軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十二話 鎮めの樹海V 『轟雷』

――鎮めの樹海内部、広場にほど近い場所。

鎮めの樹海内部は混沌に満ちていた。

つい先ほど近くで強力な魔素の波動を感知したヤタノは、小さく顔を上げて眉を顰める。

見上げた空との間にかかる木々の緑と、そしてあわただしく飛び立つ鳥たちの羽ばたき。

「……嫌な予感がしますね。まるで、イブキ山の時のような」

「ちょっと待つっぽい。それ、もしかしなくても光の神子たちがピンチっぽいよ」

「――彼らが現場に到着するには少し猶予がありますが、露払いを引き受けたのは失敗だったかもしれません」

「はー、やってらんないったら!」

―― 神蝕現象(フェイズスキル) 【大文字一面獄炎色】――

―― 神蝕現象(フェイズスキル) 【大地に恵む慈愛の飽和】――

背にはためくはVIIIとIII。

現在、鎮めの樹海はパニック状態に陥っていた。

大量の、謎の神父のような服装に身を包んだ人間が溢れ、無差別に攻撃を繰り返しているのだ。それが果たして何を目的としているのかは分からないまま。

一番の問題は、鎮めの樹海で起きている異変が全く王国内で感知されていないことだろう。

或いは、そうするべく今まで準備を進めていたのかもしれないが。

人海戦術宜しく大波小波と押し寄せる教団を、ベネッタの一閃で片づけていく。

「ねえ……疲れないのは良いけど、ヤタノも戦って」

「今のわたしは残念ながらサポート特化でして」

「もー!!」

あたいとヤタノだけで来るんじゃなかったっぽいいいい!!

とかなんとか目をバッテンにしながらベネッタは叫ぶ。

「そこそこ倒しながら、あの嫌な波動を感じた場所に向かいましょうか」

「そのつもり!! 元から!!」

「あら。頑張ってください」

「頑張ってますけど!? 見て分からないっぽい!?」

「割と元気が有り余っているようですので」

「あんたの回復が原因なんだけどなあ!」

オカリナの美しい音色と共に、日輪属性を孕んだ焔が地面を駆け抜ける。

縦横無尽に大蛇のように、時に竜のように。

通った道は木々の根でさえも残らないその獄炎を、しかし恐れもせずに教団は突っ込んでくる。

「天照らせなくなってから気づいたんですけど」

「神蝕現象、動詞にしないで?」

「回復役って楽しいですね」

「ん? 働いてるあたいに対する嫌味っぽい?」

「精神は摩耗しても体力は有り余って前衛が戦う様がこう、ゾンビを操るネクロマンサーのようで」

「事故を装って炎ぶつけてやるこのこけし人形!!」

やはり腐っても魔導司書。

数の尽きない敵に対しても、軽口と合わせてチームワークで着実に進んでいく。

がやがやと騒ぎながら、教団の人間を跡形もなく消し飛ばす。

「こいつら、結局なにっぽい?」

「人形というには聊か語弊がありますが、似たようなものですね。どういった術式を使っているのかは分かりません。けれど、中身すかすかの人海戦術でも質量がある以上は妨害になる。嫌になるくらい合理的です」

「ってことはただの足止めか……払暁の団っていったい何なの」

「ルノアールが所属していることは分かっていますが、それ以外の構成員が不明なこと。きな臭くはありますが、意外と分かりやすい構造なのかもしれません」

「構成員ルノアール一人みたいな?」

「払暁の団ひとり、みたいな芸名で売り出したら面白いかもしれませんがそうではなく」

「なく?」

「……案外、この世界はもっと簡単で。最後にはわたしたちと、敵対するもう一つのチームがあるのでは、と」

「……それって、つまり」

ベネッタが言葉を続けようとしたタイミングで、二人は瞬時に何かを感知した。

振り向きざまにオカリナを構えるベネッタと、のんびり番傘を差しながら目だけを向けるヤタノ。警戒の度合いに差はあれど、この距離で感知されたことに、相手は驚いたらしい。

