軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

賽子の顛末

「やったぁキュロス様、やりましたねっ!」

わたしは跳び上がって喜び、キュロス様に抱き着いた。

自分自身はほとんどスタート地点だけど、それはそれ。キュロス様とわたしのチームだし、彼の勝ちは素直に嬉しい。

一方、敵のチーム……カエデさんとアンジェロさんも、案外朗らかな様子だった。アンジェロさんはパチパチと軽薄な拍手を送り、カエデさんも肩をすくめて笑っている。

「さすが、と言っておきましょう。勝負は時の運とは言っても、ここぞって時に必ず掴むのが商人ってもんだ。それとも、ディルツの女神は若い男が好きなのかね」

「……ところでおまえ、俺のこと若造だの小僧だのってずっと言ってるけど自分は何歳だよ」

「レディに歳を聞くもんじゃないよ」

カエデさんは真顔でそう言った。

「まあいいとにかく、俺達の勝ちだ。約束通り、おまえ達の真の目的を聞かせてもらう」

「……そうねえ……」

カエデさんの視線が、チラッとアンジェロさんを見る。それだけでアンジェロさんはすべてを察し、何か細長い、鉄製の筒を手渡した。

咥えて吸って、ぷかりと煙を出す。ミズホの 煙草喫煙具(たばこパイプ) だったらしい。キュロス様が眉をひそめた。

「船室で喫煙は禁止だ。火事になる」

「――とはいえ、ルハーブにいる間に言ったのとさほどの相違はないんだけどね」

キュロス様の注意はきれいに無視された。キュロス様の眉間に血管が浮き出したけど、カエデさんは見もせずに、もう一度煙を吐いてから、話し出す。

「ミズホにも天然真珠があり、私がそれを取り扱ってるっていうのはルハーブで話した通り。それについてなんだけど。グラナド商会に丸投げしているほど、私たちは呑気な商人ではないの」

「……つまりおまえ達も天然真珠の売り出し方を考えていたということか」

「当たり前だよ。あんたが島長に提案していた物、御守りだの記念品だのはご存じの通り元々ミズホで商品化していた。とっくの昔、神話の時代からずっとね」

含みのある言い方に、キュロス様が眉を跳ね上げる。

「なんだ、俺のやり方ではうまくいかないと言いたいのか。あの時はおまえも賛同していただろうに」

「それはそれでいいけど、それだけじゃ足りないってことよ。そもそもあんたはもっと根幹的なこと――真珠や宝石に何故価値があるのか、お忘れなんじゃない?」

「……何?」

「まあ仕方ないか。いくら目利きや商談が上手くなったって、本質的にあんたは男、それもケツの青いボウヤだもんね」

カエデさんは着物の 袂(たもと) から小さな革袋を取り出した。卓上にひっくり返し、中身を出す。

転がり出たものに、わたしもキュロス様も息を呑んだ。

たった一粒の真珠だ。だけど、これは。

「――御守りだの記念品だの、そんなものは二の次。宝石の真価はその美しさ。自分の物にしたいという、ひたすらに 下衆(げす) で 貪婪(どんらん) で、利己的な欲望よ」

……カエデさんの言う通り、この真珠は、美しかった。これまで見てきたどれよりも大きく、それでいて一切の歪みが無い真ん丸の形。目がくらむほどの純白に、数えきれない虹彩が見える。値段が付けられない最高級品だと、宝石に疎いわたしが見ても分かる。

「そして宝石の価値は、もう一つ」

カエデさんはそう言って、真珠粒を摘み、自身の頬に近づけた。

その瞬間、カエデさんの肌が輝いた。

虹色がかった光彩が彼女の肌に映り込み、顔全体を照らす。ふっくらと柔らかそうな頬が艶めいて、瑞々しく見せていた。

――美しい。女のわたしも思わず口付けたくなるほどに。

赤い唇がゆっくりと動く。

「その輝きで女の身を飾り、魅力的に見せる。真珠に限らず宝石は、古代からそうして使われてきたの」

「……その通りだな。だがそんなことは俺だって理解してるし、売り物にしてる。それがどう商戦につなげるっていうんだ」

眉を顰めるキュロス様。カエデさんは無言のまま、ぽいと真珠玉を投げ寄越した。彼にではなく、わたしに向かって。

わたしの手の中にコロリと転がった真珠玉。さっきのカエデさんと同じく、わたしの肌が煌めいた。それを見て、カエデさんはニッコリ笑った。

「……うん、やっぱり私よりもあなたのほうが映えるね、マリーさん」

「えっ? それってどういう……」

「――初めて会った日、いやあの宿で一目見た時からずっと思ってた。

マリーさん、あなたの力を貸して欲しい。天然真珠を世に売り込むために、あなたの美貌を使いたいの。

私達の 宣伝材料(モデル) になってちょうだい。イプサンドロスに着くまでに、マリーさんを口説き落とす。それが私の目的だよ」