軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士の倅と第三皇子と。

レンの目の前に立つユリシスは、先ほどと同じく肩をすくめて笑っていた。

「ユリシス様!」

「ああ、久しいね。それと、申し訳なかった。本当に君たちを巻き込みたくなくて、私と殿下で解決しようと考えていたんだ」

「――――では」

「もうわかっているんだろう? 私たちがどこで敵を待ち構えようとしているのか」

コクリ、とレンが頷く。

ユリシスは「ついてきたまえ」と言い、レンを外へ誘う。

二人が歩く回廊に、革靴の音が響き渡った。

「先ほどの話ですが、俺も謝罪しなければいけません」

「うん? 何のことだい?」

「ユリシス様たちがこちらを気遣ってくださったのに、心配だからと言って話を聞こうとしたことをです」

「……まぁ、気持ちはわかるよ。むしろ、君から尋ねてこない方が不気味だったかな」

「不気味ですか?」

「だって君は勇敢すぎる。我らの知らないところで何かを知り、秘密裏に動かれる方がこちらとしては心配だ。こうして話してくれて助かるよ」

レン自身の性格でもあるから多少は仕方ないことだし、そのレンだってときにそれが悪いことは承知の上で行動している。

だから彼も、ばつの悪そうな顔を浮かべていた。

「だからこそ、ユリシス様は気遣ってくださったのでしょう」

「それもあるが、大恩あるクラウゼル家を巻き込むことも好まなかったのさ。どうしても共有すべき話はさせてもらったが、後は気にしないでいてほしかった」

レンとユリシスは互いに謝罪して、互いの顔を見て笑った。

ちょっとした気持ちのすれ違いもあったのだと、二人はともに反省した。

「ここだけの話だが、私はこれまで一人で戦いつづけてきた。仲間らしい仲間がいなかったから、頼ることを知らなくてね」

苦笑いを浮かべたユリシス。

一方でレンも同じようなことだ。彼がそう言われたら否定するが、彼もまた、今日まで多くの戦いを一人でこなした。

こと魔王教に関しては、一人で背負い過ぎていたこともある。

以前、ラディウスと出会った平原でのこともそうだろう。

ここにいる二人は、独りよがりになる傾向が特に顕著だったのだ。

「私を心配してくれてるんだってね?」

「あ、それも聞こえてたんですね」

「ちょうどね。いやー嬉しくなってしまったよ。年甲斐もなく、胸が熱くなる思いだった。それと同時に反省したといったところかな」

「重ねて申し上げますが、俺も邪魔してしまって……」

「それはもういいのさ。この際だから、互いに独りよがりすぎた――――ということにしよう」

二人は歩きながら握手を交わした。

何となく、以前よりわかりあえたような気がした。

「戦力は足りている。君たちに可能な限り迷惑を掛けず、我らで魔王教を相手に事を構えるために入念な支度を重ねてきた」

だが、と。

「その上で君に相談がある。君の助力があれば、 より良い戦果(、、、、、、) が得られる話があるからだ」

獅子聖庁の外へ出た。

外にはユリシスが用いる漆黒の馬車が停まっている。

少し遅れてやってきたエドガーが、その御者の席に座った。

「詳しくは宿で」

レンも乗り込んだ馬車がとある宿へ向かう。

馬車の中、ユリシスはレンに心配と言われたことを思い返すと、嬉しそうに微笑んでいた。

◇ ◇ ◇ ◇

宿の名はアーネアと言った。

アーネヴェルデ商会が保有する宿で、帝都でも一、二を争う高級宿だ。

その一室にラディウスとレザードの二人が居た。

二人はレンの来訪に驚いたが、ユリシスから話を聞いて落ち着いた。

ソファに腰を下ろした四人。口火を切ったのはユリシスだった。

「最初に、レン・アシュトンが至った答えを聞こうか」

そう言われてレンが口を開く。

「クロノア学院長が帰る前、エレンディルの大時計台であることが行われます」

三人がその言葉を聞いて理解した。

やはり、レンは答えに至っている。

「来月、大時計台の最上階にある魔石が入れ替えられます。入れ替える際、大時計台は動作を完全に停止すると聞きました」

帝都やエレンディルを守る力も停止してしまう。

その隙を狙うとしか思えなかった。

話を聞く三人も頷いていたことから、間違いではないだろう。

「七英雄が一人、ミリム・アルティアの技術により作り上げられたあの大時計台を攻略することで、帝都への足掛かりにするつもりなのだと思われます」

帝都やエレンディアをはじめとする、町中で用いられている魔道具の情報を探っていた魔王教の狙いである。

