軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

週末の約束

翌日、飲みすぎて動けない三人組を横目に、早起きしたユーリルとソラ、ディアルゴの三人が竈に火を入れてテキパキと朝食を作り出す。

トールとムーは散歩がてら土手の上を歩きつつ、なかなかの眺めを堪能した。

「なんもないなー、トーちゃん」

「ああ、なにもないな」

川向うに広がる荒野は、見渡す限り吸精草に覆われていた。

その奇妙な景色に、ムーは不思議そうに呟く。

「青いのと茶いろしかない。へんなのー」

朝の透き通る空気の中、青色の空には雲ひとつ見当たらない。

真っ直ぐに引かれた横線で、地の彼方まで続く茶色と綺麗に二分されている。

「あれって、だれが引いたの? 神さま?」

「そうだな、きっと神様だろうな」

地平線を指差す子どもの髪を撫でながら、トールは少し考えて答える。

この世界を作ったのは、創世神なので間違いはない。

それにこの奇妙な景色の原因は滅世神のつくった"昏き大穴"にあるので、それも間違いではない。

何にせよ、全ては神々の手の内であるということだ。

「……おはよう、幼い子」

「……起きたのか、幼い子」

土手には先客がいた。翠羽族のタパとタリの双子だ。

ムーへ挨拶をすませた二人はトールへ軽く会釈すると、そのまま視線を空へ戻した。

「おはよう!」

「おはよう、なにを見てるんだ?」

眩しい陽光がふり注ぐ頭上には、雲一つ浮かんでいない。

疑問に思ったトールの言葉に、二人はしばし無言で空を見上げていたが、不意に片割れが口を開いた。

「……週末まで、雨はない」

「ああ、風読みしていたのか」

<風読>は風精樹の下枝スキルで、気温や湿度に風の向きや速さまでも読み取る希少魔技である。

主に天気の移り変わりを調べるのに使われるが、冒険以外でとてつもなく役に立つため、引退者は各方面から引く手数多であったりする。

一言で説明を終えた二人は、スイっと河原を指さした。

そこには朝食が完成したのか、大きく手を振るソラの元気いっぱいな姿があった。

「あ、きっとごはんだぞ! トーちゃん」

少女の身振りに気づいたムーが、叫び声を上げて駆け出す。

そして数歩で土手を転げ落ちた。

トールと双子は目を合わせたあと、ゆっくりと朝食の席へ向かった。

パン粥を食べて少し酒が抜けたのか、ロロルフたちが橋作りを実演してくれる話になった。

「よーし、始めるぞ!」

先頭は赤鉄の鎧と兜で武装したディアルゴだ。

鋳鉄で覆われた円盾を前に出し、猪の骨でつくった棍棒を携えている。

少し離れて三兄弟。

赤い河馬革の鎧に、鼻当てのついた鋳鉄兜。手にはそれぞれ得意の得物がある。

そこから斜め後方の位置には双子。

二人とも布地の服で、兄のタパは赤い胸当てを付け長弓を持ち、弟のタリは小さな短刀を構えていた。

盾士が川岸へ近づくと、すっかり馴染みになった赤と黒の不気味な模様が四つ飛び出してくる。

腰を落としたディアルゴは蛙の飛びつきを盾で受けとめながら、棍棒を巧みに使い足元のスペースを確保する。

しばし絡み合う四匹と一人。

モンスターの動きを熟知した盾士は、全く崩れる様子も見せず淡々と攻撃をさばき続ける。

それ自体は特に問題のない戦法であるが、奇妙なのは後ろのメンバーであった。

武器を構えたまま、少しも動き出す気配がない。

「だ、だいじょうぶかな?」

「トーちゃん、あれさぼってるのか? こらー、がんばれー!」

「いや、作戦なんだろ。お、動いたぞ」

頃合いを見計らっていたのか、いきなり近寄った三男が低い体勢から地面すれすれへ槍を突き出した。

槍先で貫かれたその赤毒蛙は、ようやく他の存在に気づいたのか、群れから離れて一匹で襲いかかる。

待ち構えていた次男の両手持ちの長い斧が、ブンッと空気を裂きその横腹を強打した。

同時に背後に回り込んでいた長男の片手斧二丁が、粘液でぬめる背中を連撃する。

毒が交じる血を撒き散らしながら、蛙は簡単に地に這いつくばった。

そこへ容赦なく追撃が加えられ、あっさりと一匹目は絶命した。

終わるとまたも同じ繰り返しで、兄弟たちはモンスターを問題なく仕留めていく。

