軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 試されるアルバート・ファルコナー

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アルとヴェーラが模範的な態度で連行された先は、アリエルの言葉通りに屋敷に違いはなかったが、見るからに〝普通の屋敷〟ではない模様。

オルコット領都の中心部に設けられた、領主館や役人たちのための宿舎が立ち並ぶエリアなどではなく、それは街外れの一画にある屋敷だった。

立地的にはとっくに開発が進んでもおかしくない場所でありながらも、そこにはなんの捻りもないごくごく一般的な貴族家の屋敷という風情の建物しかない。

周囲に民家や商設備などもなく、街中にありながらもポツンと一軒家状態であり、〝ここが密会場所ですよ〟と言わんばかりの屋敷だった。

アルとヴェーラが案内されたのはそんな場所。

「着きました。こちらになります」

硬い表情のまま、案内役として到着を告げるアリエル。

「いや、なんというか……分かり易いですね」

大真面目なアリエルの態度をよそに、アルの方は思わず苦笑いだ。色々とナニかが動いているのだろうが、まさかこんな分かり易い密会場所に連れて来られるとは思っていなかった。目の前の屋敷は、本来ならば擬態用に扱う場所なのがあからさまに過ぎる。

「アルの言いたいことは分かりますが、先方とこちらの条件を満たし、取り急ぎ確保できたのがここだったのです」

流石の高貴な娘も一つ溜息を吐く。彼女にとっては、変事云々よりもアルと客人との接触に気を遣う。顛末がどうなるかを事前に聞かされているからなおさらだ。

「僕にはその〝客人〟にまったく心当たりがないんですけど?」

「当人曰くですが、その方はアルとはまったく面識がないとのことです。ただ、それでも〝アルバート・ファルコナーの 足跡(そくせき) を知っている〟と。そして、話の流れでアルが激昂するかも知れないので、大声で怒鳴ったり、派手に暴れてもいいような場所を用意してくれとのことでした。先方はなんなら屋外の広場でもいいとまで仰っていましたが……流石にそれではこちらの面目が立たないので……」

「はぁ? うーん……ますます分かりませんね。事前にブチ切れると言われても……ま、会えば分かるんでしょうけど」

アルからすれば、特に好きでもないナゾナゾを出されている気分だ。遠回しなやり取りに辟易するだけ。

「屋敷の中には客人がお一人で待つだけです。王都の変事については追って説明しますが、まずはアルとヴェーラ殿だけで客人と面会いただければ……」

アリエルは貴族式の礼を取りながらそう語る。アルとヴェーラを囲んでいた聖堂騎士らも後退し、その場に待機する姿勢。

あとは屋敷で客人と話をしろという投げっ放しなやり口。

ここが辺境地であることを差し引いても、それはとてもマクブライン王国の貴族社会での作法ではない。少なくとも、アリエル自身が望んだ対応じゃないのだろうと察せられる。

罠の可能性を含め、節々に疑問を感じながらも、このよく分からない状況をさっさと解消したいアルは、言われるがままにヴェーラを伴って屋敷の扉へと歩を進める。

アルとしては今さらそんな振る舞いを求めていなかったが、無言のままにヴェーラが従者として先を歩き、警戒しつつも主のためにと屋敷の扉を開く。

外観と同様、特に捻りのない間取り。扉の先には大きめの玄関ホールがあり、奥まった所に二階への階段が見えるという間取り。

件の客人は、扉を開けてすぐに視界に入る位置にいた。

玄関ホールの壁際に置かれたソファに腰掛けている。

その人物は、アルたちの姿を確認し、さり気なく両の手を開いて見せながらゆっくりと立ち上がる。それは敵意のない表明か。

若い男。年齢的にはアルよりも少し上。二十代前半ごろのように映る。

体格は細身で小柄。

マクブライン王国のヒト族では少々珍しい黒い髪に黒い瞳。

その顔立ちも陰影が薄く、生粋の王国人とは人種の違いが見て取れる。

異邦人の風体。

どことなく眠そうな眼差しがアルとヴェーラを見やる。

アリエルから聞いていた通り、アルは確かに客人と面識はない。知らない人物で間違いないのだが、妙な既視感を覚えてしまう。

その客人の姿は、 か(・) つ(・) て(・) の彼が見慣れたものだ。

人物というより人種に馴染みがある。その身なりも。

白を基調としたブレザータイプの制服のような意匠であり、そのような装束は王国においては王都の魔導学院以外ではお目に掛からないもの。辺境地においては奇異に映る装いだ。

