軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ダッシュ君のある一日 前編

「ああ、朝がやって来た・・・」

目覚めたくないのに朝日で勝手に起きるこの身体が恨めしい。

もそもそとベッドから出て着替える。

子沢山過ぎて一般男爵より少し下の我が家では、五男坊の俺の着替えの手伝いをしてくれる侍女なんていない。

産まれた時から上の兄弟に世話してもらい、それなりに成長したら自分で身の回りは出来るようになっていた。

「おい。ちゃんとやっているんだろうな」

薄切りの黒パンに庭で採ったオレンジのジャム、パサパサのチーズ、それに井戸水、それが男爵家の朝食だ。

たいして旨くもないそれらを喉の奥に流し込んでいると、一人だけ朝からワインを飲んでいる父が俺に話しかけてくる。

太って脂ぎっていつも酒臭い。

ハッキリ言って僕も兄弟たちも尊敬していなかった。

「ハイブルク家の三男でも気に入られれば、いい思い出来るんだぞわかっているのか」

「はい・・・」

ここのところ顔を合わせるたびに言われることだ。

少し前には絶対に近づくな、目が合っても逃げろと言っていた同一人物とは思えない。

くどくどと垂れ流しの言葉を聞き流して朝食を終えて、学生の僕は学園に行く準備をするために自室に戻ろうとすると。

「おい。本当にわかっているんだろうなごく潰し」

「・・・」

食堂から出ると次期当主に決まっている長男である兄が、父と同じ傲慢な顔で言ってくるが、朝から疲れ果てた僕は何も答えなかった。

後ろから罵声を浴びせれても気分が落ち込むぐらい。

「聞く必要はねえぞ。俺達には何の恩恵もないことなんだからな」

「うん、わかっているよ」

一緒に食堂を出た四男の兄さんが励ますように頭をわしわしと撫でてくれた。

この家で唯一の味方だ。

もう一人いた三男の兄さんは三年前に家を出て王都の警備兵として働いている。

長男は男爵を継げるから父の意見が絶対で、次男は万が一の予備のために家臣の家に預けられていた。

父の今の妻は三人目で、僕の実の母親だが、父の下でしか生きていくことが出来ないので言いなりである。

三男から下の僕たちはたまたまできた子供たちでしかない。

貴族の恩恵は次男までというのは、貴族に生まれた男はみんな幼少期に教え込まれる。

上位貴族なら家臣の家に婿入りも出来るだろうが、僕達のような貧乏貴族にはそういうクチはない。

学園を出るまでにコネを探して就職先を自分で見つけなければならないのだ。

だから三男、四男、五男の僕たちは学園行事の雑用係で小遣い稼ぎをしながら、コネ探しをしていたのである。

それでまさかあんな悪魔に目を付けられるとは思わなかったけど・・・。

「まあ俺達にはあり得ないくらいのコネがあちらから来たんだ。側近とかになったら俺を取り立ててくれよ」

「ハハハハ」

運よく娘しか産まれなかった男爵家に婿入りできることになった四男兄さん。あの悪魔は数秒後には何をするかわからない生き物なんですよ。今までかばってくれた優しい兄さんを生贄には出せないって。

学園までは徒歩で登校している。馬車登校できるのは子爵ぐらいからなのだ。

身体は健康なのに全身が重い。

だって逃げることが出来ない罠に進んでいくのは、どう考えても気が重くなるだろう?

