作品タイトル不明
テツとミネリナの結婚式
――きっと、空の彼方で。彼らも祝福してくれている。
「なんか急にコロッセオのチャンピオンになりたくなってきたな」
「やめなさい」
「 渋々(しぶ) だぞ」
「なんで自分を妥協する側だと思えるんですかねぇ!?」
お久っ!!!
こちら現場のシュテンでっす。
今日はちょっと俺の人生でも大きなイベントの日で、すこぶるテンションが上がってるってヤツだ。
人生ってのは長いし、当たり前だけど地続きだ。
朝起きて遊んで飯食って風呂入って遊んで寝る、んでやべー夢見て起きて、隣で寝てるやつ叩き起こしてその夢の話して燃やされる、みたいな。
それを延々と続けるのが人生ってヤツなんだろうけど、やっぱさ、想い出す時ってのは線じゃなくて点なんだ。
あんなことがあったな、こんなことがあったなって。
そういう想い出す"点"を星とするならば、これほどどでかい一等星はそうそうねえってくらいに、今日の話は外せねえ。
たとえこの先にどれほど長い人生があったとしても、な。
文句無しの快晴。
みんなで一生懸命集めてきた白いハトポッポ(魔獣)。
そして、女神クルネーアを祀る教会。
クルネーアのヤツを祀り上げてやる気はあんまりなかったんだが、やっぱ鬼の集落とはいえ1つの町として機能してるからには教会は外せねえってんで、ヤツの教会を作ったのは正解だった。
女神にはむせび泣いて感謝して貰おう。
ともあれ、これで準備は整った。
今日はここ、シュテンさんちの大江山にて。
「――おめでとー!!!」
「おめでとうございます!!」
「おめでとー!」
人の輪の中心で満開笑顔のお嬢さんと。どこか緊張か恥じらいからか困ったような顔してるアスパラ野郎の、結婚式だ。
グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~
~テツとミネリナの結婚式~
牧師を務めるのは、何を隠そうあの光の神子様だっつーんで、格式も最高に半端なくて超荘厳かつ果てしないほど神聖な儀式になるんだろうって絡みに行ったら駄尻尾につまみ出された。
光の神子様ことクレイン自身は実際、どんな結婚式でも捌ける知識と実力があると聞いてひっくり返ったが、テツもミネリナも普通で良いってんで、普通のプランにした。
誰よりも普通の幸せに焦がれていた2人に、望み通りの幸せを。
そういうことならと俺も泣く泣く引き下がった。
なんかもっと、テンションブチ上げる面白い結婚式にしようぜって言ったんだけど。「披露宴でやれ」ってリュディウスに冷静なツッコミをくらった。
ので披露宴では全力を出させて貰おうか。
おーいグリンドル、2人で世界の反対側に届くようなメガトンパンチやろうぜー。
「結婚式提案したヤツが、まともに幹事もやらずに何をしてるんだ」
「うるせえバーガー屋。やらせて貰えなかったに決まってんだろ」
「お前ってヤツはよぉ……」
りんごんりんごん鳴り響く教会の鐘は、クレインの祝福によって女神に届くような音色になっているとか。
それを聞いた女神が、寄り添う2人に加護を授けてくれるらしい。
今度から夜中に鳴らしてやろう。
先に外へと出ていた俺たちに出迎えられるように、ミネリナとテツがチャペルの扉を潜り抜けた。
歓声と共に放たれる白いハトポッポ(魔獣)にミネリナは笑顔を引きつらせていたが、テツは緊張がほぐれたように笑っていた。
「ミネリナの嬢ちゃん、綺麗だよなあ。ミランダの嬢ちゃんとは大違いだ」
礼服ってことでしっかりと白黒のフォーマルな格好に整えたバーガー屋は、蝶ネクタイが絶妙に似合っていて笑える。
片手に持ったシャンパングラスは魔界から持ってきたもの。
