軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 最前線へ

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「……なぁ、アルの旦那ヨ」

「ん? どうかしたの、ジレド?」

「いや……まぁ、そりゃ俺は頼んだサ。『砦から出る口添えをしてくれ』……ってナ。こうして無事に砦を出れたのは感謝してるサ。氏族のもとに帰されていたら、俺はとっとと切り捨てられてただろうしナ」

「確かにそう言ってたよね。良かったじゃないか?」

「ああ。その点にハ……渡りを付けてくれたアルの旦那には感謝してるサ。ルーサム家のおっかねェ尋問も、今となれば必要なことだったとは思うゼ」

「ふんふん」

「でもよォ……」

「ん?」

「何で俺が最前線の旅路に付き合うことになってんダ?」

「え?」

アルとジレド。ヒト族の狂戦士と小柄なオーク族の戦嫌い。

療養所で何となくに意気投合した二人。燃え尽きていたアルは、氏族のやり方に馴染めない、そんなジレドが受ける理不尽に憤りを感じ、力になりたいと思った。

力無き者を援けるのは力在る者の義務。

貴族に連なる者として、彼の出自であるファルコナー家の流儀の根底にある考えだ。

神々の思惑であったり、“物語”の強制力、クレアの暗躍、原作主人公や敵役の運命であったりと……アルはそんなものに首を突っ込んで来たが、彼の身に沁みついた流儀というのは、そもそもはそんな大仰なものに関わるモノではなかった。日常を生きる際の心得のようなモノ。身近なモノ。お婆ちゃんの知恵袋的なモノだ。

アルはそんな初心を思い出した。

『そうだ。もう既に託宣なり“物語”なりからは大幅に流れが変わっている。僕の興味だとか、“物語”の修正力的な衝動よりも、目の前で困っている力無き者を援けることの方が大事じゃないのか?』

初心が胸中に浮かんできた彼は、手始めにジレドを援けることにした。押し付けであればそれも問題ではあったが、アルとジレドは、お互いの立場をよく知らぬ者同士の気安さもあってか割とすぐに馴染んだ。

「そうだなぁ……ここを出ても、領都までの旅路は徒歩じゃ危険でしょ? 何なら護衛として一緒に行こうか?」

「ほへ? い、良いのカ? そ、そりゃぁ、最前線に向かおうかという戦士に護衛して貰えるならありがてぇんだガ……あ、あんたはソレで良いのカ? 礼は当然するにはするが……そこまでしてもらってモ、正直なところ割には合わねぇゼ?」

「はは。そういう誠実な気質は嫌いじゃないよ。ヴェーラには……あ、僕の従者をしてくれてる大切な 女性(ヒト) のことなんだけど……彼女にはたぶん怒られると思うけど相談はしてみるさ」

「お、おお……! 何から何まで済まねぇなァ……よし! あんたのことはアルの旦那と呼ばせてもらうゼ」

「はは。まだ感謝には早いよ。まずはルーサム家に話を通してからだけどね。彼らがダメだと言っても、せめて氏族のもとに戻らずに済むようには頼んでおくよ」

療養所でのそんなやり取り。気が抜けているが故にか、アルは自分が思うことをつらつらと語る。

ただ、そんなふわふわしたアルはまるで気にもしていなかったし、確認しようともしなかった。

ジレドが持つという『情報』について。ルーサム家に有益だという情報。

……

…………

当然、アルから諸々の事情を聞いたルーサム家の者……クスティは困惑した。

「い、いや……アル殿。普通に考えて、氏族の中で下層に位置するよう者が、我々にとって有益な情報を持ち合わせているとは思えないんだが……」

「え? あ、あぁ。そう言えばそうか……あれ? 何でこんな当たり前のことを? ……も、申し訳ないクスティ殿。少しぼんやりしていたみたいだ。その情報とやらを確認することもなく、クスティ殿にいきなり話を持ってくるのも失礼な振る舞いだった……伏してお詫びを」

流石にアルも気付いた。自身の気の抜け具合を。もっとも、自覚を持ったところで、ふわふわと地に足を付けてないような感覚は抜けない。

「ま、まぁ……せっかくだ。とりあえず、そのジレドというオークに会うだけ会ってみよう。その情報とやらが有益であれば当然にありがたいことだ。もしそうでなくても、特に気にすることもない。どちらにせよ、そのオークを氏族のもとに帰さないようには手配はしよう。戦う覚悟の無い者を無理矢理に戦わせるというのは……私にも思うところはある」

