軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

さて彼女の為に国盗り物語でもするかな

「そこのお二人さん、あなたたちのピアスをくださいな♪」

「やるなっ!何をするかわからんがやるではないぞ!」

セルフィルが現宰相アガタ公爵と騎士団長ランドリク伯爵の二人に代行のピアスをねだったら愚王が阻止してきた。

さすがに銀髪を背中に流した深紅のドレスを纏った女に抱きしめられている、この国ではありふれた金髪碧眼の子供が、自分が催して全てを王である自分の手中に収めようとしていたのを壊したぐらいは愚かな彼でも理解できた。

二人のピアスが渡れば何かが終わると感じるぐらいの危機感ぐらいは残っているのである。

だけどそれはもう何歩も遅かったのだ。

「わ、渡すものかっ」

「そうだピアスが無ければお前がやろうとすることはとん挫するのであろうっ」

愚王の言葉に力を貰ったのか、ただ王家に擦り寄るだけで家を維持し続けた公爵と、娘が王の寵愛を受けて次期王の祖父になるから自分には逆らえるものはいないと勘違いした伯爵がセルフィルに反発する。

「別に渡してくれなくても構いませんよ」

二人にコテンと首を傾げる子供の形をした悪魔の表情は会場に入ってからほとんど変わっていない。

「その時はこの会場にいる愚王に擦り寄った者達を全員数日生きているだけの物に変えるだけです。ええ僕の婚約者が」

自分では一人も倒すこともできず、人任せにしかできないその悪魔は、そちらの方が楽だと言わんばかりに笑う。

その彼を熱のこもった目で見ながら抱きしめるのは、たった一人では騎士団も王城を正面突破も出来ないと愚王の彼が否定した人の女の皮をかぶった化け物だった。

「あぁセルフィル、君の為ならこのドレスをさらに紅く朱く彩ってもいいよ」

化け物のグリエダは悪魔の彼、セルフィルの為に動けることに興奮を覚えていた。

セルフィルは敵対する貴族、王族、そして王を地獄に沈めようとしている。

それはグリエダの為、彼女の誇りの為にあっさりと悪魔のディナーの用意を始めたのだ。

当初の予定ではグリエダの力技で愚王を黙らせて二公爵と復帰させた宰相と騎士団長で愚王達の大半の権限を奪い取る作戦だった。

それは被害を被った三家の為、御家の為国の為にである。

だが今のセルフィルはそれらを全部投げ出した。

彼が転生して最初に決めた目標、自分を産んでくれた少女を幸せにするためだけにある一族の思考を元凶になった自分の父親を追い落とすために変えたように。

彼は目的を、グリエダとついでに同じ状況のアリシアの誇りの回復一つに絞った。

後の影響、自分の今後、貴族、国、家、敵対した愚王達の結末。

それら全てを考えなければどんな方法でも彼は取れてしまう。

それが前ハイブルク公爵から全てを奪い、這い出ることのない泥沼に沈めた悪魔である。

「アガタ公爵、あなたの家は一度も宰相になった者はいないそうですね。今後の国の展望でも教えてくださいませんか?そこの愚王の言う通りに実行すると言うのだったら失格ですので、その何も見えない目を本当に見えなくしましょうか」

グリエダが返さずに持っていた槍の穂先を宰相に値しない公爵の目にピタリと合わせる。

瞬時にアガタ公爵の目の前に現れた槍は動いたという事実の風で眼球を乾かした。

「ランドリク伯爵、あなたは騎士団長の前にアレスト辺境伯の隣領という重要な領地を拝領しているにもかかわらず国を危機に瀕させる行為をしていたことを理解していますか?わからないのなら自分の娘の言葉しか聞こえない耳を削ぎましょうか」

次は伯爵の耳に穂先が現れる。騎士団長なのにその槍の軌跡は少しも見えない。

ただそこには自分の領地を困窮させた恨みが入ったのか先端が耳たぶをかすり血を流させた。

「ねえ」

セルフィルではなくその背後で槍を向けていたグリエダが二人に声をかける。

「二人共そのままその張りぼての地位にいてピアスを渡すな。御家より自分の身よりもその権力が欲しかったのだろう?それなら最後までしがみついて私に首を落とさせてくれないか」

