軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ 街道の甘味処 『共に、行こうか』

「あん? 指名手配?」

「帝国書院ぶち壊して、魔導司書一人は重傷、一人は意識不明の重体じゃ、そりゃそうなるわね」

「まあどうせ今から帝国出るし、支障はねえか」

一夜明けて、白銀の街道にまでやってきた俺とヒイラギ。

珠片の反応は南西なんだが、何故か一回この場所に戻ってきた。

いや何故かっていうか、また帰りにもあの店行くって口約束したのと、なんとなーくヤタノちゃんにまた会える気がしたからだった。

ヤタノちゃんに会いたいのは、俺じゃなくてヒイラギ。二人の関係は相変わらず良く分かんねえけど、昨日ぽろっと俺が帝都に行く手助けをして貰った旨を言ったらこの店に戻ってくることに賛同した。

礼でも言いたいのかね?

その辺は、よく分からんが。

まあともあれ、そんな訳で白銀の街道をえっちらおっちら南東へ。昨日はまたレーネの廃村に宿をとったので、山を降りたらあとはただ銀タイルの道を戻るだけだった。

ああそうそう、エネルギー取り出しに失敗してタイル白銀に凍らせたのは、俺が散々破壊したあの研究院だ。デジレの野郎、本当にどこに行ったんだか。ヤタノちゃんと殺し合いでもしたのかと思ったんだが――

ぷにっ

「ふぁんふぇふふぁ? ……あの、ほっぺ突然つんつんするのはやめてもらえると助かります。お団子食べてる時だと、変なとこ噛んじゃいそうなので」

こうして俺の隣で暢気にお団子食べてるんだよなあ。

「で、ヤタノちゃんはその指名手配犯と暢気にお茶してていいの?」

「指名手配犯を追いかけるのはわたしのお仕事ではないので。いえ、本当は捕まえた方がいいのですけど……もうそろそろタイムリミットですし」

「え?」

「どういうことよ?」

俺の両隣が相変わらず遙か年上のこの状況。

三人仲良くベンチに座ってお団子食べている訳だが、帝国書院の幹部たるヤタノちゃんにとって目の前の指名手配犯はどうでもいいらしい。

よくよく考えたら俺研究院でも盛大にやらかしてるしな。

「今回のことで元帥の発言力はだいぶ弱まるでしょう。もしかしたら排斥の声明もあげられるかもしれません。そうなれば、魔導司書主体の組織として生まれ変わることが出来ます。ふふ、シュテン、貴方には予想以上に助けられましたね」

