ。

彼が言うには、既に馬なども用意してあるとのこと。

エレンディルを出てすぐにその馬に乗ったレンは、ラディウスが用意した天幕に向かった。

『ラディウス』

『来てくれて助かる。早速だが資料を渡す。確認してくれ』

レンが受け取った資料には『シンリンクライ』という名の魔物の情報があった。

ギルドにおける指標においては、Cランク下位相当。

おおよそ、普段はこの辺りに生息していない強力な魔物である。

『非常に食欲旺盛で、森林ごと食らうほどだからその名が付いたらしい』

ラディウスが軽い説明を口にしながらつづける。

『通常、これほど帝都近くに現れることのない魔物だ。討伐できたら、私の解析で不審点がないか確認したい。無論、レン一人に頼もうとは思っておらん。獅子聖庁の騎士を二人付けよう。他にも各所に別動隊を投入する』

一般論では、Dランクの魔物に対して大人の騎士が五人以上は必要とされている。同じDランクの中でも魔物の強さが違うため断定はできないが、最低でもそのくらいの人数が必要なことはレンもシーフウルフェンの際に聞いたことがある。

ではCランクになるとどうなるかというと、その数倍は必ず用意したいところである。

もちろん、力ある騎士や冒険者なら話は別だし、

『それなりに高ランクの魔物だが、戦えるか?』

レンや獅子聖庁の騎士たちの場合はまた話が変わってくる。

一握りのエリート騎士と、彼らを凌駕する剛剣使いが揃えば恐れは不要だ。

『このランク帯の魔物ははじめてだけど――――問題ないよ』

ラディウスが予想していた答えではあったが、彼はレンの頼もしい返事に身震いした。剛剣使いとして剣豪級になり、あの夏を経て一段と強くなったレンの声音には、一切の迷いが窺えなかった。

――――ということがあり、いまに至っていた。

「悪いけど、ここまでだ」

冷淡な声を発したレンは鉄の魔剣を宙に向けて振り、剣圧を放つ。

シンリンクライはふらっと空中で体勢を崩したところで、山肌を勢いよく蹴って近づくレンを見た。

『ガァァアアッ! グラァァアアッ!』

耳を刺す鳴き声を発し、無理やり翼をはためかせたシンリンクライ。

翼の表面に覆った紫電が音を立てながら、レンに向けて放たれる。

だが、レンは脅威に感じることすらなかった。鉄の魔剣を一振りして、戦技・ 星殺(ほしそ) ぎを用いてすべてをかき消す。

「ごめん。人に手を出した魔物のことは見逃せないんだ」

シンリンクライはレンの宣告に対して力を振り絞るも、迫るレンに再びの魔法を放つも効果がなかったため、遂には翼や嘴などの、自らの力を生かせる攻撃でレンに立ち向かう。

『グルゥゥウッ!』

当然それも、評価にたがわぬ力を誇った。翼の先にある手がレンの真横を通り過ぎると、その風圧などによりレンの腕に切り傷が生じる。だが、再びの攻撃はレンに見切られ、逆に鉄の魔剣により翼の大部分が切り裂かれた。

『――――ッ!?』

「俺も負けるつもりはない!」

『ギィ……ァァアアアアアアアッ!』

最後の力を振り絞ったシンリンクライの攻撃は、成長したレンにとっても苛烈だった。

あのシーフウルフェンも、鋼食いのガーゴイルも持ちえなかった膂力のすべてが、レンに新たな経験をもたらしていた。

巨大な翼が動くたびに風圧が舞い、その先にある手元の爪がレンを狙う。

いつしかシンリンクライはレンがいては逃げきれぬと悟り、できうる限りの攻撃を駆使してレンを弾き飛ばし、山肌へ衝突させてそこへ身体を抉りこませる。

それでも、シンリンクライはこの隙に逃げようとは思えなかった。どうしてか、砂煙の奥にいるレンが逃がしてくれないと思ったのだ。

『グルルルァァアアアアアアアア――――ッ!』

だからこそのとどめを刺すべく、切り裂かれた翼のせいでバランスが取れずとも突進した。

紫電を全身に纏い、鋭利なくちばしの先をレンが衝突した岩肌へ向けて。

――――しかし、叶わなかった。

刹那の剣閃が騎士たちの遥か頭上で光ったと思えば、同時にシンリンクライが宙で止まる。重力に従って落下するその直前、シンリンクライの胸から首、そして嘴から頭までが縦一文字に切り裂かれ、新緑色の体液をまき散らしながら落ちていく。

