軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 ファルコナーの技

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アルは説明する。

他家からはファルコナーの『身体強化』は秘儀の魔法だと思われているが、決してそうではないことを。

特に隠されている訳でもない。ファルコナー領では、非魔導士の一般人でも知っている。生活魔法の『活性』を同じ要領で発現する者も少なくはない。実際にコリンなどがそうだ。そのおかげか、王都周辺の魔物であれば、問題にもならないほどの強さを誇る。

基本的な魔法の構成については、ただの『身体強化』と違いはない。コンラッドが用いている技と本質的には変わらないのだ。

ただ、一つ違うのは……ファルコナーではマナを昂らせない。震わせない。平静なままで発現する。

何故かは不明だが、こうすることにより、マナの消費を抑えながら通常の身体強化よりも強力な効果を発揮する結果となった。

そして、その魔法の発現の不自然さを感じ取るのか、人によっては得体の知れぬ怖気を感じるという。まるで大森林の昆虫型の魔物と相対したかのような……

実のところ、ファルコナーで一般的に周知されている“技”は、大森林の昆虫型の魔物と同じモノを使っているという皮肉。

過去に存在したファルコナーに連なる者たちが、昆虫共に対抗するために、敵を観察して到達した答えなのだろうと言われている。

現当主であるブライアンなどは更にその先、また別の手法を用いているとも言われているが、流石にアルでは看破することはできなかった。恐らく、父ブライアンが用いる技こそがファルコナーの……いや、ヒトの域を超える者の秘儀だろうとアルは推測している。

大森林の魔物と同じ技を用い、その性質も徐々に近付いていくという。それがファルコナーの特性。

アルの『銃弾』も基本は同じ。マナの昂りは極めて薄い。なので余計にマナの感知がしにくくなっている。その速度と相まって、初見殺しの視えざる攻撃を実現している。

ただ、『銃弾』もそうだが、基礎魔法の火球のように“体から離れたところに発現する魔法”に関しては、マナを昂らせないで発現するだけで至難の業ではある。ただし、決して出来ないわけではない。特別な血統による継承魔法というわけでもない。

つまるところ、同じ手法を使えば、都貴族の者であろうが、ファルコナーの『身体強化』を扱うことができる。現にファルコナー領では、他家から流入した者であっても同様の技を用いている。

ただ、基礎の“技”を覚えた後は大森林へゴーされ、命を掛けて技を磨くという風習もある。

何故かこの風習は正しく伝わっている為、都貴族や辺境地の他家には、頭がオカシイ、ヤバい奴らというイメージが根強い。

実際に大森林に放り込まれた幼いアルは、マジで勘弁してくれと泣いた。

「……マナを昂らせない? そ、それだけですか? で、では、私でも扱うことができる?」

「ええ。恐らくコンラッド殿であれば、半日もあればコツは掴めるのでは? ただ……これまでマナを震わせ、昂らせて魔法を使ってきた者が、平時はともかく、戦いの中で過不足なくファルコナー流のマナ制御を扱えるかは……疑問があります。そこには修練の積み重ねが必要でしょうし、元から使っていた魔法が明らかに使いづらくなる筈です。殊更にファルコナー流を使う利点はないかと……」

アルはコンラッドの器用なマナ制御と身体の動かし方をみた。ファルコナー流のマナ制御も難なく修得はするだろうと確信している。同時に、如何に器用であっても、それをそのまま戦いに用いることは出来ないとも分かっている。言われたコンラッドもその意味を即座に理解した様子がある。

「……た、確かに。最初の一撃程度は真似事が出来ても、それを持続して戦いの中で十全に活かすのは難しい。それに今まで使っていた魔法も全てとなると……年単位の修練が必要でしょうか? ……で、ですが、ただ発現するだけなら、セリアン様でも可能ではある?」

「そうですね。発現するだけならある程度の修練で可能でしょう。ただ、違っていたなら申し訳ありませんが……先ほど言ったようにファルコナーの身体強化の魔法構成は、コンラッド殿やセリアン殿が知るものと本質的には変わりはありません。つまるところ、特別な解呪や解毒、病を鎮静化するような効果もありません。もしそのような効果を期待しているのであれば……」

アルは踏み込み過ぎかと多少は躊躇したが、思っていることを伝える。期待するなと。

それはそのまま図星だったようで、明らかに落胆しているセリアン。いや、コンラッドも周りの使用人たちもだ。一気に部屋の雰囲気が暗く重くなる。

「……そ、そうか……ファルコナーの身体強化も、私の身体を蝕むモノには効果が無いのか……あ、いや、すまなかったアル殿。このようなことに呼び出してしまって……神聖術も治癒魔法も通じず、一縷の望みを他家の魔法にかけているのだが……どうにも上手くいかないものだ……」

