軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十一話 ネグリ山廃坑XV 『BOSS BATTLE GRASPER EYE』

パーティの中ではたぶん、一番頼りない。

サポートすることはできるけど、自衛できないからいつも護衛が必要だし、そこまでするのなら回復もできるクレインさえ居れば、あたしは要らないんじゃないかってたまに思う。

とくべつ頭が回るわけでもないし、旅の助けになるような技能を持ってるわけでもない。

そりゃあ、一通りの繕いとか野外調理くらいはできるけど、そんなものあたしがやらなくたって誰でもできる。

だから、せめて元気であろうって。

年下を相手にしてきたあたしだから、場の空気だけは何とか読める。暗くならないように、元気に前を向いてみんなが歩けるように、それだけはがんばってきた。

でも、別にそんなのが要るかどうかって言われたら口ごもるしかないし。

ちょっと半分くらい、心の中が欠けていたような、そんな気がしていた。

フレアリールちゃんに会ったのは、ちょうどそんな時期で。

たった一人、主って人の為に頑張っていたのに、それが報われずに殺されそうになっているなんて話を聞いて、気が気じゃなかった。やっぱり、孤児院で育った影響なのかなって自分では思う。

でも、自分でも予想外だった。あたし自身の行く末すらぜんぜんわかったもんじゃないっていうのに、魔族の、それも討伐対象だった子にそんな思いを抱くなんて。

強く、願ったんだ。

あの子を、助けたいって。

あたしはたぶん、パーティの中では一番頼りない。

でも、きっとあたしが一番あの子を助けたい。

だから死にもの狂いで頑張ろう。

その気持ちは、きっと頼りなくは……ない。たぶん。

「貴様……こんなところまで邪魔をしにッ……!!」

「邪魔なのはテメエのほうだアホ。何人の人生滅茶苦茶にする気だ」

「それ貴様が言っちゃうの!?」

背中の鬼殺しを抜くシュテンと、手のひらに魔法陣を描き迎撃体勢を作るグラスパーアイ。吸血鬼たちがグラスパーアイの背後に動き、援護の構えを見せる。

広いドーム状の一室。

その主であるところのはずのフレアリールはと言えば、未だ硬直から抜け出せないでいた。

グラスパーアイがあの古代呪法……葬魂幻影を作り、己だけがネグリ山廃坑に逃亡を謀ったところまではフレアリールも知るところだ。そのあとで迎撃体勢の最終チェックを行った為、実はシュテンがハルナを担いで突貫したところを実は彼女は見ていない。

というよりも、絶望的だと思っていた。仮にも、過去の英雄だ。アイゼンハルト・K・ファンギーニやアスタルテ・ヴェルダナーヴァですら苦戦する相手を、シュテンが突破してくるなどといくら何でも思えなかった。

「シュテン……さ、ま……?」

だから、まさか。

こんな地中深く、危険極まりないところまで、"自分如き"を助ける為に現れたことが夢にしか思えていなかった。シュテンが聞けばどれほど過大評価をしているのだという話になるのだが、かなしいかな彼女の心中などシュテンが知るはずもなく。

「よ、フレアリール」

「は……ぇ……?」

シュテンの視線は、グラスパーアイから外されることはない。フレアリールが顔をあげた時には既に、双方は臨戦態勢だ。だが、グラスパーアイは憎々しげにシュテンを睨み、計画を何度も潰されただの、今度という今度は絶対に排除するだの、散々な罵声を浴びせている。

あの、グラスパーアイ・ドラキュリアが、だ。

アスタルテ・ヴェルダナーヴァやアイゼンハルト・K・ファンギーニに単騎での戦闘力は劣るだろうが、それでも吸血鬼派のトップには違いないあの男。普段から裏で様々工作を重ね自分の意のままに全てを動かしているグラスパーアイ・ドラキュリアという男が、ここまで怒りを露わにしているところなど見たことがない。

「言ったろー?」

「はい……?」

相変わらずの、間の抜けた声。だが、つり上がった口角が彼のしてきた全てを物語っている。

二百年前にもグラスパーアイの計画を潰したという、あの言葉。

もちろん疑ってはいなかったが、今度もそういうことなのだと。グラスパーアイの計画を潰し、今度こそ彼をしとめるつもりなのだと。

「全て、帝国書院に押しつけて……グラスパーアイを、 殺(と) る……」

小さく呟いた瞬間、シナプスが繋がった気がしてフレアリールは勢いよく顔をあげた。

「つまりはそういうことなのですね!! グラスパーアイを殺る二百年越しの計画……帝国書院すら利用するとは、さすがはシュテンさま……! 貴方様のフレアは、感動、いえ感服いたしました!!」

「え。お、おう。いや、ちがくてな」

「へっ……?」

違う?