「クスティ殿……重ね重ね申し訳ない」

アルに対して若干の呆れを含みつつも、強大なオーガ戦士との死闘による虚脱が続いているのだろうと、クスティはそこまで深くは考えなかった。特別にジレドというオークから有益な情報が出るなどと思ってもいなかった。どうせ、他の戦士連中から又聞きしたどうでもいい情報だろうと。

しかし、そうではなかった。

……

…………

………………

「私はルーサム家のクスティだ。バライア軍団長の補佐役をしている」

「ぶひぃッ!? ぐ、軍団長の補佐役!?」

大峡谷に集落を持つ氏族には、ルーサム家の内部事情も知られている。

最強と誉れ高きルーサム家私兵団。

比較的友好的な氏族であれば、入団を夢見て研鑽を積む戦士も少なくはない。

そんな私兵団は、軍団長がそれぞれに独立した指揮を執るという体制であり、当然に軍団長は戦士の中でも最強の一角と誉れ高い地位だ。もちろん、その任務の性質や特性によって、強さだけで軍団長が決まるというものでもないのだが、その地位が高いのは間違いない。

当然のことながら、軍団長の補佐役も大概に高い地位だ。

ジレドは、まさかそんな地位の者がふらっと一人で現れて、こんな修繕の済んでいない掘っ立て小屋のような場所で面会するなどと思ってもいなかった。

「あ、あ、あ……アルの旦那から……ノ、紹介デ……お、俺は、バ・レバ氏族のジレドといウ……し、しがないオーク……でス」

「ん? ああ。私は軍団長の補佐役と言っても、ただの使い走りのような者だ。それほどに緊張することはない。辺境の地で礼儀など無用だと知っていように……」

そこにはクスティの謙遜もあるが、実情を正確に説明してもいる。彼が所属するバライア軍団はあくまでも諜報が主であり、このような場合でもなければ、特別に肩書を明かすこともない。それにバライア軍団は少数精鋭であり、所属する者はほぼ全員が軍団長補佐役の肩書を持つという、何とも締まらない事情もある。

「は、はぁ……しかシ……」

「まぁそんなやり取りよりもだ。こちらも戦の後始末がまだある。アル殿は功労者だし、ジレドと言ったな? 貴殿を氏族のもとに戻すことはしないように手配はしてやる」

「え、えッ!? ほ、本当ニ!?」

あっさりとジレドは目的を達する。

いくら功労者たるアルの口添えであっても、本来はここまで呆気なく便宜を図るような真似をクスティもしないのだが、軽く調べただけでも、ジレドに重要性が無かったのだ。

特別に身代金を取れる訳でもなく、かと言ってルーサム家私兵団に取り込むほどの戦士でもない。そもそも戦士としての気質が無くて抜けたいと言っているのだ。いっそ生産者、労働者としてどこぞの砦で働いてくれた方がルーサム家としても助かるというものだ。

「貴殿が持つ情報によっては、その上で付加価値を付けてやらんでもない。……ただし、その情報がどうしようもないモノであれば……負の付加価値を付けるやも知れん」

「うッ!?」

「何を驚く? 提出する情報に対価を求めたのは貴殿だろう? それとも何か? 有益な情報というのはハッタリなのか?」

オドオドとした態度。泳ぐ眼に波立つマナ。

そんなジレドにクスティは失望はしない。どうせはじめから期待などしていなかったのだから。

「さぁどうする? 何なら情報がハッタリだと認めるのであれば、正も負もなし。ただ砦から普通に解放するだけで済ませるぞ? それでも当初の目的は果たせるだろう?」

しかし、アルから聞いたジレドの境遇にクスティが同情したのも事実だ。氏族の掟なり流儀については、他氏族はもとより、他種族であるクスティなどが物申せるような代物ではないが、理不尽な事に憤りを感じるのはその者の自由だろう。

オーク種族。特に大峡谷に集落を持つ氏族などは、戦士以外は氏族に非ずという気質が強い。そんな中で、戦士の資質がない者が生き辛さを抱えているというのは……誰であっても想像に難くない。

どちらにせよ、クスティはジレドを普通には解放するつもりだったのだ……その情報を聞くまでは。

「いヤ……た、確かニ……アルの旦那の前では有益な情報とは言ったガ……あ、言いましたガ……俺の情報にそれほどの価値はなイ……と、思ウ。あ、思いまス。多分、ルーサム家の方々も知っているでしょうシ……一応伝えていた方がいいだろうなァ……と言う程度でしテ……」

