軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 鎮めの樹海I 『エンカウントII』

――鎮めの樹海内部、開けた森の広場。

響いていたのは多少の剣戟を交わす音、それから益荒男の咆哮、そして。

肉を刺し断つ刃の凶音だった。

大空を舞う羽ばたきと共に黒翼の羽が宙を支配する。

それは絶望を一歩手前に控えた罪人が見る幻視の死神。

風を切る一瞬のノイズが耳を震わせたかと思った次の瞬間、その鎧は見事十字に切り裂かれる。聖竜騎士団の聖臥鎧が、まるで濡れたスクロールのようにあっさりと。

「ふっ――!」

可愛らしいソプラノと背中の翼、華奢な矮躯。

そこから常人が想像しうる魔族の像はきっと、絡め手に特化した錯乱や幻惑魔導の使い手だろう。しかし、違う。

これは、違う。

――古代呪法・車輪転装――

魔素の波動が彼女の手元で揺れ動く。

小さな、それはそれは小さな、微細な魔素の変調だ。

公国の大魔導アレイア・フォン・ガリューシアや、魔界最高の導師シャノアール・ヴィエ・アトモスフィアの術式とはくらべものにならないほど小さな波動だ。

繰り出されるのは一矢確殺の魔導などではない、恐怖をもたらす強大な魔でもない。そもそも魔導による攻撃ですらない。たった一つ、手に持った武器を換えるだけ。

「うおおおおおおおおお!」

「叩き落とせ!!」

「必ず縛り付けよ! それまでの労力と財は惜しむな!」

七方向から押し寄せる騎士の群れ。

彼らを冷めた瞳で捕捉しながら、彼女は巨大な剣を生み出した。

「邪魔」

その一振りは、騎士たちを切り捨てることはなかった。

だが、輪のように生まれた風圧がはじけ飛ぶように周囲を吹き荒れる。

結果、鎧に身を包んだ騎士たちが数十と宙を無様に舞い踊る。

――古代呪法・車輪転装――

大剣が消え去り、彼女の細く白い指の間という間に現れる飛び道具。

無造作に投げ放ったそれが、騎士たちを貫き木々に縫い付ける。

――古代呪法・車輪転装――

カトラス二刀が両手に現れ、黒翼を展開し空を駆けた。

燕のように突き抜けた彼女の軌跡、その場にいた全ての騎士が崩れ落ちる。

「こいつ、かなり強いッ……! 捕縛すれば相当な戦力になるぞ!」

しかしそれでも。

そんな状況にあってさえ、騎士たちは――騎士団は、一切恐怖の感情を捨てきったように遮二無二少女に殺到する。

「王子! 参りましょう!」

「いや、そんなレベルの相手じゃ――待て!!」

「ご安心めされよ王子、我々は今豪鬼族の討伐に向けてひたすらに鍛えております。今回は"装置"が別の魔族に向けて準備中だったのが痛手といえば痛手ですが……とはいえあの強力な魔族でも、特級でもなければこの数を相手にはどうにもできますまい!」

確かに、団長の言う通り大規模な魔素を行使するようなタイプではない。物量で押せば疲弊する可能性はある。結局のところ彼女はただの前衛のようだ。だが、そうであったとしても。