「あ、帝国書院の! お願い、デジレが大変なんだ!! 助けて!!」

血相を変えて木々の間から飛び込んできたのは、見覚えのある少女だった。

ヤタノが小さく目を細めてベネッタに頷く。

「ちゃんと本物です。術式も感知できませんし」

「偽物だと思われたの!?」

「相手はルノーだからねー、警戒はしとくにこしたことはないっぽい」

「それ、はそうだけど。あ、でもルノーは倒したんだ、デジレが」

ベネッタが軽くオカリナを吹き、三人の周囲から払暁の団を弾き飛ばす。

「そ、それで変な泥が出てきて、デジレをッ……シュラークもッ……!」

「泥」

「げ、あれっぽい」

泥と聞いた瞬間ヤタノの表情が消えた。

ベネッタにとっても、つい最近あったいわゆる「やってらんねえ記憶」である。

小さく嘆息して、ヤタノはジュスタを見ると。

「連絡ありがとうございます。貴女はこのまま、出来るだけ多くの救援を呼んでください」

「っ、じゃあ!」

「必ずデジレは救出に向かいます」

「そうそ、身内の尻ぬぐいがあたいたちの仕事ってね!!」

嫌味ですか、とジト目を向けるヤタノを無視してベネッタはさらに神蝕現象を行使する。

「うん、うん! ありがとう!! きっと、いっぱい人呼んでくるから!」

「幸い今、王国には馬鹿みたいに戦力が揃ってるっぽいしね。宜しく!」

ジュスタはそのまま、木々の中に飛び込んで消えていった。

「……さて」

「はいさー」

ヤタノが番傘を閉じるのと同時、ベネッタはオカリナを軽く放り投げると。

「いきますよ」

「当然」

「ぽいは無いのですね?」

「どうでもよくないことだからね」

―― 神蝕現象(フェイズスキル) 【大文字一面獄炎色】――

―― 神蝕現象(フェイズスキル) 【大地に恵む慈愛の飽和】――

焔で作り上げた道を、教団に踏み荒らされる前に走る。

「あまりかけっこは得意ではありませんが」

「安心して、あたいも大して運動得意じゃないから!」

いまいち速度の出なさそうな走り方で、少女二人は森の奥へと駆け抜ける。

――鎮めの樹海内部。ベネッタ、ヤタノより少々北部。

「きりがない、な!!」

「豪天棒!!」

棒術によって周囲にスペースをこじ開け、そこにリュディウスが踏み込んでさらに教団を吹き飛ばす。

群れを成す彼らがいったい何の目的で動いているのかは分からないままだが、偵察を買って出てくれたはずのシュラークが帰ってこないところをみると、危険な状況には違いない。

