軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

厳しい現状

三日目、午前中に蛙十二匹と魚二匹を仕留めたトールたちは、荷物をまとめて出発した。

畳んだテントと蛙三匹はトールが持ち、魚二匹はソラの担当だ。

残りの蛙は持ちきれないため、廃棄処分となった。

ムーは愛用のソリにのっかり、ユーリルはソラの杖を借りている。

どうやら長い杖なら恥ずかしくないらしい。トールにはよく分からない感覚だ。

疲労が激しい吸精草の土手を避け、できるだけ河原を通りながら上流へ向かう。

途中、いくつかの河原を横切ったが、そのうちの一つで数人の冒険者がちょうど帰り支度をしている最中に出くわした。

ふと思い立ったトールは、近づいて声をかける。

「忙しいところすまんが、ちょっといいか?」

「うん、なんか用か?」

子どもと女性二人を引き連れた中年の男に声をかけられた冒険者は、警戒心をあらわにしながら立ち止まる。

「ここ、今から引き上げるのか?」

「そうだが、それがどうした?」

「だったら、その後は俺たちが使っても?」

チラリとトールの荷物を見た男は、わざとらしく肩を持ち上げてみせた。

それから腰に手を当てて面倒そうに答える。

「いや、次の予約が入ってるから無理だな」

「予約がいるのか。どこですればいい?」

「どこって……。ああ、来たばっかりか。そうだな、そっちのお嬢さん方をちょっと貸してくれたら――」

そこでユーリルの首に下がる黒い冒険者札に気づいたのか、男は言葉を詰まらせた。

Cランクが加わっているパーティと関わりになるのを嫌がったのか、強引に話を打ち切ってくる。

「……忙しいんだ。ほら、もう行ってくれ」

追い払うように手を振る冒険者に、トールは礼代わりに頭を軽く下げて歩き出した。

どうやらロロルフたちの話は、あながち噓でもなかったようだ。

昼前に大きな採石用の河原へたどり着いたトールたちは、疲れ切ったユーリルを小屋の前に残して、素材の買い取りをしてくれる解体場へ先に向かった。

出張所の裏側に回ると、ムッと生臭い匂いが漂ってくる。

奥には白い天幕がいくつか並び、その手前には木の棒杭が数本立てられていた。

長い杭には縄が張られ、引っ掛けられた何かの肉や皮が風に揺れている。

手前には長テーブルや樽があちこちに置かれ、数人の男が巨大な獣の死体を切り開いているところであった。

トールたちに気づいたのか、職員の一人が前掛けで手を拭いながら近寄ってくる。

「ようこそ、買い取りの持ち込みですか?」

尋ねながらエプロン姿の男は、空いているテーブルへ誘導し荷物を下ろすよう勧める。

トールが縄で後足を縛った赤毒蛙の死体を持ち上げると、職員は慌てて空樽を持ってきた。

血吹き魚二匹の重みから解き放たれたソラは、軽く伸びをしながら胸を張った。

田舎育ちなので、この程度の荷物なら丸一日持ち歩いても大して苦にはならない。

興味深そうに辺りを見ていた少女は、見慣れた生き物がテーブルに山積みされているのに気づき声を弾ませる。

「わっ、カニがいっぱいいるよ! しかもすごくおっきいねー」

「あれなんだー? もしかして、かぶと虫か? ソラねーちゃん」

「あれはカニっていってね。沢に住んでて、ハサミでチョッキンしてくるんだよ。ムーちゃんも髪の毛チョキチョキされるよ」

ソラに頭をワシャワシャされたムーが、目を少しだけ丸くして笑い声を上げた。

「トールちゃん、あれ食べられるのかな?」

「くえるのか! うまいのか?」

「茹でるとたいへん美味しいですよ。ぜひ、街へお戻りになったらお召し上がりください」

「カニはちょっと高いのがな……。あれは下流には出てこないのか?」

「えっ、ええ、はい。あれが発生するのは、少し限られた狩り場となっておりますね」

