軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話 水の町マーミラIV 『細くて長いお菓子とオカリナ』

完ッ全に詰んでるんだけど。

私の現在の心中を表現するに一番適切な言葉は、うん、これ。

え、なに。昔好きだった奴の墓参りに来たらいつの間にか人生詰んでるんだけど。墓参りというかそのまま私も墓の下入りかねないんだけど。

二人の敵はおそろの黒コート着ちゃって威圧半端ないし。

というか片方はこの前散々甚振られたキザだし、片方は他人の墓に乗るようなクズだし、帝国書院ろくな人間いないわね。

でも軍服っぽいのは改造したら可愛かったからそれは許す。帝国書院皆殺しにしてもデザイナーだけはちょっと半殺しで済ませてあげようかなと思う程度には好感度高いのよこう見えても。

……ってそんな話してる場合じゃなかった。

なにこれ最悪。無礼女の方はすんごい敵意丸出しで睨んできてるし、というかこいつ得物オカリナなんだけど。墓場でどんな歌披露するつもりなわけ? 音声系の魔法? ……帝国も随分バリエーションの豊富な魔法を手に入れたものね。

で、キザな方は余裕綽々なご様子で私のこと観察してるし。

あーはいはい私なんてどーせあんたにぼっこぼこにされるしか道の無い魔族ですよーっだ。どうにかして逃げたい。すっごく逃げたい。本気で。シュテンのとこ行きたい。でもなんか逃げてきたことばれると癪よね。

探し物手伝ってあげる! って言って……いや後ろから鬼の形相の魔導司書二人に追いかけられてる状態で手伝ってあげるも何もないか。一瞬でバレるわそんな嘘。

まず今は、脱出の機会を上手く探らないと。

勝ち目? 考えてないわよそんなもの。今の弱体化した私には荷が重すぎ。

「……きみは、元帥を知っているのか?」

「は?」

唐突な問いかけはパツキンキザから。

シュテンが名前を言ってた気がするけど、なんだっけ。プレッツェル?

元帥を知ってるか、と聞いてきたプレッツェル。

……うん、多分プレッツェルじゃない。けど便宜上プレッツェルでいいわもう。

あんたなんかプレッツェルで十分よ。

それにしても元帥……って帝国書院のトップなんか私が知るわけないんだけど。もし知ってるとしたら間違いなく人間じゃないわね。どれだけ長生きなのよ。

「……いつから生きてるの、そいつ」

「……」

ざり、と地面を踏む足に力を入れながら、プレッツェルに問いかける。もしかしたら時間稼ぎついでに情報を手に入れられるかもしれない。逃げるチャンスを計りながら、言葉を待つ。

どうやったら油断してくれるかしら。

勝てる訳ないし。

でも後ろのそばかす無礼女がすっごい目光らせてんのよね。プレッツェルが余裕そうなのはそれが原因なのかも。

墓石に乗るような女は今すぐ焼き尽くしてやりたいんだけど……オカリナでどういう攻撃してくるのか分からないし。……まさか殴り掛かって来ないわよね? 吹けよ! って言いたくなるような攻撃手段じゃないわよね?

魔導司書なら在り得るかもしれないのが怖いわ……どんなことしてくるか分からないってシュテンが言ってたし……。

「……元帥が居るのは少なくとも僕が生まれる前からだが、それはきみの求めている答えとは違うだろう。きみは百年前に封印されたのだったね」

「そうよ……おかげでこんな無様になってしまったけれど、それが?」

「いや、きっとその頃から生きているのだろう。もしくは、死んでいないと言った方が正しいかもしれない」

何言ってんのこのプレッツェル。凄い不敵な笑みまで浮かべちゃって。

カッコいいこと言ったつもりな訳?

アンデッドとかヒトダマ、なわけないか。帝国書院に人外が居るはずもないし。ヤタノは若干人の域外れてる気がするけど……ってことはその元帥ってのもそっち系か。だとすれば魂魄封珠?

「形を失っている?」

「……そういうことになる。とはいえ、形を失っているからといって支障は特にない。……帝国書院が、きみの居た時代のどんな建物を改造して造っているかは知っているか?」

「知らないわよそんなの」

「答えは上皇院庁だ。あの館を造り直して、今の帝国書院はある」

「なっ……」

思わず声が漏れた。上皇院庁が改造されたとなれば当然、上皇含む皇族が帝国書院の設立を求めたということに他ならないってことでしょ。

帝国書院の成り立ちを知らない私のことを知っているかもしれない存在がそんな"旧上皇院庁の元帥"だとすれば答えはそう幾つもない。

ましてや、私を連行しようという腹なら尚更のこと。

じゃあアイツは、あの男は。今も魂魄封珠なんていう離れ業まで使って生き永らえてるってことじゃない。

「タロス、五世なの……?」

「元帥が、きみに会いたがっているようだ」

「……っ」

唇を噛んだ。

可能性は低かったけど、当たって欲しくなかった。

だってせっかく。せっかくかかわり合いにならないって、つい昨日決めたばかりなのに。帝都に行かないで、ただガーランドに挨拶だけをして、そのまま静かに帝国を去ろう。そう、昨日決めたのに。

なんであんな奴が生きてるのよ。

しかもなんで、わざわざ今私を呼びだすのよ。

タロス五世。

百年前の私を滅茶苦茶にした、時の皇帝。

……また、封印から出られた今も何かしようと言うの。

もうほっといてよ。

帝国に復讐するなんてことはもうしないって決めたんだから、思い出させないでよ。あんたが生きていると思うだけで、私は帝都中を焼き尽くしてやりたくなるんだからっ……!!