そちらの方がセルフィルの為になると言わんばかりの傲慢な懇願。

深紅に彩られたアレストの華は妖しく笑みを浮かべていた。

御家の存続を考えず、その身は誰にも傷つけられないと思い生きてきた二人、それは国防の最前線で咲く圧倒的な暴力に塗り替えられた。

身の丈に合うことない権力を欲した二人はその小さくみすぼらしい翼を悪魔に関わったばかりに深紅の華に手折られる。

「つまらないですね。選んだのは自分可愛さですか」

貴族なら絶対に敵対する者には渡してはならない権力を象徴するピアスを悪魔に渡す。

ほんの数分のやり取りで彼らは年齢よりも遥かに老けた。

自分達の派閥の者も命と変わらないピアスを渡し、自分達も差し出した。

それは今この時を生き残るためだったが、悪魔が手に入れたものをそのまま返すはずはない。

セルフィルは渡されたピアスをお前らの命はそのくらいの価値しかないと言わんばかりに軽く投げて掴んだ。

敗北者を置いて悪魔と深紅の華はメインディッシュに向かう。

関わらなければ世界でも上位の人生を送れただろう二人は隠蔽された悪魔を知らなかった故に、華の匂いに誘われその中に宿る毒を知ろうとしなかった故に食べられることになる。

「ハイブルク公爵家三男のセルフィル、王からの招きにより参りました」

「グリエダ=アレスト女辺境伯、同様に参りました」

腰から曲げての一礼、この意味がわかっていたらまだ救いがあるのだが。

セルフィルとグリエダが頭を上げると愚王はヘレナ側妃を抱きしめて怯えの目線でセルフィルを見ていた。

彼らが最敬礼をしていないことにも気づいていない。

「さて自分達の全てを賭けた火遊びは楽しまれたでしょうか」

「火遊び・・・だと?」

セルフィルは愚王の愚行をそう判断している。

「だってそうでしょう?忠臣たるセイレム公爵を散々コケにして見限られる行為、そこの側妃を使っての国を揺るがしかねないアレスト辺境伯領への荷止め、この二つだけでもあなた達はその首を王都の門の前に晒されてもおかしくないのですよ。自分から火の中に飛び込んで行っているとしか思えません」

わかりやすい重い罪を告げられても罪と認識していない愚者達は戸惑うばかり。

それがどれだけ重大なことか学ばなかった二人なのだ。

愚王も側妃も全ての我が儘が許され、学園で自分達の息子のように真実の愛に目覚めて国の重責を理解せずに成長してきた二人である。

先王が造ってくれた楽園に次第に不満を持ち子供と共に外に出た彼らは責任とこれまでのツケを払ってもらわなければならない。

「セルフィル様」

「ん、ああ全員分集められた?」

セルフィルにマトモハリー嬢と心の中で名付けられた少女がその身に着けているエプロンを広げて色とりどりのピアスを載せてやって来た。

その傍には元宰相と元騎士団長が付き従っている。

「その、ボルダー侯爵様に確認してもらい。ヒルティ子爵様に危険が及ばぬように護衛をしてもらいながらなんとか」

息子達に振り回された二人は自分達から動いた。

これから起こることを知ったうえで、少しでも印象を良くするために。

「私と貴族院に属する者で確認した」

「万が一この娘に危害が加えられられぬように付いた。アレスト家の者達が信用できぬわけではなく・・・」

「さすがお二人ですね。ありがとうございます」

「礼を言うヒルティ子爵、あなたが付いていれば誰も拒否することはできないだろう」

セルフィルもグリエダも感謝することで彼らの気持ちを汲み取ったことを伝える。

「さて、ん~んっあーあー」

セルフィルは声の調子を整えた。

これから己のすることに少なからず緊張しているのである。その中身はそれなりの年季の入った心があるとしても所詮は一平民でしかなかったのだ。

その彼を包むように槍持つ紅き女神が抱きしめる。

落ち着かせるために、そして彼を最強の自分が守るために。

ひ弱な身体を持つ悪魔はその抱擁に笑って返すしかない。

「セルフィル=ハイブルクは貴族法214条を全貴族の合意の元に行使する!」

セルフィルは宣言する。

最強の女神の加護を受け、行使されることがありえない王を超える簒奪者の法を発動させた。