軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 戦士の名付け

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「総帥とやらが建国王ザガーロ・マクブライン陛下だと? 古き因子? 一体何を言っているんだ?」

素人のやべぇ脳筋(神子セシリー) がネストリの言葉に疑問を抱く。『戯言を言うな』という若干の怒りも滲んでいるのだが……ネストリ自身はもとより、この場に居合わせた誰もが、彼の語る言葉が戯言の筈もないと知っている。いや、あの地獄を経てセシリー相手に適当なことを言えるのであれば、少なくともエイダはそんなネストリの根性を尊敬するだろう。

「う……ッ!? い、いや! 私は事実を語っているのだぞッ!? ザガーロ・マクブラインはヒト族としての死を目前に古き因子に目覚めたのだ! そして、彼の者は死霊術の研究の末にヒト族の身を捨てた! と、当時のことは流石に詳しくは知らぬが、クレア様や私も彼の者の研究に協力したことがあるので、概ねは間違いない筈だッ!」

虎の尾を踏みそうになったネストリは必死に弁明する。めっちゃ早口で。残念ながら、彼の器はエイダの尊敬を得られるほどではなかったようだ。

「……セシリー殿。ネストリ殿からの情報を全て鵜呑みにする必要はありません。あくまで参考とする程度で良いでしょう。当然ながら一番の情報源はクレア様です。それに、元々のクレア様の計画であれば、セシリー殿はその総帥とやらとの戦いを強いられるということでしたし、この場でネストリ殿の情報で混乱するのは時間の無駄でしょう」

「確かに……ヨエル殿の言う通りだな。それに、私が多少考えたところで、立ち止まって休んでいるのと変わりはしない。なら、考えるよりも前に進む方が建設的だろうさ」

下手の考え休むに似たり。

こちらも残念なことに、セシリーは不味い具合の脳筋に仕上がりつつある状況。もはや「考えない」ところまで行ってしまいそうだ。考えるな。感じろ。

「なぁ主たるセシリー。このネストリを案内役としてクレアとやらの所へ行くのは良いのだが……ルーサム家の見張り連中はどうするつもりなんだ?」

「ん? あぁ。彼らを捕えたのには別に深い意味は無かったんだが……」

既に考えていなかった。感じるがままのセシリー。

まさかそんな答えを聞かされると思っていなかったルーサム家の手練れの者たちもビックリだ。

「セ、セシリー殿。で、では、彼の者たちには『異常はなかった。 少(・) し(・) ゴタゴタしたが、セシリー一行はクレア様の迎えと共に行った』という情報を流して貰ってはどうでしょうか? せめてもの攪乱に……」

ヨエルの苦し紛れの案。流石に『考えなしで捕らえた。別に用事は無かった』というのは、余りにもルーサム家の見張り連中の戦士としてのプライドを軽んじ過ぎだと……ヨエルは若干の危機感を持った。基本的に大峡谷はルーサム家の管轄。彼の者たちの不興は買わないに越したことがない。

「あぁそうだな。ヨエル殿が言うように頼むとしよう」

「(……こ、これは不味い傾向では? セ、セシリー殿が本当に考えなしになりつつあるような……?)」

ヨエルの提案に即答。明らかに考えていない。彼の提案の意味や配慮などは欠片も理解していない気がする。確かにヨエルなども『セシリー殿には貴族に連なる者としての覚悟を持ってもらいたい』と願ってはいたが……コレはどう考えても極端過ぎる。

比較するのもどうかと思うが、 狂戦士(ファルコナー) たるアルには明確なルールがあった。そのルールを逸脱する者には容赦はなかったが、ルールの中にいる限りは、無闇に暴力を振るわず、寧ろその性質は温厚。力無き者に対しては情に篤いとさえ言えた。

しかし、今のセシリーはその場のノリでアッサリと暴力の行使に出るような不安定性がある。少なくともヨエルは“そういう”可能性をひしひしと感じている。

「……ルーサム家への工作というか……配慮についてはそれで良いとしても、このネストリ殿が見聞きしたモノは、時間差はあるがクレア様にも伝わると聞く。つまり、此度のセシリー殿の力をはじめ、ネストリ殿の言動についても把握されるはずじゃよ」