これだけ事を美しく運んだにも関わらず、何が違うというのだろうか。

ようやくシュテンが目の前に居るという現実を受け入れ始めたフレアリールに、シュテンはちらりと横目で視線をやって。

「言ったろ? お前を助けに来てやるって」

にか、と笑ってそう言った。

その瞬間、フレアリールが膝から崩れ落ちる。

「シュテ……ン……さ、ま……」

「ええええなんで!?」

「貴方様のフレアは、幸せです……もう、一生分の幸せを使い果たしてしまいました……」

とろんと惚けた表情と潤んだ瞳。

なんだかもの凄く場違いな彼女の振る舞いに、頬をひくつかせるシュテン。

「あーっと。フレアリール、お願いがあるんだが」

「お願いなどと。どうぞ、ご命令くださいませ……貴方様の為であれば、この命喜んで投げ打つ所存です」

「お、おう……ええとな」

緩んでいた頬、潤んでいた瞳、震えていた口元。

しかしその全てが、シュテンの次の言葉で引き締まる。

「グラスパーアイを狩る。手伝え」

ぶわり、とフレアリールの全身から凄まじい魔力パルスが迸る。

ほの暗く、紅の瞳はゆっくりとその双眸に一人の男を捉えると。

「……御意」

「こっわ」

シュテンがぼそっと呟いた言葉は、幸いフレアリールには聞こえていなかったようだ。ふわり、とその翼で以て空を舞ったフレアリールは、当たり前のようにシュテンの隣に舞い降りる。バチバチ、と恐らくは魔素の結合を手の内で行った彼女の右手には、次の瞬間紅の鎌が握られていた。

「……主ってえのは……テメエのことか妖鬼シュテン。今回もお前の邪魔で……計画が……!! 許さん!!」

グラスパーアイが怒りと共に炎と風の矢を放った。

瞬間、周囲の吸血鬼も動き出す。それを確認したシュテンは、小さく一言。

「フレアリール、周囲の雑魚を」

「仰せのままに」

言うが早いかフレアリールは飛び出す。空中浮遊すると同時、軽く鎌を一振りすると、周囲に"鋭い"血の雨が降り注ぐ。

「地面に這いつくばりなさい」

「ガキがあああ!!」

叫ぶ吸血鬼たちの声など、気にする様子もなくフレアリールは立ち回る。

戦闘開始。

その瞬間、シュテンの体内を強く巡る魔力の奔流。

これは。

「せんぱーい……あたしのこと忘れてませんか~?」

「いやいや、まあ久々の再会だったしよ。許してくれ。あと、さんきゅ」

「はいっ!」

背後に控えていたハルナからの、バフ魔法。おそらくはブレイク・アップ。攻撃力を増大させるその魔導は、シュテンにとっては効果半減とはいえ恩恵は十分過ぎるほどにある。

「フレアリールちゃんも!!」

「あの時の 冒険者(ブレイヴァー) ……!」

フレアリールにもバフ魔法がかかる。

彼女はハルナの存在に驚きはしたようだったが、あっさりと身を翻した。

そんな彼女にハルナは小さくわらって、気合いを入れて詠唱を開始する。

「行くぞ社畜ヘッドォオオオ!!」

「よくわからん呼び方で呼ぶんじゃねぇ……!!」

シュテンは純粋な格闘型だ。

遠距離攻撃や射撃技能などというものはほぼ皆無。たった一つあるとすれば衝撃波を飛ばす攻撃だが、それとて一定の距離を離れた相手には当たらない。

故に、グラスパーアイは絶対にシュテンに近づくことはしなかった。

もし射撃で地道にダメージを与えたとしても、一度接触されればそれ以上に自分がふざけたダメージを持っていかれる。そんなのは、冗談ではない。

「野郎ちょこまかとッ……!!」

「一撃だって貰えるかってんだッ……!!」

鬼殺しを振るい、何度となく肉薄しかけるもグラスパーアイは全て回避して魔導を放つ。それを弾き、さらに跳躍しても空中で吸血鬼に勝てる理由はなく、これまたあっさり回避される。

