軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リリアーヌろくさいなのじゃ…

「君は何をやっているんだい」

「少しやり過ぎたかなとは今は思います」

ばつの悪そうなセルフィルを威圧するけど全然堪えていないようだ。

仮に彼がアレストが日頃相手にしている辺境の騎馬民族の連中なら、それでも嬉々として襲撃してくるだろうと予想される程度の反省の姿勢。

後ろにいるダッシュ君とスナオ君は小さく悲鳴を上げてたじろいでいるんだが、どうしてこの子には効果が無いんだろうか?

「まさか反射率ゼロの真っ黒なのが本当に出てくるとは思わなくてですね。財団がいないから本気の危機でしたよ。でも子孫の愚王を GS(ゴールデンスマッシュ) したことを伝えたら、地獄にいる当事者の王子とその側近をGSしに行くと成仏されまして、ついでにそのうち逝く第一王子もよろしくと言っておきました。もちろん、グリエダさんに手を出そうとした奴にもGSですっ!」

「君は何を言っているんだい?」

拳を握り締めて満足そうなセルフィル。

もう言っている意味がわからないよ。

「セルフィル様は無理矢理第二王女様を危険な場所に連れて行きました」

「危険じゃないっ!普通に寮の廊下に行っただけじゃないか!」

「あんな真っ黒なモノが現れたのに、ウヒョ-ッS○Pだ!とか訳の分からない奇声を上げる人は、絶対に何か起こるってわかってて行っているっす!」

「言うようになったじゃないかスナオ君。僕が話を付けなかったら君はダッシュ君と一緒にGSだったんだぞっ!」

「「さっきから言っているけどGSってなんですかっ!?」」

二人共、私を見ても教えないよ。

乙女になんてことを言わせようとするんだい。

「あんな動きは人間にはできませんっ」

「まさか階段を上がってすぐ廊下の奥から立体機動で襲い掛かってくるとは驚きました。仰向けで四肢を使って這うのは四つん這いとは言わないんですかね?」

婚約者になってから気づいたが、私が一緒にいない時のセルフィルはいったい何をしているのだろうか。

今の私達は昼休憩の時をいつも過ごすテラスの一席にいる。

先ほど王城から馬で急使が学園にやってきた。セルフィルにではなく私以外受け取り不可の書状を持って。

書状の中には、学園にいる自称(はセルフィルがちょっとした嫌がらせで言っている)第二王女が、本物のリリアーヌ第二王女だということを王妃とヘルミーナ様が認めると書いてあった。

なぜ私宛に届けられたのか。それはセルフィルだと難癖をつけて王女と認めない可能性があると思われてのことらしい。

王女の身柄の全権限を委ねられているのに王女と認めようとしない。

その理由もヘルミーナ様が書いていたが、ひねくれ者のセルフィルらしいものであった。

「うぐっ!ヒック、うぇぇんなのじゃあぁぁ」

本物と証明された幼い第二王女は今、膝の上に乗って私に抱きついて大泣きしている。

そしていつもその位置にいるセルフィルは罰を受けている最中だ。テーブル横で義兄たちがしていたセイザというものをさせてみた。

アレストの屋敷でも罰に使ってみたが、後遺症が残らないのに反省を促すことができるかなり有効な方法だった。

「む、のじゃ姫。僕の定位置に泣くほど不満があるのですか?そんなこと許しませんよ。大した功績を残していない奴に限って肖像画を描いて残している学園長の絵の間に、数時間叩き込んやりましょうか。全方位からの自信満々のオッサンの絵の視線は中々精神にキますよ。少し動きますし」