落下地点にいた騎士たちは砂煙の奥にレンを見た。

レンは抉れた岩肌に鉄の魔剣を支えに立ち、笑っていた。

「……ふぅ」

見下ろした先に待つ二人の騎士と、傍に落下したシンリンクライの亡骸。

短く息を吐いたレンは、自分の確かな成長を実感していた。

◇ ◇ ◇ ◇

それからしばらく過ぎて、魔導列車に乗るレンとラディウスが学院へ向かう途中に。

「何度も言ったが、無茶をし過ぎだ」

帝都へ向かう途中、ラディウスがレンに言った。

ここは貴族も使う個室のため、話をするのに何ら気にする必要がないのが利点である。

「え? 何が?」

「だから、何のために私が騎士を付けたと思う! Cランクでもレンなら倒せるだろう! だが怪我をしないようにと騎士を二人同行させたのだぞ!」

「ごめんって。逃げられないように必死だったから、つい」

「はぁ……もういい。大事に至らなかったからよしとしよう」

レンの傍にいた二人の騎士は、シンリンクライが飛翔する前までかなりの仕事をしてくれた。

それ故、シンリンクライが敗北確実と悟ったことで飛翔して距離を取られたのだが、万が一にも逃げ切られることを嫌ったレンが無理をしたという話だ。

(炎の魔剣は消耗が激しいし)

レンがそう思っていると、二人がいる個室の扉がノックされた。

扉に設けられたガラスの窓の外側に、騎士の姿が見えた。

「私に用事のようだ。少し席を外す」

「ん、りょーかい」

外にいた騎士がラディウスを呼んだため、レンは客室で一人になった。

そこで彼は、今日の戦果でもある得られた熟練度を確認する。

――――――

レン・アシュトン

[ジョブ]アシュトン家・長男

[スキル] ・魔剣召喚(レベル1:0/0)

・魔剣召喚術(レベル5:3129/5000)

レベル1:魔剣を【一本】召喚することができる。

レベル2:腕輪を召喚中に【身体能力UP(小)】の効果を得る。

レベル3:魔剣を【二本】召喚することができる。

レベル4:腕輪を召喚中に【身体能力UP(中)】の効果を得る。

レベル5:魔剣の進化を開放する。

レベル6:腕輪を召喚中に【身体能力UP(大)】の効果を得る。

レベル7:*********************。

[習得済み魔剣]

・大樹の魔剣 (レベル3:1328/2000)

自然魔法(中)程度の攻撃を可能とする。

レベルの上昇に伴って攻撃効果範囲が拡大する。

・鉄の魔剣 (レベル3:4253/4500)

レベルの上昇に応じて切れ味が増す。

・盗賊の魔剣 (レベル1:0/3)

攻撃対象から一定確率でアイテムをランダムに強奪する。

・盾の魔剣 (レベル2:0/5)

魔力の障壁を張る。レベルの上昇に応じて効力を高め、

効果範囲を広げることができる。

・炎の魔剣(レベル1:1/1)

その業火は龍の怒りにして、力の権化である。

――――――

これを見たレンは、最近まで受験生だったことが関係して熟練度を得る速度が鈍化していたことを再確認する。一昨年頃から受験生として勉学に励む時間を増やしたことと、クラウゼルにいた頃のように町を出て狩りをする機会が減ったことも関係している。