緩んでいるのは顔も心も、というべきか。
だらしなく弛んだ顔は、それでも下品なものなんかじゃなく。
あいつら2人を祝う、幸せの分け前を貰っているようなそんな面。
「四天王の方はどうなんだよ」
「あ? ああ、まあバタバタしてっけどよ。今日だけはってことで、全部部下に押し付けてきた。俺だけじゃなくて、全員だけどな」
理のミランダ、力のユリーカ、崩のヴェローチェ。
秤のレックルスを加えた、新四天王。
視線を人の輪の中央へ向けてみれば、綺麗で可愛いと賛美を受ける、純白のウェディングドレスを纏ったミネリナの周囲で、彼女らは楽しそうにきゃいきゃいしていた。
なんつーかこう、凄まじいのは。
「ヴェローチェ、ユリーカ、ミランダに混ざって、平気で並んで可愛い可愛い言ってるFランク 冒険者(ブレイヴァー) 凄すぎねえ?」
「人間怖ぇわ」
「ハルナ、怖いもの無しだなおい」
それぞれ纏うドレスは、主役たるミネリナを邪魔しない程度に可憐なもの。とはいえ役者が役者なので、彼女らの服装もどれも美麗だ。
「しかし、光の神子一行がまた全員揃えるたぁな」
「その点については、感謝している」
「お、リュディウス」
つかつかと歩み寄ってきたのは、これまたフォーマルスーツをばしっと決めたかっけえ男。
身長また伸びたか?
「へいリュディウス、歳と身長を教えて? ぴろりん」
「何だその効果音は。今年で20になる。身長は1メレトと、87セルチだったか」
「おいおい、もう俺と大差ねえよ」
のちに鬼剣王と言われるだけあって、相応の体格になってきたリュディウス・フォッサレナ・グランドガレア。
彼は少しだけ口元を緩ませて、腕を組んだ。
「なに。お前に届こうというのだ。このくらい鍛えもするさ。……とはいえ。俺もクレインも、もう帰国の時間だ。一応挨拶にな」
「マジか、本当忙しいな。またいつでも来いよ」
「ああ。お前は――王国に来るなら頼むから先に手紙を出してくれ」
「おーよ! 手紙と俺とどっちが早くつくか競走な」
「手紙の意味はどこに消えた」
やれやれ、と首を振りながらも強く否定はしないリュディウス。
王国にはいつでも遊びに行くし、その逆もそうだ。
出会いと別れは 人生(たび) の花。
またいつか、と言葉を交わして、リュディウスは去っていった。
「寂しいもんだなおい。人間の寿命なんてよ、あっという間じゃねえか」
「だから人間は美しい、ってのもあるんだぜ」
難しい顔をするバーガー屋に、笑う。
こいつらにとっちゃ、人間と心を通わせること自体がそう無いことだったはずだ。
あっという間に居なくなってしまうと分かれば、まあ辛い話ではあるわな。
「集った人間の全てが、貴方たちを置いていくわけではありませんが?」
「おっと、エターナル先輩」
「初めてされましたよそんな呼び方」
ひょこ、と顔を出したヤタノちゃん。
「皆さん楽しそうで、とても良いですね。シュテンもバーガー屋も混ざってきたらどうですか」
「そうなあ。感慨にふけってる場合じゃねえや」
「おいおいおいおい待て待て待て待て」
「どした?」
「どうかされましたバーガー屋」
「それそれそれそれェ!」
ヤタノちゃんを見下ろし視線を合わせ、互いに首を傾げた。
「なんだよバーガー屋。言いたいことがあるならはっきり言えよバーガー屋」
「そうですよバーガー屋。おい、待て、それ、以外の言語を失いましたかバーガー屋」
「バーガー屋じゃねえよ!!!」
「あら。最近は否定もしなくなってきたので、定着したのかと」
「もう諦めてたが近いんですけどねえ!?」
「では、就職を?」
「しねえよ!!」
あらあら、と袖で口元を隠して驚いた様子のヤタノちゃん。