「はぁ~」

「どうしたんだよデカい溜息を吐いて」

「どうしたもこうしたも、最近の僕を見てればわかるだろう?」

途中で会って一緒に登校している友達が心配してくれる。

下級貴族の恩恵を受けられない子供たちは派閥とかのしがらみなく付き合えるのだ。

「あ~、でも凄いコネじゃねえか。俺達じゃ奇跡と言われているんだし」

「そうだね奇跡だね。悪魔の奇跡だけど」

四男兄さんと同じことを言う友達に乾いた笑いを返す。

僕は三男兄さんを頼って下っ端役人になれればよかったんだよ。

それがあの卒業パーティーの給仕係の賃金の良さに目が眩んで働いたせいで覚えられ、目が合った時に全力で逃げたせいで目を付けられた。

「ようやく来たなダッシュ君っ!」

中等部の正面玄関前に悪魔が立っていた。

昼までは自由な時間だったのに、なぜか僕のことをダッシュ君と呼ぶ悪魔が待ち構えている。

「最近少しずつ登校時間が遅くなっているね。そんなことでは真のブラックな社畜にはなれないぞ」

悪魔はわからない単語を使ってくるけど、絶対にロクでもない意味だ。だって今までロクでもないことにしかなっていないのだから。

そして今回もロクでもないことが起きるのは確定である。

「どうして高等部の女生徒の制服を着ておられるのですか、セルフィル様」

だって男なのに女の子の制服を着ている時点でおかしいこと起こすよ、と言っているようなものなんだもんっ!

「ん?これかい。話せば長くなるんだが・・・」

肘を掴み、もう片方は少し傾けた顎に人差し指をつけて悩む姿は小柄な美少女にしか見えない。

さらさらの金の髪に、その男も魅了する少年の顔は化粧をしているのか更に少女よりになっていた。

詰め物でもしているのか、体形は小ぶりだが胸があり、女子達が羨む腰の細さを、たぶん改造されている制服が際立たせる。

そしてその流行りの短めのスカートから白の長いソックスで包まれた細く美しい脚が伸びていた。

「うをっ!」

友達がセルフィル様を見て興奮している。

いやな性癖を知ってしまった・・・。

「隣にいるのはダッシュ君の親友かい?」

「はいそうですっ」

止める前に友人が答えてしまう。

「そうかいそうかい、君の目から見て僕は可愛い?」

そういってくるりと回る男の子。

ふわりとスカートが広がって太ももの中頃まで捲れ上がって、複雑な編まれ方をした何かが見える。

「いいですっ!」

「なに中身まで揃えているんですかっ!あなた公爵家の三男ですよねっ!」

この年下の変態の悪魔は友達に柔らかく魅了する笑みを浮かべる。

友達が巻き込まれるのは嫌だっ!

「君はどこの派閥?」

「あ、えと一応王家だったと思います。なんか親達が怯えているんですよね」

「ふむふむ、ダッシュ君!彼の家はどうだった?」

「はいっ!小さいことはやってますが大丈夫です!あ」

散々、奴隷のようなしごきをされたせいで急に聞かれると反射的に答えてしまう癖がついてしまった。

ごめんよ友達ぃ、僕が逃がしてやればこの悪魔に目を付けられなかったのに。

セルフィル様が友達に近づいてつま先立ちしながら、その両肩に手を置いた。

「ねえ君」

天使のような笑みを浮かべて友達を見惚れさせるセルフィル(あくま)様。

「お父上に僕が、派閥変えようねって言ったって伝えてくれる?」

「・・・はい」

ごめん友達、その悪魔はそうやって王城でも 仲間(どれい) を集めているんだ。宰相様が部下を取られてグヌヌッと悔しがっているのを見て喜んでいるんだよ。

「よしっ!君は今日からスナオ君だっ。ダッシュ君の友達なら必要な授業は取っているね?これから高等部に潜入するぞっ!」

「また変な事をしようとしているっ!一人で行ってくださいよっ」

人の友達に変なあだ名を付けて、あなたは名前を覚えるつもりないでしょう。

「じゃあ二人が付いて来てくれるみたいだから護衛はいらないから」

「「「ホッ、頑張ってね」」」

よく見たらセルフィル様の周囲にいるのハイブルク家の寄子の子供たちじゃないか。

僕達に問題児を押し付けて逃げるつもりだなっ。

「さあさあ行くよ~」

「待ってくださいっ!せめてあいつらのうち何人かは道連れにしないと」

「いいじゃないか。なあダッシュ君」

「適応が早過ぎだよ!なんで僕の呼び方がダッシュ君に変っているの、君、友達だよね!?」

「あはははは、スナオ君はノリがいいなぁ」

女装した少年が僕と友達の手を引っ張って、楽しそうに高等部に行こうとする。

周囲のみんなは女装の小悪魔に見惚れるけど誰も助けてくれない。

あ、先生っ!

目を逸らされたーっ!?