軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 スプリングヒルズI 『過去の世界?』

ってて……。

「……あん?」

ふと気づくと、俺は大の字で転がっていた。風でも強いのか、空にかかる雲の流れが早い。そして辺りは暗かった。夜、というよりもこれは。

「ああそうか、魔大陸に来られた……ところまではオッケーか。やるじゃねえかバーガー屋」

むくりと上体を起こすと、手元に鬼殺しが転がっていることに気付く。

手にとって周囲を見渡せば、どうやら黒い草が群生する草原に居るようであった。

魔界地下帝国と同じ、暗い大地。だが何かが違うのは分かる。なんつーかこう、あれだ。空の色が、透き通っている。地下魔界には無い"ちゃんとした空"っぽい感じ。

からん、と乾いた鉄の音をさせる鬼殺しの石突を地面に付けて起きあがり、草を払って。

これできちんと二百年前に戻って来られたのだろうか。

「ユリーカの姿も近くにはなさそうだし……どうしたもんかね」

急かしたバーガー屋が全部悪ぃ。うん、そういうことにしておこう。

もし俺のが先に飛び込んでしまったせいで、彼女よりちょっとばかり過去に来てしまったのだとしたら、ここで待っていればしばらくすれば来るのではないか。

俺が気絶していたのはひょっとすると、落下でもしてきたのかもしれない。現れるゲートの位置を確認しておかないと帰れないこともあるし、どうしようかね。

四六時中空を見張ってるのも退屈だしな。

「とりあえず現状確認と行こうか」

ここがちゃんと二百年前の魔大陸なのか。

ぶっちゃけそれを確認する為には町や村……っつーか人を探すのが一番手っとり早いんだが。それにはまず、この場所にきちんと戻って来られるようにする必要がある。

それに……

「もし本当に二百年前の魔大陸に来ることが出来ているんだとしたら……せっかく出会った人間におびえられてもかなわんし。ついでに、俺の状況も把握するべきか」

目を閉じれば、相変わらず覇気が垂れ流しになっていることは感じられた。

ゲートをくぐり、もし過去に来られていた場合でも、特に後遺症やら影響のたぐいは無いようだ。ついでに覇気を体内に取り込んでみる。

うん、これも問題はなさそうだ。

魔大陸は、設定では魔族と人間が共存していた土地だ。

だからこそヴェローチェさんの爺さんであるシャノアールさんが魔大陸に居られた訳だし、ユリーカの暮らしていた村もあった。

ヴェローチェさんから聞けた情報は、シャノアールという名前だけだった。

逆にユリーカは自分の住んでいた村の名前くらいは覚えているらしく、その名を"最果ての村ラシェアン"というらしい。

「ってことはあれだな、まず近くの町に出てシャノアールって名前とラシェアンって名前で情報収集。……過去に来られて無かったら、その時はその時だ。バーガー屋の野郎をパニーニにしてやるだけだ」

パニーニっつーのは野菜やソースをバンズで挟んだものをホットプレスしたイタリアのうんまいパンな。日本に居た頃はパン屋に行くとあればっか食ってた。オヌヌメ。

今度ユリーカに頼めば作ってくれっかな。や、素材はバーガー屋以外で。

「……ってと。ユリーカがちゃんと俺の後にゲートに飛び込んだっつー前提で動かにゃ話は始まらんのだが。この状況どうしたもんかね」

軽く鬼殺しを担ぐ。

草原をそよ風が通り過ぎ、俺の髪が靡いた。どっかのオールバック青髪野郎と違って額の後退を気にする必要はねえからな、感想としては心地良い、だけで済む。

……いい加減あやつぶっ殺さんとまずい気がする。主に帝国書院的な意味で。研究とかされてたら洒落にならんし。

まあそんなことはいいか。

ひとまず俺がやらなきゃいかんタスクとしては。

「まずはユリーカが来る前に、ある程度の地理を把握しておくことかね」

ざ、と芝を踏みしめて。

草原の周囲を囲む森林の、ちょうど隙間のような細道に、俺は足を踏み入れた。

「おうおうそこの兄さんよォ! ちょいと待ちなよ、おい」

しばらく細道を歩く。幸運なのか不運なのかしらんが、あの道はしばらく一本道が続いていた。人の営みの明かりも見えないし、これはもう少し進む必要があるかなと思っていたその時であった。

俺が歩いていた小道の脇、少し山になっている左側からずざざざざ、と滑り降りてきた一つの巨体。屈強な肉体に腰布を巻いたその男は、額から一本の角をはやしていて赤ら顔だ。まさに鬼、というか 豪鬼族(ハイオーガ) じゃねえか。