「アスタルテにぼろっかすにされてたから舐めてたわ」

「ボロカスにまではされてねえええええ!!」

グラスパーアイの背後から炎と風の矢が降り注ぐ。

大斧でもってその大量の矢を弾き飛ばし、シュテンはグラスパーアイを追いつめる。

「せんぱいっ!」

「さんきゅー!!」

スピード・アップ。

タイミング良く入ったその魔法のおかげで、寸でのところでシュテンのスピードが跳ね上がった。

「にゃにっ!?」

「噛んでんじゃねえよ!!」

とっさにグラスパーアイは障壁を繰り出す。大斧ともろに当たったその壁はみるみる亀裂が走り、破れて散った。砕けたガラスのようにきらきらと粒子が舞う中で、グラスパーアイはさらに上へと退避する。

「ちっ!」

だん、と一度着地したシュテンは、空中から炎と風の矢を降らすグラスパーアイに迫る。

そこで、ハルナは。シュテンの鬼殺しに入った亀裂に、気がついた。

おそらくは、さっきの障壁がトドメになってしまったのかもしれない。

武器に、回復魔法などはかけられない。

今からでは、遅い。

「せんぱ――」

「食らえ、妖鬼シュテエエエエン!!」

「っ!?」

運悪く、なのか。それともグラスパーアイはそれを見越しての行動をしたのか。

いずれなのかは定かではないが、それでも展開は最悪だった。

ここに来て巨大な炎の鎗を、シュテンに向けて投擲したのだから。

「だめですせんぱい!! その斧で受けちゃあッ!!」

「っ――!!」

しかし、叫ぶよりも遙かにシュテンの行動の方が早かった。

鬼殺しは炎の鎗と正面からぶち当たり、そして、案の定。

べきり、と。

刃の部分が砕け散った。

「やっべ」

「はっはっは!! そ、そうだよこれを待っていたんだ!! 死ねえ!!」

「せんぱっ……」

大斧が砕けた反動で背中から落下するシュテンに向けて、大量の炎と風の矢が投擲される。

シュテンは歯噛みしながらもダメージを最小限に押さえるべく身を捩らせたが、それよりも先に目の前に影が入った。

ずいぶんと、小柄な影が。

「フレアリールちゃ――」

「あああああああああああああああ!!」

ずだだだだだ、と何かが大量に突き刺さる音。

勢いよくシュテンに叩きつけられたのは鎗ではなく、小柄な少女。

「がふっ!?」

「っぁ……!!」

背中をもろに地面に打ち付けながら、シュテンは衝撃から胸元の少女を守る。

「なんっで庇った! 俺は別にッ!」

「ご、ごめんな……さ……」

息も絶え絶え。口元から血を垂らしながら、弱々しい瞳でフレアリールはシュテンを見据えた。胴に突き刺さる大量の矢は魔素で出来たもの。ゆっくりと粒子になって消えていく。

くるりとシュテンがハルナのほうを振り向いた時、彼女は呆然と立ち尽くしていた。

「ハルナ!! 救護を!!」

「は、はい!!」

慌てて駆けてくる彼女の表情は蒼白だ。

二人の少女を庇うようにして、シュテンは改めて立つ。

手元の鬼殺しは、刃が砕け散ってしまったせいで柄しか残っていない。

「棒としてなら、使えるか」

「チッ……ガキがよけいなことを……!」

吐き捨てたのはグラスパーアイだ。地面に舞い降りるなり、横目で吸血鬼たちの死骸を見やる。おそらくフレアリールは全ての敵を片づけてシュテンを見て、危機と思って飛び込んだのだろう。

思い切りが良すぎてめまいがする。シュテンであれば、あの程度受けても瀕死にまではならなかったろうに。

とにかく今は、二人の少女を守りながらグラスパーアイを牽制するしかない。

精神的プレッシャーは、恐らく先ほどの比ではない。

ちらりと背後に視線をやれば、必死の表情でフレアリールの治癒に回るハルナの姿があった。

泣きそうな彼女の表情を見れば、自ずとその心中は知れるというもの。

助けたい、とそう願っていた存在が目の前であんなことになれば、当然ハルナは自分を責めるはずだ。何も出来ていないのだと。今自分が、ハルナだけが出来ることを、彼女はしているというのに。

