軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話 南方の街ボールズ 『王国に集う殲滅兵器共』

――王国南方。第二大陸公国との国境付近の街ボールズ

そこは一言で言えば城塞都市、といったところだろうか。

教国はトゥントの街並みをより物々しくしたというか、城壁から覗く銃眼からはひっきりなしに銃口が動作確認を行っている。外壁上の見回りも頻繁で、王国を外敵から守る強い意志が感じられる街並みだった。

……そんな街の、外れに存在する倉庫街。

弾薬やエネルギー瓶から感じる火薬の匂いの中、ある倉庫の中に一つの渦が巻き起こった。何かを吸い込むわけでもなく、姿見ほどのサイズ以上に広がることもなく。

ぺっ、と出てきたのは一人の桃髪の少女だった。

「さあ、かかってきなさい日輪ッ……あれ?」

華奢な細い足に編み込みブーツ。かつんとヒールが地面を打ったところで彼女は気づく。

普通に屋内であるということに。

「ここは、どこかの倉庫ってぇ感じで」

「火薬の匂いもするし、前線基地の可能性もあるか。王国だと方々の退魔砦か或いは――」

「他国と隣接してる北方都市か南方都市、ってところかにゃ?」

ぞろぞろと、後ろからついてきた面々はこともなげにそう分析する。

無論、その答えは最後に出てくる男が知っているはずで。

巨躯のオーク族であるレックルスは、前の四人よりもちょっぴり狭そうな感じでゲートから出てくると。周囲を見渡して敵がいないことを確認してから、一人頷いた。

「問題はなさそうですな。ユリーカちゃんを初手から太陽の下に出すわけにもいかなかったもんで、こういう形になったんですわ。そんなぶーたれた顔はやめて……いや、それはそれで……」

「バカなこと言ってないでさー。ここどこなのー?」

「ああ、ここはあれですわ。南方都市ボールズのはずれにある備蓄倉庫の一つです。俺たち魔王軍が攻めこんだ時の名残というか、最後に使った場所ですな。……まあもっとも、光の御子に蹴散らされましたが」

「……ランドルフのヤツが三つ四つの街を魔王軍から救ったってぇ話はちょぉ聞いてましたが。そうですかい、ここもあいつが守った街か」

「守られた方は地獄でしたがね。なんだあの決戦兵器」

先代光の御子の話で盛り上がるテツとレックルス。

ふと、ミネリナはテツの顔を見上げた。教国での墓参りが効いたのか、それとも あの一件(第五章) で吹っ切れたのか。いずれにせよ、特に影など感じさせない、昔の仲間を語るような呑気な口調。

少しほっとして、腕を組む。

南方都市ボールズ。

ここは王国領内だ。ましてや、先ほどレックルスが言っていたように魔族に対する反感も強い。攻め込んだだのなんだのという話をしていることからも、戦いの傷は癒えていないということだろう。そんな中に、人間が一人しかいないメンバーで突っ込むのも如何なものかと思うのだが、さて。

ふとみれば、扉の前でぴょんこぴょんこ跳ねるアイドルの姿があった。

「良いから外出ようよ! あたし、日光平気かどうか試したいし!」

「よくもまあ百年死亡フラグだったものにそんな嬉々として突っ込もうと思うねー……」

呆れるミランダの目が突き刺さる。

実際の話、ミネリナもこれには同意だ。彼女にとって日輪とは、ぱっくり口の空いたシュレッダーのようなものだ。手を突っ込んだらずたずたに切り裂かれてしまう凶器だ。それをずっと常識として生きてきて、彼女の弱点だからと追い回され、それで突然「手を入れても大丈夫になったよ」と言われても。普通は、さらっと触れようとしたりはしないだろう。