ここにいる二人は、奴らが大時計台を狙うのだろうと確信していた。

警備の隙を探ることは当然だが、大時計台の攻略に当たって少しでも情報がほしかったのだ。レンはそう予想していた。

「帝都やエレンディルを守る力を破壊する――――あるいは、逆に魔物をおびき寄せる仕掛けをするとでも考えているのかもしれませんね」

ここでユリシスが口を開く。

「前者だろう。ミリム・アルティアに勝る技術は考えにくい」

「なるほど。言われてみれば確かに」

ミリム・アルティアは今世にも残る重要な技術をいくつも開発している。たとえばギルドカードのシステムがそれに該当する。

すべての支部で情報を共有するためのもので、それは簡単な文字の連続に限り共有を可能とした。

絶対であるとはいわないが、相手がそのミリム・アルティアが作った魔道具を改造する知識がある可能性は限りなく低い。まずできる技術があるなら、前回の盗賊騒動の際にももっとうまくやったはずだ。

次にラディウスが、

「レンが言う事業は城の管轄が故に、私が口を出すことができる。此度は私の権限によって、秘密裏に魔石の入れ替えを後回しにした。予定されていた日には、偽の魔石と交換する」

「じゃあ、後日改めて入れ替えるのか」

「そうなる。だとしても投入できる人員は限られるぞ。どこから情報が漏れだすかわからんからな。故に今回は、私とユリシスでどうにかするつもりだった。偽の魔石を入れ替えることを知る者も限られる」

それを聞いたレンは、つづきを聞くため耳を傾ける。

「私とユリシスの大前提として、本来であれば魔王教徒をエレンディルに入れず処理することを最良としている。当日もそうできればそうするつもりだが、奴らはまるで霧のように入り込む。愚かでも、魔王に与する者としての厄介さは変わらん」

「だから、大時計台でも待ち受けるって?」

「ああ」

可能な限り、町の外で処理しきれるよう努めるという。

しかし確実に相手を全員処理できるとも限らず、また相手がどれほどの人数で来るのかもわからないため、確証が持てない。

一方で相手が万が一にも大群で現れた場合は、

「いたるところに斥候を放ち、常に情報を得られるよう準備している。場合によっては私の権限を以て軍を動かす。エレンディルは帝都の傍とあって、十分な速度で対応できよう。民には一切の危害を加えさせん」

「……もう一つ聞きたいんだけど」

レンはラディウスが頑なに情報を公のものとせず、なるべく自分とユリシスで解決を試みようとする理由が気になった。

「ここまで入念に支度しながら、最初から軍を巻き込まない理由は?」

そのことを尋ねると、ラディウスは力強い声で言う。

「はじめから軍を用意しておけば、奴らの攻撃を完全に防げる。当然だ。レオメルの軍隊は世界最強、奴らが表立って手を出してこないことからもわかることだ」

彼の表情からは、覇気すら漂ってきた。

「しかし、奴らがそれを見て攻め入るか? 我らを相手に真正面からやり合うつもりなら、最初からやってるだろう。我らが軍を用意していたところで、奴らは計画に変更を加えるだけだ。そうなるくらいなら、我らが予想できる範囲で動いてもらった方が良い」

それに、

「私とユリシスはこれまでのように、ただ対処するだけで終わるつもりはない」

「……まさか、逆にこちらから仕掛けるつもりとか」

「ああ。奴らを確実に生け捕り、情報を得る。そのためにも最初から軍を頼ることはできん。魔王教徒にも勘付かれぬよう、秘密裏に動かねばならん」

確固たる自信たるや、凄まじい。

ラディウスが言いたいことはレンにもわかる。だがそれは諸刃の剣でもある。

――――あくまでも、本来であればだが。

(それができる強さがあるからだ)

この状況から、逆に相手を嵌めることを可能とした強さがある。

剛腕・ユリシスイグナート、それに次期皇帝との呼び声高い第三皇子が手を組んだこと。レンが知る話では殺し合った二人が仲間になったことにより、いまの話が可能となる。

すべては、魔王教の好きにさせないため。

奴らが仕掛けてくるとわかりきっているのなら、それすら利用してやると二人は言った。

「既にクラウゼル男爵には説明してあるのさ。私と殿下は、我々の間で動員可能な戦力を可能な限り動員する。万が一に備えてね」

「お二人が動員できる限りと聞くと、凄そうですね」

「お褒めに預かり光栄だ。とはいえ少数精鋭だよ。万が一には殿下が言ったように即座に軍を動かす用意もある。――――だからこれは、私と殿下の覚悟の表れと思ってくれたまえ」