「あー……なに、タロスさん排除まで織り込んで俺使ったの」

「ですから、元帥が出している指名手配など、今あまり聞く必要はないのです……まあ、それとは別に追う理由が、ある魔導司書には存在しますが」

「……へぇ。なんだかとてもぶっ飛ばし甲斐のあるモノクルハゲな気がしてならねえなあ……!!」

「間違っていませんよ。ふふ……」

はっはっは、あいつは殺す。マジで殺すぬっ殺す。

俺から溢れ出した変なオーラに、若干ヒイラギが引き気味になっているのなんて気にならないやい。

しかしヤタノちゃんが黒い。元帥排除の為に俺をけしかけたのか。

なぜなら元帥、貴方は! 役立たず以下だからだー! ってヤタノちゃんが高笑いしてたら二度見するね。世界崩壊どころじゃない気がするもの。違う、これは別のゲームだ。

「ヤタノ……なんだか凄く強かになったのね」

「その口振りだと、まるでそうではなかったかのようですけれど」

「昔はあんた、もっと無邪気で可愛げあったわよ」

「あら……」

なにその話超聞きたい。

耳をそばだてる俺をおいて、目を丸くするヤタノちゃん。

どうやらそこまでちゃんと覚えているとは思っていなかったらしい。ヒイラギの方も、最初会った時は変に警戒してたしな。

まあ……仮にも人間が昔に会った時と見た目変わってなかったらそりゃ怖ぇわな。

「覚えていたのですか」

「それなりにはね……と言いたいところだけど、本当はちゃんと覚えてた。正直な話、あんたが今もそんな格好してるのが怖かったのよ」

「……えっと、はい。自覚はあります」

困ったように微笑むヤタノちゃんをおいて、ヒイラギは嘆息した。

でもなんというか、わだかまりみたいなものが解けたようで何より。

このままにされても俺としても少し困る部分はあるのだし。

「それで、お二人はこれからどうされるのですか?」

「とりあえず俺の捜し物はまだあってな。今度は、こっから西南西の方角にある感じだから、まあ教国入りするかなー」

「……って感じ。私も、ふらふら着いていくことにするわ」

なんだよその諦めたような言い方はよ。いいじゃねえか旅。ふらふら放浪の旅素敵じゃねえか。一応目的はあるけど。

「あらあら」

「な、何よ……」

「なんでもないです。ふふ」

「腹立つわねなんか。と、とにかくそんな感じだってば」

ふん、と機嫌を損ねたようにそっぽを向くヒイラギ。煽りはほどほどにしておけよヤタノちゃん、こいつはへそ曲げるとなかなか戻らねえんだ。

「ところでヤタノちゃん、デジレの奴は?」

「デジレは今皇帝陛下に呼び出されています。研究院のことと……あとはそうですね。貴方の捜し物と合わせて貴方を狙う気で居ますよ。仲が良いですね二人とも」

「本気で言ってるんだとしたらヤタノちゃんを肩車したりおんぶしたり高い高いすることも辞さない」

「そ、それはやめてください」

若干恥ずかしそうにヤタノちゃんはその頬を紅潮させると、優しく微笑んだ。

しかしそれにしてもそうか。皇帝陛下公認で俺のこと追ってくるつもりかあの野郎。いいだろう全力で返り討ちにしてやる。

「そうそう、この国を出るのならお早めに。第四席、第六席も帰ってきていますし、所用で国外に出ている第一席と第九席も、そろそろ戻ってくる頃でしょう。その時に帝国書院の施設を散々に破壊した貴方が居たらコトです」

「うっは、魔導司書全員集合じゃねえか。出る出る。そんな戦闘集団のまっただ中に居る理由はねぇや」

洒落にならんとかそんなレベルじゃねえや。

行こう行こう。さっさと。

……だが、普段は方々に散ってるはずの魔導司書が帝国に全員戻ってくるなんてずいぶん珍しい話もあったもんだな。

「ねぇヤタノ。あんた、私たちのこと庇うつもりなの?」

「いえ? ふつうにお話しますよ、帝国書院を壊したのも研究院を壊したのもシュテンだと」

「なら、なんでこんなところで悠長にしてるわけ?」

「……別に、それですぐシュテンの討伐隊が組まれる訳ではありませんし。というよりも、それ以上の問題が発生したのでちょっと忙しいんです」

団子を食べ終えたヒイラギの問いかけに、やけにあっさりと俺たちを売る宣言をするヤタノちゃん。いやまあ見逃して貰ってるだけでありがたいっちゃありがたいんだが、ここまでしておいて話すのもヤタノちゃんにデメリットしかないんじゃねえの?

なんて疑問が沸くんだが、それ以上に気になる点が一個あった。

「それが、魔導司書が珍しく全員集合する理由なのか?」

「魔導司書の動向にシュテンが詳しいのがちょっと気になりますけれど、概ねそういうことです。魔導司書九人のうち、四人が重傷。こんなこと、本来はあってはならないことなのですよ」

「……グリンドルと第八席はともかく、あと二人も重傷の奴が居るのか?」

「第四席と第六席が、双方瀕死の重体で運び込まれてきました。……で、今日の朝わたしもその下手人とやり合ったんですけど……取り逃がしてしまって」

「おいおいヤタノちゃんが取り逃がすって……ん? 第四席と第六席?」

何かが引っかかった。

第四席と第六席がやり合っていた相手を、ヤタノちゃんほどの実力者が取り逃がした。とんでもねえ敵のような気がするが、引っかかりはそれじゃないような……

『いやほらーわたくし人間ですしー。いまちょーど第四席と第六席に追われてるんですけどねー。あいつら程度なら撒けますしー。なにより貴方に会いたかったんですよー』

あ。

ツインドリルゴスロリローテンション……!!

