軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 状況確認

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アルが入学して半年が経過。つまり彼が王都に来てからほぼ一年。

再び新たな入学者を迎える時期となっていた。

ゲーム本来のストーリーであれば、新入生の中にも重要キャラが配置されているが、既にアルは諦めた。

細かいストーリーもうろ覚えな上、この世界での独自設定がボロボロと出てきている為、主人公たちの動向を確認すること、黒いマナを目印に動くこと、『ギルド』で拾えるクエストに対応すること……大まかにこの三つで動くと割り切っていた。

「(なんちゃって冒険者ギルドの方は、まだまだサイラスたちへの福祉支援の範疇だけど、たまにクエスト的なモノを拾えるようにはなった。ダリル殿たちもあの『白いマナ』の謎を解くために割と大々的に教会の上層部や大貴族家との関わりが増えてきているようだし……そろそろ王都での陰謀劇に巻き込まれたりするのか? いや、陰謀と言えば『託宣の神子』を取り巻くすべてがそうなるか。まぁとりあえず、アダム殿下関連がどうなっているのかだけでも聞いておくかな)」

アルが実験的に稼働した『ギルド』。いまは「アンガスの宿」の主人であるバルガスの好意と顔繫ぎで借り受けた、外民の町の二階建ての一軒家が拠点となっている。

クエストの予兆を知るという、本来の目的ではそれほどの成果はないが、サイラスたちには大きな救いの手となった。ヴェーラにとっても。

一方でゲームの主人公であり『託宣の神子』であるダリルとセシリーは、基礎魔法で死霊メアリを建物ごと吹き飛ばした一件で、調査という名目により教会と密接な繋がりを持ち、それは今も続いている。

その後、教会の影響そのままに大貴族家や古貴族家、王家との繋がりまで……順調にイベントをこなしていると言える。

「ヴェーラ。僕はしばらくは学院の寮で過ごすよ。少し確認したいこともあるし……『ギルド』の方はお願いしてもいい?」

「承知致しました。……アル様、しばらくとはどの程度でしょうか?」

アルとヴェーラ。狂戦士と従者。

ヴェーラがアルを積極的に理解しようとした為か、彼女は現在、アルが望む従者の姿を概ね実践できている。流石にまだ言葉が無くて通じ合う程ではないが、信頼関係は醸成されつつある。

「え? う~ん……まぁ二週間ほどかな? ちょっと確認したいこともあるしね」

「……そうですか。少し寂しいと感じます。……勿論、『ギルド』のことはお任せください。滞りなく対応しますので……」

ふとヴェーラの顔が曇る。彼女は王家の影に在籍していた時よりも感情が表情や言葉に出るようになってきている。心の中の幼いヴェーラが、徐々に成長して一つになりつつあるのかも知れない。

「ありがとう。『ギルド』の方は任せたよ。あと、別に寂しいなら会いにくれば良いし、僕もこっちに顔を出すよ?」

「……ゔッ……い、いえ。……い、いや……そ、そうですね。私もアル様のお顔を拝見に学院に伺うように致します……はい」

まだ阿吽の呼吸には遠い 主従(二人) 。

……

…………

「(さて。授業にはある程度は出ているけど、寮で過ごすのは久しぶりだな。今ではすっかり『ギルド』の方が拠点だし。まずはヨエル殿たちに挨拶して情報交換かな。アダム殿下関連のイベントが始まっているなら、学院内の黒いマナの持ち主を少し確認しておきたいな。確か、アダム殿下が襲われるイベントがあったはず。婚約解消の後くらいだったか? 流石にまだそんな事件は起きていないだろ。もうあんまり覚えてないけど……殿下襲撃からの流れでストーリーが大きく進行していった気がする)」

必修となる授業以外では、アルはほとんど学院に居ない。そもそもストーリー進行上、序盤は学院が舞台となることが多く、それをなるべく邪魔しないようにという配慮として。

あと、ビクター班から『あまりウロチョロするな』という無言の圧という現実的な理由もあったという。

学院を見渡すと、黒いマナを持つ者たちもだが、明らかに重要キャラ感のある者たちが以前より目に付くようになっていた。

「(……やはり学院はイベントの宝庫か……何らかの動きがありそうだ。既にこの世界はゲームの正規ルートとは切り離されたと考えるべきだけど……まったく見覚えはないけど、明らかにゲーム設定のキャラもいるしなぁ……オネエ言葉のマッチョ教師とか、ボクっ娘とか、この世界のじゃなくてゲームフィクション的なメイド服着ている奴とか……かなり世界観から浮いてるんだよなぁ……ああいう連中には近付きたくないな……)」