「ヴ、ヴィンス! き、貴様ッ!?」

そして、沈黙を守ってきたヴィンスの情報提供。クレアが眷属の情報を吸い上げて共有することができるという異能についてだ。

「勘違いなされるなネストリ殿よ。“庇護者”の大元である其方らへの恩義を感じておるのは確かじゃ。……ここは素直に情報を吐いておいた方が良いと判断したまでじゃよ。悪いが、一族の恩人の一人であるネストリ殿を呆気なく死なせる訳にもいかん。それに、クレア様が神子セシリー殿を必要としておるのは確か。わしらに与えられたのは神子セシリー殿の迎えであって、それが無理矢理なのか、セシリー殿の意思なのかはどうでも良かろうて……結局のところ、結果はそう変わらん」

彼の言葉は本音。僅かな邂逅ではあるが、ヴィンスもまた、セシリーの絶大な能力と未熟な判断基準のバランスの悪さを感じていた。そんな者相手に情報を隠蔽するなど愚の骨頂。その時の機嫌であっさりと始末される可能性すらある。

もっとも、そんな考え方を持たれているとは露知らずなセシリー本人。事実を知れば、彼女としては甚だ不本意ではあろうが……不安定なのは事実。優柔不断なポンコツから、極端な暴力装置のポンコツへジョブチェンジだ。

「なるほど。オルコット領都への道すがら、確かアル殿がそんな話をしていたような気もするな」

「……主たるセシリー。アルバート殿がそういう情報を知っているということを、いきなりネストリの前でするのはどうかと思うぞ? このやり取りとてそのクレアという者に筒抜けになるのだろう?」

「あッ!? し、しまったな。確かにそうだった……迂闊だったな」

流石にエイダも心配になってきていた。いきなり、笑えないぐらいにセシリーのポンコツ化が進んでいる気がする。

「……セシリー殿。一応言っておきますが、『ネストリ殿を殺して証拠隠滅だ!』……なんて事は考えないで下さいよ?」

「うッ!? ま、まさか、そんな安直なことは考えていないさ」

「なら良いのですが……?」

こうして、セシリー一行はネストリという案内役を迎えて、一路大峡谷へ。

ただ、案内役であるネストリからすると、セシリーのポンコツ具合の加速やその場の思い付きで命が左右される可能性があるという、身の安全に保証が一切ないハード仕様だ。

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……

…………

………………

セシリー一行がネストリと共に行動するということは、当然に向き合わないといけない者達が居る。

エイダとヴィンス。

神子セシリーのネストリへの地獄巡りのはっちゃけによって、何となくその場は有耶無耶になったが、いつまでも放置することもできない。ただ、流石に“いま”のセシリーに同席してもらいたい話でもない。むしろエイダもヴィンスも、セシリーに関わって欲しくないと……心から願っていたりもする。

砦の中の宿屋。当然に吹き飛んだ宿とはまた別。一行が心身を休める中、宿の敷地である裏庭でエイダは対峙していた。かつての一族の長……ヴィンスと。

「……改めてヴィンス様。ご無沙汰しております」

静かに頭を下げるエイダ。

彼女はヴィンスの怒りを理解している。しかし、その怒りの誤解を解きたいと願うエイダと、詳しい経緯を自身の口から語りたくないというエイダがおり、内心での葛藤が起きていた。

「“ナイナ”よ。貴様は恥知らずにも剥奪されたエイダを名乗っておるのか?」

「わ、私は…………」

カーラ、ドルー、ユーイン、イラ、デール、ライナック、ドルゴフ。

未熟な戦士未満である“ナイナ”を庇って、黄泉路を渡った真の戦士達。同胞。彼ら彼女らの最期を、本音を言えばエイダは語りたくない。

己の弱さと向き合わざるを得ないから。

「…………ヴィンス様。私の名はエイダだ。この名を名乗ることに恥などない。いや……恥を感じるのは確かだが、それは真の戦士達への想いからであり、一族を追放された経緯によるものではない」

実のところ、ヴィンスにはある程度の事情は察せられていた。不意の再会とその名によって、一度は感情が堰を切ってしまったが、エイダがアルと面識があること、神子セシリーの従者となっていることを踏まえ、それ相応の事情があったのだと理解している。

