作品タイトル不明
第八話 ケトルブルグ港IV 『イケてないわねぇ』
『うぃーっす。元気しとぉや未来のチャン――じゃねえこれ別のアレだ。あーっと、何から話せばいいかってのはまあ微妙なんだけどよ。俺、元気。そりゃあもう16連鎖キメてフィーバーするくらい余裕って奴よ。決めるじゃなくてキメるって言うとなんか何でもやばく見えるよね、何でだろうね。
まあいいや、この手紙を読んでいるだろう全ヒイラギに向けて伝えたいことは俺が元気だってことと、これからジャポネに向かうってことだ。
相変わらずパスは通ってるのは分かるし、何ならお前から感じる精神ラインがやたら強くなってる気もしなくないんだが、お前まだ脳内通信的なもんできねえの? 魔導的なもんは俺専門じゃねえから分かんねえけど、手紙見て気づいて「あれ、私ワンチャン脳内通話的なこーりんぐできるんじゃね!? やべえぜ!!」ってなったらてけとーに連絡くれると嬉しいわ。一番のからかい相手が居ないとよ、やっぱりしっくりこねえんだ。諸々、話したいこともたまったし……お前の方も、結構色々あったんじゃねえか?
俺ぁ今、テツミナカンパニーっつー愉快な連中と一緒に居る。
総勢二人の何でも屋でな、これがまた面白い奴らなんだ。そんな訳で、ちょっとばかし彼らと行動を一緒にしてるんだ。
ああ、そうそう。
クレインくんたちに連絡を受けて、お前があいつらを世話してやってたことも聞いた。やるじゃんか。ヒイラギのくせに。ぎゃーぎゃー喚いてツッコミしかしてねえと思ったら、聞いた話じゃイメージが"物静かで、けれど苛烈なお姉さん"ってお前中身違うじゃねえか俺が居る時と。
自意識過剰だったらまあそれでも構わねえが、わざわざ探してくれてんのは嬉しいけどあんまり根詰めるなよ。何ならバカンスでもしててくれた方が気が楽なんだからよ。
まあ、何にせよだ。
ようやく自由に動き回れるようになったから、ある程度色んな場所に行ってこんな感じの手紙をギルドに貼って行こうと思う。
だから、どこかで合流できるといいな。ひとまずはジャポネに向かうことにするよ。
なんつーか、三ヶ月も消息不明で悪かったな。
また会えるのを楽しみにしてるぜ!
シュテン』
ちーっす現場のシュテンです。
ケトルブルグ港に到着して、いったんミネリナたちと別れた俺。
覇気を隠すことはようやっと慣れてきたけど、あれだねやっぱ。
妖鬼って随分と珍しいっぽい。
あっちゃこっちゃから奇異の視線で見られる訳で、石畳の街道を歩いているだけで随分とむず痒い思いに駆られていた。
ほぉら、耳を澄ませば和装の妖鬼に対する周囲の反応が……
「あの人、頭に角なんてつけちゃって……イケてないわねぇ……」
「え!? そういうアレな視線だったの!? だっせえ的サムシング!?」
思わずツッコミを入れたシュテン氏二十四歳。まあもうそろ二十四だろ。たぶん。
くるりと振り返ると、そこには。
「こんにちは、えっと……シュテンさん」
桃色の髪を見るとどこかのガチ前衛アイドルを思い出してしまうが、この少女の髪色はあの魔王軍ナンバー2よりも若干薄い。軽くおちゃらけた敬礼をしつつ、少女は小さくウィンクした。
「ハルナ、だったよな?」
「はい! あ、もしかして不快にさせちゃいました? ヒイラギさんが、シュテンさんのこと冗談が通じるどころか存在が冗談そのものって聞いてたので……ついつい、やっちゃいました!」
「やっちゃいましたってぇのは中々だな。嫌いじゃねえよそういうの」
「あ、よかった。にひっ」
けらけらと笑うハルナの身長は低い。それこそ、ヴェローチェにも満たないのではないだろうか。ヴェローチェの場合は存在感がものすごいので、プレッシャーで少し大きく感じているだけかもしれないが。
必然的に見下ろす形になる彼女と目が合うと、思わずといったように彼女は身構えた。
「あ、あはは……やっぱりプレッシャー凄いですね、シュテンさん」
「ん? 覇気は押さえてるはずなんだがな」