「ねえ第十席。こいつずっと魅了魔法放ってるっぽいけどそのまま連れてっていいの?」

「むっ……基本的にその手の魔法は効かないからな。気付かなかった」

「その辺が戦闘に向かないって言われる理由っぽいよね」

……。

誰が着いていくっつったのよオカリナぽいぽい。

あとレジストしてくれてありがとうプレッツェル。今だけはお礼言っておくわ。心の中でだけど。

ていうか私が何をしたっていうの。さっぱりだからその敵意というか殺意丸出しの目やめてくれないかな、第……八席? だっけ。オカリナぽいぽい。

「その魅了魔法で百年前帝国を傾けた悪女……悲劇のヒロインは楽しいっぽい?」

……あ?

「誰がッ……!!」

「少々待ってくれ。第八席、今は僕が少し聞きたいことがあるんだ」

「長いっぽい?」

「そう言ってくれるな。……さて」

ぽいぽいぽいぽいうるっさい……。

黙ってオカリナ吹いてなさいよ。あ、いやオカリナ吹いたら何が起こるか分からないわね。黙って帰りなさいよ。それが出来たら苦労しないか。

はぁ……早く逃げたい。

とはいえ、そんな簡単に行けたら今とっくに逃げてるのよね。

プレッツェルは相変わらず真面目な表情崩さないし。魅了魔法に気付かないあたり、本当にあまり戦闘センスそのものはなさそうではあるけど。

プレッツェルという男がそのセンスの無さを経験でカバーしている相当な猛者であるということは、この前散々理解させられた。

んー……もうちょっと、何だけどなあ。

少しずつ垂れ流してる魔素は、チャームの呪いに紛れて見えないはずだし。

「あんたは何を聞きたいのよ」

「……素直に言えば、元帥が何を考えているのかを知りたいのさ。帝国に魔族を侵入されることすらあれほど嫌っていた元帥が、きみをわざわざ書院本部まで連れてこいと言った、その真意を」

「本人に聞けばいいじゃない」

「ははっ……なかなか気むずかしい上司でね」

気難しいというか、ただ好き勝手なだけよ。あのクズ皇帝は。

なに肩とか竦めてニヒルに笑っちゃってるわけ?

カカオにぶち込んでやろうかしらこのプレッツェル。

「もっとも、それによる危険性を鑑みて本来なら第一席に相談するところなんだが……元帥は第一席が苦手でね。何でも彼女の居ないところでやろうとする」

「それは、興味ないけど」

「そうだよね。失礼」

で、聞かせてくれるかい?

そう締めくくって、プレッツェルは私を見据えた。その翡翠の瞳は私を掴んで離さない。

背後を確認すれば、オカリナぽいぽいもやたら憎悪を孕んだ瞳で睨んでいた。

何で嫌われてるというか、殺意ぶつけられてるのかは知らないけどどうせ魔族に恨みがうんちゃらとかそういう理由でしょ。

このまま、シュテンのところまで逃げられると楽なのだけれど。

……なんて発想が出る辺り、私よわっちいなぁ。

弱体化に合わせて心まで弱くなった気がする。なんというか……臆病になったというか。怖いものは怖いんだもんしょうがないじゃない。

プレッツェルが一番弱いってことは、オカリナぽいぽいは間違いなくプレッツェルより強いってことだし。そんなの二人がかりで、今の私が勝てるわけない。

だったらせめて上手く逃げたいじゃない。

出来れば、シュテンのところに行くまでに撒ければいいんだけど。

……よし。

「ああ!! 空飛ぶヤタノの群れ!!」

「なんだと!?」

慌てて振り返るプレッツェルに合わせて狐火発動。導火線のように周囲に仕掛けた魔素で爆発を起こす。

「嘘に決まってるっぽい!! バカなの第十席!?」

「ぐっ……見たいじゃないか、彼女なら在り得るし……!!」

あ、なんかプレッツェルの純粋な心抉ったかも。

もしそうだったらなんかちょっと笑える。罪悪感? ……まあ、ちょっとだけ。

だけど私も死にたくなんてないんだから!!

一瞬の隙に後方へ跳躍。

よし、後はただ遠くまで逃げるだけッ……!!

「もう二度と会いたくないわね!! じゃあ――」

「逃がすとでも思ってんの?」

最後まで言うよりも、第八席のオカリナの方が速かった。

―― 神蝕現象(フェイズスキル) 【大文字一面獄焔色】――

鳴り響く耳を引き裂くような音色は余りにも痛烈で、取り囲まれたと思った時にはもう遅い。

突如私の狐火がオレンジ色の炎に包まれたかと思った途端、炸裂し私に向かって襲い掛かってきた。

何が起きたのか一瞬では理解が及ばず……あ、こ……やば……息……でき……

「あ……がっ……」

「最初からこうすれば良かったっぽい」

「そう言ってくれるな。交渉中だったんだ」

「意味わかんない」

「ちょっと思うところがあったのでね……まあ、逃げられるとは思ってなかったが」

どこか遠くで、二人の声が聞こえた。

意識はもう殆どなく、酸欠状態で視界もおぼろげ。

……ああ、もうちょっと。

もうちょっと、強くなりたいなあ。

ここまで酷いと、アンタに顔向け出来ないわ。

シュテン、ごめんね。

「……元帥がヒイラギを拉致、ですか。これは少し許したくありませんね」

どこかで誰かが呟いた声が、うっすらと聞こえた気がした。