と、その時だった。

「……あまり芳しい状況じゃあ、あらんせんな。間に合って、良かった」

声。

思わずシュテンも、そしてグラスパーアイも反応して振り返る。

そこに立っていたのは、呼吸も荒くそこかしこに怪我をしながらも、力強い瞳でこちらを見る一人の青年だった。

「テツ!!」

「……アイゼン……ハルト……!!」

重なった声の色は対照的だ。どこか安堵の混ざったものと、憎々しげな憎悪に染まったもの。

グラスパーアイにしてみれば最悪だろう。シュテンだけでも厄介だというのに、この袋小路で人類最強がお出ましだ。しかも、最大級の怒りを持っていることは間違いない。

一番好きな人を自爆装置にして、かつての仲間を弄んだ。

テツに殺される理由など、揃い過ぎている。

青年――テツ・クレハは辺りを見回して、そして小さく一人の少女の影を見つけて呟いた。

「ミネリナ嬢……、まさか」

「そのまさかだ。俺が来た時にはもう」

「……グラスパーアイッ……!!」

かつ、かつ、とテツはシュテンのもとまで歩みを進めて。その背後で処置に当たっているハルナと、重傷のフレアリールを見つけて目を細めた。

「これも」

「俺の失態だ。絶対に死なせる訳にゃいかねえ」

「失態……お前さん、鬼殺しは」

「砕けた」

「……そう、か」

その一言で、だいたいの事情は察したらしい。シュテンとてそうそうドジを踏むような男ではない。鬼殺しの耐久という、一度起きるかも分からない事故によって引き起こされたのがその"失態"だということはたやすく想像がついた。

「シュテン」

「あん?」

「これを、きみに貸そう」

グラスパーアイと睨み合うシュテンの視界の端に、青い何かが入る。

見れば、それはテツの愛用する二鎗の一振り――青虹だった。

「そんな棒よりも、短鎗の方がずっとすばらしい武器でさあ」

「そりゃ、人類最強が言うんならそうだろうな」

小さく笑って、受け取る。

テツが偉天を、シュテンが青虹を握りしめ、グラスパーアイを睨んだその時だった。

「ア、アイゼンハルト!!」

「っ!?」

グラスパーアイが、にやりと嗤って、一人の少女を指差した。

彼の頬にも冷や汗が一筋。テツとシュテンが居るこの状況で、多対一。グラスパーアイとしては確かに死も目前と言った状態だろう。だからこそ、にっちもさっちもいかない状態で"アレ"をやる理由があった。

もっとも、アイゼンハルトの心をかき乱す行為を。

「この女がどうなってもいいのかッ!!」

「テ……メェ……!!」

元々グラスパーアイはアイゼンハルトへの復讐の為にミネリナに自爆機能を仕込んだのだ。もしグラスパーアイ自身が今死ぬかもしれないというのなら、ここに居る全員を道連れにでもしなければ気がすまない。

「テメエは心底この女が大事なんだってなあ!! こんな状況で、私が死ぬというのなら!! テメエ等もこの女も、全員ぶち殺してやる!! ふざけんじゃねえ!! 全部、全部テメエ等のせいで丸潰れなんだ!! 絶対に許さねえ!!」

「そりゃこっちの台詞なんだがなっ……!!」

呟くシュテンにも対抗手段はない。

それに、起爆方法が分からない以上迂闊に手など出せたものではない。

さしものテツも、流石に身動きが取れなかった。その代わりに、これでもかというくらいに歯を食いしばり、グラスパーアイを睨み据えている。

だが、動けない。

「さいっこうだよなァ!? あれだけ世界を救ったとか言われてる英雄サマが!! 大事な女一人救えず!! しかもその女の自爆で死亡!! クールなシナリオだバーカ!! ああムカつく!! ああ腹立つ!! テメエをぶち殺さなきゃぁ、気がすまねえ!! 誰かを守りたい!? そんなもん、させる訳ねーよバアアアアアカ!!」