リュディウスとて、あのレベルの使い手は他に三人と知らない領域――。

「……はぁ」

艶めかしい吐息とともに強弓に矢を三本番える堕天使の少女。

面倒、というよりはまるで嫌なことでもしているような顔つきで、その可憐な面貌をゆがめて少女は言う。

「一応聞いておくけど――帰るつもりはないの?」

そのむき出しの覇気は、リュディウスを圧倒する剣魔力。吹きすさぶ力の奔流に飲まれかけて、一瞬リュディウスは声を失った。

だが、やはりというべきか。

何かの制御が外れている騎士団の人間たちは、それでもなお強引に突っ込んでいく。

「はっ、命乞いか!」

団長の一声に合わせ、殆どの騎士を失って尚聖竜騎士団の騎士たちは咆哮する。

そんなはずがないだろう、とリュディウスが叫ぶよりも先に。

ぞくりと背筋を走った危機感のままに、リュディウスは右方に跳躍した。

刹那、彼の居たあたり――まだ騎士たちが多く居る範囲に血のように赤々とした手が無数に生えてきた。

「バカじゃないのー?」

――古代呪法・鮮血御手――

血の手が地獄の花畑のように湧き出て兵士を引きずりこんでいく。

なんだ、これは。

先ほどまでの桃髪の少女の方がまだ"容赦があった"。

足を掴まれ地に引きずりこまれる彼らの足が、みちみちみちと肉が潰れるような音を立てて地面に埋もれていく。兜の口元から見える苦悶の表情は筆舌に尽くしがたく、あまりの惨さにリュディウスは"手"を切り捨てながら駆けだした。