それを、こうもあっさりと。

理解できないものを見る目を、申し訳なく思いつつも向けてしまうミネリナは悪くない。

だが、そんな彼らに向かってユリーカはこともなげに首を傾げながら言い放った。

「怖いよ?」

「へ?」

「だから、怖いよ? これでダメだったら、あたしまたしばらく空飛ぶ度に翼が傷んで泣いちゃうかもしれないし。てゆか、あの人のところにいけないし。とっても怖いんだ」

でもね。

「せっかく、一緒に歩けるかもしれないっていうのなら。あたしは、怖くても飛び出すべきだと思うんだ。だって、アイドルだもん」

「す、筋金入りのお姫様すぎるこの女……」

ミランダが絶句していた。

「あ、はっははははは! そらぁ、いいこってすユリーカ嬢。その勢いでもうあの昼行燈をがっつりこう、押し倒してやってください」

「おしたおっ……!?」

「昼行燈ってテツに言われるのかシュテン……」

顔を真っ赤にするユリーカと、半眼でツッコミを入れるミネリナ。

ここに金髪のゴスロリツインドリルでもいれば、「何をかまととぶってるんですかー?」と侮蔑にも似た瞳で姉をなじることだろう。

それは、ともかく。

レックルスは、言うべきか言わぬべきか迷っていた。

「あたしそんなことしないもん!」と抗議の声をあげるユリーカの黒翼が、窓から差し込む斜陽に思いっきり触れていることに。まったく彼女が気づいていないあたり、本当に無害なのだろう。ほっと胸をなでおろした。その視線の先に気づいたのだろう、ミネリナも一瞬瞠目すると。小さく笑って手を打った。

「さてー。ここでぐだぐだしてると見つかるだろうし、今後の方針を決めようじゃないか。問題があるとすれば秤のきみ、レックルスが一番だと思うのだがね」

「まぁ、そうだろうな。ユリーカちゃんたちが乗る魔列車を決めたら、俺は一度それに忍び込んでおくことにしよう。んで、王都に着いた頃にゲートを開けばいいだけの話だ」

「クレバーだね、きみ。意外と」

「よく言われる。……で、俺も王国はここより北には行ったことがない。役立たずですまねえが、あとは自分の足で行くしかないな」

レックルスが顎を撫でながら続けると、一同揃って頷いた。

「はーい、じゃあちょっと静かにしてねー」

ぼんやりした様子でミランダが地面にゆるりと寝転がる。

すわこんなところで寝始める気かと戦慄するミネリナ。その隣で、テツはぴくりと片眉をあげた。魔導が発生する予兆のようなパルスを感じ取り、害がないことを感知して一息。

――古代呪法・輪環円輪――

ほわん、と柔らかな波動が周囲に拡散する。

まるで水面を揺らす水滴のように広がっていく魔導の波は、この小さな倉庫を通り抜けてそのままぐんぐん広がっていく。

ミランダはそれが町全体に生き渡ったことを確認してから、寝返りを打ってサムズアップした。

「おけー。ひとまず倉庫の周囲に人間はいないしー、なんか催しものでもあったのか、人口は割と中央に密集してる。裏から回って魔列車の方に行けば人目はしのげるんじゃないかにゃ?」

「にゃってあんた……」

ユリーカとミランダは、なんだかお互いにあきれたりしながら隣を歩む良い悪友のように周りからは見えていた。

それにしても。

波打ち拡散していく魔素の波動を、超音波のようにして人間の位置を知るソナーに変換。そういった古代呪法があるのは知っていたが、基本的に魔族というのは攻撃ばかりに偏重するもの。そう思っていたテツは、まだまだ自分にも知らない魔導があったのかと小さく目を開く。ミランダという少女。実年齢は分からないが、流石はグラスパーアイの血族なだけあって実力は確かなようだった。