「ヒウッ」

ただ、彼にはあまり効果がないのか、平然と王女を威嚇している。

その部屋はいくつかの絵の目が本当に動くというので施錠されていると聞いているが、どうやって入ったのだろうか。

午前中はどうしても貴族の当主として必修の授業があったのでセルフィルに王女のことを任せた。

私は当主になってから学ぶという異例の貴族なので、こういうのはキッチリと受けておきたいのだ。

必修といっても、貴族の当主になるために必要な科目であって、すでに当主になっている私には絶対に受けなければならないということではない。

だが基礎を学んでいないと、現在当主の仕事を一部肩代わりしている寄子の爺様達にからかわれる。それがイラっとするのだ。

あと、セルフィルの実務能力が高すぎて、辺境伯として年上として、少し危機感を持っているのは秘密だ。

学園は城よりも不審人物には厳しい場所なので、安全だと判断して午前中はセルフィルに任せていたのだが。

昼になっていつものテラスで彼を待っていたら、満面の笑みで大泣きの王女の手を引いてやって来た。

そしてダッシュ君にセルフィル様がやりましたぁっ!と裏切られている。

「はいはい、これ以上幼い女の子をイジメるのはよくないよ」

セルフィルの襟首を掴み持ち上げ隣の椅子に座らせ、王女も彼とは反対側に座らせる。

「のうぅっ!グ、グリエダさんっ!急に動くと足が痺れてアヒンアヒィインッ!」

「のじゃっ!?一人は嫌じゃっ!そこの扉から黒いのがニヤッと笑い出てくるのじゃーっ!」

セイザというものの本当の罰である痺れに叫ぶセルフィルと、私から離されて泣き叫ぶ王女。

ただでさえ注目されていたのに、さらに視線を集めてしまった。

話をするために座らせただけなのに…。

ダッシュ君達は自分は周囲に気を配っているので関わりあいませんとばかりに、顔を背けていた。

私は実力行使だけでいいとお願いされたから請け負ったんだがね、王妃。

「リリアーヌろくさいなのじゃ…」

温めたミルクが入ったカップを両手で持った金髪の幼い女の子がポツリと自分の名前を言った。

あれから、下に妹がいるというスナオ君に、子供が飲むようなものを注文してもらった。

私はお腹が減っていたのでミートソースのスパゲッティを大盛りで頼む。

最近、肉好きが喜ぶようなメニューが増えてきて嬉しい。あと甘い物が増えてきているのも。砂糖が不安定ながらも供給量が増えたおかげらしい。

そう自信満々で話してくれたセルフィルは、その件に確実に絡んでいるのだろう。

いつか話してくれると思っているが、話すこと自体を忘れていそうで不安だ。

「僕はハイブルク公爵の一番下の弟、セルフィルと申します。リリアーヌ王女とは同じ一番下の子ですね」

「ひぅ…」

「はて?挨拶しただけで涙が溢れそうですね」

あんたのせいだあんたの、と小声でも言わない方がいいスナオ君。セルフィルの耳はしっかりと聞いているから。

「それで私は、アレストという遠い土地を治める貴族のグリエダだ」

「た、助けてたもれ…」

「彼は礼儀がちゃんとしていれば何もしないよ」

「…本当か?」

「礼儀はよくても内容が悪ければ容赦ないですけどね。僕は子供が悪い事をしたら拳骨頬叩き推進派です。のじゃはいいですが、年上に命令口調は許しません」

「はう~…」

王女が私に手を伸ばしてくるが、同意見だから助けてやれない。辺境では吹っ飛ぶほど殴られるのが当たり前なので。

もっとも私は殴り返していたが。

私が勝てば大人達も喜ぶので、ある程度の年齢になるまで私も口が悪かったというのはセルフィルには秘密だ。

「臣下が勝手に剣を抜いて襲い掛かるなんて愚の極みです。危うく愚姫と名付けるところでした。子供だから許しましたが、まあ今後に期待しましょうか」

「のじゃ?」

「なぜか知りませんが、グリエダさんと僕が王女を預かることを王妃様から命じられました」

「うむ。よろしくなのじゃ」

「はっきり言って王女のことをほとんど知りません。王妃様が隠蔽していたのか、まあ、そういうのに疎い僕のせいかもしれませんが」

すまない。王女の身上は私が大体のことを教え、詳しい部分は本人と護衛が伝えることになっていたんだが、護衛の暴走と私の必修の授業でその機会がなくなってしまったのだ。

うん、さすがにここで言っておかないと、私のせいになってしまう。

「あ~すまな」