結婚式でも変わらず、その上等な着物。これ自体が正装みたいなもんだしな。
「だぁもう。ほれ行くぞ、俺らも奴らに祝福の1つもしてやらなきゃな」
「だな」
「はい」
バーガー屋とヤタノちゃんと連れ立って、テツとミネリナの方へ。
わらわらと、知っている顔ばかりがそこに有った。
ミネリナの方には、ヴェローチェにユリーカ、ミランダにハルナにタリーズ。そしてフレアリール。
テツの方には、たとえばベネッタや、ジュスタ。一号にシャノアールにグリンドル。
「やあシュテン。本当に突然だったけど、招いてくれたこと、本当にありがとう」
「招いたっけ」
「キミの招待状が発端じゃないか!!」
「そうだった」
「まったく……。でも、ありがとう」
「そりゃこっちの台詞だ」
「そうかい?」
ああ。だって。
「この日が俺の思い出に残るのは、お前らのお陰だしな」
「そっか」
華やかに笑うミネリナのその顔が見られたなら、それ以上のことはねえ。
「満足そうだね、シュテン」
「そりゃもう」
くすくすと、ドレス姿のユリーカが微笑む。
アイドルらしくは無い、控えめなドレスだってのにいちいち映えるなコイツは。
「だよね。うん、人の幸せって、本当に嬉しい」
「そうだな。一曲どうぞ」
「ここで!? ひ、披露宴でじゃあ、一席設けさせて貰うかな」
「そりゃ楽しみだ」
「ちゃんと聞いてねっ」
「あいよ」
俺とグリンドルのメガトンパンチの後でな。
ちなみにグリンドルにさっき聞いたら、割と乗り気だった。
「また妙なことを考えてる顔っすねー」
「心外な。俺も世界を割るような余興をだな」
「本番始まる前に世界が終わるやつー」
相変わらずの半眼で、呆れたようにぼやくヴェローチェ。
めでたい結婚式だというのに纏う雰囲気が変わらないのは流石だが、なんというか。
「なんか、めっちゃ可愛いな。どうした」
「随分な物言いですねー。普段の格好はどうかなと思っただけですしー」
ゴシックドレスでもこういう場には全然耐えうると思っていたんだが。
ヴェローチェが今日来ているのは、普段の白黒とは全く雰囲気の違う、淡い水色のロングワンピースだった。
「色もそうだけど、ナニコレ」
「ラッフルスリーブですー。ひらひらしてるからって触らないー」
「おしゃれに目覚めたのかよ」
「心外な」
ひらひらした袖が面白かったからつい。
んなことを言ってると、やれあたしは、とユリーカが絡んできたり、ミランダが面白がって遊んで来たり。
あれやこれやと二次会の話題や、楽しいこれからの展望について笑い合い。
この場に居たメンバーが、ゆっくり捌けていった後。
ざあ、と翠風。
山の頂上へ向けて吹き抜けるその心地良い風は、何だかこの式を祝福してくれているようにも感じられて。
「――テツ、おめでとさん」
「いやぁ……本当に。祝福は受け取りましょうや」
「おう」
少し間があって、空を見上げた。
先ほどの風がまだ、くるくると空を揺蕩っている。
「どうだよ、人生」
「どんな聞き方でしょうや」
困ったように、テツは言う。
「……ぼかぁね」
呟く表情は、目出度い日に似合わないほど憂いに満ちていて。
「まさかこんな、幸せが訪れるなんて思ってなかった」
帝国書院の魔導司書として戦って。
五英雄として世界を救った。
命の危機は何度有ったか分からないし、実際に一度は死にかけた。
ミネリナと共にのんびり暮らそうとしたのは、幸せはあれど何かを押し殺したような日々で。
彼女の中にある爆弾をどうにか出来たのも、ある種の奇跡。
けれど。
「シュテンと会ってからの日々は、止まっていた時間を無理やり動かすのにちょうど良かった。ここまでこれて、本当に良かった」