上流限定という話も間違いではなかったようだ。

不服そうな少女たちの顔に気づいたのか、職員はさり気なく話題を変えてくる。

「蛙の持ち込みは減ってたんで助かりましたよ。あ、討伐査定もこちらでいたしておりますが、ご一緒に精算されますか?」

革袋から出した赤黒い舌と麻紐でまとめてあった背びれもテーブルに並べると、職員の目がわずかに見開いた。

魚が意外と多かったことに驚いたようだ。

素早く勘定を済ませた男は、紙ばさみの書類に数字を書き込むとトールへサインを求める。

そして書き終えた書類を差し出しながら、丸太小屋を指し示した。

「この紙を受付に持っていってくだされば、向こうで換金されますので。ただ用紙を汚されますと無効になりますのでお気をつけください」

「ありがとう。助かったよ」

戻ってきたトールたちに、小屋の前の柵に身を預けていたユーリルが軽く会釈してきた。

フードを脱いでいるせいで、そのきっちりと編み込まれた銀髪は陽光に淡く輝いて見える。

安易に人を寄せ付けない氷のような美貌が、トールたちへ向けられたとたん柔らかく変化してみえた。

雪の下から不意に現れた美しい花のような表情に、トールは思わず目を奪われる。

しかし当のユーリルは気にする素振りもなく、よく通る声で話しかけてきた。

「あちらのほうで、なにかお売りのようなの。見てきてよろしいかしら?」

言われてみれば馬車が並ぶ広場の片隅から、呼び込みの声と人だかりの喧騒が響いてきていた。

どうも街から運んできた品々を売っているようだ。

時間が昼前なせいか、美味そうな匂いも漂ってきていた。

「ええ、どうぞ。あ、なにか軽くつまめるものがあったら買っておいてください」

「はい、わかりました。ソラさんたちもご一緒します?」

「ごはんか? なら、ムーのでばんだな!」

「はーい、いきます、いきます」

三人を見送ったトールは、木製の扉を押し開けて出張所へ足を踏み入れた。

カウンターに立っていたのは、先日の翠羽族の男だった。

トールの顔に一瞬で気づき、唇だけで笑みを形作る。

「こんにちは、いらっしゃいませ」

「これの換金を頼みたいんだが」

解体場でもらった書類を手渡すと、緑の制服姿のリシはサッと目を通してから顔を上げる。

「この血流し川の狩り場はいかがでしたか? トール様」

「あまり楽しい場所とは言えないな」

「ええ、モンスターが湧き出る場所ですから、楽しいとは程遠いでしょうね」

トールの言葉の意味を、リシはわざとらしくずらして捉えてみせる。

「ところで色々と噂を耳にしたが、本当のことなのか?」

「皆様、退屈されてますから、噂は色々とあるようで。さてどれの話でしょう?」

「狩り場の予約とかそんな話だ。金を積めばいい場所へ行けるとか」

「ああ、それでございますか。はい、ご希望とあれば仲介させていただくこともございます」

「じゃあ上流へ移りたいんだが、いくらほどかかるんだ?」

「そうですね……」

値踏みするようなリシの視線が、トールの持ち物へ素早く注がれる。

そしてかなりの高級品である青縞大蛇のマントに気づいたのか、唇の端がさらに持ち上がった。

「ええ、今の相場でしたら、一週間で金貨三枚といったところですね」

平均的な冒険者局の職員の年収が金貨五枚ほどであるのを考えると、かなりのふっかけぶりだ。

トールの鼻白んだ表情に気づいたのか、リシはスッと笑みを引っ込める。

そして再び作り物の笑みに切り替えると、カウンターの上に貨幣を並べた。

三日間の成果は、銀貨四枚と大銅貨一枚に中銅貨一枚。

片道の馬車賃にようやく足りるといった結果である。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

白々しい言葉を背で受けながら、トールは扉を押し開けて外へ出た。