いつもの如く黙考しながら歩くアル。

そしてそこへ近づく影。不穏な空気はないが、アルとしては出来れば関わりたくない相手。さりとて無視する訳にもいかず、相手の接近に合わせて立ち止まる。

「……アルバート殿ですね? 少しお時間をよろしいでしょうか?」

「別に構いませんが……失礼ですが貴方は?」

「これは失礼致しました。私はコンラッドと申します」

その身なりと気配はいかにも都貴族に仕える者。

コンラッドと名乗った者は儀礼的に洗練された動きであり、彼自身もそれなり以上の家柄であることが窺える。

学院の辺境貴族組では一度も見かけたことがない顔。接点もない。

「ご丁寧に……僕はアルバートです。アルと呼んでもらって構いません。当然、コンラッド殿自身が僕に用があるという訳ではないのでしょうね?」

「話が早くて助かります。私はある御方に仕えている身です。主家の御方がアル殿に……いえ、ファルコナー家の方に興味を持たれまして……お声を掛けさせて頂いた次第です。誠に失礼ながら、家名については調べさせて頂きました。申し訳ございません」

そう言ってコンラッドは頭を下げる。一応、戦場を征く貴族式の礼ではあるものの、アルからみるといちいち芝居がかって胡散臭い。だが、それが都貴族家の特徴であることも承知している為、当然顔には出さない。

そして、アル自身は特に気にはしていないが多少は知っていた。

実のところファルコナーは都貴族にもそこそこ知られている家名であり、武芸……特に武器を用いての接近戦を得手とする家々においては有名だと言っても過言ではないと。

「……はぁ。ファルコナーに興味がある……腕試しや指南的なことでしょうか? 僕が言うのも何ですが、残念ながらファルコナー家の技は頭がオカシイ連中用ですよ? コンラッド殿がお仕えするような雅な御方にお見せするモノではありませんし、指南などは以ての外ですけど?」

アルは言っていて哀しくなる。そして決して大袈裟ではなく、普通に事実だから猶更だ。ファルコナーの技は単純明快。基礎を覚えてたら大森林に放り込まれるだけ。やったね。数日中に技を磨かないと死ぬよ! ……正しく気が狂っている。

「申し訳ございません。私自身も主がアル殿に何を望まれているのかまでは存じていないのです。誠に勝手ではありますが……主に会っては頂けないでしょうか?」

コンラッドの態度はいっそ慇懃無礼にも見える上に、主の望みを知らないなどは白々しく嘘だ。それでも彼の礼と気配には立場上のモノは別として、相手への敬意と誠意が見えた。少なくともアルはそう感じた。

礼を尽くす相手には礼を。

これもファルコナーの『やられたらやり返す』の範疇。

もっとも、自身の暴力で切り抜けられるなら、無礼な者に尽くす礼はない……となるのもファルコナーの身勝手な流儀の一つではある。

そして、クレアほどの者に暴力で理不尽を迫られたら……それはそれとして尻尾を巻くのもファルコナー。

「コンラッド殿の礼にはお応えしましょう。今からでしょうか?」

「……ッ! ありがとうございます。本日は先触れのようなもの。よろしければ後日、改めてお迎えに来させて頂きます」

アルはこうして、久しぶりに学院で過ごそうと思った初日にイベントらしきモノに引き合った。

……

…………

コンラッドは三日後に迎えに来るとのことなので、それまでに王家の影との情報交換……と言いつつ、実態はただアルが情報を貰うだけだが……そちらを先に済ませることに。

「それで、神子の二人はどうですか?」

「……アル殿。天気を尋ねるような軽さで神子の名を出さないで欲しいのだが……」

ヨエル達が『託宣の神子』から離れている所を見計らって声を掛ける。

今ではすっかりヨエル達の方が神子の付き人のようなポジションに納まっており、中々にタイミングが掴めないことも多い。

「まぁそう言わずに。周りの気配は流石にチェックはしてますよ?」

「まったく……どうしてアル殿はそう物怖じしないのか……特にビクター様やクレア様の前に出るときなど、居合わせるこちらの方が気が気ではないのだが……」

流石にビクターは別として、ヨエル達とはアルも少しは打ち解けてきている。少し気軽過ぎるきらいもあるが。あと、無口なラウノが本当はどう思っているかは不明。今もヨエルの横でふんふんと頷いている。

「首輪付きとは言え、僕は所詮は外様の者ですからね。生え抜きというか……組織の中に居るヨエル殿達とは違いますよ。……それで? どうなんです?」

「はぁ……あのお二人は順調に教会や王国の重鎮との顔繋ぎを行っている。例の“白いマナ”についてもその性質の確認や習熟に余念もない。あと、一応はアダム殿下とも顔繋ぎも行ってはいるが、やはりまだダリル殿とは親交を深めるどころでは無いというところか。それどころか、アリエル様のことで……いや、これは余計な話だ」