そして、ジレドは語る。語ってしまった。

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……

…………

………………

「いや、だってジレドが言ったんでしょ?」

「は? な、何をダ?」

現在、アルはクスティ達の案内を受けて最前線へ向かっている。その一行には何故かジレドの姿も。

「魔族領に居座っている連中が、かなり以前から大峡谷内に入り込んであちこちの氏族をまとめてるって……」

「あ? そ、それはそうだガ……い、いや、最前線でバンバンやり合っているルーサム家なら、とっくにその辺の事情なんて知っていると思ってたんダ。大峡谷はルーサム家の庭みたいなもんだからヨ……」

ジレドからの情報。現在、最前線……大峡谷の終わりであり、魔族領の始まりたる地で、激しくルーサム家の幾つかの軍団と激しくぶつかっている連中。総帥ザガーロが率いる外法の求道者集団。

そんな彼らではあったが、実はかなり以前から密かに大峡谷内の色々な氏族にコンタクトを取っていたという。

何でも『大峡谷はじきに瘴気の渦に呑まれる。助かりたければ話を聞け』という与太話だ。当然に相手をする氏族は少なかったのだが……十年ほど前から、徐々に魔族領の瘴気問題が聞こえるようになり……耳を傾ける氏族が増えてきているという状況。

その上で今回の騒ぎがトドメだ。魔族領の半分以上が瘴気の渦に呑まれた。

そして、既に彼らに協力した氏族たちには、『瘴気の中でも普通に暮らせる魔法術式』という、何とも妖しい術式がばら撒かれているという。

そもそも、王都においても、魔族の開戦派を騙って十年単位で潜伏するような仕込みをする者達だ。お膝元である大峡谷で暗躍しない筈もないというところか。

彼らの術式を受け取った氏族連中は、いっそのこと大峡谷が全て瘴気に呑まれてしまえば、まともに動けないだろうルーサム家を何とか出来るのでは? ……という昏い願望を抱くようになった者達も少なくない。昔から因縁のあるルーサム家の敵対氏族は、特にその傾向が顕著であり既にその為の準備にまで着手していた。

ジレドの属するバ・レバ氏族は比較的ルーサム家に友好的な氏族ではあったが、そんなバ・レバ氏族にまで“そういう話”が回ってきているということは、ルーサム家が知らぬ間に……各氏族に思惑はあれど、要は『瘴気を友とする一大勢力』が築かれていたということ。

「ふ……ふふ。諜報を主とするバライア軍団に属する者としては……まったくもって耳の痛い話だ。庭である大峡谷のことをまともに知らなかった訳だからな……」

「アァッ!? い、いヤ! べ、別にルーサム家を当て擦ったわけじゃなくテ……ッ! いやいや! アルの旦那! 結局、俺は何で一緒に最前線へ向かってるんダッ!?」

ジレドとしては、自分の持っていた情報が思っていたよりも重大なものであり、相手がルーサム家に気付かれないように、慎重に慎重を重ねて事を進めていたことなど知る由もなかった。そもそも、彼の持つ情報自体は、もう既に他の者も知っているのだ。

「言っちゃ悪いけど、いまやジレドでも知っているような情報を、ルーサム家がこれまで把握できなかったというのが怖い所だよ。逆に言えば、もう知られても良いと相手が判断して、情報が一気に巡るようになったんだろうけど……要はコレも攪乱の一つだろうね」

完全に諜報戦においてルーサム家は後手に回った。最前線で派手にやり合っているのも、『もしかするとこの戦いも何らかの偽装かも知れない』……そんなことにまで思いが至ってしまう。疑心暗鬼の種が撒かれてしまった。

クスティはジレドから話を聞き、顔色を蒼白にしつつも、即座に各所に連携を取る為に動いた。当然にアルとジレドの目論みも一部を除き白紙撤回だ。

「アル様……少しは“戻って”きましたか?」

「あぁ……まだ少しぼんやりとしている気もするけど、そうも言っていられないからね。ここからは……本格的に戦だ。とりあえず、瘴気ということでセシリー殿やダリル殿の助力は必須だろうしね」