それにはレンもレザードを見て、その顔を窺う。

「あの、ちょっと待って。もしかして、ラディウスも現地に行くってこと?」

「当たり前だろうが」

「いや、端から端まで非常識じゃん」

「普段であればな。しかし今回は理由がある。それとレン、お前も大概非常識なことをしてるだろう。人のことは言えんぞ」

「俺も反論はできないけど……ならどうして、わざわざ危ないところに」

「平原でのことと同じだ。レンには伝えていなかったことがある」

ラディウスはそう言い、隠していたことを口にする。

それは、七英雄の伝説でも明かされることのなかった、第三皇子ラディウス・ヴィン・レオメルが持つスキルのことだった。

「私は『解析』という 特別な力(ユニークスキル) を持っている」

その強みは、触れたモノの情報を調べられるということにあった。

情報と一言で表しても曖昧だが、たとえば剣を調べれば使われている金属がわかる。といっても頭の中に「鉄」や「鋼」という風に言葉が浮かぶのではない。言葉で言い表すことは難しいが、ラディウスの知識を基に答えが導き出され、それが脳裏に浮かぶような感覚である、と彼はそう言った。

その知識がない場合には、あくまでも新たな情報として頭に残るようだ。

「これで魔王教の刻印を確かめる。何でもいい。私は得られる限り、奴らの情報が欲しいのだ」

「だったら、待っていればいい。ラディウスは誰かが昏睡させた魔王教徒が連れてこられるのを、安全なところで待つべきだ」

「それで、私が臨んだ結果を誰が保証してくれる? レンが捕まえた盗賊団の捨て駒は覚えているか? 言ってなかったが、奴もあの暴走の後、レンが去って間もなく息絶えた。私が調べる前に刻印も消えてしまったのだぞ」