代わりに、獅子聖庁で剣を磨くようになってから、剣の腕は以前と比較にならない成長を遂げている。戦技も取得できていることから、実のところかなり成長を遂げていた。

また、最近……というかアスヴァルを倒した頃から特に顕著な話なのだが、リトルボアなどのように弱い魔物を討伐していた頃と違い、魔剣召喚術と魔剣本体が得る熟練度に差が生じることが多くなった。前までは一対一で得ていた気がするが、時折片方が多かったり、もう一方が多かったりと定まらない。

レンとしても逆にその方が自然な気がしてならなかったから、この情報に関しては素直に受け入れることができた。

「まぁ、こんなもんか」

目に見えない戦果として剛剣技の剣豪級になったことに胸を張り、今後は様々な面で成長しよう、とレンは心に決めた。

ラディウスが戻り、ため息をついて間もないレンを見て首を捻った。

「ん? 何かあったのか?」

「いや何も。それでそっちは?」

「ああ、出発前に騎士たちがギルドとやり取りをしていたのだが、その情報をまとめ終えたので私に報告に来ていたのだ」

「ギルドと連絡って、何を?」

ラディウスがレンの対面に戻り腰を下ろした。

彼の手には数枚の紙があり、足を組んだ彼はその一枚目に書かれた内容に触れる。

「昨日の怪我人が冒険者だったとあって、我々もギルドに報告しないわけにはいかなかった。面倒だが、どう処理したのかなども含めて話しておいたのだ」

「へぇー、ラディウスの権限で内緒にするもんだと思ってた」

「できなくもないが、怪我人が冒険者だったと言っただろう。ギルド側でも告知はしていないが、既に手配書を張り出す直前だったそうだ」

だが、張り出される前にレンが討伐したというのが焦点となる。

「なのでいくつかの書類に署名してもらうぞ。後はこっちで勝手に処理しておく」

「署名ってなんでさ」

「手配書を張り出す直前ということは、ギルド内部で報酬金その他の承認が下りているということだ。つまり、ほとんど単身で討伐したレンに諸々の報酬を受け取る権利がある」

「ああ、なるほど。だけどさ――――」

「最初に言っておくが、他の騎士たちは公務中だから受け取る権利がない。代わりに私が十分な手当てを出すから、レンは気にするな」

「すごいね。俺が言うことを想像してたんだ」

「他でもないレンのことだ。おおよそのことは理解できる」

ラディウスは二人の間に置かれたテーブルに書類を並べ、レンに確認するよう告げる。書類の中にはギルド関連の書類以外に、ラディウスの名による書類もあった。

「これは?」

「私からの個人的な礼だ。直接金を動かすと処理が厄介だから、アーネヴェルデ商会の品をクラウゼルとレンの村へ卸させてもらいたい。構わないだろうか?」

「いいよ。そういうことなら喜んで」

レンはつづけて別の書類を見る。

いくつもあるが、要は依頼達成の報酬と、シンリンクライの素材を売却したことによる費用諸々の概算と、それらの支払いにおける許諾にかかわるものだ。

もちろん、魔石はレンが力を吸ってから砕いたため計算外である。

シンリンクライの素材は城がまとめて買い取ることに決まった。

ラディウスがこの後亡骸を調べ、魔王教徒のかかわりがないかどうか調べるために。金額はギルドの査定を基準にしているそうだが、それにしても全体をまとめた金額はあまりにも高額だ。