「はじめまして、アルバート・ファルコナー殿。僕はトゥルーという者です。あくまで こ(・) こ(・) での俗称のような名ですが……」

胸に手を添えつつ頭を下げる。簡易的な貴族式の礼を取りながら、客人はあきらかな偽名にて名乗る。アルにはその名に覚えもない。はじめましての人物だ。

「これはご丁寧に。改めまして、アルバート・ファルコナーです。彼女はヴェーラと申します」

「……」

礼には礼を。

アルはごく当たり前に名乗り、紹介されたヴェーラが警戒したままに客人と目礼を交わす。

「それで……トゥルー殿は僕に用件があるとお聞きしていますが?」

本来であれば、お互いが名乗った後は近付いて握手でも交わす流れになるのだが、アルはその場から切り出す。近付かない。

何気なく立っているだけに見えるが、トゥルーと名乗った人物は戦う者。低く見積もった上で、アルは客人を危険な水準の使い手だと判断した。

「ええ。まず、僕が何者かを説明しましょうか。とは言っても、アルバート殿には〝 し(・) が(・) な(・) い(・) オ(・) ー(・) ク(・) の(・) ジ(・) レ(・) ド(・) 〟と 似(・) た(・) よ(・) う(・) な(・) 者(・) だと言えば通じるでしょうけど……」

一方のトゥルーは、アルの警戒を特に気にした風でもなく応じる。さらりと重要事項を語る。

「……ああ、なるほど。トゥルー殿は そ(・) っ(・) ち(・) 関連というわけですか」

「?」

アルには聞こえた。ヴェーラには一部で意味が通らない。客人の語る言葉が聞こえているのに認識できない。

「アル様?」

「申し訳ないけど、ヴェーラ殿には一部が聞き取れないかも知れない。アルバート殿から後々に補完して欲しい」

「ええ、承知しました」

「……」

ヴェーラは口を噤む。主と客人の会話に自分は必要ないと判断し、周囲への警戒に専念する。切り替える。

「で? トゥルー殿がジレドと似た者同士ということは、また〝上〟からの指示なりルールなりの押し付けですか? 個人的にはひと段落したと思ってたんですけどね」

もちろん警戒は残しているが、アルとしてはどこか気が抜ける。またかよという具合だ。むくむくと苛立ちも沸いてくる。

「……いえ、本来は僕がアルバート殿と直接会う予定なんてなかったんですが、何の因果か色々と繋がりができてしまいましてね。気分の悪さはしばし飲み込んで頂き、まずは僕の話を聞いて下さい」

飄々としながらも、トゥルーには拭いきれない徒労感のようなものが染み付いている。そんな雰囲気を纏っている。

アルもなんとなしに察する。

会う予定がなかった、ここに来たくなかったというのは、確かに彼の本心なのだろうと。

「いいでしょう。取り敢えずお聞きましょうか」

一旦は飲み込む。激昂するという用件とやらを聞くまで、一先ずアルは我慢する。

「ふぅ。まず、似た者とは言いましたが、厳密には僕はジレドさんたちとは別枠の存在です。この世界の〝物語〟よりも更に〝上〟から、あれこれと お(・) 題(・) を出され、それをこなすためにあちこちの世界を渡り歩く根無し草です。僕らの存在が認知されている地では〝 漂流者(ドリフター) 〟なんて呼ばれたりしますね。で、僕は今、そのお題をこなすためにこの地で〝クラーラ・ナイトレイ卿〟の一員として活動しています。つまり、表向きにはアルバート殿の母君の配下という立場です。実のところ、今回はクラーラ様の配下として来ているんですが……色々と説明しないと話が進まないので……」