「鮮血御手に突っ込むなんて……死にたいのかにゃ?」

ふわりと橙が空に舞った。まるで降臨するかの如く夕刻の空に現れた彼女は、もう一人の少女の傍らにゆっくりと足を下ろす。

「ミランダ、やりすぎ」

「……友達を狂化魔族なんてものにされた恨み、今は王国に返すしかないからねー」

「そうだとしても。だいたい、あんたがバレたせいでこんなことになってるんだし」

「眠いとどうしても翼って出るよね」

「レックルスがあれだけ念押ししてたのに……」

はぁ。とあきれたように小さくため息を吐く少女の素振りは日常のそれだ。

目の前で苦しむ騎士たちのことなど、もう終わったことのように。

と、そこで橙髪の少女――ミランダは気づく。

一人の剣士が、その手を切り捨てながら突っ込んでくることに。

「へえ……あれは確か王国の。中々骨があるなー」

「待ってくれ! 彼らに罪がないとは言わないが……! 俺の責任だ!」

「まーたないー」

埋もれていく騎士たちを救出しながら降伏の声をあげる剣士――リュディウス。

だが、そんなもの知ったことかとばかりにミランダは腕を振るった。

――古代呪法・流斬鮮血――

突如ミランダの全身から、引き裂かれたかのように血潮が舞う。

虚を突かれたリュディウスだが、しかしそのブレードを構えてミランダに突っ込んだ。

同時に彼女から生まれた鮮血が、締めて67本の刃となって幾何学模様の軌跡を描きながらリュディウスに殺到していく。

「うおおおおおお!!」

その全てを、順序を見切り、タイミングを計らい、正しい手順で地面に叩き落とす。

リュディウスの実直な剣技に、もう一人の桃髪の少女が小さく眉根をあげた。

不愉快なのはミランダだ。

古代呪法、それも自身の血液を操るそれを次々に潰され、ましてや下手人が憎悪する王国の人間となれば苛立つのも無理はない。

「……ならこれで死ねよ」

「そうは、いかないッ……!!」

ぶわり、騎士団を死へと誘った地面の血手が伸びあがり、背後からリュディウスを急襲する。津波のようなその勢いに、振り向いたリュディウスは腰だめに剣を構えて。

「ブレイク・ブレイドッ!!」

勢いのままに薙ぎ払った。風圧で周囲を弾き飛ばすそのやり方は、先ほどの堕天使の少女と酷似していて目を見張る。

だってそれは。このやり方は。

『待てやコラこの餌どもがああああああああああああああ!』

『オルァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『――全力で、潰してやるよ』

怪力のままに、すべてを大斧一本でねじ伏せる、あの男の背中が見えるから。

「え、あ、つよ。ユリーカ、助けてー」

「……ねえ人間、なんであんた――」

ミランダとリュディウスの技量は、スタイルこそ違えど似通っていたもののようで。

そのまま互角の戦いを演じていた二人の背後から、駆け寄ってくる二人の若い人間を目にする。

「はぁ、はぁ、みんなボロボロで回復はやっとだよ……精錬術士の欠点だね……」

「リュディウス、加勢するよ!!」

疲労困憊の少女とは違い、背中の棒を引き抜いた少年はそのまま臨戦態勢――否、考えるよりも早くミランダへの攻撃に踏み込んだ。

流石にこれはミランダも分が悪い。聞き間違えでなければ少女は精錬術士、となれば力量差を操られるのは必須。流石に介入すべきかとカトラスを手元に呼び出して――

やめた。

ユリーカはさっさとカトラスを仕舞って、傍観することにした。

何故か。それは、ユリーカだからこそ一瞬先に気づいたこと。

他の全員が何も理解できていないままに。

「はいはい、ちょっとストップですわ」

リュディウスとクレインの武器を両手で掴み、

「知り合い同士が争ってるんじゃー、流石に止めるしかあらんせんでしょうや」

ミランダの目の前にひょっこり顔を出した青年がいたからだった。

「しっ……はぁあああ!!」

「そいつはちょっちしんどいな、ユリーカ嬢……!!」

ユリーカが双剣を振るう。容赦のない乱撃とも呼べる縦横無尽の剣の嵐。

「はっ、全部防いでおいてよく言う、アイゼンハルトッ!!」

その連撃はしかし、全てにおいて完璧な対処。おまけに胸元に迫った靴裏を感知し、慌てて剣を防御に回す始末。単純な筋力差で吹き飛ばされ、ユリーカはすぐさま剣を消滅。

弓に持ち替えたユリーカが、四本の矢をテツの周囲にまき散らす。

「ぐっ」

「そこッ!」

ほんの一瞬身動きを封じられたテツを襲撃し、そのまま大鎌を一閃。

たまらずテツは飛びのいて槍を構え突っ込むとユリーカは反転して大剣を振り下ろす。

「はああああああああああ!」

「ちぃ、こいつはなかなかっ……!」

それをうまく流したテツが懐に入ろうとするのをダガーでいなし、ユリーカはそこであろうことか長槍に持ち替える。

「流石になめすぎでしょうや」

「知ってる」

互いに不敵な笑みを浮かべ合い、ユリーカはすぐさま長槍を投擲した。

長槍を槍で弾かれた瞬間には鍵爪に入れ替える。

「なるっ……ほどっ!」

とテツはそれを器用に宙返りでかわしながら一閃。

「うそっ」

「嘘じゃあらんせん、目の前で起きることは全て現実でさぁ」

「くぅっ……!」

勝ったと思ったのに、と驚くユリーカの懐に槍が入ろうとしたところでユリーカが自傷覚悟でクナイをテツの喉元へ。

そこで勝負は、引き分け。

張りつめていた空気が一気に弛緩して、お互いにゆっくり得物を下ろした。

「やー、流石は魔界における武の頂点ってところで。たぶんその珠片とやらに身体が慣れたら、わりとぼかぁしんどいやもしれません」

「……ありがと」

食後の運動で満足げなテツとは裏腹に、ユリーカはひどく不満げな表情だ。

そんな彼らを、その辺にあった木を切り倒して作った丸太に腰かけて観戦していた面々は。二人を差し置いて、ミネリナはテツの 偉天(やり) を弄びながら、

「きみたちの事情は把握した。久しぶりだね、クレイン」

「あ、本当にすみませんでした」

「まー……許してやらんでもない……かなー」

「でも双子みたいですね! ミネリナさんとミランダさん!」

「双子っていうかー、まあそれでもいいかにゃ?」

「わたしに聞かないでくれたまえよ」

と呑気に話を始めていた。

倒れ伏した騎士たちの…まだ息がある者たちをミネリナとハルナが手当してしばらく。手持ち無沙汰だったユリーカとテツが手合わせに興じる中、クレイン、ハルナと、ミネリナミランダ組は既に随分打ち解けたようだ。

そこに合流するテツを眺めて、ぶす、とユリーカは口を尖らせる。

視線の先には「預かってくれてありがとう」と片方の槍をミネリナから受け取るテツの姿があった。

と。拗ねるユリーカに隣から声がかかる。

「見事だった」

「手加減された側が言われてもねー。ま、ありがと。えーっと、リュディウスだっけ」

「ああ。貴女の武器の扱いには色々学ばせて貰うところがある」

「……ふーん?」

自分よりも幾分か身長の高いリュディウスを、胸元からじろりと見上げる。

当たり前のようにあざとい下から目線を展開するユリーカに、若干たじろぐリュディウスであったが、残念ながら今のユリーカは半眼だ。何かを疑われているというか、なんというか。