「それでも、やっぱり強いんだなーって。この前も、今回も。ありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げた彼女に思わずシュテンは破顔した。
彼女のことは原作でも良く知っていたが、そうであるが故に彼女がとても優しく良い子であることがよく分かる。裏表のない彼女のことだ、発言はそのまま本心であるだろうから。
「ああいや、それについてはタイミングが被っておふざけしてただけだし。何も問題ねえよ。戦い茶化して悪かったな。お前ら、やたら強くなってたじゃんか」
「ああそれは、シュテンさんが助言してくれたっていうジャイアントウォールに居たからなんです」
自然と、ハルナとシュテンは隣合って歩き出していた。
向かう先は同じ宿屋であるから当たり前といえば当たり前。だが、修道服に身を包んだ少女と和装の妖鬼が並んでいる光景は、やはり周囲にとっては異様に映るものだろう。
「……フレアリールちゃんって言う女の子が居るんです」
「あん?」
こつ、こつ、と石畳を一歩一歩踏みしめながらの帰り道。会話があってもなくても、足音だけはしっかりと響きわたっている。
時折馬車の車輪がごろごろと地響き立てて走る以外には、彼らの会話を妨害するような騒音もなかった。夕暮れ時の、そんな道。
「きっと強くなって主の元に向かうんだって…… 冒険者(ブレイヴァー) たちや公国士隊、帝国書院が出ばってくるようなジャポネでずっとダンジョンに引きこもってるんです。要塞化されたあの場所は、ジャポネの人々にとっては脅威になりますから、討伐隊がそろそろ組まれてもおかしくない。……でもあたしは、あの子を助けたいんです」
「知り合いなのか?」
「あ、あはは。そんなんじゃないんですけど。むしろあたしたち……特にあたしは、随分邪険にされちゃったように思ってます。あれだけ強引に話を進めようとして、力も強いわけじゃなくて。鬱陶しいって、きっとそれくらいにしか思われてないんじゃないかって」
俯き気味に彼女は言った。
よかれと思って自分は動いたけれど、それは単なるお節介で。しかも、自分より弱い奴に助ける云々言われたところで邪魔でしかない。それも、友人でも何でもない相手だ。そう考えると確かに、鬱陶しいと思われてもおかしくない。
「……シュテンさんは、あたしたちの素性ご存じなんでしたっけ」
しばらくの沈黙を突き破って出てきた言葉は、先ほどまでの話題とはあまり関連性の見受けられないものだった。きょとんとしたシュテンが彼女を見ると、微笑んでいた。
しかし、先ほどシュテンをからかい混じりに呼んだ時のような明るいものではなく、どこか暗さを感じてしまうようなそんな雰囲気の、だ。
らしくなさを感じながらも、シュテンは彼女の言葉にじっくりと耳を傾けた。
「フレアリールちゃんに、言われたんです。戦う理由もないような奴に言われたくないって。……戦う理由、確かにあたしにはないから」
「光の神子、王国第二王子、共和国の忍、なんてメンバーに囲まれて、か?」
「うん……あたしは生きる為に、お金の為に動いてるだけだったから。確かに、あの子の言う通りで」
お金の為。
字面にすると不誠実なように見えるそれは、しかし人が生きる為にはとても大事なことだ。しかしそんなことを言ったところで彼女は納得しないだろうし、シュテンもそんなつもりはない。
ふむ、と一つ顎に手を当てて、考える。
「フレアリールちゃんはさ。ぶっちゃけ会ったことあんのよ」
「え!?」
思わず顔を上げるハルナ。
しかし、シュテンの記憶が正しければ、ネグリ山廃坑で出会った彼女は確かにフレアリールと名乗っていたし、何なら強くなりたいというような旨のことも言っていた。
だから、思い出せる。彼女が、どれほど弱かったのかということも、全て。
「初めて会った時……っていうか一度しか会ったことないんだけどさ。あの子ヴァンパイアハンターに追われてたんだよね」
「ええ!?」
