軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 〝神〟の存在

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マナの結晶と 思(おぼ) しき虹色の雫が周囲に飛び散る。ぶちまけられる。

音さえ置き去りにするほどの速度で飛来した凶悪な 礫(つぶて) が、女神エリノーラの頭部を……美しき御尊顔をあられもない姿へと変貌させる。

辛うじて下顎だけが首の上に残るという顔無し状態となったが、それでも両の足は大地に根を下ろし、その肉体を支えている。立ち姿のまま。

『……なんだ? これは……なにが起きた?』

困惑の声が漏れる。頭部のほとんどを失い、一体どのような仕組みで発声しているのか……追求するのは野暮なのだろう。

か弱き者にしこたま殴る蹴るの暴行を受けた上、左手首を寸断されても動揺などはなかったが、流石にこの度は女神にも疑問符が乱舞している模様。

ただ、それはあからさまな隙でしかない。とある魔境の戦士たちからすれば、馬鹿丸出しというところか。

『んぁ?』

間抜けな声と共に千切れた。

なにが? 女神エリノーラが。

次弾が通過して胸に風穴が開く。いとも容易く女神を引き裂く。

結果として、接合部を失ったエリノーラの身は二つに別れ、呆気なくぼとりと地に落ちた。 上(・) が。

虹色の雫をぼたぼたと垂らしながらも、どういうわけか 下(・) は屹立したまま。バランスの妙か。

シャノンとコリンは、女神の変わり果てたその姿、その光景に感慨など覚えないが……どこぞの従者が目撃したなら、〝これは……前にも一度見た気がする〟と、ふと過去の事例に思いを馳せることだろう。

『なんだ? なにをした……?』

エリノーラは状況を理解できないままに疑問を口にする。もう口はないのに音が漏れる。

ただし、コリンもシャノンも、いちいち女神様の疑問に応じてやるつもりなどはない。彼らは彼らで状況を整理する。心境としては、もう 後(・) 片(・) 付(・) け(・) だ。

「ふぅ…… シ(・) ャ(・) ノ(・) ン(・) 程(・) 度(・) の打撃ならいざ知らず、やはり 強(・) い(・) 攻(・) 撃(・) には耐えられなかったみたいだな」

前のめりに伏せていたコリンが、ぱんぱんと土埃を払って立ち上がる。

「……私の打撃が通用しなかったのは、やつがデタラメなマナで強化していたからだ。コリンの斬撃が通ったのも、マナが枯渇してただけに過ぎない。つまり、やつを消耗させた私のおかげだな。感謝してもいいけど?」

減らず口を叩きながらも、疲労困憊なシャノンは立ち上がれない。どっかりと地に腰を下ろしたまま。

「はいはい。シャノンさんのおかげでした。シャノンさんは本当にお強いですねー」

「……ふん。まぁいいさ。それで? いつの間に ア(・) ル(・) と話を付けてたんだよ?」

彼女は問う。女神の頑健な肉体を千切り飛ばしたのが、アルバート・ファルコナーの仕業だと理解している。

「いや、別に前々から示し合わせてたわけじゃない。それこそついさっき、サイラスを連れて逃げてる途中にばったり出くわしただけさ」

コリンが主と再会したのはつい先ほど。アルは王都に辿り着くどころか、すでに瘴気の壁を越えて〝中〟にいた。

「なら、隠れてないで堂々と仕掛ければよかったのに。遠当てに頼ってこそこそするのは変わらないのか……まぁ威力は 多(・) 少(・) 増したみたいだけど」

「アル様はあれこれとぐずぐず考えて機を逃がす癖に、本人は一応知性派(笑)を気取っているみたいだからな。あと、敵の実力を測るために、俺たちを囮にして〝よしアレなら大丈夫だ〟って安心がないと仕掛けられない程度にはビビり……いや、慎重派でもある。今回は〝サイラスの身の安全を確保する〟という大義名分があったから、なおのこと 性質(たち) が悪いけど……」