無理矢理な顔。泣きそうな顔。恐らく、これまでも同じようなことが続いていたのだろうと想像に難くない。期待して、叶わなくて、落ち込む。

アルは長々とファルコナーの身体強化の魔法を解説をし、セリアンの希望に沿えないことは伝えた。ただ、彼には初めから視えていたりもする。セリアンの身体を蝕むモノ。その正体。

黒いマナ。

それも質量を伴うのかと見間違う程のモノであり、ハッキリと“蛇”のような形を持っている。

セリアンの身体に巻き付き、ガッツリと喰い込んでいるのが視えている。

これまで視てきたモノとは違う。セリアンが黒いマナを発しているのではなく、黒いマナに侵食されている。アルにとっても初めてのケース。

「……ファルコナーの秘儀云々はこれで終わりとして……改めてですが、僕にはセリアン殿を侵食するナニかが“視え”ます。そっちの話をしましょうか?」

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……

…………

………………

「……アル殿。急に言われても流石にクレア様への取り次ぎなど私達には無理だ。ビクター様への連絡すらおいそれとは出来ないのだから……」

「えぇッ!? そこを何とかなりませんかッ!?」

「くっ……! 何故にこちらが悪いかのように……」

アルの黒いマナ感知機能についての相談。思っていたよりも急ぐ必要が出てきた。さっそくにヨエルを通じて……と思ったが、さくっと断られる。

「……とまぁ冗談はさておき。ヨエル殿。実のところ真面目な話です。例の黒いマナですが、“視え方”がまったく違うモノを見つけました。当人が発するのではなく、明らかに“何者か”の攻撃として、黒いマナにその身を蝕まれています。初めてヨエル殿達と出会った際の、あの元・司教の指輪よりも、反応は強い上に隠蔽も巧みです」

「ッ! ……アル殿、まずはそちらを先に言ってもらいたいな。一応聞くが、それは真実ですか?」

若干呆れ顔だったヨエルも瞬間的に王家の影の顔になる。

「当然です。実際に当人にも会ってきました。その攻撃を受けているのは、セリアン・ゴールトン伯爵令息。この学院に在籍する者です。僕は詳しくは知りませんが、ゴールトン家は古貴族家らしく、何らかの呪術なりでの攻撃だとしても、家には敵が多過ぎて相手が絞れないとまで言っていましたね。まぁ昔からバチバチにやり合っている特定の家はあるそうですが……

一応、彼の身を蝕む黒いマナに軽く触れましたが、強烈な悪意の塊でしたね。セリアン殿へのというだけではなく『託宣の神子』への強い害意が視えました。ちなみに、セリアン殿の体調が悪化したのは三年も前からだそうで、これまでにも教会関係者による神聖術の治療や解呪も試したようですが、然程の効果は無かったそうですし、黒いマナを誰も認識すら出来なかったみたいですね。

……ここからは王家の影の仕事かと思いますが、ゴールトン伯爵家は特別に『託宣の神子』を支援しているとか? もしそうなら、セリアン殿だけではなく、当主である彼の父や母、兄弟姉妹や他の親類の者も攻撃を受けている可能性があると思いますけど……?」

アルはセリアンやコンラッド達に聞いた話をまとめて、ヨエルに伝える。流石に冗談では済まない情報。

「……私は至急ビクター様の指示を仰ぐ。アル殿、恐らく直ぐに呼び出しを掛けることになる。学院の寮でしばらく大人しくしておいて欲しい。ラウノは念の為にダリル殿たちに付いてくれ」

「…………」

影のように控えていたラウノが静かに頷き、そのまま姿を消す。隠形。

実のところ、ヴェーラと過ごすようになり、アルは改めて王家の影のその能力の高さに驚いた。ヴェーラ自身は不安定さによる差が大きかったが、それでもアルはヨエル達の中では彼女が一番の遣い手と見做していたが、そうではなかった。

ラウノだ。実際には、ヴェーラやヨエルよりも彼が頭一つ分以上抜きん出ているとのこと。それをアルは見抜けなかった。つまりはそれほどの実力がラウノにはある。

哀しいかな。アル自身は否定したいが、接近戦こそが彼の真価を発揮する間合い。しかし、その間合いにおいてもアルとラウノでは、お互い負けないが勝てない。それがヴェーラの評価。『銃弾』の魔法を知った上でだ。

「(普段はともかく、ヴェーラに言われてから王家の影として活動する際の二人を観察するけど……やはりヨエル殿の方が目立つ。見た目もそうだが気配も含めて。ラウノ殿は常に影のように従者として従っている……布陣としては効果的だ。ここにヴェーラが並べばますます目立つ。目立つ二人に気を取られれば……という意図があったのかもね。いまの隠形もスムーズ過ぎて惚れ惚れするし……コンラッド殿と言い、やはり王都の戦場も侮れない。ただ、どういう訳かビクター殿には負ける気がしないのは何故だろうな? 距離をおいたら魔道士としては僕より格上だと思うけど……まぁいまは良いか。