「マジマジ。ほんでこう、流石にまじいと思って斧でドーン! やー、思い返すとよくあん時廃坑崩れなかったなと思うんだけど、そこはやっぱダンジョンの強さなのかねぇ。まあそれはそれとして。血が凄く不足していたみたいで、頼まれたから少しだけ噛ませてあげてさ」
「え、そ、それで……どうなったんですか?」
「ん? あの子外ってか日光の下出られないらしいし、ふつうに置いてきた」
「えええ!?」
目をまん丸にして驚く彼女を見て、シュテンは首を傾げた。
なぜそこまで驚かれたのか見当がつかないのもそうだが、彼女の視線が"信じられない"と言っているのが妙に気にかかった。
「主って……もしかして……」
「あん?」
「フレアリールちゃん、言ってたんです。主とは、命を救われて、誓いの血の契約も結んだ愛しい方だ、って。自分はあの人に尽くす為に生まれてきたんだって、なんか……こう、ちょっと怖いテンションで」
「え、なにそれこわい」
「あたしより年下のはずなのに、そんな命をかけられるような人が居て凄いなって」
「いやそこじゃねえだろ」
「そんな彼女を見ていたら、やっぱりあたしが戦う理由って凄く……惨めだなって」
「んなこたぁねえだろうが」
え、主って俺? いやいやいやいや血の契約とかしらねえし待て待て。とぶつぶつ呟いていたシュテンだったが、気を取り直したようにハルナの頭を一度チョップした。
全力でやるとスイカよろしくかち割れる恐れがあったので、とてもソフトに。
それでも「あう」と声を漏らしてしまったあたり、彼女の悩みもシュテンの力加減もどうしようもないのだろう。
「俺なんて、戦う理由なんざそのときそのときの気分だわ。ちょっくら戦ってみよー、こいつ気にいらねー、あの子守りたーい……やっすいと言ったら、俺の方がずっとやすいわ。お前さんは生きる為に必死なのは分かったし……なによりも……もう自分の為だけに戦ったりしてねえだろ?」
「……どう、なんでしょう。でもやっぱり、みんな死にそうな状況になったらあたし弱いから逃げちゃう気がします」
「俺が一緒に居た"荷馬車無き街道"での戦い。ぼろぼろで死にそうだったけど、お前は仲間でもねえ女の子を助ける為に最後まで意識振り絞って頑張ってたぜ?」
「……」
「自信持っていいんだ。お前さんは仲間たちのように、国や民の為に戦ってるんじゃない。そりゃそうだ、お前さんはただの 冒険者(ブレイヴァー) なんだからよ。けど、純粋な 冒険者(ブレイヴァー) のお前さんだから戦える理由ってのが、ちゃんと胸の中にある」
「…… 冒険者(ブレイヴァー) 、だから?」
「ああ、そうだ。お前さんは、 冒険者(ブレイヴァー) として立派に――仲間の為に戦えてるだろ?」
「……仲間の、為」
「俺たち魔人も人間も、手の数なんて限られてる。あいつらはそれを民の為に平等に使わないといけないが、お前さんは真に大事な人だけを守れる権利がある。だから、全力で味方だけでも守ろうぜ。大事な、友達なんだろ?」
「……はい!」
ぐ、と拳を握りしめたハルナの表情にもう陰はない。
そんな彼女を見て、シュテンはくるりと背を向けた。
気がつけば既に宿屋の前で。見送られたのだと、ハルナも気づく。
どこに行くつもりなのかと呼び止めようとして、彼の言葉に遮られた。
「……あの」
「ちょっと散歩続けるわー。人のこと言えねえのに随分説教しちまった。あー、やだやだ妖鬼って……イケてないわねぇ」
くるりと振り向いて、にやりと口角を上げた妖鬼。
先ほどの、一番最初の言葉を思い出してハルナもつい笑ってしまう。
「すごく、イケてると思いますよ。ありがとうございました!」
ジャポネに戻ったら、ちゃんとフレアリールに言葉を伝えよう。
そう心に決めて、ハルナは宿屋の中に入っていく。
「たっだいまー!!」
「うわ、ハルナ!?」
「えーへへー!!」
ぎゃーぎゃーと、開きっぱなしの扉の中。酒場になっている一階のテーブルをちらりと見て。シュテンは一つ、ため息混じりに呟いた。
「すっげえブーメランだよな。ヒイラギ、無事だといいが」