「きみさ。大剣使いなの?」

その言葉に、リュディウスは小さく息を飲んだ。

大剣しか持っていない相手に対して、その聞き方は本来おかしいはずだ。

だがあれほどの武勇を見せた堕天使が、おそらくはリュディウスの戦い方を観察した後に言っているのだ。となれば、見抜かれていると言って相違ないのだろう。

「……いや、半年ほど前に使い始めたばかりだ。これでもそこそこ振るえるようになってきたと思っていたが、見抜かれるものだな」

「嫌な言い方をすれば付け焼き刃。でも基礎というか剣を振るう体幹がしっかりしてるから制御出来てるように見える。そんなところかな」

「……そうか」

制御出来ているように見える。それはつまり、剣使いが大剣を使っている、という域を出ていないということだろう。武芸百般に秀でた天才武芸者の言うことだ、否定はできない。

かといって、しかし。大剣使いになれ、というのは具体的にはどうすればいいのだろうか。

そんなことをぼんやり、先ほどのユリーカの戦い方を思い返しながら考えていると。

「……ねえ」

躊躇いがちな少女の声。

「なんで、大剣使ってるの?」

「なんで、と言われてもな」

「言い方が悪かったかな。元々ロングソードか、いいとこラージブレードの使い手でしょ? 大剣に持ち替えた理由、聞いてもいい?」

「……?」

何故か。

思い返せば、聖府首都エーデンでの魔王軍との戦いに遡る。

冷静に考えれば目の前の少女も魔王軍のはずで、何故こうして呑気に話しているのだろうとも思うけれど。それは良い。テツの保障があって初めて、ここのメンバーは一度休戦を約束したのだから。

