軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 異常個体と学院教師

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「それにしても……今期の 辺境貴族組(田舎者) たちはタイミングがぴったりでした

な」

「まったくです。それもゴブリンジェネラルという災害個体……いやぁ久しぶりに死者が出ますなぁ」

「何人死ぬか賭けますか?」

「ハハ! それは良いですな!」

学院の教師たち。

都貴族家に連なる者たち。

真に戦いを知らぬ者たち。

彼等は辺境貴族家の者が死のうが気にはしない。大切なのは“同胞”である都貴族家の令息令嬢たち。

そこに悪意などはない。当たり前の感覚。

都貴族の中で繰り広げられる権力闘争などであれば、悪意も当然ある。敵対する家の者が失敗すれば小躍りして祝杯を上げるだろう。

しかし、辺境貴族家の者たちがどうなろうと知ったことではない。

そもそも貴族と名乗り、同列のような顔をすることすら烏滸がましい。

彼等にとって辺境貴族家の子息息女とはその程度の存在。遊び半分で……いや、ただの遊びで、その命を賭けの対象とすることも一切気が咎めることはない。

そんな感覚だからこそ、彼等は王都でしか生きていけない。そんな彼等を許容するのは王都の貴族社会のみなのだから。

現状を憂う貴族も多く、更に皆が皆、この教師のような者達と言う訳でもない。

ただ、辺境貴族を見下すという価値観が根付いているのは事実。

「ただ、オールポート家の者に死なれると後々の処理が面倒ですが……」

「何を仰る。ダンジョンの五階層までで死ぬような軟弱な者を育てた連中が悪いのですよ」

「そうそう! 辺境の魚人などに押されていると言うではないですか! 何なら不甲斐ないとして、オールポート領の分割統治や利権の分配の話をチラつかせても良いくらいだ!」

「ハハハ! それは愉快! ……まぁとは言っても、オールポートの者が犠牲になるかは分りませんな。女神様の御意志でしょう」

連中にとっては他人事。

賭けの対象選びは続く。

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「……クローディア様。ヤツは何かを警戒しています。今の内に少しずつ下がりましょう」

「……くッ! この私がゴブリン一体如きに……ッ!!」

停滞する戦場。

ただし、それは相手の出方次第で崩れるという一方的なモノ。

貴族に連なる者五名が、生殺与奪の権を一体のゴブリンに握られているという状況。

虚ろな誇りにすがる者にとってはさぞ屈辱的な構図だろう。

幸いなことに彼女は 虚ろな誇り(そんなモノ) と心中する程に夢見がちではない。『弱い自分が悪い』……と、自身の未熟を恥じている。

ジリジリと警戒をしつつ下がるクローディア一行。

先ほど吹き飛ばされた大盾を持った護衛の者は意識がない。彼を抱えるために更に一人が戦力として動けない状況。

主家であり主力でもあるクローディアは、西方貴族家らしく「移動砲台」というスペック。敵が近付く前に魔法を完成させて撃つ。敵に近付かれると護衛が守る。そのようなスタイル。