ぼろくそ。アルに対するコリンの評価はずいぶんと辛辣だったりする。いや、むしろ公平な評価なのかも知れない。

「あー……悪い意味でアルは変わってなさそうだなぁ」

コリンの言い分について、シャノンもあっさり納得する。否定のヒの字もない。するりと飲み込む。

もちろん、当人にとっては不本意この上ない評価だ。

「っておいッ!! 聞こえてるんだよッ! 誰がビビりの知性派 (笑)(かっこわらい) だ! 誰が! コリンは僕をそんな風に見てたのかよッ!?」

呼ばれないままに出て来たアルが喚く。己の不当な評価に異議申し立てをする。だが、コリンとシャノンからすれば、なにを今さらというところ。

「いえ、むしろ俺としては、自覚のないアル様に驚いてますけど?」

「相変わらず自分のことは見えてないよね、アルは」

苦情を軽く流すファルコナー組の二人だったが、実のところ、アルの姿はかなりのボロボロ具合だったりする。

当然だ。

なにしろ、彼は瘴気の壁を無理矢理に越えて〝中〟へと突入して来たのだから。

「まったく、こっちは東方辺境地から、それこそ寝る間も惜しんで駆け付けて……挙句に 穴(・) 掘(・) り(・) までしたんだぞ? はぁ……」

アルとヴェーラが王都へとようやくに辿り着いた時。それはまさに、シルメスが教団へと命を賭して特攻したのと同じ頃。

つまり、アルたちは王都へ到着してやれやれと一息つく間もなく、突如として現れた瘴気の壁を目撃したわけだ。

当然、そこには荒事がある。〝中〟で事態が動いていると判断した二人は、天を突くかの如くそびえ立つ瘴気の壁の前まで行き、上が駄目なら下とばかりに地中からの侵入を試みた。

瘴気の結界は地中にも根を張っていたが、地表に出ている部分よりは薄く、真正面から力尽くでこじ開けたり、空を飛んで上から侵入するよりはかなりマシという結果を手繰り寄せた。

そして、亡者や死霊が溢れる〝中〟をウロついていたら……アルとヴェーラは、もはや馴染みがあると言っても過言ではない気配に接する。

女神様の御降臨だ。

まさにギリギリ間に合わなかった……ある意味では間に合ったいうタイミング。

結局、降臨した女神を放置するわけにもいかず、状況を確認するために動いたところ、アルたちはコリンとサイラスにばったりと遭遇する。不意の再会だ。

〝コリン、生きとったんかワレ!〟という具合。

ジレドは〝 物語(上位存在) 〟に明確な意思などない、いわば自然現象のようなモノだと語っていたが、アルは〝代行者〟や〝 物語(上位存在) 〟とやらの作為を、イベントへの誘導をひしひしと感じたものだ。

ちなみにヴェーラは、再会と同時に、サイラスの背骨が折れるかというほどに抱き締めて離さない。

アルが女神に仕掛ける云々となっても、〝あぁそうですか、頑張ってください〟というだけ。泡を吹いて気を失ったサイラスを抱えたまま。

どこぞの魔境の狂戦士が少し拗ねてしまったのはご愛嬌。あと、サイラスにとっては避けようのない事故みたいなものか。

「まぁアル様にも事情や都合があったんでしょうが……とにかく、 後(・) は任せますよ? 俺はシャノンとシルメス殿を連れて下がります。流石に今回は ち(・) ょ(・) っ(・) と(・) 疲れました」

「……だな。ここはアルに任せるとするよ。ま、私はヒョロいコリンと違ってまだまだ大丈夫なんだけど、シルメス殿が心配だからさ」

コリンに肩を貸してもらい、ようやく立ち上がれるような状態ながらも、シャノンの減らず口は文字通り減らない。慣れもあってか、アルもコリンも気にもしない。

そんな風に軽口を交わし合うファルコナー組だったが、周囲の状況は把握している。

女神エリノーラがのそのそと 再(・) 生(・) しているのを知っていた。

「ま、ここは余力のある僕が引き受けるさ。たぶん ア(・) レ(・) を始末するのも、僕に科せられた罰の一種なんだろう。知らんけど」

アルはペナルティとして、〝代行者〟という役割を知らぬ間に背負わされていたらしいが、なにがどこまでどうなのか。もはや解答を示してくれそうな ジレド(相手) もいない。こうなったら目の前の〝イベント〟をこなすのみ。