「思ってたより貰えてびっくりした」

「学費はもうよせてあるんだったか。では例によって村のために使えばいいのではないか?」

「それもそうなんだけど、最近は自分のために使うようにって父さんと母さんが言ってて。あんまり仕送りを受け取ってくれないと言うか」

「では貯金しておけ。いつか使い道ができるだろうさ」

レンはそうすることにして署名した。

しかし売却に関連した諸々の書類以外にも、レンの署名が必要な書類がある。何のための書類だろうと思ってレンが見れば、ギルドランクにかかわるものだった。

「俺のギルドランクが上がるっぽい」

「だろうな。レンは入学前にもギルドでいくつも仕事を請け負っていただろう? 確か、ユリシスに頼まれたものもあったか」

「うん。ユリシス様の知り合いの商人を護衛する仕事とかね」

「他にも魔物の討伐をこなしていたと聞く。今回の討伐でまた一つ上がったようだな」

ということで、レンの署名が必要なものではない。つまるところ報告書であり、レンのギルドランクがこれになりましたよ~という内容が書かれているのみだ。

報告書の最後には、

『以下の者をBランクと認める』

と書かれている。

入試に疲れたレンは先の冬にも時折、気分転換がてらギルドで仕事を請け負うことが度々あったため、Cランクになっていた。それがまたもう一つ、今回の討伐で昇級したというわけだ。

「学生の身分でありながらBランクとはな。ふふっ、聞いたことがないぞ」

レンは楽しげに笑うラディウスに書類をまとめて返す。

「ランク的にはもう十分だろうけどね」

レンはうんと背筋を伸ばした。シャツの袖から覗く手元に包帯が見える。先の戦いで負った切り傷をポーションで軽く治療して、念のために包帯を巻いた痕だった。

(午後の授業、途中からなら参加できそうだな)

車窓から見える帝都の景色に、レンは午後の授業は何だったっけ――――と考えはじめた。

◇ ◇ ◇ ◇

学院に到着したレンは午後の授業が行われている教室を目指した。

今日の午後は薬草学のため、専用の教室があった。

『薬草学において蒸留窯と錬金窯はとても重要なものじゃ。その二つがポーション精製に必須なことは皆も知っておろう』

帝国士官学院、校舎の一角にある薬草学の教室にて。レンが教室の入り口の前に立てば、中から担当の教員が話をする声が聞こえてきた。

一度呼吸を整えたレンは、静かに扉を開けて入室する。

数多の試験管が並ぶ棚や、鉢に植えられたままの薬草がいくつも見られるその場所で、年老いた紳士的な教員が最初にレンを見た。次に特待クラスの生徒約三十名がつづいた。

「すみません。遅れました」

「用事があって遅刻してくることは聞いておるぞ。さぁさ、席に着きなさい」

レンは教員の声に感謝して教室を歩き、リシアの隣の席へ向かった。

リシアはもの言いたげな顔をレンに向け、密かにレンの腕に手を伸ばして袖を捲らせた。包帯が巻かれていることに気が付くと、それはもう可愛らしい笑みを浮かべて言う。

「後で教えてもらうからね?」

「……はい」

確証を得たリシアと、諦めたレン。

いまは授業中だから後でゆっくり聞くというリシアの強い意志がひしひしと伝わった。

「話を戻すかの。蒸留窯と錬金窯がポーション精製に必須な理由じゃが――――」

教員はこの授業に参加した生徒の中から、入学式で総代を務めたレンを選んだ。

「アシュトン、来て早々のところ申し訳ないのじゃが、君に問いたい。ポーション精製に蒸留窯を用いる理由はわかるかね?」

指名されたレンは席を立ち、迷うことなく言う。

「薬草が持つ水分と、薬草の成分を分離するためです」

「結構じゃ。諸君、彼が答えてくれたのはポーション精製の基本じゃ。諸君らは受験勉強で学んだことじゃろう。じゃが、この授業では更に発展的な知識を皆に学んでもらおうと思っていての――――」