「ぷぷっ」

「何笑ってやがんだおい!」

「だっせえ角……」

「おめえにも生えてんだろうが!?」

「いや俺のはかっこいいだろう?」

「何誇らしげに触ってんだよ……!! オイラの角のがかっこいいもんねー!! 見ろよこの美しい一角をよ……!」

「ま、及第点ってとこかな」

「なんで突然そんな上から目線なの!?」

割と、ノリは良い方だな。

はぁ、はぁ、と荒い息を整えながら、その豪鬼族はしかし口角を歪めて言った。

「ま、何れにせよお前程度の雑魚妖鬼が通りかかったのはちょうどいい。その身分不相応な斧、寄越してもらおうか」

くい、くい。と。人差し指を動かしてそんなことをのたまう豪鬼族。

「なるほど、物乞いか」

「物乞いじゃねええええよ!! どう考えても盗賊だろうが!! やっぱ舐めてんだろテメエ!?」

「ところで今何年くらい?」

「ああ!? 千年ちょいじゃねえの?!」

「いや別にお前の歳は聞いてねえよ」

「オイラそんな爺じゃねええええええよ!! テメエが年代聞いてきたから親切に答えてやってんだろうが! っつか何でそんなこと聞くんだこの雑魚が!」

「ふむ、千年代か。馬鹿そうな豪鬼族の言うことだからいまいち信憑性は薄いけど、まあ納得しといてやるよ。喜べ」

「意味分かんねええええええええよ!! 何で親切に教えてやったあげくに種族ごと馬鹿にされてしかも偉そうなのお前!? マジでぶっ殺してやるよおおおおい!!」

過去に、来られた……っぽいか?

いや、でも豪鬼族だしなあ。

「で、この斧が欲しいって?」

「そうだ!! 寄越しやがれ!!」

「三回まわってワンっつってみろよ」

「だからお前これ交渉でも何でもねえええんだよ!! しょんべんちびって逃げるくらいのことするはずだろうが!! なんで対等なつもりなんだよ!!」

「やっても良いが、実はこれ呪われていてな」

「な、なに!?」

「この斧、一度持つと」

「……持つと?」

「俺みたいなキャラになる」

「……え、やだ……」

……軽く凹んだ。

明るくて素敵なナイスガイだぞぉ……もっと欲しがれよぉ……。

……まあでも、拒絶するならいいや。

くるりと豪鬼族に背を向けた。

「萎えた、帰る」

「いやいやいやいや待てコラ!! 何でお前の都合で帰れると思ってんだよ!?」

「や、だってお前と居てもつまんないし」

「そういう問題じゃねえええええんだよ!! こっちだって引き留めた以上収まりつかねえんだ! よく見たらテメエの着流しも良い品じゃねえか! そいつを寄越せ!」

「収まりがつかない……? 服を寄越せ……? え、や、俺そっちの趣味無いんで」

「俺もねええええええええよ!! テメエマジでいい加減にしろよ!? なあ!?」

拳を構える豪鬼族。

何だこいつやる気か。

「ぼ、ぼぼぼぼぼくはつよいんだぞぉ……?」

「キャラ変わり過ぎだろ!? まあいい、軽くその魔導具一式いただいてやらぁ!!」

ドン、と豪鬼族の居た地面がめり込んだ。瞬間奴の姿が消える。

……おいおいマジかよ。

首を傾けると、今まで脳天があったところを凄まじい勢いで拳が貫通した。

「なにっ……!?」

「え、お前強くね?」

「ふざけやがって……! オラァ!!」

拳がかわされたと見るや、そのまま淀みない流れで回し蹴りへと移行。下段で足を刈る作戦のようだ。しかしえげつない速度だなおい。これクレインくんたちじゃ一撃で終わりだろ。

軽く跳躍してその下段蹴りを回避。

鬼殺しの石突を地面に付けて、バランスを取って様子を窺う。

「へ、馬鹿が!!」

「っととととと?」

「なんだとっ!?」

と、そこに襲いかかるは回転蹴りからの上段への突くような蹴りのラッシュ。

その数数十発。完全に空中で無防備だったせいで、よけるのも一苦労だ。

「ちょいとこの時代の魔族強すぎねえか……? お前さん、ここいらじゃどの程度強いの?」

「……何者だ、テメエ……? 雑魚の癖して、オイラの攻撃を……」

「会話をしろよぉ!!」

「さっきまでのテメエに言いやがれ!!」

軽く呼吸を整える豪鬼族。

……しかし雑魚雑魚言われてもな。いくらお前さんが強いとはいえ、さすがに俺もお前に負けてしまうと色んな人に顔向け出来ないというか何というか……。

「……あ」

「何だよ……!?」

「いや、すっかり忘れてたや」

……そうか、雑魚雑魚呼ばれるのはあれか。

覇気……隠したまんまだったからか。

「よっと」

「っ……!? な、さ、さっきまでの……よわっちいオーラ、は……」

「や、何で雑魚呼ばわりされるのかなあと考えて、そういや覇気隠したまんまだったなと」

「は、はは……」

珠片五個に加えて、ユリーカんとこで相当鍛えさせてもらったから、結構それなりの強さになってると思うのよね、俺。

ふう、すっきり。覇気隠してると何というか、常にトイレ我慢してるみたいな気分なんだよなぁ。ん? そしたら今の俺の構図って我慢出来なくて漏らした系男子?

