軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

負ける戦はしない。だって男の娘だから

俺の前にあるテーブルの上には資料、いくつかの手紙、考えを纏めたメモなどが載っていた。

その殆どがマロッド王子の襲撃以降から集めたもので、それ以前ののじゃ女王育成計画の資料は部屋のすみっこに積み上げられていた。

「まあ最低限の 基礎(せんのう) は教え込んだのでいいんですが。安全な位置から典型的なクズ野郎ランドリク伯爵と、先祖の功績を自分のモノと履き違いしているアガタ公爵の泥沼に沈んでいく末路を見せて、反面教師にしたかったのが無駄になりましたね」

リリィの教育目的で処分予定の愚王派を一斉処分しようとしたら、まさかのチャラ王子がやる気を出した。

おかげで自分の尻拭いをする羽目になった俺の部屋は、前世の仕事場のデスク状態。

そして心のオッサンは、草原の真ん中で資料の紙で布団を作って満足そうにしている。

最後の一年は自宅の布団より、持参した寝袋より、即机の下で眠れる紙の布団が一番お世話になっていた。

……のじゃ女王育成計画の資料の束の山に飛び込もうかな?

これから資料集めに根回しするよりも忙しくなりそうだし、俺には忙しい仕事が待ち構えている。

ダッシュ君や宰相はお城に缶詰状態だから、ストレス発散のおちょくる相手がいないのだ。

「いいですよね?ええ、男にはやらねばならぬ時があるのです」

よしセルフ言い訳完了。

俺は虎。

獲物(かみたば) に 襲い掛かる(つっこむ) 虎(こねこ) なのだ!

「ハアハア。紙束に向かって身構えるセルフィル様……仔猫のようで可愛いっ」

「それ、店に連れて行った時にやってくんね?女の子がいっぱい寄ってくるからさ。あとアレハンドロはキメェ」

「……」

襲い掛かる 虎(こねこ) の構えを解き後ろを振り向くと、褐色イケメン執事だけどショタの俺を性的にみる変態と、とんがり帽子にローブと物語に出てきそうな恰好の年齢不詳不良ジジイが立っていた。

「いつの間に僕の部屋に、 変態執事(アレハンドロ) と 素行不良(ロンブル) 翁がいるんですか?」

「入室の許可は取ろうとしたのですが」

「あーとか、うう~んと唸っている声が聞こえるが、いくら待っても開かねえし。お前の 主(あるじ) が危機だぞってアレハンドロに言ったら、即鍵を開けたな」

「ええセルフィル様が心配でしたので、緊急手段を使用しました」

「国でも身分が上から数えた方が早い僕の部屋の鍵開けているんです。それ犯罪ですよ?」

アレハンドロはわかってて、ロンブル翁の戯言に乗ったな。

責任は全てジジイに押し付ける気が満々である。全く誰に似たのやら。

「僕は寛容な男ですから今回は許しますけど」

「自分の痴態を無かったことにして座り直そうとしているぞ」

うるさい若作りジジイ。

「それがセルフィル様らしくていいんです。猫が失敗した時に『え、何か起きた?僕は知りませんよ』と取り繕う感じと同じで……興奮します」

そこで可愛らしいではないのが変態執事らしい。

有効的な対処方法はスルーだ。

「はいはい二人共座ってください」

二人は素直にテーブルの反対側のソファーに着席した。

ロンブル翁はともかく、使用人であるアレハンドロが俺の前で座るのは普通は問題だけど、そこらへんの貴族感覚は前世小市民の俺は相手を立たせているのは心苦しい。

なので私的な時は俺に合わせてもらっている。

侍女長にバレたら変態執事と一緒に正座で常識を叩き込められるけどね!