「月給200万ガルドか……20ヒイラギくらいは養えるな……」

「なんかものすごい不快な単位が聞こえたんだけど」

「デジレの今の強さってだいたいどのくらいよヤタノちゃん」

「10ヒイラギ/sくらいではないでしょうか」

「秒速10私って何!? 秒速10私って何!?」

「一秒でヒイラギを10回狩れる強さ。ちなみに1ヒイラギはヒイラギと互角ってことな」

「失礼の極致!!」

「ところで月給? ってどういうことですか?」

「いや、ヤタノちゃんとやり合った相手と一昨日会ったなあと」

「無視!? ねえ無視!?」

騒がしいヒイラギをおいて、ヤタノちゃんと二人で会話を進める。

俺が一昨日出会ったヴェローチェさんなら、魔導司書二人潰してヤタノちゃんから逃げ仰せるくらいはやりかねない。

「……魔王軍の"導師"がなぜここに居たのかと思いましたが。魔族のシュテンが居るなら、ちょっと分かるかもしれませんね」

「まあなんつーか。今なら四天王待遇でお迎えしますとか言われたよ」

「……四天王って、何をするお仕事なんでしょうね?」

「中間管理職じゃねえかな」

「それは……大変ですね……」

今朝まで戦ってたんじゃねえのかよ。なんでそんな発言暢気なんだよ。すげえ切なそうな顔をするヤタノちゃん。お前さん間違いなく中間管理職の仕事増やしてる側の人間だものね。

「よいしょっと」

いつの間にかいじけていたヒイラギと、まだ団子を食べ終えていない俺を後目にヤタノちゃんは立ち上がった。

「わたし、そろそろ召集がかかる頃なので行きますね。またいつか、お会いできるとうれしいです」

「あっさりしてんなあ」

「……そう。もう行くのね」

「ふふ、今生の別れには、ならなさそうですけれど」

ゆっくりと番傘を開いて、彼女はからんと下駄を鳴らす。

振り向き方は相変わらずさまになっていて、思わず笑みがこぼれた。

「ではまた、お会いできる時まで。次はどこまで強くなるのか、楽しみです」

「めざせ200ヒイラギ/sだな」

「だからその数値は何なのよ!!」

うがー、と威嚇するヒイラギに、何かを感じ入ったように目を細めて。ヤタノちゃんは、小さく会釈すると歩きだした。

と、下駄の音が嫌に響いたかと思えば、まるで夢現のように消え去った。

一瞬の静寂ののち、数羽の鳥が上空を通過していくのを眺めて、ふと呟く。

「……あーあ。やってらんね。ヤタノちゃんと戦えるようになるまでにどのくらいかかるんだろうな」

「知らないわよ、そんなの。戦いたいの?」

「いやなんか……ヤタノちゃんに限らずあのレベルの奴とも戦えるようにならないとなあ、と。捜し物はなる早回収じゃないとまずいからレベリングも必要以上にできないわけだが」