さて、なぜ大剣を使うようにしたのか。それは、クレインがパーティ内での役割に迷っていた時に、自分は逆に一人の時にどうするかを考えたことがなかったからだった。

『回復役もいない、援護もいない、隣合って戦う友もいない。ならば、味方はフィールドだけだ』

真っ向から、四天王の一人ブラウレメントを相手取った時に。

ただの剣ではなく、大剣に持ち替えようと思ったのだ。

「でっかい剣が、柔い糸に負けるか。その一心で、ブラウレメントを倒すために大剣を手に取った。それ以降、そうだな。この理論が気に入って、持ち続けている」

「なにそれ。頭悪いなあ」

ふふ、と小さくユリーカは微笑んだ。口から出た言葉とは裏腹に、まるで否定する気はないようで。しかし、なぜこんなことを聞かれたのかは分からず仕舞い。

ユリーカの方も、その答えで――満足はしていないにせよ、納得はしたらしい。

ありがと、と礼を言って去ろうとする彼女を見て、ふと。

そこでもう一つ、大剣を持ち始めた理由を思い出した。

でっかい剣が、柔い糸に負けるか。鋼糸使いを前にして、その理論を構築した理由は。

直前に起きた戦いで、ブラウレメントを相手に同じ理論で殴りかかった妖鬼が居たからで。

あの感覚を、メリキドで問うた。彼は答えた。

その答えこそ、自らを大剣使いへと誘った最たるもので。

「……ああ、そうだ」

「ん?」

思わず口にして。ユリーカが無垢な表情で振り向いた。

「……浪漫だと、言われたからかな」

「っ――」

バスターブレードでブラウレメントを下した後、現れたシュテンに言ってやったのだ。

『どうだ、浪漫だろう』

と。ヤツは笑って、でかい武器は最高だと言っていた。

「そ、れは。誰に?」

唇が、震えた。

リュディウスは、先ほどまでのフラットな彼女の表情と、今にも零れ落ちそうな緩んだ涙腺のギャップに息を飲む。何だろう、彼女のこの顔は。

ひょっとして、リュディウスの戦い方を見て、最初から感づいていたのではなかろうか。

行くところ全てで問題を起こし、行くところ全てで迷惑をかけ、行くところ全てを笑顔に変えるそんな男の存在に。

「ヤツ曰く、愉快で不愉快な妖鬼だとさ」

「……そ、っか。やっぱり、そっか。……地上で、この世界で。まぶしいくらいのこの大地で。……あの人は、またそんなこと言いながら色んなところに行ってるんだ」

「えっと、ユリーカ?」

「ありがと。もう大丈夫。その愉快で不愉快な妖鬼が、本当にこの世界にいるんだって、実感できたから。もう、平気だよ」

この、少女は。

「おーいリュディ! ちょっと聞いてくれるー?」

「ああ、今行く」

焚火を囲んで語らう面々の方から、クレインの声が響く。

軽く返事をしてからユリーカの方に向き直ると。

その一瞬で心を入れ替えたのか、朗らかに笑って

「きみたちも大変だね」

「まあ、俺はともかくクレインには使命があるからな。……それを、魔王軍の貴女に言っていいのかは分からないが」

「んーん。別に、家族が頑張ってるから流れでやってるだけだし。配下さえ露頭に迷わなければ、特には」

「そういうものか」

言葉を交わして、二人も周囲と合流した。

「さて、ユリーカとリュディウスにも情報共有する意味で、話していて分かったことを伝えておこう」

おほんと小さく咳払いしたミネリナは、焚火を枝でちょいちょいと弄りつつ言葉を続ける。

「旧火山の豪鬼族が最近になって暴れているとの話だが、それに関しては魔王軍が少し絡んでいるらしい。ミランダ」

「あいはーい。なんだっけ名前ー、ほらー。豪鬼で一応一番強くて、なんかこの前魔王さまに喧嘩売ったやつー。なんだっけー」

繋いだミランダの口から洩れた情報には、ユリーカも聞き覚えがあった。

といっても、今彼女が言った程度のものでしかないが。

名前も大して思い出せないけれど。一応豪鬼族のトップで、魔王に喧嘩を売って離反して、今は王国の旧火山に根城を置いているという、そんな話。

しかし豪鬼族と聞いてユリーカの脳内に浮かんだのは、その豪鬼族とは全く違う、別の人物で。

『姐さんみたいな可愛い子と旅出来るのなんて、久しぶりっすから』

『手出ししようにも出来なさそうだけどな』

『む、むむむ無理っす!! 死ぬっす!! 厚切り一号っす!!』

『いや自ら食料になろうとしなくていいから』

『兄貴は……ずっとずっっとカッコよかったっす! そんなカッケエ兄貴のことを、オイラはいつか越えたいと、思ってるっす!!』

『造作もないことっすよ!』

「豪鬼族、かー」

ぼんやりと思い出す。思い出せる。過去に向かったあの時のことを。

一号と呼ばれていた、彼。

記憶をたどっていた彼女に、テツの声がかかる。

「お知り合いでも?」

「んーん。旧火山のは違うと思う。あたしが知ってるのははぐれ者だったし、てゆか封印されたらしいし」

「封印、とはまた」

テツの目が丸くなる。

豪鬼族で封印、とテツなりに記憶を掘り起こしているようだったが、残念ながら該当するようなものはなさそうだった。

「まあ、それはおいておくとして。リュディウス、きみたちの探しているものを、その豪鬼族は持っているらしいぞ?」

「……やはり、当たりだったか」

最後の鍵。その持ち主が旧火山にいる。

それさえ揃えば、人間でも魔界に入れるようになる、とされている代物。

七つの鍵。六色をそろえた最後の一つと思うと、リュディウスにとっては少々感慨深いものがある。そういえば、そのうちの一つはあの愉快な妖鬼が持ってきてくれたのだったか。

「とはいえ、このまま旧火山に向かうわけにはいかなくなったな」

ふう、と息を吐いて腕を組む。

その視線の先には、死屍累々といった様子で倒れ伏す多くの聖竜騎士団員。

彼らを眺めて、ミランダは言う。

「ルノアールの術式と酷似してるし、まあ大方は払暁の団って連中の仕業でしょ。クソ親父がくたばっても、まだ問題は残ってるなー」

「俺が彼らを届け、国王と話そう」

それしかないか。

旧火山に紫の鍵があることがほぼ確定となった今、急ぐことはない。

とはいえ、まだまだ仕事は多そうだと、リュディウスは夜のとばりが落ちてきた空を仰いだ。