『ぐぅぅ……げ、下賤なゴミどもめ……い、一体、我になにをしたのだ……ッ!?』

引き千切られた〝上〟と〝下〟が再会を果たした女神。いつの間にか吹き飛んでいた顔面も再生している。元に戻ってはいるのだが……以前とは様子が違う。

神々しい、まさに神気と呼ぶに相応しいマナの輝きが失せつつある。その象徴のようだった、虹色の髪と瞳の輝きが減少している。褪せている。

また、つい先ほどまで、なにをされても変わらなかった表情にも変化が見える。

美を結集したかのような御尊顔が苦し気に歪み、アルたちを睨み付けている。

「じゃぁコリン、シルメス殿は任せた」

「ええ。任されました」

それでもアルたちは、女神の訴えなどまるで無視。気の抜けた、どこか牧歌的なやり取りが続く。

『き、貴様ら……あがッ!?』

再演。ばつりという鈍い音と共に女神の頭部が消し飛ぶ。

女神の方を見もせずに『銃弾』が炸裂した。

自らを軽視された女神に怒りが浮かぶのも当然と言えば当然だが、そこはファルコナーの民。牧歌的に見えてもアルたちに油断はない。

「はぁ。急に弱っちくなってるじゃない。死線を跨いだ私の苦戦はなんだったのやら……」

シャノンがぼやく。先ほどまであった女神の頑健さが、その強度があからさまに落ちている。

「さっきまでの動きを見るに、こいつは肉体やマナの扱いに慣れてないんだろ。だから自分が弱体化してるとか、再生のために急速にマナを消費しているとかにも気付いてないとか? ま、もうどうでもいいけど」

もはや後始末。

アルからすれば、目の前の女神(暫定)などより、魔族領の奥地で対峙した 暴走したセシリー(どこぞの魔王) の方が遥かに凶悪だった。また、その白きマナにしても、勇者ダリルの方が質は上だった。

〝戦い〟という物差しで測るなら、クレアやザガーロの方があきらかに脅威度は高い。

比べるものでもないが、まだ王都までの早駆けや、瘴気の壁を越えることの方が困難だったくらいだ。

ただし、いかに負ける要素が少なくとも、それでもアルは、試金石としてコリンやシャノンを囮として使い、諸々を観察してから仕掛けた。ビビりの知性派(笑)は伊達じゃない。

『……ぐぅ……な、なにが起きている? こ、この不快感はなんだ? なぜ、我の身体は思うように動かないのだ……?』

再び戻る。肉体が再生する。だが、あきらかに 萎(しお) れている。虹の髪色はさらに輝きが薄れ、一部は白髪化しているほど。

「さて、一応聞いておこうかな? えっと……お前が女神エリノーラで間違いない? 〝 物語(上位存在) 〟からの懲罰で現世に顕現させられたって聞いたけど?」

シャノンを荷物のように雑に肩に乗せつつ、シルメスを丁重に抱き起すコリンを後目に、アルは女神 ら(・) し(・) き(・) モノへ問う。

『……き、貴様は……? そうだ……貴様には見覚えがあるぞ! く……! まさか〝上位存在〟の手先だったとはなッ!』

神への敬意がまるでない、不敬で 不信心(ふしんじん) な小さき者を、改めてエリノーラは認識する。その個体に見覚えがあると思い至る。

「いや、こっちの質問に答えろよ」

『ごァ……ッ!?』

エリノーラの右肩付近が弾けた。

が、次の瞬間から虹色のマナが凝集し、受傷部位の再生がはじまる。患部が盛り上がり、うねうねとその身が再構築されていく。

それと並行し、エリノーラの髪の虹色の輝きが 萎(しぼ) んでいく。白髪化の範囲が広がっていく。

神がその力を失っていく様がありありと分かる。見た目に分かり易い仕様だ。

「ま、別に今さら聞くまでもないか。それに 懲(・) 罰(・) である以上、神の肩書きがあったとしても、好き勝手に振る舞えるはずもないだろうし……」

アルが〝上位存在〟からの作為を、一連の流れを〝イベント〟だと感じる理由の一つ。

解決策がある。何とかなりそうな気配がする。

具体的に神の力がどれほどかは知らないが、降臨した魔王の力を間近で体験させられたアルだ。

もしアレと同等か、それ以上の力が現世で振るわれれば、か弱く小さき者らからすれば脅威でしかない。ただただ厄災が去るのを祈るだけだろう。

だが、この度の神がそうそう好き勝手にできるはずもないとアルは思い至る。なにしろ今回の顕現は、他でもない神々へのペナルティなのだから。

『……ぐぅぅッ!? なぜだ!? なぜ思うように身体が動かない!? なぜに視界が揺れる!? この込み上げてくる不快感はなんなのだッ!?』

女神が吠える。苦悶の表情を浮かべて悶える。

神は知らない。知らなかった。肉体に付随する感覚を。痛みを。疲労を。マナの枯渇によって生じるマナ酔いと呼ばれる拒絶反応を。

「知るかよ。というか、髪の 虹色(ピカピカ) 部分が残ってるってことは、そのまま 残(・) 機(・) があるって解釈していいのか? 回数制限というか、今あるマナを削り切れば 終わり(クリア) か? うーん……頭吹き飛ばしても自力で再生するやつの倒し方なんて、それくらいしか思い付かないしなぁ……」