「よぅし、いけー!」

突撃するようにユリーカは外へと飛び出す。

だいたいお昼を過ぎた頃だろうか。日が燦燦と降り注ぐ中に、一人駆け出していくユリーカ。続こうとしたミネリナを、そっとテツが押しとどめて隣の男を指さした。

首を傾げたミネリナが男――レックルスを見てぎょっとする。

太陽の光をスポットライトのように浴びた彼女が、くるりと笑顔で一回転。

ふわりとミニスカートを靡かせて、太陽を睨んで笑う。

「もう、あんたなんて怖くないもんねー!」

空を指さしてユリーカは、今まで見たこともないような勝気で可愛らしい笑顔で言い放った。

レックルスが、今まで見たこともないようなおぞましい顔で号泣していた。

――ユリーカはこれから、太陽の下でも飛び回れる。

「ところでミランダどこ行った?」

「寝転がったまま寝てるんじゃあらんせんか」

「ごめん、拾ってきて」

魔列車。それは、王国でのみ普及している交通手段としてそこそこの知名度を持つ。

同盟国である教国や公国の富裕層などは観光目的でこの魔列車を利用するし、冒険者(ブレイヴァ―)の中でも一種の贅沢として魔列車を使うことは非常に多い。

国営の移動手段として潤沢な利益を上げるこの魔列車によって、王国の経済が成り立っているといっても過言ではないほどには、この列車は非常に王国にとって大切なものであった。

ゆえに、生半可な魔族でも乗り込もうものならすぐに感知できるシステムを完備しており、警備体制も厳重の一言。魔導によほど精通しているか、もしくは完璧に魔族特有の覇気を抑え込めるような猛者でない限りは魔列車に忍び込むことなどできないだろう。

「ってわけで、見た目でバレる俺を除けば全員問題ないと思いますんで」

魔列車出発の放送がプラットホームに鳴り響く。

魔素をエネルギーとしてこの鉄の塊を動かす動力を生み出している王国の技術はそこそこに大したもので、チケットを買わないまでも一目見ようとわらわら見物客が溢れる中。

ひっそりとゲートを何度も利用して車両に一度忍び込んだレックルスは、ホームで待機していたほかの面々の前に顔だけで現れるとそう言った。

ゲートからひょっこりと浮いたレックルスの顔をどこぞの妖鬼が見れば、「バーガーのオリーブトッピングバーガー抜きかよ」とかなんとか言うかもしれない。

チケットは既にテツが人数分確保している。一人12000ガルドと目を見張るような値段だが、ユリーカはいまいち金銭感覚がつかめないのか「そんなもんなんだー」という程度の態度だった。どのくらいの金額かといえば、三番目の街くらいで三人分の武器防具が買い揃えられる程度のものだ。流石は魔界のナンバー2、金銭感覚ガバガバかよとミネリナは羨ましそうにユリーカを見やった。

テツミナカンパニーの営業成績はなかなか赤い。

「あと、うっかり翼とか出さないように。覇気のコントロールが出来てても、それでバレたら 事(・) ですんで。寝ぼけて翼とか出さないように。ミランダさん、貴女ですよ貴女」

「うぇーい」

明らかダメそうな返事に、なんならレックルスと同じ待機組に回してやろうかとも思ったが。そこそこ目を輝かせて車両を見つめていた彼女を見て、そんな気も失せてしまったのだった。

「まあいざとなったら王都周辺で落ち合いましょうや。ぼかぁ、どのみち用事があるのは王都ですんで」

「まあ、それもそうか……」

大丈夫かなあ。と心配げにメンツを改めて確認する。

白いアスパラ。

実年齢四歳。

寝てる。

アイドル。

……大丈夫かなあ。

いざとなった時に交渉事で一番なんとかしてくれそうなのが実年齢四歳な辺りが本当に心配である。

一応、われらがアイドルに対して唯一の男が色目を使わないかも気になっていたのだが、ミネリナとテツの関係と、あと初対面でのリアクションがカワイイ女の子ではなく「ちょっと潰すにはてこずりそう」みたいな感じだったから大丈夫かなとそこはそれ。

戦士にはなりたくないと思った瞬間だった。

というか、魔界随一の戦闘能力を持った堕天使相手にちょっとてこずりそうってなんだ。

「ええい、考えててもしょうがねえ。皆さん、宜しく頼みます」

ここにこれ以上浮いていると騒ぎになってもおかしくない。

そう考えたレックルスは、別れの言葉もそこそこに消えていった。

それはともかく、ぞろぞろと魔列車に人が入っていく。

駅員らしき見回りの男がやってきて、「早く乗り込んでくれ」と言わんばかりの目で見ていることに気が付いたテツは。

ひとまず、列車での旅行を楽しもうかと開き直ることにしたのだった。

それが、すぐさま頓挫するなどとは思いもせずに。……いや、最初から割と諦めていたかもしれないが。