なんてことを思いつつ目の前を見れば。

豪鬼族が、なんか手もみしながら歪な笑みを浮かべていた。

「く、靴でも舐めましょうか?」

なんだこいつ超面白い。

「やー! 最初からこの人はきっと強い! と思ってたんスよ実は~!」

「マジで? じゃあ覇気隠し切れてねえのかな」

「やや、それはオイラがかなりの目を持ってるからでして! そんじょそこらの野郎には兄貴に気付く奴なんざ居ません!! いよ、世界一!!」

なんかついてきた。

ひとまずこの豪鬼族――一号の言うにはここは千年代の魔大陸で間違いはないようで、バーガー屋の過去転移は完璧だったらしい。

そうなるとユリーカがそろそろ来ていてもおかしくはないので、さっきの草原に向かって戻っているという寸法だ。

なんで一号かってーと、一号で良いかららしい。

『やー、オイラなんて一号で十分っすよ兄貴!』

とのことなので、遠慮なく一号と呼ばせてもらっている。

「それにしても兄貴、今から行くとこには何もねえはずなんスけど」

「あのなんか黒い草原だろ? そこで待ち合わせしてんのよ、ツレと」

「ほうほうほう! ツレってーと、女の子で? 流石は兄貴!! 可愛い子っすか? きれいな子っすか?」

「その二択なら可愛い子だな。ピンクのナチュラルボブに、アイスブルーの瞳で、堕天使の、鼻筋通った強気な女の子、か」

「ほうほうほうほう! やー、めちゃめちゃ期待が膨らむってもんスね! こういう言い方はあれっすけど、オイラ強気な子を虐めるのが大好きでさぁ! 兄貴も、そういう手合いで?」

「や、俺は人をいじったり虐めたりなんてことは性に合わねえよ」

「え?」

なんか一号が哲学者みたいな顔をしていた。

難しそうな顔しても、お前に考えられるのは今晩のおかずくらいだろうに。

愉快な理不尽? はは、この僕がそんな傍若無人なことするわけないじゃないか。

「でも、大丈夫っすかね」

「何が?」

「この辺り、結構オイラみたいな奴居るんで、可愛い女の子一人だと――」

元来た草原の近く。

そんなことを言い出した一号と同タイミングで起きた轟音は、俺と一号の注意を引くには確かに十分すぎた。

あまりに強烈な地響きだったものだから、両足にまでびりびりと衝撃が伝わってくる始末。……っつかこれもしかすっと。

「や、ヤバいっすよ兄貴! たぶん、結構な人数が……!」

「ま、大丈夫だろ。たぶん」

「え、だって女の子なんでしょう!? こう、ほら、色々とぐへへ」

「願望が隠し切れてねえなこいつ」

ユリーカの薄い本でまーす! ……なんて展開にするにゃーまず、あいつの武器を塞がねえと意味ねえだろうに。

「可愛い女の子っつっても……」

草原に足を踏み入れる。

すると案の定、数十の魔族が現れていた。

だが、その中心で跳躍する堕天使の少女が一人。

――古代呪法・車輪転装――

その少女は、持っていたカトラス二刀を打ち消すと、変わりに巨大な、黒曜石のような光沢の大剣を取り出して振りおろす。

「ぎゃあああああ!!」

「があああああああ!!」

叫ぶ悲鳴とともに空中に打ち上げられた魔族たち。

しかし。

――古代呪法・車輪転装――

その瞬間には彼女の手から大剣は消えていた。代わりに持つのは、身の丈三倍はあろうかと言う方天戟。それを縦横無尽に振り回し、石突を突いて高飛びのように跳躍すると、

――古代呪法・車輪転装――

三人張りはあろうかという豪弓に十の矢をつがえて撃ち放った。

そのまま翼で旋回し、

――古代呪法・車輪転装――

滑空するように魔族たちに突っ込み、カトラス二刀で敵を大量に斬り刻む。

あっと言う間にちりぢりになる魔族たちの中心で、

――古代呪法・車輪転装――

気付けば今度は彼女は巨大な槌を振り回していた。

「……尋常じゃなく強ぇから」

「そ、そうみたいっすね……」

手助けする必要はなさそうだなとぼんやり観戦する俺の横で、一号は頭を抱えながら「可愛い女の子かと思ったら化けもんとか盗賊の敵だぁ……!」となにやら呟いていた。

盗賊家業も大変だなあ。