最後の団子を口の中に放り込む。

この世界、まだまだ猛者がとても多い。レベルも低く、珠片が無ければここまで来られなかった自分と違い、凄まじい強さを素で持つ奴がいっぱい居る。

その上で、デジレのように吸収する奴まで現れた。

なんというか、どこで何が起こるか分からなくなってきたなあ。

これから向かう予定の教国では、いったいなにが待っているのか。

帝国でここまででかいことがあったんだ。珠片が散らばるこの世界、これから何を見られるのか分かったもんじゃない。

……ああ、楽しみだ。

最高の旅が、俺を待ってる気がする。

「ねえシュテン」

「あん?」

と、隣を見れば。足と尻尾をぱたぱたと揺らしながら、ヒイラギが俺と同じように、飛ぶ鳥の軌跡を追ってぼんやりと上を見上げていた。

「あの、ね。言ってなかったことが、ほら、あるから」

「なんだよ急に。辞世の句?」

「誰が死ぬのよこの駄鬼!」

ふん、と鼻息も荒く。平常運転かとも思ったが、嫌になんか頬が赤い。なーにを言おうとしてんのかね。

ヒイラギに限って「素敵! 抱いて!」なんてあるわけもなし。

もしそんなこと言ってきたら喜ぶよりも先にまず偽物を疑うよ俺は。

実は中身は水の四天王かもしれん。いや違うこれも別のゲームだ。

「……もう。本当にふざけた男」

「はいはい悪かったって。んで、なんだよ」

「えっ。や、何って言われると……その。なんというか」

「こっち見て喋れや駄尻尾」

「う、うっさい!」

いちいち目を逸らすな泳がすな。

あと無駄に頬染めんな色づきやがって。……いや、俺より年上かこいつ。いっつも忘れるけど。

もう、だの、でも、だの、だって、だの。

なんか知らんが意味のない言葉の羅列を並べるヒイラギちゃん(御歳200前後)。

何が言いたい。はよ言え。おら。

「はぁ……シュテン!!」

「なんだよ」

意を決したように、口を一文字にして俺を見据える相変わらず頬は紅潮してるし、狐耳の内側がいつもより赤い。若干目も潤んでるし、どんんだけ恥ずかしいの。何の暴露大会なの。

「……あり、がと」

「あ?」

「だ、だからっ! 助けてくれてありがと!! 三回も命救われました!!」

「…………」

「何指折って数えて二本で止まって首傾げてんのよ!! あの時岩から出してくれなきゃ死んでた! あの時森で庇ってくれなきゃ死んでた! あの時書院に来てくれなきゃどうなってたかわかんない! はい三つ!!」

「……ああ」

「何がああなのよもう!! 調子狂う!!」

「いや、岩から云々は初耳」

「そうでしたっけねえ!?」

なんか怒られた。ぷんすこお怒りのヒイラギが、ベンチから立ち上がる。

「ありがとマチルダさん、また来るね!!」

「あーい」

小屋の奥に引っ込んでいたマチルダさんにお礼を言うや否や、やたら大股で街道を進んで行ってしまうヒイラギ。何が機嫌を損ねたのかは分からんが、意図を汲めなかったっぽいことは確かだ。

あと。

「ヒイラギ、方向逆」

「っ~~~!!」

Uターンしてずんずん進んでいく。

「今の嘘」

「ほんっっっっっっっっとうにふざけないと死ぬのあんた!? ねえ!!」

「いやまあ、なんというか」

かみつかんばかりの剣幕で、ヒイラギは眼前で威嚇を敢行する。

その半泣き状態の顔を見てちょっと思う。

こいつからかうの楽しいし、旅に連れてきて良かったなと。

あと、助けられて良かったなと。

なんだかんだ、死地に自分から飛び込むくらいには、俺はこいつのことを大事に思っていたようだし。気づいていた以上に、入れ込んでいたのは間違いない。そう考えると、こうちょっと胸のうちにこみ上げるものが、無くはないというか。

でもなんつーか言語化できねえしな。

「これからもよろしくな、ヒイラギ」

「なっ……い、いま言う!? ここで言うの!? もう……もう……やだもうこいつ!! ふざけた奴! ふざけた奴!」

「あ、おーい」

茹で蛸みたいに首まで真っ赤にして、勢いよく顔を背けて今度こそ歩きだしたヒイラギ。

ふぅ、よく分からんが飽きない奴だ。

雲の流れの方角に、まず向かう先の港がある。そこから船で、また愉快な旅だ。

残る珠片はあと10個。俺たちの旅は、まだまだ始まったばかりだ。

「ヒイラギ、ほんとはこっち」

「あああああああああああああああああああああああああ!!」