クラーラ・ナイトレイ卿。

クラーラ・ファルコナー男爵夫人が取り仕切る情報網の通称。詳細はともかく、アルもその存在自体は薄らと聞かされていた。

嘘か真か、目の前にいる人物はクラーラの、母の配下だという。

「母上の配下として来ている? 今(・) 回(・) は(・) ?」

「ええ。 僕(・) の(・) 姿(・) を見れば、どうしたってアルバート殿は疑念を抱くでしょう? 擬態(ぎたい) も考えたんですが、ファルコナーでは色んなヒトから呆気なく看破されましたし、もう今さらかと思いましてね」

確かにアルは彼の姿に疑念を抱いた。遠い記憶で見慣れた姿。その人種に。

「は? えぇと……つまりトゥルー殿は、 そ(・) の(・) 日(・) 本(・) 人(・) 的(・) な(・) 見(・) た(・) 目(・) を誤魔化せないから正体を明かしただけ? 本題とは関係なし?」

「ええ、その通りです。僕自身はヒトモドキというか、〝上〟に造られたホムンクルスみたいな 存在(モノ) なんですが……見た目や記憶はもろに日本人ですからね。文化や時代についても、アルバート殿の前世と似たり寄ったりだと思いますし……まぁそんなどうでもいい情報はさておき、僕が今ここにいるのはクラーラ様の伝令としてです」

「……」

拍子抜け。つい先ほど湧いてきたイライラが萎んでいくアル。

思わせぶりに登場した、色々と世界の秘密っぽいナニかを知っていそうな日本人的風貌を持つ怪しげな人物が、実は母親からの伝言を携えたお使いでしたとさ。

ちゃんちゃん。

アルとしては思わずなんじゃそらとでも言いたいところだ。

「はぁ……なら、とっととその母上からの伝言とやらを教えてもらっても?」

急に馬鹿馬鹿しくなったアルは本題の片付けに入る。話を終わらせに掛かる。

「あー……くだらない前置きの後になんですが……まず、王都で コ(・) リ(・) ン(・) と(・) サ(・) イ(・) ラ(・) ス(・) が(・) 死(・) に(・) ま(・) し(・) た(・) 」

「ッ!?」

軽く告げられたその内容に反応を示したのはヴェーラ。マナが乱れる。ざわつく。

「……それで? 母上はなんと?」

アルは冷静に続きを促す。母からの……ファルコナー男爵領を実質的に取り仕切る女傑からの伝令である以上、単に身内が死んだという報せだけのはずがないと考えた。

「王都にはシャノンが派遣されているのですが、僕が報告を受けた時点では彼女も厳しい状況のようです。クラーラ様からは〝王都に戻り始末を付けろ〟という伝言を預かっています」

「つまり、他の者は動かせない?」

「はい。実際に動かせる駒はいますが、今回の件はすでに王家や他の貴族家が動いているため、クラーラ様は手を出さないと決めました。そうせざるを得ないようです。ただ、王都の〝ギルド〟については、アルバート殿なら王家や他家に忖度せずに関与できるだろうとのことです」

混乱と怒気が漏れ出るヴェーラをよそに、アルは淡々とトゥルーとのやり取りを続ける。

「動ける僕が始末をつけろってことか。それで? シャノンの厳しい状況というのは? 彼女がそうそう窮地に陥るとは思えないんだけど?」

「残念ながら、シャノンの実力を以てしても〝敵〟から逃れるので精一杯だったようです。武力というよりは、相性や組織力の問題ですが……」

応じるトゥルーに余計な揺らぎや情動はない。伝令として、聞かれたことに対して知り得る情報を吐き出すだけに徹している。

「じゃあコリンとサイラスの遺骸の確認は? 死んだというのは フ(・) ァ(・) ル(・) コ(・) ナ(・) ー(・) 的(・) な(・) 意(・) 味(・) で(・) ?」