レンの攻撃が命を奪うに値したわけではなかった。あの盗賊団員は、急に全身が腐ってしまったのだという。

ラディウスが頑なに自分が行くと言い張るのは、それ故だった。

また連れ帰るまでに異変が生じるかもしれないと思えばこそ、ラディウスには何としてもこの機を逃すつもりはない。

そのために入念な支度をいくつもして、戦力も吟味していたのだから。

彼にはレンと同じで、強い覚悟と意志があった。

「私が魔王教の刻印へ理解を深められればこそ、今後奴らの足取りを追いやすくなろう」

「……だから、自分も安全なところに留まる気は無いって?」

「ああ。誰に何と言われようと、私は奴ら魔王教を前に足踏みする気はないぞ。私は獅子王の末裔なのだ。民に危害を加えんとする者を傍に迎え、何もせずにはいられない」

ラディウスが欲しているのは保証だ。

故に自分が現地に出向いてこそという言い分で、また以前のように情報を得られなくなることを何よりも危惧している。

それは誰もがわかっていた。

誰も彼の言うような保証をできないから、自分が行くべきと言う考えは筋が通っている。

……あくまでも、それ自体は。

「レザード様は作戦の詳細を聞き、ご納得なさっているんですよね?」

「安心していい。私も事細かに確認させていただき、これならと確信できる内容だった」

「……わかりました。なら、そのことについて俺はもう何も言いません」

でしたら、とレンが頷く。

「俺は屋敷をお守りするということでよいでしょうか?」

最初も口にしたが、此度の作戦を邪魔立てする気はない。

レンはただ知りたかっただけだ。自分がどう動くことで邪魔にならないかを。どう動くことで守るための最善に繋がるかを。

「ああ……そうなのだが……」

ラディウスのはっきりしない返事だった。

「ユリシス、レンには何と話してある?」

「彼が来てくれた暁には、より良い状況になるとだけお伝えいたしました」

「ふむ……では、つづきは私が説明して構わんか?」

「ええ。むしろ殿下が話したほうがよいでしょう」

頷いたラディウス。

ここにレンが来ることになった、もう一つの理由があった。

だがレンの強さをあてにしてのことではない。もちろん、レンが居れば重要な戦力になるが、今回はそれが理由ではなかった。

それに限ってはレザードも聞いておらず、「ん?」と首を捻っている。

「レンも知っての通り、我らの作戦に失敗は許されん」

「失敗すれば、帝都とエレンディルの防衛機能が奪われるからね」

「いいや、それではない。むしろそちらに関しては何ら問題ないと思ってくれて構わん」

「……どういうことさ?」

「詳しくはことが済み次第、すべて話す。レンにも、レザードにもな」

ラディウスは一つだけ、意味深に告げる。

「ミリム・アルティアは伝説の魔道具職人だが、大時計台の魔石のみに依存するような仕組みは昔の話だ。それだけ覚えていてくれたら構わん。我らレオメルが、何もしていなかったわけではない」

何か秘密があるようで、その先はまだ語られなかった。

しかし作戦の重要な点にはかわらない。ここまで話したのであれば、やがてレンとレザードの二人にも告げるつもりなのだろう。

またユリシスはその事情を知っているらしく、訳知り顔で座っている。

(それもあって、可能となった秘密裏の行動か)

レンとレザードの二人が頷いて返すと、話のつづきへと戻る。

「本題に戻ろう」

と、ラディウスが言ってからだ。

「レンがいればより良い状況になる理由だが――――無論、話したからと言って必ず協力してもらいたいとは言わん。それに、この話を陛下から聞いたのは昨日のことなのだ。私とユリシスも話を共有してまだ間もない」

「陛下って……ラディウス、どうして俺の話に陛下が……?」

「すべて話す。まず事の発端だが――――」

今回の作戦は可能な限り秘密裏に行われるが、話さずには居られない存在がいた。そう、レオメルを統べし絶対権力者……皇帝だ。

皇帝に説明する役を担ったのはラディウスだった。

「私とユリシスの思惑はすべて陛下にお伝えしてある。それについては実行の許可をしてくださった。これなら問題ない、と作戦内容も確認してくださった」

次期皇帝とも言われている者が危険な場所に出向くのに、違和感というか疑問が残る。

だがこうした経緯があったのかと、レンは膝を打つ思いだった。

それでも、ラディウスには皇帝付きの騎士も派遣されている。

間違いがないよう、まさに隙のない布陣が敷かれたことがわかる話だ。

「その際、他の派閥への説明はどうするかとも相談した。それらは後程、事が済んだ後にどうにかすると陛下がお約束してくださった。――――レンが関係してくるのは、その後だった」