「グラスパー……アアアアアアアアアアアアアアイ!!!」

叫ぶ。力の限り。

絶対に許しなどしない。

けれど、だからと言ってどうしようもなかった。

ミネリナを守る方法が、分からない。彼女の意識も戻らない。

そんな状況で、どうしろというのだ。

分からない。

血涙すら出かねないような、そんな状況で。

テツの、そしてシュテンの背後で、何かが。

輝いた。

「え?」

あの時、せんぱいの前に出たのがあたしなら、障壁を張ってなんとかなった。

あの時、フレアリールちゃんをちゃんと説得出来ていたら、こんなことにはなってない。

あの時、ミネリナさんにかかった魔法に気づいていたら、テツさんは泣かずにすんだ。

あたしは、何の力もない。

頼りないし、戦うことも出来ない。

怪我して苦しんでる人を見てようやく役にたてるなんて、そんな悲しいことしか出来ない。

けれど、あたしは。

あたしは――誰かを助けたい。

悲しいことを、させたくない。

みんなを、守りたいッ――

『ハルナちゃん。それをするに際してなによりも大事なんは……覚悟ってぇ奴です』

――"みんなを守りたい。"

――必要練度クリア

―― 覚悟(インテンス) 、完了。

――移行を開始します

――クラスチェンジ" 精錬術士(リファイニスト) "

ぶわり、とハルナの周囲に風が舞う。

ポケットに仕舞っていたはずの鍵が光を放ち、ハルナの髪色を白銀に染め上げていく。

瞳の色は青に。全てが塗り変わった、新しい、彼女。

「ハ、ルナ……?」

「ここで、精錬ッ……まさか!!」

呆けるほかの面々とは違い、シュテンは一瞬で何かに気がついた。

そして、口角を上げる。青の瞳を持ったハルナと顔を見合わせ、頷いた。

取り残されたのはグラスパーアイだ。なにが起きたのかは分からない。

だが、役立たずだった後衛が何かに覚醒したことだけは分かる。

「なにをするつもりだッ……」

何かを言うよりも先に、異常な展開速度でハルナの魔導が発動した。

ミネリナを包み込むその魔法に、グラスパーアイは息を飲む。

「やめ――」

「辞める訳がねえだろうがァ!!」

グラスパーアイが慌ててハルナに攻撃を加えようとするが、そんなことはシュテンが許さない。"精錬術士"は、補助魔法をより使役出来るようになるクラス。相手の攻撃力と魔法攻撃力を入れ替えたり、魔力や体力を強奪したり、自らの魔力や体力を分け与えたり、今ハルナが覚えている仲間の力を高める魔法を強化したり。

魔力を、強奪したり。

今ハルナが行っている魔導は、エナジー・ドレイン。

シュテンが、興奮さめやらぬ様子で楽しげに叫ぶ。

それだけで、全員がなにが起きているのかを理解した。

「自爆……自爆、自爆ねえ!? お前、RPGの王道って知ってるかァ!?」

「な、なに!?」

「"自爆!! MPが足りない!!"それがRPGの見せ場ぶち壊す、さいっこうにクールなネタなんだよ!! 魔力がなくちゃ、ミネリナは自爆なんざ出来る訳がねぇよなァ!?」

「なっ……!!」

慌ててハルナを見れば、既にミネリナから大量の魔力を奪い取っている。

「しょ、所詮人間の魔力保有量、自爆にはまだッ――!!」

にっちもさっちもいかなくなったグラスパーアイがミネリナを起爆しようとするが、もう遅い。確かにハルナの魔力保有量は大したものじゃない。

だが、ならば。奪ったものを、別の場所に流せばいい。

「頼りにしてます、せんぱい!!」

「おおおおおおおおおおおおお!! 力が沸いてくるぜえええええええええええ!!」

「んなァ!?」

大量のバフが、シュテンめがけてかかりまくる。

なまじ半分しか効果がないからこそ、かけられる回数は増えるというもの。それだけ、魔力を大量に使う。その分、ミネリナから持っていく。

「さァて!!」

ぶん、と青虹を振るシュテンが踊り出ようとして、赤の鎗にとどめられた。

「ぼくも、一緒に戦いまさぁ」

「おう、ぶちのめしてやるぜ!!」

青虹、偉天。

その二鎗が、グラスパーアイめがけて襲いかかる。

「覚悟はいいか!! グラスパーアイ!!」

「……お前だけは、許さないッ……!!」

穿つ速度は最速。

ハルナのバフの御蔭か、シュテンもテツの速度に追い付いて。

ひっ、と声を上げるよりも。

ましてや、魔導を放つよりも。

圧倒的速度で突き出された二本の鎗に、グラスパーアイは弾け飛んだ。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」