「で、頼んでいた事はどうなりました」

「こっちは八割方は終わったぞ」

最初に返答したのはロンブル翁。

「いやぁ、今回は坊ちゃん持ちで遊べたから楽しかったわ。これツケた店な」

ロンブル翁が持参していた紙をテーブルの上に投げた。

手に取りそれを読む。

「……僕が指定した以外が倍ぐらいありますが」

「的確過ぎたら相手側にバレるだろう?だから大量の酒瓶の中に高いのを混ぜてたんだよ」

「その酒瓶らも高いんですけどね」

ロンブル翁は悪びれもせず背もたれにふんぞり返る。

書いてあるのは花屋や、貸本屋などなど、殆どが夜のお店の店名ばかりで桁違いに経費が高い。

あ、高級ボッタクリキャバクラ『ホイホイ』に三回も行ってやがる。

「ホイホイは行かなくても良かったでしょうに。あそこは貴族か金を持っている商人しか行かないのに」

「いやいや坊ちゃんは甘いなぁ。指定された一人はそこのオネーちゃんだったぞ」

「え、マジ?……詩集を好んでいた娘かぁ。参考に聞いておきますけどお店は?」

若作りジジイはニヤリと笑みを作り親指を立てた。

「いやもうサイコー。あんな店を作るガキの坊ちゃんが、頭おかしいんじゃないのと思ったぐらいだ」

「……セルフィル様、このクソジジイを葬り去る許可を」

「僕の部屋が全壊するから止めて」

はしゃぐロンブル翁に、殺気で殺せそうな顔を向けているアレハンドロ。

言っておくが高級キャバクラ『ホイホイ』は俺が作ったわけではない。

ロンブル翁の夜遊びについていった時に少しだけ口を滑らしたら、そのまま商人さん達に裏路地召喚(公爵家の末っ子なのに)。

十分もしないうちに王都の商人の重鎮達が集合して、ゲン●ウスタイル(屹立したまま)で詰め寄って来るから、 怖く(イラッとし) て超ボッタクリキャバクラを教えたらあっという間に作られた。

短期間で開店した店は、水一杯に金貨一枚(約十万円)なのに、なぜか気位だけは高い貴族の男性方に大人気に。

綺麗で気品のある女性とお喋りするのが貴族としてのステータスになるらしい。

ある時、下級貴族のダッシュ君にこういう店があるけどと聞いたら。

『はぁ?その日の食事にありつけるのもやっとの僕に喧嘩売ってます?』

とすごんできて、隣に座っていたマトモハリー嬢に資料で叩かれていた。

その時、周囲にいた中級から上の貴族の方達はそっと顔を背けていたけど

長兄はアリシアさんに、そういうところに行かれるのですか?と聞かれて、その後に俺は長時間の正座お説教タイムに入ったが。

俺の店じゃないから長兄に申告してなかったのだが説教延長タイム追加になった。

「でもいいのか?儂がやったことは坊ちゃんの言葉を伝えただけだぞ」

「それでいいんです。ロンブル翁の年の功か、伝え方が上手いので心が動くきっかけにはなったと思いますよ」

マロッド王子に俺はゼンーラ(元の名前は忘却済)を助けるため動くなと釘を刺された。

刺されたから、助けずに情報を集めたり、嫌がらせの工作を細々とすることにしたのである。

え?だって工作をしちゃいけないって手紙には書かれてなかったし。

ほらよく言うじゃないか、人の嫌がることを進んでしなさいって。

だからマロッド王子の嫌がることを全てしてあげようかなと考えているの。

「まあロンブル翁は楽しく遊びながら頼まれたことをしてください。相手側の情報は本気を出した商人達が教えてくれますから、もし急な襲撃がある時は使いの者を出しますから、お酒を抜いて帰って来てくださいね」

「急な襲撃のタイミングが、酒が抜ける時間があるぐらい余裕でわかるハイブルク家コエー」

「ちょっと襲撃されたよ、情報どうなってんの?とハイブルク、アレスト両家の権威を背負って重鎮商人達に伝えたので、今の問題が決着するまでは完全味方寄りになってくれます」