ラディウスが実の父こと皇帝と話したのは、謁見の間である。

昨晩、急ではあるがその席を設けて貰ったのだという。作戦については、その更に前に話す席を設けていた。

「私とユリシスは更に万全を喫するために多くを考えていた」

一呼吸置いたラディウス。

彼と目と目を交わしながら、つづく話を聞くレン。

「そのために、 彼女(、、) の助力を得られないかと思い、私から陛下にお尋ねした次第だ」

彼女――――その言葉が誰を差すのかひどく曖昧だ。

だけどレンはすぐにわかった。皇帝の傍にいるという話から考えて、該当する人物は一人しか思い浮かばない。

「彼女は過去、陛下に命令されても誰かに助力することはなかった。だが今回、彼女自身があることを条件に助力すると言ったのだ」

「……それが俺だって?」

「そうだ。レンが私の傍で戦うのなら、陰ながら助力すると約束してくれた」

「――――わからない。どうして俺が協力したら、なんて言ってきたんだ」

レンがそう呟けば、ラディウスは肩をすくめ息をついた。

「私とて……それこそユリシスとてわからん。だが、陛下にお尋ねしてすぐのことだった」

ラディウスの声音と表情からは、本当に困惑しているのがわかる。

「彼女が我らの傍で戦うわけではないが、万が一に備え、近くにいてくれるそうだ」

皆目見当もつかない。困った様子でレザードを見たレンのことを、そのレザードも困った様子でこちらを見ていた。

皆が皆が、理解できていなかった。

あのユリシスですらなのだ。到底わかりっこない。

けれど、一つだけ確固たる事実があった。

「彼女が助力してくれれば、作戦がより盤石になる。エドガーはそれを最善と思い、レンに声を掛けたのだろう」

「まったく……エドガー、勝手な執事が居たもんだね?」

「申し訳ございません」

「……まぁ、私も私で話すべきか迷っていた。だから強くは言えないが」

ユリシスがそう言い、されど彼はレンを誘うことに逡巡を覚えていた。

が、レンとしてもこうなってくれば話が違う。例の彼女が助力してくれることは、これ以上ない話なのだ。

彼女の思惑はどうあれ、想定外の助力を前には引き下がれない。

「レザード様」

と、レンが。

「俺がラディウスの傍で戦うことを、お許しくださいませんか」

レザードもまた、答えに迷った。

もちろん再びレンに力を借りるのかと思うところはあったのだが、此の程の話は、男爵の彼にとって大きすぎる話だ。

彼が答えに詰まったところで、

「――――褒美に、俺の学費を出していただくのはどうでしょうか?」

レンが自ら褒美を欲してみせたのは、これがはじめてだった。

明らかにレザードを気遣っての言葉だと皆が知っている。だけど、そんなレンの優しさと決心の強さに対しては、レザードも頑なではいられない。

もう、レンは田舎にいた小さな少年ではないのだ。

「思うように褒美を出そう。だからレン、レオメルのために力を借りても構わないか?」

それにはレンも、

「はい。お任せください」

待っていたと言わんばかりの即答であった。

二人がそのやりとりを交わした後に、ラディウスが、

「しかしレザード、何かの拍子に、そなたらが我が皇族派の一員と思われるやもしれん。クラウゼル家はリオハルド家と懇意と聞くし、偏ってはいないと情報も流すが……」

「でしたら、今後とも我がクラウゼル家にご寵愛をいただきたく」

風評被害とは言わないが、予想される論調についてレザードが申し出た。

「ほう、何が目的なのだ?」

「私が欲するのは政治的力です。綺麗ごとばかりではまた理不尽に巻き込まれましょう。なので、私は中立派でありながら確固たる地位を築かなければならないのです」

「……なればこそ、我が皇族派の一員となる気はないか?」

「……」

「ふむ、それはまた別の話のようだな」

「……恐れながら、この場でお答えすることはご容赦ください。いまはまだ、自分の身の回りのことで精いっぱいなのでございます」

安易に派閥の鞍替えをできなかったのは、やはりこれまでの経験故だった。

最近、順調に勢力拡大に勤められていることもあって、ここで決断を急ぐことはしなかった。

特にこの場の勢いに流されて決めるべきことでもなかった。

第三皇子を前にして毅然と言い放ったレザードに、そのラディウスがニヤリと笑う。

「元来、貴族という存在は派閥にとらわれるべきではない。それを体現するような男であるな」

「不敬と仰せになられても致し方ございません。ですが私がレオメルへ、それに第三皇子殿下へ尽くすことは、未来永劫不変でございます」

「不敬などと思っておらぬ。そなたほどの忠臣を知れたことが喜ばしくてたまらん」

ラディウスはまず一つ、約束することに決めた。

「事が済み次第陛下に申し奉り、クラウゼル家に 然るべき褒美(、、、、、、) を取らせよう。そなたの中立は 浄(きよ) く誇り高きものだ。決して日和見などではなく、真にレオメルが思うが故の立場であること、よくよく理解した」

するとラディウスは対面のレザードに手を伸ばした。

「これからも、レオメルのために尽くしてくれ」

「――――はっ」

本来、皇族と握手をするなんてことは普通じゃないはず。

なのにここで、二人は固く握手を交わした。

そしてラディウスは次に、レンに身体を向けて目と目を交わす。

「予定では、エドガーが私の傍に控えることになっていた。しかしエドガーには、クラウゼル家の守りについてもらった方がよいか。例の彼女が助力してくれるなら、その方がレンも安心できよう」

「ん、ありがとう。それじゃ俺は――――」

「ああ。私を傍で守るのはレン、そなたということだ」

ラディウスはレンに微塵も力不足を感じておらず、それどころか頼もしさを覚えていた。

出会って何年も経ったわけじゃないのに、二人は多くをわかり合っていた。

「私の背を預ける。しかしレンには、騎士として私の傍に控えてくれ――――とは申さん」

「だったら、俺はどんな立場として? 用心棒?」

素直な疑問を呈したレンに、ラディウスが勝気に笑って、

「戦友としてならどうだ」

そう言った。

レンは第三皇子を前に友なんて、と思った。

でも、そんなの今更だ、とも思った。

既にこんな風にやり取りを交わしているのだから、いまのはただ、言葉に出してみただけにすぎない。

レンとラディウスは、同時にその手を伸ばす。

二人の手が、ここで合わさった。