魔素すらも消え去るほどの刺突のラッシュ。

一瞬のあとには、グラスパーアイが居た痕跡はどこにもなく。

戦いはあっけなく、幕を閉じたのだった。

静まった、部屋の中で。

「……はは」

「っはっはっは」

まるで同じ刺突直後の体勢だった二人から、小さく漏れた笑い声。

「はっはっはっはっは!!」

「あーはっはっはっは!!」

「……」

「……」

「いえーい」

「うぇーい」

ぱちん、と軽いハイタッチ。

全てが、終わった。

そして。

「およ、床屋エフェクト」

「……なんかそれが出るとグラスパーアイ倒した感じがしますなぁ。……懐かしい」

「懐かしいってなんだよ」

青と赤のコントラストが、シュテンの周りで渦巻いた。レベルアップエフェクトだ。

「しかし、珠片は持ってなかったのか……あいつ」

ぽつり、シュテンが呟く言葉は小さすぎて誰にも聞こえない。

「お疲れさまでした、せんぱい!」

「おう。フレアリールは?」

「精錬術士凄いですよー。回復魔法にも補正はそれなりにかかるみたいで、もう少ししたら目が覚めると思います」

「そいつぁ、良かった」

ほっと胸をなで下ろすシュテン。

と、ハルナは何かに気づいたように部屋の奥を見る。

と。

「ミネリナ嬢……」

「…………」

「ミネリナ嬢……! 目をあけてくれや、しませんかッ……?」

軽くハイタッチをかわしたあとのテツは、すぐさまミネリナのところに向かったようだった。けだし当然ともいえる流れではあるが、少々心配は残る。

上体を抱き起こし声をかけるテツの表情は険しく、ミネリナのほうは目覚める気配もなく。

「……魔力吸ったのが原因じゃなきゃいいんですけど」

「元々使わなかった分を削ったんだ、弊害はないはずだが」

ふむ、と外野二人は見守ることしか出来ない。

が。

「……むにゃ……」

「っ!! ミネリナ嬢! ミネリナ嬢!」

「……えへ……」

目を開けた様子はない、が。

シュテンはとても言いにくそうに、ハルナに問いかけた。

「寝てないかあれ」

「……言っちゃだめなんじゃ」

と、ゆっくりとミネリナの手が、起こしていたテツの腰に回されて。

「テツぅ……大好きぃ……」

「……み、みねりな嬢……?」

「んにゃむ……」

すりすりと、なんだかよく分からないが彼の腹に顔をすり始めたので。

「なんだ無事か。帰るぞハルナ」

「はーい」

「待ってくれやしませんか!?」

なんか腹の立ったシュテンは、フレアリールを抱いて帰宅を決め込もうとして。

ハルナもノリか何か知らないが唇を尖らせてテツに背を向ける。

たまらないのはテツで、こんな羞恥の中に残されるのもつらく。

「……うるさいな、わたしはまだ寝ていた……うん?」

「み、ねりな嬢……?」

「テツ……?」

お、目が覚めたか。とシュテンはくるりとUターン。あっさり過ぎるその行動に、しかしテツは突っ込む余裕などなかった。

「え、なんで」

「何でじゃああらんせん!! ぼかぁ……どれだけ、心配したかッ……!!」

がば、とミネリナを抱きすくめて、テツは心の限り叫んだ。

状況を理解出来ないミネリナは、きょろきょろと視線を動かして。

なんだか見た目の変わったハルナと、眠っているフレアリールを抱いたシュテンを見つけて。何かを察した。

「……助けられちゃったんだねぇ」

「ミネリナ嬢……!!」

「ごめんね、テツ……」

外聞もなく泣き始めたテツの背に、そっと手をやって。

ミネリナ自身も、見られないようにとそっと右目を拭って。

シュテンとハルナは顔を見合わせて、肩を竦めた。

「何とか、ハッピーエンドって奴だ。これも、浪漫なんじゃねえの?」

けらけらと屈託なく笑うシュテンに、ハルナも続いて笑みを見せる。泣き笑いで酷い顔のテツと、まだ若干まどろんでいるミネリナ。

「あとはまあ、フレアリールをどうするか……だけだな」

胸元で気持ちよさそうに眠る一人の少女を見下ろして、シュテンは小さく呟いた。

しかしその声に負の感情はどこにも感じられなかった。