「お前らっ!私をあんな目にあわせて無事で済むと思うなよっ!」

正直に謝って許してもらおうとしたら、男のくぐもった罵声に遮られた。

このテラスがある建物は学園の中央にあり、どの校舎からもほぼ同じ距離にある。

応接室がある教導棟からその男は抜き身の剣を手にして出てきた。

素肌に軽装の鎧を付けて。

下半身は赤の布を巻きつけている。おそらく室内にあったカーテンだろう。

頭部は歪な兜をかぶっていた。

脱いでいないのは、歪になって脱げなくなったのだろう。骨が折れないように優しく握り潰したのが良くなかったのかもしない。

服を脱がせることは先に部屋を出ていく前に聞いていたが、鎧と武器だけ置いて服を何処かに隠したのかな。

「うわぁ、二つ隣の部屋に置いたから探すと思ったのに、後先考えずに剣を抜く奴は違うな」

うん、混乱していたら気づかない嫌がらせだね。

護衛だった変態は周囲に悲鳴を上げさせながらこちらに向かってくる。

さすがに迷惑、どころか生徒に危害を加えられた場合は護衛だけでなく、関与した私達まで罪に問われるだろう。

仕方ないので動こうとしたら、セルフィルが手で私を制する。

そしてポットから自分のカップに茶の残りを注ぎ空っぽにした。

「スナオ君」

空になったポットをスナオ君に投げ渡す。

彼はあたふたしながらも受け取った。

そしてセルフィルを見れば、そこには楽しそうに笑う小悪魔がいて、手を振って投げろと催促していた。

「ジェロイッ!」

「姫様っ!くっ、なぜ王妃はこのような連中に任せようするのか。忠臣の我がヒラリシュギョッ!」

「うん!グリエダさんに鍛えられてるだけあって投げるのも上手いね」

護衛だったジェロイという男は、スナオ君が投げたポットが頭部に当たって喋っている途中で真後ろに倒れた。

歪になっているが兜はなんとか頭を守った。

倒れた衝撃で半身を覆っていた布が取れて、周囲の子女達に剣を振り回していた時よりも大きな悲鳴を上げさせたが。

「スナオ君は投げ槍とか合うのかもしれませんね。今ハイブルク邸にGSという名槍があるので下賜してあげましょう」

王も潰した槍はセルフィルによってGSと名付けられてランドン男爵に渡されたのだが、朝起きるたびに痛むと言われて返却された。

由来を聞いた私の屋敷の者は嫌がり、セルフィルが喜んで貰ってくれたのだが、ようやく使える者の手に渡るのか。

スナオ君はだからGSってなんなんだよ、と嫌そうにしているが。

「さて、王女様。半裸鎧に助けを求めようとされましたね?」

「し、していないのじゃっ!」

自分の護衛が現れて味方がやって来たと喜んだ王女だが、その味方はあっという間に倒されてしまった。

「一応僕は王女様と認めたのに半裸鎧を頼るとは残念です…。残念ですから数時間ほど衛士の詰め所にいてもらいましょうか。貴族の子女を守る学園の衛士ですから、実力のある仕事に忠実な人達です。ほら半裸鎧を拘束しに来ましたよ」

見ると王女の護衛なぞ問題にならないくらい筋肉の塊のような衛士がやってきた。二人が護衛の両脇に手を入れ立ち上がらせ、一人が布でソッと隠す。

紳士だね。

「衛士の方達はお菓子をくれる良い人達なんですが、スラム街でもいないだろうという多少いかつい顔をした人が多くて。僕もしばらく一緒にいると、売られるのかなと不安になってきます」

「嫌じゃー!言うことを聞くからやめてたもれーっ!」

「はっはっはっ、朝から正門で王女発言して迷惑をかける子はいりませんね」

普段よりも口は悪くなっているが、ジタバタしている王女を見る目は楽しそうにしている。

王女は少々可哀そうだけど、辺境伯とその婚約者に護らせるのだから我慢してほしい。

「うん、美味いね」

それよりも冷めるとミートソースの味が落ちてしまうので、早く食べないといけない。

セルフィルも王女とは相性が良さそうだし、一方的にだが。

嫉妬はしないよ。

セルフィルはちゃんと私を見ていてくれるからね。

手を出したら許さないけれど。

「なぜでしょう、背筋がゾクゾクッとしましたね。幼女をイジメるのが楽しい?いやいや、僕は宰相みたいなオッサン達が悔しがる方が大好きなはず」

王女のことを話すのはもう少し後にしよう。

それよりもダッシュ君、衛士達のところに行ってくれ。あのままだと王都の警備兵に突き出されて迷惑をかけることになりそうだ。