大峡谷から魔族領を舞台にした大規模な戦の機運が高まっている。いや、既に機は熟していたのをルーサム家側の把握が遅れた。

「なァ! アルの旦那! だからなんで俺まデッ!?」

「ん? いや、だって、僕はジレドの護衛をするって言ったでしょ? ジレドだって頼みたいってさ」

「ぶひッ!? そ、そりゃ確かに言ったガ……アレはもうご破算だロ?」

「ジレド。恐らく大峡谷は戦場になる。戦いを好まない君を連れて行くのは気が引けるけど、あのまま一人で領都である砦まで行かせる訳にはいかないよ。大規模な戦となれば、魔物よりも脅威度は高い。力無き者を援けるのは基本のキの字さ」

お前一人なら死んでいる。

そう言われて良い気分になる者も居ないが……ジレドは、よくよく考えればそれはそうだと納得に至る程度には、自分を含めて周りを俯瞰的に見ることが出来た。

「お、おおゥ……た、確かニ……言われたらそうカ……? い、いや……でも、最前線だロ……?」

若干に諦めきれないところもあるが。

「いやいや。何で戦の場にまでジレドを連れ回すんだよ。そんなことはしないさ。元々僕だって、最前線を目指していたのは別に戦列に加わる為ってわけでもないしさ」

「そ、そうなのカ? 俺はてっきり戦うためかト……」

ジレドには戦士の強い弱いはほとんど区別できない。しかし、何気なく声を掛けて知り合ったアルが、相当に強い戦士だということくらいは分かる。大峡谷をここまで平然と闊歩できるのは……モノが違うと知っている。

「ま、袖振り合うも他生の縁ってヤツさ」

「はア? 何だそれハ?」

何気ないやり取りだが、そんなアルとジレドを見守るヴェーラの胸には、いまは“微笑ましい”が戻ってきている。その瞳には穏やかな光が宿っている。

元々は戦士として求められた訳ではない。そんな出会いによって知り合ったジレド。少々毛色は違うが、ヴェーラは何処かコリンと楽し気にやり取りしていたアルを幻視していた。

「ジレド殿。絶対に大丈夫とは言えませんが、一人で大峡谷をウロウロするよりは、アル様の目の届く範囲に居る方が無事でいられる可能性は高いと思いますよ?」

「うぇッ!? だ、だから止めてくれっテ!? 俺は戦士たる者に“殿”なんて呼ばれるような御大層な身分じゃねぇヨ!」

「しかし……? アル様のご友人なら……」

「……なァヴェーラさんヨ。従者とは言うが、あんたはアルの旦那の 番(つがい) だロ? むしろ、俺の方こそ奥方様と言わねぇト……想像したのとは違うガ……ま、まぁ……アルの旦那に世話になってるのは違いねぇからナ……」

何だかかんだと言いつつ、ジレドはアルに恩があるというのは、事実として受け止めている。そもそもアルの口添えが無ければ、氏族のもとに帰されていたかも知れないのだから。

それに、別にアルが嫌がらせでジレドを前線に引っ張っていこうとしているなど思ってもいない。護衛というのもアルの本音なのだろうということは、ジレドとて理解はしている。しているが、どうにも、ちょっとだけ納得がいかないだけだ。

「は……い……? つ、番? ……オ、オクガタサマッ!?」

そして不意に壊れるヴェーラ。

まぁそれはそれ。

アルはかつての自分を思い出した。ほんの僅かに開いた扉を再度こじ開けた。

新たなマナ制御と共に、己の感情にも若干の違和感を抱いたまま。ただし、その違和感は不快ではない。

彼が歩くのは血塗られた道ではあるが、いまはその歩みが軽い。それは血を流す側からすれば、軽やかに狂戦士が迫って来るのは悪夢でしかないが。

ほぼ同時期に、神子セシリーも目覚めた。それを是として良いかは女神にすら判別がつかないだろうが……自らが与えられた借り物の力。白いマナを用いて暴力を振りかざす。迷いもない。

アルとセシリーの覚醒は何かの符号か。

その符号を記したのは誰か?

生と光のエリノーラ。

死と闇のザカライア。

そして“物語”。

人智を超えた存在は黙して語らぬ。

符号を記し、世界の流れを占うのみ。それぞれの望みのままに。

舞台の端をようやくに超えたとしても、待っているのは次の舞台。

所詮は皆が操り人形。巨大な舞台で踊るのみ。

さりとて、それが不幸であるかはその者次第。

時には死を迎えることが幸福でもあると知れ。

覚醒者たちが綴るのは次の物語。

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