何より、彼女と共に一族を出奔した者が、誰一人として彼女の傍に残っていない。

「真の戦士……か。やはり皆は逝ったのか……?」

「……ああ。カーラ、ドルー、ユーイン、イラ、デール、ライナック、ドルゴフ……皆、私なんかを庇って戦士として散ったよ。そして、彼女らの遺骸を清めた上、遺髪を持ち帰ってくれたのがアルバート殿だ。残念ながらライナックとドルゴフのは無いが……あと、死に瀕していた私の命を繋ぎ、戦士達の仇たる者を討ったのが主たるセシリーだ」

エイダはエイダとして語る。

一族を追放……無理矢理に縛を破っての出奔の後のことを。

黒きマナを操る人外の手下となり、言われるがままに力を振るった。そこに戦士としての矜持はなく、ただの傭兵のようなモノとして。

結局、王都を追われた後に東方辺境地に辿り着き、そこで黒きマナの遣い手とクズ同士の同士討ちを演じることとなり、その命運が尽きた。……筈だった。

「……私は最期くらいは戦士として戦って死にたかった。もう生きることを諦めていたからな。はは。そんな心持ちの者が戦士の筈も無い。だが、それでも私のことをカーラが戦士だと呼んだ。名を取り戻すに相応しい戦士だと」

「……そうか。今のお主の名付け親たる戦士はカーラじゃったか……真の戦士たる者が認めたのであれば、わしがどうこう言う事はできぬな……」

ヴィンス一族の慣習。

便宜上ヴィンス一族と呼ばれているが、既に名すら失った古き氏族の慣習。

戦士の名付け。その命を燃やし尽くす覚悟を持った戦士が、次代を繋ぐ、生き残るべき者へと名付ける。戦場の習わし。その名は親に貰いし名よりも尊ばれる。名付け親たる真の戦士の名誉のためにも、その名に恥ずべき生き方は決して許されない。

今のエイダはかつてのエイダに非ず。真の戦士カーラが名付けたエイダ。

己の勝手で死ぬことも許されはしない。

「エイダ。真の戦士カーラの遺志を紡ぐ者よ。聞かせておくれ。彼の者たちの最期を」

「大老たる戦士ヴィンスに語ろう。彼の者たちの最期を」

エイダは語る。そして、ヴィンスも一族の顛末を語る。お互いに。

一族の長との再会。しかし、少なくともエイダはこのような再会を望んではいなかった。せめて、カーラ達に相応しき者になってからの事だと考えていた。

そもそも、彼女は未だに『生き残るべきではなかった』という想いを払拭できていない。いまはただ、真の戦士達の名誉を穢さぬように生きているだけ。

一方で滅びし氏族のかつての長たるヴィンスは、戦士達が散ったことを哀しみはするが、彼の者達がその命を賭して、エイダを次代の者として現世に繋ぎとめたことに敬意を表する。

もしかすると、そのこと自体に意味などないのかも知れないが、ここから先の未来においては、命を繋いだ意味をエイダ自身が見出していくかも知れない……と、期待している。

「エイダよ。真の戦士の名付け子よ。……お主との再会により、これでわしはとうとう思い遺すことが本当に無くなった。もはや現世に用はない」

「……ヴィンス様。本当によろしいのか? ネストリはともかく、聞く限りではクレアという人外は明らかに邪悪だ。戦の裏で暗躍する者を、戦士たるヴィンス様は許すのか? “庇護者”として一族が世話になったのは分かるが……その戦いは戦士としての最期に相応しいのか?」

もっとも、エイダはセシリーの戦いが正しいモノだとも思ってはいない。盲目的に肯定はしない。ただ、彼女は馬鹿だが邪悪ではないと知っているだけだ。……いや、時には邪悪よりも性質が悪いかも知れないが。

その為、ヴィンスが征く道をエイダは素直に認められない。

「エイダ。わしらはもはや死兵よ。自分達で戦場を、最期の戦いを選べるとは思うておらぬ。…………ほほ。ただし、あの神子セシリー殿と戦えと言われると躊躇するがのぅ。ネストリ殿はよくぞ生き延びたものじゃ」

「ヴィンス様…………ふぅ…………確かにそうだな。私も主たるセシリーの為に戦いはするが、主と戦えと言われると逃げる」

お互いに戦士。ヴィンスは己の道を受け入れている。そこにエイダが口を挟むことなど出来ない。改めて彼女はそれを知った。

そして、冗談めかして笑っているが、いまの神子セシリーと戦いたくないというのは、お互いにとっての紛れもない本音ではあった。

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