「超ヤベーよ。今の王都で悪さしたら全部知られるじゃねえか」

最近、ロンブル翁がすたれかけた酒場の二十七歳の未亡人女店主にいれこんでいるのも情報で上がってきているよ。

あとツケが溜まっているとその未亡人店主からの苦情も。

そちらは渡された紙には書かれていな……あ、他の文字の半分くらいの大きさで紛れ込ませてやがる。

これは侍女長にチクるか。

「じゃあ次はアレハンドロ。連絡はつけれた?」

「当主様、セイレム公爵、宰相、騎士団長とは」

「王妃様は?」

「残念ながら大奥様に阻まれて……。その代わりにセイレム公爵らには話が通る様にしてくださいましたが」

俺の命令を遂行出来なかった悔やんでいるアレハンドロ。

「あ~やはり王妃様はダメでしたか、まあ予想通りなので大丈夫です。他のが本命ですので」

詳しく聞いたら、アレハンドロの方のお仕事はほぼ完璧だった。

王妃様は確認出来たらいいかなぐらいだったので、俺達がやることにはないんだけどさ。

やはりヘルママが出てきたか……。

「王妃様がどう過ごしているかわかる?」

「常にイライラしていたかと、大奥様が宥めるふりをして煽り、ネチネチといびられた宰相とダッシュが半泣きで仕事をし、騎士団長は訓練に逃げました」

現在、国のトップはパワハラの嵐が吹き荒れているようだ。

ざまぁ♪

「セイレム公爵は当主様とアリシア様の間に入ろうとして、王妃と大奥様に連行されて父親という存在価値を否定、再教育されていました」

「セイレム公爵ぅ……」

昭和男前俳優も二大美魔女には勝てないらしい。

愚王とハイブルク前公爵の有数なクズが旦那だった二人だから恐ろしいことになりそうだな。

昭和任侠映画のシーンみたいになっただろうから少し観たかったな。

「坊ちゃんよぉ。ウチの裏のトップ大奥様が邪魔してくるなら、別の計画を立てたほうがいいんじゃねえか」

外見不良中年ロンブル翁が、ヘルママの妨害を危惧して言ってきた。

数多の経験を積んできた眼光が俺を測る様に見てくる。

「それは大丈夫ですよ。計画は相手側の結末が変わるくらいですし、それにヘルママはハイブルク家の為に動く人ですから」

「あ~そうだよなぁ。数年ぶり会ったから忘れていたが、あの女傑は坊ちゃんのハイブルク愛よりタチが悪いハイブルク狂だったわ」

俺の言葉に、一瞬で生臭オヤジに戻るジジイ。

ハイブルク愛ってなに?

いや自分の家族に愛はあるけど進化したら狂うの?

そこの変態執事、なにうむうむと頷いているの。ジジイは軽く俺をディスっているのよ。

「まあそれは納得した。だがこちら側の旗頭はどうしたよ?屋敷の中にいないだろう」

あ~そこ気づいちゃうか。

アレハンドロはショタ至上主義だからスルーしてくれるけど、ロンブル翁はハイブルク公爵家にその武力と経験で雇われているから、容赦なく言ってくる。

「え~とですね。急でしたけどちょうど良かったので、女王になるか兄ともいえる者を救うか選択させたら大泣きして、僕は拒絶されたのでグリエダさんに連れられてアレスト家の屋敷に」

「なんだそりゃ」

呆れた声を出すロンブル翁。

だよねー。

襲撃された次の日、情報収集中気分転換でグリエダさんとのじゃ姫リリィを連れて、人気の仕立て屋に向かった。

グリエダさんとリリィを程よく生気が無くなるまで魔法少女に変身させてポーズをさせて楽しんだのは侍女長には秘密である。

その時に俺達が何とかしてくれるようなことを言ったので選ばせてあげた。

実の兄を倒して女王の道を歩むか。

女王を諦め兄同然の 乳母兄(あに) を助けに行くか。

「まだ子供だろうがよ」

「セルフィル様は六歳で暗殺しに来た俺を配下にしたぞ」

「アレハンドロは黙る。ロンブル翁、幼くても違う目的があったとしても彼女は国の頂点を目指したんです。決断しないといけないんですよ」

テーブルの上に置かれたゼンーラの家からの招待状。

それにはマロッド王子の署名もされている。

中身はリリィと俺の招待で、行き先は指定された日に伝えるというものだ。護衛は少数、どうしてもグリエダさんを同行させたいように見える。

まあ彼女がいたらどんな詰みの状態でも盤ごとひっくり返されるからね。

その為に王都から馬車で半日ほどかかるアガタ公爵の別荘に、ゼンーラを人質にして俺達を呼び出そうしているのだろう。

え?どうして知っているんだって。

それは商人達が本気で情報を集めてくれたからですよ?