ヴェーラ(とジレド)という前例を乗り越えた今のアルだからこそ聞ける。

二人は本当に死んだのか。それとも 行(・) 方(・) 不(・) 明(・) になっているだけなのか。

トゥルーはほっとしたように小さな笑みを浮かべる。僅かな感情の揺らぎが表に出る。その質問は彼が望んでいたもの。

「お見事です、アルバート・ファルコナー殿。あなたはクラーラ様の 試(・) し(・) を超えた。おかげで僕も予備の命令を実行せずに済みました。ありがとうございます」

それなり以上に距離を置いたまま、いっそ優雅に頭を下げて感謝を述べる伝言役の異邦人。

しかしながら、アルとしては今こそ先の苛立ちを超えた嫌悪を覚える。さっさと質問に答えろと視線を投げつける。

「……ふぅ。失礼しました。ただ、僕もやらされてるだけなのでご勘弁を。アルバート殿の疑問の通りです。少なくとも、僕が報告を受けた時点でコリンとサイラスの遺骸の確認はできていません。交戦中の所在確認不能による死亡扱いです」

ほんの僅かだけヴェーラの怒気が緩むが、次に押し寄せてくるのは焦燥。

戦う力を持つコリンはともかくとして、彼女が思いを馳せるのはサイラスだ。

生き延びているかも知れない。

傷付いているかも知れない。

助けを求めているかも知れない。

そんな考えが一度でも浮かんでしまえば……彼女の心は千々に乱れる。居ても立っても居られない。

「つまりコリンやサイラスの安否は自分で確認しろってことか。なら、僕はアリエルに事情を聞いてさっさと王都へと向かいますが……トゥルー殿。話の流れで僕が激昂するかもって聞いてましたけど、今のがですか? これが母上の試し?」

さっさと話を切り上げて王都への出立を急ぎたいところだが、母からの試しなどと聞いた以上、アルは迂闊に動けない。動かない。なにしろ、クラーラの 教(・) え(・) は骨の髄まで叩き込まれている。

いかなる事態を前にしても平静さを失うな。

慎重に状況を見極めろ。

その上で素早く動け。

立ち止まるな。目を瞑るな。機を逃すな。

やるべき時にやるべきことをやれ。

「一つはそうです。遠く離れた地で身内の訃報を受け、もしアルバート殿が僅かでも狼狽しようものなら……遠慮なく ぶ(・) ち(・) の(・) め(・) せ(・) とクラーラ様に言い付けられていました。あと、クラーラ様というか、お二人からというべきか……その、父君であるブライアン様からの試しもあったんですが……ええと、そちらについては……残念ながらアルバート殿は不合格なんですけどね……ふぅ」

そんなことを気まずそうに語るトゥルー。見るからに〝やりたくない感〟が出ている。

「……父上からの試し?」

母クラーラはともかく、アルは父ブライアンの名を聞いて途端に 訝(いぶか) しむ。こと戦い以外に関して、あのクソ親父は碌なことをしない。それもまた骨の髄まで沁みている。

「ごほん。ええー……あくまでこれは僕じゃなく、ブライアン様からの伝言ですからね? どうか勘違いしないでくださいよ? 頼みますからね? はぁ……すぅ」

「?」

咳払いを一つした上で、言い訳がましく語る伝令。わざとらしく大きく息を吸い込み……彼は叫ぶ。

「こッのバカッタレがァァァッッッ!! 将(・) 来(・) の(・) 妻(・) が横で焦っているのになんたる体たらくかッ!! 冷静ぶって怪しげな使者を問いただすよりも先にィィッッ!! まずは大事な女の不安に寄り添わんかァァッッ!! このすっとこどっこいの未熟者がァァッッ!! そんなことじゃまだまだ婚姻は認められんぞォォォッッッ!! あとッ! それはそれとしてッ!! 親には一度紹介しろォォッッ!!」

「はぁッ!?」

「ふぁッ!? つ、妻ッ!?」

ブライアン・ファルコナーからの唐突ないじり。ダメ出し。

わざわざ第三者を介しての。

アルのクソ親父は、本当に碌なことをしませんでしたとさ。

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