残念ながら今の距離では、一撃必殺の魔法を構成しようとすれば、ゴブリンに踏み込まれて終わる。タメのある魔法を見逃すほど、目の前の異常個体は甘い相手ではない。

緊張を持って警戒していると……不意に、別方向を警戒していたゴブリンの身体が、ゆらりとクローディアたちの方へ向く。

「……ッ!!?」

ただクローディアを見た。それだけ。しかし、彼女は自らの死の影を幻視する。動けない。蛇に睨まれた蛙。

「(……こ、このような場所で……死ぬ……の……?)」

「……く、くそぉッ! せ、せめてクローディア様だけでも……ッ!!」

側近と思われる少年が、震える身を叱咤して前へ出ようとする。

「止まれ。それ以上動くな。死ぬぞ」

「なッ!!?」

「うッ!?」

いきなり少年の肩を掴む手が現れる。何故かクローディアの真横に人が居る。狂戦士が。

つい先ほど、ゴブリンがクローディアを見たのは間違いではないが正しくもない。正確には『脅威となる存在』を認知しただけ。その付近にクローディア達が居たということ。

ゴブリンはゆったりとした動きで、剣を肩に担ぐように構える。本気の臨戦態勢。必殺の踏み込みの姿勢。

「大森林にはいなかったけど、亜人型の異常個体は知恵も回ると聞く。お前、こっちの言葉くらいは解るんじゃないのか?」

「…………」

いきなりゴブリンに問う。

沈黙という答え。

だが、アルは確信する。奴の瞳には理性の光がある。問いについて考えていると。

「やはり言葉が解かるのか。なぁ、ここで殺し合う意味はあるのか? 縄張りに踏み込んだのなんだのと言うような ダンジョン(場所) じゃないだろ?」

「…………」

クローディア一行は突然の闖入者に対して何もできない。何故、コイツはゴブリンに話しかけているのか? 意味が解らない。

「なあって。要求があるなら聞くぞ?」

「………………コロス」

「(……ッ!! 喋ったッ!? そ、それよりも、この者は何者なの!?)」

ゴブリンの人語による回答。クローディアは内心では驚くが、流石にいまの状況で声を上げるのは留まった。

「はぁ。やはり魔物とは殺し合うのが正しい姿なのかねぇ……」

「…………シッ!」

瞬間、ゴブリンの体がブレた。

一気に踏み込む。瞬きの間で必殺の間合いへ。クローディアたちはその影すら追えていない。

他の者など気にも留めない。ただただ 脅威(アル) を斬り伏せるため。

「………ふッ!」

いきなりゴブリンの両手首が爆ぜる。……とほぼ同時のタイミングで顔面にアルの正拳突き。

がつんと、とても生身同士とは思えぬ重い衝突音が響き、ゴブリンが後方に転がっていく。

瞬き三つほどの間の攻防。

柄が緑色の血に濡れた片刃の剣が、音を立ててアルの足元に、いま落ちた。

転がるゴブリンの動きが止まる頃、クローディア一行もようやく状況の理解に向けて頭と意識が動き始める。

「は、はぁ……?」

「一体何が……?」

ピクリとも動かないゴブリン。

かなりの強度を誇っていただろう、マナの集束も解かれた。流れる血。潰された顔。絶命。

「(ふぅ。久しぶりに“ヌルくない戦い”……なかなか手強かった。乱戦の中では遭いたくはない個体だな。……一応、最後は体術だし、『銃弾』はバレてないだろ……?)」

その能力的には寧ろ向いているが、アルは今回のような魔物との近接戦闘を好まない。精神的に。

本来であれば、異常個体であるゴブリンが認識しにくい位置から、『銃弾』の連射で削って終わりにする。これが大森林であれば確実にそうしていた。

目撃者となるクローディア一行に『銃弾』がバレないようにとの配慮だったが……しなくても良い配慮だったと言える。

瞬間的に使った『銃弾』の連射による武器破壊……のつもりの手首爆散はもとより、ゴブリンの踏み込みやアルの正拳突きすら、クローディア達はほとんど感知も認識も出来ていなかったのだから。

「……ア、アナタは……確か、南方の……?」

「……悪いけど、僕は貴女達の命を救った。その代わりと言ってはなんだけど、僕のことは他言無用でお願いするよ。家名は名乗らないし、そっちのも聞かない。ここで貴女達は僕に会わなかった。異常個体のゴブリンも知らない……ってことで」

混乱から立ち直る前にアルは要求を伝える。正規ルートでの記憶にないが、独断と偏見によりクローディア……金髪縦巻きロールなお嬢様……が、モブキャラな筈がないと断定。深い関わりを持たない方が良いと結論付ける。

「き、き、貴様! ク、クローディア様に無礼な……ッ!」

「お、お止めなさい! ……わ、分かりましたわ。私は貴方とはお会いしていませんし、異常個体のゴブリンなど知りません。……ただ、今この時だけは、命の恩人である貴方に感謝を申し上げますわ」

側近の少年を諌め、クローディアはアルに感謝を捧げる。その礼は令嬢の行うカーテシーではなく、戦う者……右掌を首元に当てて頭を下げるという、この世界の貴族に連なる者の戦場での礼。