「はーもう、やだやだ、フィールドプロテクション!!」

ハルナが地面に杖を突き刺した瞬間、周囲からとびかかろうとしていた教団員が見えない壁に阻まれて弾かれた。

「これもう何回目だろ……強さは大したことないけど、魔素も魔力も持ってかれすぎだよー」

「分かっている。体力とて限界があるしな。お前、精錬術士になったせいで回復に補正かからないし」

「あーあーあーあー! そういうこと言うんだ!! リュディだってソードマスターじゃなくてパラディン目指してれば自給自足で回復出来たくせに!!」

「光の神子の隣でパラディンとかちょっとアレじゃねえか」

「そういう問題!?」

「まあまあ二人とも。僕が回復役は兼ねられるから」

「そういうクレインが一番棒術で!!」

「魔素持ってかれるんだから頼れるわけがないだろうが!!」

「そ、それを言われると……」

人差し指と中指を立て、クレインは呪文を唱える。

「我が法術をこの手に。灰塵と回帰せよ!!」

振るう棒に青白い光がともり、振り払うことで聖属性の刃が放たれる。

ハルナによって強化された力を、魔導を織り交ぜた前衛と火力特化のソードマスターが片づける。それが今の彼らのスタイルだった。

「ぉ……ぉぉ……!」

解けるように消えていく団員に、薄々感じていた彼らの人間らしくない違和感が解決された。

「やっぱり人間じゃないのか」

「だからあたし言ってたのにー! リュディは信じてくれないんだもん!」

「信じてないのではなく、確証が欲しかったんだよ」

「そーですかー!」

それより。

「さっき凄い勢いで魔素の波動が放たれたのって、こっちで合ってる?」

「南の方だよ、あたしにかかればばっちりなの!」

そう、彼らも先ほど感じ取っていた。

どこかしらで発された強力な魔素の波動。

そして今も、妙な力の波のようなものを感じるのだ。

まるで……不味いものを目覚めさせてしまったような。

「あたし、すっごく嫌な予感するから早くあっち行きたいんだけど」

「この状況で早く行きたいとかすげえこと言いやがる……!!」

「ちょっと、厳しいかなっ……!」

棒を振るい、大剣を振り、それでもなお尽きぬ敵影。

体力も気力もごっそり持っていかれそうなこの人海戦術に、しかし光明が訪れた。

飛来する風切り音。

喉笛に突き刺さったクナイで、消滅する教団。

「無事?」

「ジュスタちゃん!!」

「こうして肩を並べて戦えることを喜べるタイミングでないのだけが残念だ」

「……そう、だね」

沈鬱そうな表情を一瞬浮かべたジュスタだったが、クレインたちのパーティに加わる形で教団への応戦を開始する。

「それで、みんなはどこに行くつもり?」

「南で大きな波動があったから」

「そこに行っても、みんなじゃ死んじゃう。戻ったほうがいい」

「……何か知っているのか、ジュスタ」

武器を振るう手は止められない。

しかし、比較的口に余裕があるリュディウスがジュスタに問いかける。

彼女は一瞬口ごもったが、先ほど広場の方で起きたことをかいつまんで伝えた。

「……なるほど、魔族やそれに準ずるものを仕留める力、か」

「うん。けれどそれだけじゃない。今はデジレが泥みたいなものにッ……!!」

「泣くなジュスタ。小さな力でも、重なればそれだけ大きなものになる。……見てみろ」

リュディウスは教団員を切り捨てながら、顎でクレインの方をさした。

釣られるように瞳を向ければ、同じように教団を吹き飛ばす彼の姿。

「……えっと?」

「お前が来たおかげで、少しとはいえ動きが良くなった。俺もこうして喋る余裕がある。……一人一人の力が大したことなくたって、共に戦えばどんな強敵にも耐えて耐えて耐えて打ち勝つ。それが、パーティだ」

「っ……」

「とはいえまだ、手数が足りないがな!」

オチを付けるように小さく笑って、リュディウスは跳躍。勢いよく地面に大剣を叩きつけた。

……今までの彼であれば、ジュスタに冗談交じりの話をするなど考えられなかっただろう。

ジュスタ自身も少し今までと考え方や意識が変わった自覚はあった。

けれど、当たり前だけれど。

それは、自分に限った話ではない。

誰も彼もが成長の余地はあって、いつ伸びるかは分からない。

無論、変化は良いことばかりではないけれど。今の彼との話は、"良い"変化なのではないかと思える。

だから。

「足りない手数、補えるようにするよ」

「そうか、助かる」

ふ、と笑いあって。

パーティの一員として、忍術をくみ上げていく。

と、その時だった。

「手数さえあればいいのかい?」

ひらりと一人の青年が教団員を殴り飛ばしながら舞い降りた。

背中に刻まれた文字はX。 いつか(第二章第十一話) は敵対し、三人揃っていてもボロボロに負けた帝国書院最高戦力の一角。

グリンドル・グリフスケイルがそこに居た。

軽くXの文字が描かれたグローブを弄りながら、冷めた瞳で教団を睥睨する。

「あんたは……」

「帝国書院の」

「……第十席、グリンドル・グリフスケイル」

「正解。ここは帝国ではないから君たちと戦う理由はない。それに、うちの第二席が彼女の世話になっているようだし……あと、そう」

―― 神蝕現象(フェイズスキル) 【大いなる三元素】――

かつては力を見ることさえ叶わなかった、彼の神蝕現象が顕現する。

赤と白と緑。三色の球体が周囲に浮かび上がる。

「今は帝国書院書陵部魔導司書ではない。グリモワール・リバースのグリンドル・グリフスケイルだ。リーダーシュテンの友である以上、今はきみたちの友だ」

「っ……シュテンさんの」

赤の球体が自律機動で周囲の教団を弾き、緑の球体で仲間を援護しながら白の球体で敵の攻撃を相殺する。格闘戦こそが本懐のはずなのに、立っているだけで今まで彼らが苦戦していた敵を次々駆逐していく様に、「叶わないな」とリュディウスは目を細めた。

「第三席と第八席が今、デジレの方に向かってくれてる。回復役と浄化の炎のコンビなら、必ず。安心するといい、デジレに誘拐された子」

「違うって言ってるだろ!!」

おっと、そうか。

「ともあれ、すぐに合流しよう。気になることもある!」

そう一言言って、グリンドルの姿が掻き消えた。

次に視認出来たのは、教団の一人に拳が突き刺さった瞬間。

ただ緑の球体で加速し、殴るだけ。それが、彼を魔導司書に押し上げたシンプルな力だった。

「おっと光の神子、そこは左だ」

「えっあ、はい! クレインです!」

そして。もう一つ。

「僕と誘拐された子で援護する、王子」

「ジュスタだ! ……任せて」

「こうなったら改めて名乗るか、リュディウスだ」

どこに目が付いているのか分からない、そのレベルで見せつける彼の 軍師(フォーキャスター) としての実力。

「そこでプロテクションを」

「へ、はい! ハルナです!」

「よし、そこだ!!」

グリンドルが赤の球体を用意した場所に、まんまと誘われた教団員が爆裂する。

「さあ道が出来た」

「すげえ、一瞬かよ」

「……ありがとうございます、グリンドルさん」

「敬語は要らない。即席だが、チーム戦と行こう」

期せずして。

本来の最終メンバーが合流した瞬間だった。