『あがッ!? ご……ッ!? き、きさ……がッ!? や、止め……ぐぼッ!』

着弾、着弾、着弾。

神の滅ぼし方をぼんやりと考察しながらも、アルは無慈悲に『銃弾』を放つ。次々にエリノーラを 穿(うが) つ。

望まない初体験を絶賛経験中の女神の疑問などはまるっと無視だ。容赦なく削る。残機を減らしに掛かる。というよりも、アルにできるのはそれだけ。選択の余地もない。

そんな戦闘とも呼べない 作(・) 業(・) 現(・) 場(・) を、満身創痍のシャノンが恨めしそうに見ていたとかいなかったとか。

『ご……ぅぐ……ぎィ……ッ! わ、我に……このような真似をして……んごッ!?』

盛大に頭部が弾け飛ぶ。

血飛沫(ちしぶき) ではなく、煌めく虹色のマナが舞い散る。そこだけを切り取れば、神秘的で美しい光景だろう。

これで何度目になるのか。

頭部を完全に失った後にも、女神エリノーラは復活する。美しき御尊顔が再び現れる。だが、もう虹色の輝きは大半が失われてしまった。長い髪は、とうとう見える部分のすべてが真白くなりけり。

それでも、まだ神気のすべてが失われたわけでもない。風前の灯のごとくではあるが、微かな虹色の煌めきが左目の奥に宿っている。

『ぅぐ…………わ、我が……滅びる……だと……ッ!? ゆ、ゆ、許されぬ……! 我は〝神〟だ……〝神〟が……ッ!!』

遅まきながら、ここに来てようやく女神エリノーラは理解する。肉体の損傷と再生が、そのまま自身の存在を削っているのだと。

「……うーん、思ってたより早かったな」

「そうですね。ヴェーラ殿やサイラスと合流しようかと思っていましたが……この分だと、あと少しで終わりですかね?」

アルとしては想定外。ペナルティによる弱体化があるとは言え、流石に神を消耗させるのにはかなりの時間を要すると考えていたのだが……それほどでもない。

女神エリノーラの限界はすぐそこにあったらしい。

コリンたちが退避するまでもなかった。見物客として留まっている間に決着を迎えられそうなほど。

『……わ、我が……げ、下賤な者どもに屈するなど……あり得ぬッ!! 我は〝神〟なのだぞッ!?』

「いや、僕にそう言われてもね。そりゃあんたは超越者で神様なのかも知れないけど、結局のところ、この世界には更に〝上〟がいるわけだし……むしろ、そっちが正真正銘の〝神様〟って感じじゃないのか?」

特に深い考えがあったわけでもないが、そんな言葉がするりと出て来る。

前世の記憶は遠い彼方ではあるものの、かつての宗教観が今のアルに影響を及ぼしているのは確か。

また、辺境の地で、虫の化け物どもと日々生存競争をする羽目になったこともあり、〝全能なる神様が救いをお与えになる。我らを導いてくださる〟……的な考えは馴染んでいない。

いくら神様に祈ったところで、目の前の虫どもが怯むことなどなかった。生きたまま食われている者たちが、都合よく助かることなどもなかった。

助かる時は助かる。死ぬ時は死ぬ。そこに神の意思があろうがなかろうが、理不尽はあって当たり前。

世の仕組みは、自然現象は諸行無常。その上で 八百万(やおよろず) の神。森羅万象に神は宿るという価値観の方が、アルにはしっくりきている。

だからこそ、明確な人格なり個性を有する女神エリノーラを、唯一無二の全能なる〝神様〟として認識できない。

どちらかと言えば、北欧神話やローマ神話、日本神話などなどの、一長一短なキャラクター性や他の神々との関係性、物語を持ち合わせる系の神様のように捉えていた。ある意味では馴染みのある存在として。

『……じょ、上位存在が……正真正銘の〝神〟……だと? で、では……我は……? 我は〝神〟ではない……?』

ただ、アルの軽い発言は、思いの外にエリノーラに刺さる。

自らのアイデンティティに疑問を持つ。他でもない神が。それは〝神様〟の終わりだ。

先ほどまでとは違う困惑がエリノーラの内に生じている。分かり易く動揺している。

「ん? なにか不味いこと言ったか?」

「さぁ? 俺に振られても知りませんよ」

「というか早く帰らない? 私はともかく、シルメス殿は本当にヒョロいから、割りと本気で心配なんだけど?」

もっとも、ファルコナー組の面々からすれば、女神が動揺しようが、存在に疑問を抱こうが、特にどうということもない。

「それもそうだな。じゃあ続けるか」

アルはそう呟き、感慨もなく『銃弾』の雨を再開させようとするが……。

「お、お待ちください! アルバート殿……ッ!」

待ったが入る。

コリンに抱き抱えられている聖女シルメスが、突然意識を取り戻す。

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