軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話2 俺は二人で出かけたい

思っていたよりも早く商談が終わり、余った時間、俺たちは茶と菓子と、島長のカスタネット演奏を楽しんだ。

やがて満足したらしい、島長の帰りを見送って、また宿へ戻る。

書類の片づけを終えてから、俺は椅子の背もたれを使い、ウーンと大きく伸びをした。

「お疲れ様ですキュロス様。商談、うまくいって良かったですね」

すかさず、マリーが肩を揉んでくれる。俺はしばらく堪能してから、今度はマリーを座らせて、同じように肩揉みした。

「あんなに早くまとまったのは、マリーのおかげだよ。連れていたのがウォルフやミオだったらこうはいってない」

「わたし? 何もしてませんけど……?」

謙遜などでなく、素直に不思議がっているのがまた愛おしい。俺はヨシヨシとマリーの頭を撫でまわした。

「今日は本当に助かったよ。お礼に、昼はルハーブを観光しよう。もちろんイサクに案内を頼むが、俺はあの子が知らないルハーブの魅力を紹介できるぞ」

「素敵! とても楽しみです。道中に飲食店ってありますか? お弁当を作っておきます?」

「レストランは少ないが、露天では珍しいものが売っている。少し岩山を歩くし、なるべく身軽な格好で……」

そこまで言って、俺はふと、妙案を思いついた。マリーにそっと耳打ちをする。

「はぐれないよう、手を繋いで行こう。敬語は無しで」

「あっ……それって、初めてディルツ中央市場に行った時の……」

皆まで言わさず頷くと、マリーはポッと頬を染めた。

そう、久しぶりのデート。

ディルツでは同じ館で暮らしているし、船室でもずっと二人きりではあったが、デートとなるとまた別格なのだ。案内役のイサクはいるが、幼いながらも彼はプロの観光案内人、カップルや新婚夫婦のナビゲーションも慣れているはず。きっとロマンチックな場所では気を利かせて、席を外してくれることだろう。

俺の顔は、きっとマリー以上に紅潮し、ウキウキとときめいていたと思う。マリーも嬉しそうに笑って、軽やかな足取りで厨房へ行き、女将に「出かけてきます」と伝言。

それから庭園に出て、イサクを探す。少し離れたところに、兄弟たちとボール遊びをしているのを発見。マリーが口元に手を当てて叫んだ。

「イサクー、これから時間が空いたから、ルハーブの観光巡りをお願いーっ」

「はーいっ!」

と、いつもの元気な返事と共に、駆け寄ってくるイサク。それはいいけど……なんで、アンジェロまで近づいてくる?

「な――なんだ? おまえは呼んでないぞ」

「おやキュロス様、さきほど約束したではござらんか。商談中追い出す代わりに、あとで食事を共にと」

「はあ?」

思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。

何言ってるんだこいつ、俺はそんなこと――いや言ったな、言いはしたが社交辞令だろう。本気にして尻尾を振る成人がどこにいる。

とはいえマリーの前でそんなことを言うと、不誠実だと怒られそうだ。俺は言葉を濁しつつ、

「そ、それは確かに――では今夜、俺と二人で酒でも」

「あらキュロス様、わたし達って今日の夕方には出航するのでしょう? もうチャンスがないのでは」

その通り、だが……つまり今日しかマリーとルハーブデートをする機会が無いということで……!

アンジェロはふわふわと笑った。

「心配なさらずとも、道中、マリー殿をかどわかしたりなどしないでござる」

「マリーがおまえにかどわかされるわけあるか!」

「キュロス様、何を怒っているの?」

マリーにくいくい袖を引かれる。

うぐ、ぬぬぬ……っ。

「し、しかし……ほら。アンジェロは、あのお嬢様の看病が……」

「それなら、大丈夫ですよ」

そう言ったのは、アンジェロではなく、マリーだった。

アンジェロも、「えっ?」 と困惑する。

マリーは男二人をその場において、早足で進み、客室に続く扉を開いた。途端、べたん! とすごい勢いで、女が前のめりに倒れ込む。どうやら扉に体重を預けていたらしい――おそらくは聞き耳を立てながら。

「カエデ様っ!」

慌ててアンジェロが駆けつけ、カエデを抱き起こした。カエデは、思い切り床に額を打ち付けたらしい、頭を抱えて起き上がる。

「……いっ……!」

「大丈夫ですかカエデ様、頭を強く打ってはいませんか!?」

「――ああっごめんなさい! わたしったらノックを忘れて……!」

マリーも駆け寄って、カエデの顔を覗き込む。カエデは無言のまま、マリーの手を振り払った。

元気ではあるようだ。アンジェロがホッとため息を漏らす。カエデのそばに膝を付いたまま、マリーを見上げた。

「本当にごめんなさい。お詫びと言っては何ですが、カエデさんも、わたし達と一緒に観光へ出かけませんか?」

「カエデ様は、足にけがを――」

「平坦な道を選べば平気でしょう? ベッドからこの扉まで、歩いて来られたのですし」

「…………フ」

カエデはそっぽを向き、アンジェロの服をクイクイ引いた。すかさず身を屈めたアンジェロに、何かぼそぼそと耳打ちする。

アンジェロは深く頷いた。

「――わかりました。我々も共に行きましょう。実は自分もルハーブを観光してみたかったのだと、カエデ様は喜んでおいでです」

「良かった! ではイサクも呼んで五人でお出かけですね。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくでござる」

にこにこにこにこ、同じ温度で笑っているマリーとアンジェロ。

……俺は複雑な気持ちで、大きくため息をついた。