「(見た目はアレだけど……彼女もやはり辺境の戦士か。少し甘さはある。負傷者を捨て置いて逃げなかった……まぁそういう甘さは嫌いじゃない)」

アルはクローディアに対して、お嬢様ではなく、戦士としての気概を感じ取る。恐らく、万全の態勢で放つ彼女の魔法は、戦場で鍛えられたモノなのだろうとも思う。

「……あ、ちょっと聞きたいんだけど、こんな奴がポロポロ出てくるのがダンジョンの常識なのかな? 悪いけど、学院にもダンジョンにも疎くて……」

学院の新入生という立場は同じでも、その情報量は雲泥の差の筈。アルは当たりを付けて聞く。クローディアが大貴族の御令嬢なのは確実だろうし、そうであれば情報がある。

「……ダンジョンは、ときに異常個体が出るとは聞いていましたわ。学院側もある程度は、タイミングや個体を把握しているとも言われていますわね。……コレは……辺境貴族組への嫌がらせのようなモノだったのでしょう。どうせ……」

クローディアは苦々しく答える。

彼女も知っていた。学院……王都には明確に辺境貴族を見下す風潮があると。

領地である西方を訪れる都貴族たちも多いが、総じて傲慢で不遜。『片田舎にしては……』『田舎貴族の割には……』そんな言葉をどれほど聞かされてきたか。

そして、学院では都貴族家の教師連中から、辺境貴族組への嫌がらせが横行しているとも事前に聞かされてはいた。まさか、あんな異常個体を差し向けられるとは思いもしなかったが……。

「へぇ。割と雑な扱いだとは感じたけど、アレは辺境貴族組に対してということだったのか……なるほど。あのゴブリンは学院の管理が甘かっただけじゃなく、故意による可能性もあるということね」

ただの確認。

あのゴブリンは強力な個体。恐らく、今の主人公達だけでは苦戦していた。勿論、王家の影……ヨエル達が何とでもしただろう。彼等なら、クローディア達ほどの苦戦はしない。それどころか、接近される前にアルよりも巧く完封していた筈。

「(何だろう? 視界の端に黒いマナがチラつく。あの司教の時とも少し違う? ……ナニかの啓示か?)」

……

…………

多少の情報交換をして、アルとクローディア一行は、お互いに会わなかったこととして別れる。

異常個体の魔石と遺された片刃の剣は、クローディアから当然の権利だとして、押し付けられてアルが受け取ることに。

「(うーん……何だかこの魔石も、嫌な感じなんだよな。やたらと黒いマナがチラついてるし……まぁ彼女は善意として言ってくれてたから断るに断れなかったんだけど。

それにしても、学院の教師たちか。都貴族が腑抜けているのは分かったけど、そこまでアホなのか……? 戦争となって自分の尻に火が付いても、同じメンタルで足を引っ張り合うなら……邪魔だな。学院が自主独立を旨とするなら、別に教師なんぞ誰でも良いだろうし……)」

アルはボンヤリと黙考しながら、無人の荒野を征くが如く、改めてダンジョンを進んでいく……ゴブリンを殺戮しながら。

……

…………

五階層のボス。

ホブゴブリンとゴブリンのセット。『銃弾』の乱射で終わり。流石に階層ボスであるホブゴブリンは、数発を凌いで反撃に転じようとまでしたが……結局は蜂の巣。

「いちいち付き合ってられないんだ。悪いね」

何故か一人で参加したアルが一番乗り。

チュートリアルとして、ダンジョン五階層をクリア。

賭けに負けた教師たちに不正だの何だのと言われたが、アルはどこ吹く風。

「(……コイツ等にも黒いマナがチラついてるな。この口煩い連中と距離を取っている教師たちには視えない……コレは……もしかして、主人公達に敵対する奴のサイン? ……流石に飛躍し過ぎだろうか?)」

「聞いているのか!? 一人でここまで早いのはおかしい! 何か不正をしたのだろう!?」

「そうだ! 学院を欺くなど以ての外だ!」

ピーピーとよく囀る。アルにとってはその程度のモノ。

マナの制御も体捌きも全く以て甘い。知識はあるのかも知れないが、魔物との戦いには向かない者達。もしかすると五階層までのゴブリンにすら苦戦するかも知れない……そんな事を考えながら、教師たちの話を聞き流す。

次にクリアした者達が出てくるまで、ネチネチと同じ話の繰り返しが続いたという。

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