好々爺然と笑った教員。

「ところでアシュトン。分離した成分の効能を高めるにはどうすればよいかの?」

「薬草から抽出される成分によって様々です」

「では、どういった方法があるかはご存じかね?」

「いくつか存じ上げております。たとえば――――」

おおよそ一年次で習う以上の知識が彼の口から語られていくにつれて、問いかけた教員も白いひげをさすりながら笑う。

「よろしい。アシュトンは十分に学んでいるようじゃの」

すると、鐘の音が鳴り響く。

授業が終わる合図を聞き、教員が「さて」と。

「今日はこのくらいにしておこうかの。皆、復習を忘れず次回に備えるようにするのじゃぞ」

彼はそう言い残してこの教室を後にした。

一人、また一人と席を立つ他の生徒たちに倣い、リシアとレンも席を立つ。

「レン、行きましょ」

「わかりました」

放課後が詰問タイムになることはレンも重々承知の上。

ラディウスもリシアとフィオナには話していいと言っていたから、レンもそのつもりだ。

「それにしてもレン、あんなことまで知ってたのね」

「さっき俺が答えたことでしたら、村に薬師のリグ婆がいましたので。リグ婆から色々と聞いたことがあったからですよ」

「ふふっ、だからなのね。びっくりしちゃった」

苦笑して誤魔化したレンがリシアと共にこの教室を後にする。

すると、教室を出てすぐだった。幾人かの女生徒たちがレンに声を掛け、先ほどの授業の返答を讃えたのである。

女生徒の中には貴族もいるため、レンはなるべく丁寧な対応を心がける。

「普段はどのように勉強なさっておいでなのですか?」

「ええ! よければお聞かせください!」

レンは自らの勉強方法を伝えてすぐ、あまりリシアを待たせてはまずいと彼女を見た。

「すみません。そろそろ俺たちは行きますね」

「あっ……ごめんなさい。長々とお止めしてしまいましたね」

「クラウゼルさんもごめんね」

「ううん、気にしないでいいわ。それじゃ、私たちはもう行くわね」

リシアが笑みを浮かべて手を振れば、女生徒たちは同性ながら見惚れてしまっていた。

先ほどの女生徒たちと離れた二人が教科書を手にしたまま、校舎内を歩く。

一目忍んで空き教室へ行き、リシアがレンに袖を捲るよう指示した。

「治してあげるから、じっとしてて」

リシアがレンの腕に手をかざし、神聖魔法で傷を癒していく。包帯に隠されていた切り傷が光りに包まれ、レンが感じていた僅かな熱や痛みがあっという間に消え去った。

思えばこうして神聖魔法を使ってもらうこと自体久しぶりな気がする。特待クラスの最終試験でも怪我をする機会はなかったからだ。

「リシア様の神聖魔法、前よりかなり強くなってませんか?」

「ふふっ、そうかも」

昨年の夏以降、特に顕著なのだとリシアは言う。

急激(、、) と表現できるほどの速度で、彼女はどこまで成長するのだろうか。

「それで傷はどう? もう痛くない?」

「大丈夫です。逆に朝より調子が良いくらいですよ」

「もう、変なこと言わないの。私が治すからって、無茶していいわけじゃないんだからね?」

笑いあった二人。

すると、レンが何をしたのかと言う話をする前に、二人は開いていた窓の外から聞こえてきた生徒たちの声に耳を傾ける。

授業が終わって賑わう生徒たちの様子に、リシアが、

「ねぇねぇ。私とレンが一緒にこの学院に通ってるのって、少し面白いと思わない?」

「え? どうしてです?」

「ほら、ギヴェン子爵のこととか……」

「あー……言われてみれば確かに。誘いを断ってた俺が、いまではリシア様と一緒に通学してるわけですしね」

「でしょ? ほんとにいろんなことがあったなーって思っちゃった」

そうした過去の上にいまがあると思えば、レンとしても中々に感慨深い。

リシアは楽しそうに笑うと、レンの横顔を見上げながら、

「けど私たち、物心ついてからほとんど一緒にいるんだもの。色んなことがあって当たり前よね」

確かに二人が出会ってからそれなりの月日が経っている。

今日まであっという間だったと実感した二人は、いつものように笑みを交わした。

その後、リシアだけでなくフィオナにも今朝のことを教えて驚かれたりと色々なことがあったが、二人はレンに怒っていたわけではなく、レンが何をしているのか気になっただけだ。

話を聞いた二人は彼を誇らしく思った。

讃えることはあっても、不満を口にするなどあり得ないし論外だ。

……でもレンに聞くまで彼のことが頭から離れなかったのは、やはり惚れた側の宿命だろう。