「へっ。良い浪漫じゃねえの。――あいつらのこと、気にしてんのか?」
「はは。まあ、さようで。ぼくばっかりが、幸せだ」
救世の五英雄。
テツと共に旅をした仲間は、そのすべてが命を落とした。
俺に置き換えてみれば、たまらねえ話だ。
そんなことさせはしねえ、そう強く思うけれど。
別にその意志の強さが、テツを上回ったって訳じゃねえ。
俺にだって、胸を裂くような別れがあったかもしれない。
――そんな中、幸せを手に入れて良いのか。
胸を張って、今の優しい味を噛みしめて良いのか。
どうしたって去来する想い。
「俺が死んだとするじゃん」
「――は?」
「いや、死ぬつもりはさらさらねえけど。でもよ。もしやっちまったとして、苦ぇ後悔の味は残る。でもそれは、お前に――仲間に嫌な想いさせちまったなって気持ちなんだよ」
俺が死んだら、みんな悲しむだろ。
だから死ぬわけに行かねえ。
「あいつらも、そうだったはずだ。だって、ヴォルフさんはお前の無事を喜んでたしな」
「……ああ。カテジナもアレイアも。……ランドルフのヤツも、そうだった」
だから。
――きっと、空の彼方で。彼らも祝福してくれている。
もう一度、柔らかな風が吹く。
「さて、行こうぜ。俺も余興の準備をしなきゃならねえ」
「ああ」
「それに」
そう言って、俺の家――山の主のでけえ家の方を見れば。
みんなが、俺とテツがやってくるのを待っていた。
待ってるなら呼べっつうんだよ、ったく。
「……みんな、ありがとう」
ふ、と笑ったテツが呟き、一歩を踏みしめる。
その背を眺めて、俺も続こうとした時。
風が言った。
『へっ、立派になりやがっておい、ついに結婚式までこぎつけたかよあの野郎。やー、ミネリナちゃんたぁ大穴だとは思ってたが、幸せそうで何よりだったく』
――ちょっちびびった。
もしかして、光の神子が牧師をやって、女神に届くような祝福をしたからこんな奇跡が起きたのか?
この声。この口調。
間違いねえ。――五英雄の1人にして、唯一アイゼンハルトと渡り合った男。人生において無二の親友。ランドルフ・ザナルガンド。
『にしても魔界の連中に加えてお前みたいな鬼神に帝国書院、僕の跡継ぎにその一行たぁ、随分びっくりメンバーじゃねえの。流石は英雄アイゼンハルトの結婚式ってか、壮観だな?』
「俺に話しかけてたのかよ」
『他に誰も居ねえし声も届かねえんだよ鬼神サマ。同じ神仲間同士仲良くやろうぜおい、っつってももう見守る気力もねえんだが。っつーか魂ねえし残滓みたいなもんだけどよ、最後にあいつの幸せなツラも拝めねえんじゃたまらねえよ』
「そうか。……じゃ、一個だけ教えといてやる」
『ほぉ、僕のことを知った上で、僕に教えるたあ大きく出たもんだ、しょうもねえことだったら呪うぜおい。まあ僕にもうそんな力はねえんだがな。大江山の鬼神ってのは愉快な浪漫野郎だって聞いてんだ、ちょっとは期待させてくれよ?』
「ああ。お前はこの結婚式をそうそうたるメンバーだっつったろ?」
『言ったな? それが間違いだって?』
残滓に向かって、笑いかける。
「ああ」
一足先に戻っていった彼を歓迎する、その"そうそうたるメンバー"を眺めてみれば、なんてことはない。
「ここには、テツとミネリナのダチしか居ねえよ」
『ははッ』
残滓が笑う。
『……そいつぁ良い。そいつぁなんとも』
「ああ、浪漫だろ?」
その言葉に、返答はない。
代わりとばかりに飛び出した、俺以外には聞こえないだろう盛大な笑い声と共に。
祝福の風が、空の彼方へと溶けていった。
「――おめでとうだってよ、テツ」
呟いた言葉は小さく、テツの姿は遠く。
しかし振り向いたテツは、聞こえもしない言葉に頷いた。