言い淀むヨエルに、そこを何とかと食い下がり、アルがしつこく聞いたところ……

ダリル達はアダム殿下やアリエル嬢との顔合わせを行ったが、そもそもこの学院では家名ではなく名で呼ぶことが当たり前。むしろお互いが家名を知り、呼び合うというのは親密な証とも言えるため、アダム殿下は不承不承アリエル嬢とダリルに対して名で呼び合うことを承諾したそうだが……

名を呼び合うだけでは済まない二人の親密さに気分を害したとのこと。もっとも、アリエル嬢からするとダリルを“落とす”というのは王命にも等しく、当然の対応なのだが……事情を知らぬアダム殿下のご機嫌取りもしなくてはならず、かなりの心労があったらしい。流石にこれはその場の誰も知らぬ話。

不自然にならぬようにとアリエル嬢は、同じく幼き日に交流のあったセシリーとも親交を深めているが、今ではむしろセシリーとの関わりこそがアリエル嬢の安息にもなっているという。

「(なるほどね。アリエル嬢とアダム殿下はまだ婚約を解消していないのか……あくまで参考程度だけど、ストーリー的にはまだまだ序盤って訳だ。しっかし、ガチガチに周りを固められているとはいえ、完全に勝ち組だな主人公の二人は……)」

ゲームとは違いレベルなどがない世界。学院での腕試しや魔法の研究などはあるが、特に主人公たちがクエストやダンジョンで奔走することもない。

そんな状態で、集団戦である戦争はともかくとして、ゲームで描かれた主人公パーティという個でのラスボス戦。アルには少し懸念があったが……あの“白いマナ”が切り札となり得る。

ゲームにおいてのラスボスは、紆余曲折を経て魔族領に顕現する不浄の王。最上級のアンデッド。

つまり、この世界の『託宣の神子』は、チマチマと魔物を倒してのレベルアップなどを経ずに、対アンデッド用の最終兵器的なモノを初期装備として備えていたことになる。あとはその習熟だが……それこそがゲーム的なレベルアップの代わりになるものとアルは見ている。

また、貴族社会や教会との繋がりも強固になりつつあり、現状、託宣に示されていた王国の千年の繁栄に向けて突き進んでいるとも言える。

「ある程度事情を知った上で、知らない振りをするヨエル殿やアリエル嬢たちの苦労が偲ばれますね。……というか、そもそもヨエル殿たちはアダム殿下の近衛候補なのに……かなり難易度が上がってませんか?」

「……アル殿。言ってくれるな。私たちもどうしたものかと……。アダム殿下は我ら諸共に『ダリル一派』だと見ておられる状況だからな……唯一セシリー殿だけが普通に顔合わせが出来たように思う。……はぁ。セシリー殿に対しても申し訳ない」

珍しく愚痴を吐くヨエル。横にいるラウノも同じく浮かない顔ではある。

これまたアルがしつこく聞いたところによると、セシリーはヨエル達を含めて周りの者たちに若干の不信がある様子。その様子を知りながら、彼女を騙すようで申し訳ないと……ヨエル達も後ろめたさがあるという。

王家の影。汚れ仕事すら厭わないと言われているが、やはりアダム殿下の近衛候補として選出されるだけあって、王道を征く者に仕えるに相応しい清廉潔白さもヨエル達は備えている。だからこそ、余計にヴェーラは自身の役回りを“そういう方面”で想定していたという実情もあった。

「まぁこちらの話は良いとして……ヴェーラは元気でやっていますか?」

「ええ。今ではすっかり子供たちの世話係が板に付いてきた感じですかね? 僕の方も色々と手伝って貰っていますし助かっていますよ。……こういう言い方はどうかと思いますが、以前よりは表情も穏やかになっていますね」

アルとしては意外だったが、ヨエルやラウノは殊の外ヴェーラの先行きを心配していた。彼等も気付いてはいたのだ。その不安定さに。彼女が無理をしていると。いずれミスをしてその命の持って脱落する予感がしていたと……

「……私もあまり大きな声では言えませんが、これで良かったのだと思います。彼女には……王家の影は務まりません。必死で隠してはいましたが、優しい気質を持つ者。本来は『縛鎖』よりも彼女に向いている魔法があった筈です。……脱落する前で良かった。アル殿、私が言えた立場ではありませんが、彼女のことをよろしくお願い致します」

ヨエルとラウノは戦場を征く貴族式の礼をする。コンラッドとは違う、板についたもの。そして、アルも静かに礼を返す。

「(ヴェーラは知らなかったんだろうな。王家の影という牢獄にあっても、ちゃんと彼女のことを心配する者たちも居たと。今の彼女なら正しくそれを理解することができるかな?)」

アルはヴェーラに土産話ができたと喜んでいるが……ヨエル達は知らない。

彼女は王家の影に居た時よりも安寧を得てはいるが、狂戦士の従者として、その実力や敵への容赦のなさが加速していることを。

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