さて、かなりキナ臭くなってきたけど、まったくもってゲームの記憶に引っ掛からないな。あの黒いマナってのはゲーム内には無かった筈だけど……もはや区別がつかない。セリアン殿やコンラッド殿もキャラが立っているし、イベントキャラと言われればそうかとも思う……ただ、正規ルートには居なかったはずだ。はぁ。分かり易くセーラー服着てる奴とかならともかく、もうゲームキャラなのか、この世界の独自の人物なのかの判別がつかないや。

まぁいい。今回の件は王家の影が動く以上、後は任せる。もののついでに、どこかで僕の黒いマナ感知器の性能調査を頼めればそれで良いかな……?)」

ヨエルも周囲から浮かない程度に足早に去り、ビクターへ接触するための段取りに入った。残されたアルは、もはやすることもない。ヨエルに言われた通りに大人しく寮の自室で待機するのみ。

だが、この世界においては、アルはイベントと引き合う。これまでがそうであり、今回もだ。

……

…………

「はぁ……今さら何の用ですか?」

「私とて貴殿に好んで接触している訳ではない……心情的にもな……ッ!」

素直に寮の部屋で大人しくしていようと帰路についたら待ち伏せを受けた。学院に来てから何故かこんなのばっかりだと嘆息するアル。

相手には隔意があるが、明確な殺意とまではいかない。壮年の男。

アル自身は未だ気付いていないが、目の前の男は魔族。融和派と呼ばれるヒト族の社会に溶け込んでいる魔族たち。その一族の遣い。

「……くッ! ……ヴィンス老がアル殿に早急に話をしたいと願っている。同行を願えないだろうか……ッ……!」

かつてアルが『やられたからやり返した』連中の一族でもある。

やられた側からすると、一族の次代を担う若者たちをあっさり殺された訳だ。一方的に無残に。男の中には一族の若者たちの仇への敵意がふつふつと煮えている。

一方のアルはどこ吹く風。気にはしていない。何故なら、目の前の男には報復よりも一族の役目を果たそうとする気概が見えたから。アルも内心では『私心を捨てて役割を果たす姿は尊敬に値する』と、好意的に捉えている。

ただ、傍から見ているとアルの平静な態度は『色々と大変ですねッ☆』……くらいにしか見えない。表に現れるそういう態度が、魔族の男に対しての火に油だということをアルは気付かない。

「ヴィンス殿がですか? まぁ貴方のような方を寄越してまで来てくれというなら、本当に緊急的な話なんでしょうね。僕の用事も今すぐという訳ではありませんし……いや、むしろ明日以降であればたぶん身動きが取れないので、今からなら問題はありません。行きましょうか?」

「………… 忝(かたじけな) い。……では、早速こちらへ……」

男はまさに歯茎から血が出る程に歯を食いしばり、耐える。自らの感情と一族の者としての役目。それを天秤にかけて役目の方を取る。

壮年の男は思う。一族の若者たちが身勝手な理由で彼を害しようとした。だからやり返された。それは仕方ないと判っている。彼がやり返したのも、戦士としては当然の理屈だとも理解している。

しかし、目の前の少年は……気にもしないのだ。彼等を殺したことに何ら頓着していない。一族である自分の姿を見ても、特に害意も悪意も抱かない。ただ面倒くさそうだという顔をしただけ。

一族の若者たちが死んだのは自業自得……そう言い聞かせるが、せめて彼等を殺した張本人に、何らかの意思表示が欲しかったというのは、男の身勝手な思いだろうか?

『アイツ等を殺したの自分だ!』『自分は悪くない。アイツ等が悪い!』……せめてアルからそんな反応でもあれば、男はまた違う感情を持っただろうか?

しかし、アルからはそんな反応はない。本当に何もない。

事実、アルはヴィンス一族の若者たちを殺したことなど欠片も思い返すことはなかった。ああそう言えばそんなこともあったね。それくらいで特に感慨もない。

ヴィンス達の手前では啖呵を切ったが、実のところ、殺しそびれたエイダについても、もし目の前に現れたとしてもどうでも良い。相手から悪意を向けられなければ何ら興味は示さない。実際に、一度は遠くにエイダのその気配を感じたことさえある。アルにとってはその程度のこと。

そんな態度に、魔族の壮年の男は耐え難い屈辱を感じたという。

彼等の死が無意味だと。

アルから言わせれば、そりゃそうだと断じるだろうが……

二人は無言で歩く。アルからすれば学院に来た時に通い慣れたヴィンスの屋敷への道を。

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