そんな十年以上前に王城で企てられた事を調べるような難題はさすがに無理でも、最近の貧乏貴族一家の動きぐらいなら、家名がわかればすぐに集めてくれるんだよね。

物の動きに敏感な商人さんは人の動きにも対応出来るようだ。

「だがなぁ」

渋るロンブル翁。

俺が学園に登校している間に、ちょくちょくリリィとゼンーラの相手をしていたようで、二人に情が湧いているようだ。

俺達兄弟の幼い頃も遊びに付き合ってくれていたから子供や若者の相手をするのが好きなのだろう。

まあ次兄、姉、俺の悪戯に悪乗りしていたともいう。

「いつかはリリィは選択しないといけないんです。年齢的にはかなり早まっていますが、今ならどちらを選んでも彼女がそんなに酷い事にはなりませんよ」

ただし、どちらでもベターぐらいにしかならない。

俺が最初の頃にミスしたからベストは消えてしまったのだ。

「それは」

「私達が」

「いるからですね」

「……僕の部屋の施錠はどうなっているんですかね?」

後ろを見ると俺の専属になっている三人メイドのアリー、セイト、カルナがすぐ傍に立っていた。

「もちろんセルフィル様の朝の起床の為の鍵で入室しました」

「変態とジジイと熱心に会話されているので、お声掛けせず背後に待機させていただきました」

「あまりにも気づかれないので、セルフィル様がそこの変態に夜這いされないか不安になります」

「ふざけるな。夜這いは暗殺した日以来していないぞ」

うん、侍女長案件にしておこう。

お宅の使用人達が自由し放題で困っているんですが。

え、飼い主の責任だって?

なら他のメイドと執事に変更プリーズッ!

俺の部屋への入室について話し合ったが、お互い平行線でまたの機会を設けることにした。(ただし変態執事は最初から許可が無い限り禁止)

「で、三人の体調はどうです?とくにアリー」

「おかげさまをもちましてお役目には支障はありません」

一人だけ名を呼ばれたアリーは肩に届く金髪を揺らしながら一礼する。

のじゃ姫リリィがパニックを起こした時に、この三人が対応して軽傷だが顔や腕に切り傷が出来ていた。

「うん女性に傷が残るのは世界の損失ですからよかったよかった」

「「「ありがとうございます」」」

笑顔で頭を下げる三人メイド。

「綺麗に治って少しは若返ったんじゃねえか」

「黙れジジイ」

「失せろ若作りジジイ」

「ハゲてきているぞジジイ」

ロンブル翁の言葉にアリーは親指で首を刈っ切り、セイトは親指を下に向け、カルナは中指を……(はしたないな、誰が教えたんだ?)しながら汚いものを見る顔で言い放った。

ジジイはハゲてないもんといじける。

アレハンドロは俺が手で止めた。

こいつが三人メイドに何か言ったら、各々の所持している武器が乱れ飛ぶ。

「それでは各自、当日まで任された仕事をこなしつつ怪我体調不良に気を付けるように。配置は事前に伝えた通りで」

「「「「わかりました」」」」

「あ~坊ちゃんよ」

閉めようとしたらいじけたロンブル翁がそろりと手を上げる。

「なんですか」

「アレストの婚約者様には今回の計画を教えてんのか?どう見ても嫌な顔をされると思うんだが」

「あ」

し、しまったあぁぁあっ!

情報収集やマロッド王子対策、ヘルママの事に頭をフル回転させていたからグリエダさんに許可を貰うのを忘れていたよっ!

「アレハンドロ馬車の用意を!今からアレスト家に向かいますよっ!」

怒るかな、怒るよね。マロッド王子対策はグリエダさんが嫌がるようなこと組みこんでいるから。

◆◆◆◆◆◆◆◆

「嫌だ」

「ですよね~」

説得しなければリリィのベターがベリーバッドになっちゃうよ!