残り二匹になった時点で、赤い背びれが波間から顔を出した。

宙を貫く矢が、間髪を容れず迎え撃つ。

血吹き魚は水弾で応戦するが、ほぼ一度に三本の矢を放つタパの腕前に蛙の援護をする余裕もない。

さらに風使いであるタリの後押しで、矢の威力はどんどん上がっていく。

結局、一度も河原に水弾を飛ばすことなく、針山のようになった魚は川面へ横たわった。

河原の戦いも地味に終りを迎えていた。

ディアルゴが残り一匹となった蛙を軽々といなすところへ、三匹目を仕留め終わったロロルフたちが駆けつける。

「もらった!」

「くらえ、俺様の怒り!」

「はい、いただき」

一番早かったのは三男であった。

紫の蛇のような雷をまとわりつかせた槍が、凄まじい速さで突き出され蛙の心臓を貫きながら吹き飛ばす。

一歩遅れてぶん回された両手斧と、大上段から振り下ろされた二丁の片手斧が、目標を見失い河原の石を派手に砕いて撒き散らした。

それを互いにもろに浴びた長男と次男は、しばし無言で動きを止める。

黙ったままの二人は武器を足元に置くと、逃げようとしていた三男の顔を左右からいきなり殴りつけた。

そして近距離で睨み合った状態から、互いの拳を相手に突き出す。

「なに俺の獲物、横取りしようとしてんだ!」

「うるせえ、今のは完全に俺のだろ!」

「いいカッコできなかったじゃねえか!」

「それはこっちの台詞だ、兄貴!」

どうでもいいことで急に殴り合いを始めた二人に、ムーは大喜びで両手を叩いた。

ユーリルはいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、やんちゃな子どもを優しく見つめる眼差しを送る。

ソラは兄弟喧嘩には興味を示さず、トールに気になった点を尋ねてきた。

「あれ? ふつうに終わっちゃったねー。あ、おじゃまなモンスターをやっつけたから、今から橋作りなのかな?」

「見てみろ、続きがあるようだぞ」

トールの視線の先には、いつの間にか川の中に並ぶ石山の上を渡っていくディアルゴの姿があった。

器用に弾みをつけて、リズムよく男は進んでいく。

そして川の中ほどにある石山にたどり着いた茶角族の青年は、そこで足を踏ん張ってみせた。

ディアルゴのすぐ前には、低い作りかけの未完成の石山があった。

その先は、まだ何もない状態である。

飛び移るかと思われたその時、男は無言で虚空に盾を突き出した。

次の瞬間、低い石山が小さく揺れながら、明らかに盛り上がる。

数個の石がその動きに耐えきれず、水面に転がり落ちて次々と水柱を上げた。

「うわ、かってに山がふえたよ!」

「みたか、トーちゃん? ニュニュってもりあがったぞ」

はっきりと変化をみせた石山に、ソラたちは思わず驚きの声を漏らす。

「すごいなー、ムーもあれしたい。できる?」

「今のはたぶん、盾士の武技だな。土の壁を作るやつだ」

「ええ、<岩杭陣>でしょうね。それで最初は闘気を溜めてらしたのね。あんな使い方をされるなんて驚きました」

感心するトールたちへ、拳の話し合いを終えたロロルフたちが近づいてくる。

よく見れば殴り合ったはずの傷が、すでに塞がりつつあった。

おそらく<回復促進>持ちなのだろう。

「ざっとこんなもんさ。どうだ?」

「よく思いついたもんだ。あれなら安全に山を作れるな」

「はは、自慢してえとこだが、<岩杭陣>を使ったやり方はここじゃ結構、当たり前でな。ほれ」

ロロルフが投げてきたのは、手のひらにのるサイズの赤茶けた石塊だった。

ざらざらと砂が固まったような手触りをしている。

「それが赤鉄の砂鉄ってやつだ。そいつはここの川底に溜まりやすくてな。それを掘り出すのに、ドカンと<岩杭陣>で持ち上げるのは昔からやってたらしい」

「ほう、これが赤鉄の材料か。意外と重いな」

「で、本題はそれだ。その砂鉄だが、実はとあるモンスターの大好物でな」

「ああ、それで俺に助けを求めたのか」

「察しが早くて助かる。ここらじゃ川スライムって呼ばれてるんだが、あの石山に砂鉄が多いせいか群がって溶かしちまうんだよ」

「うっかり武器をぶっ刺すと、俺らの愛用の得物まで溶けちまって大変でな」

「たいへんかー」

「だろうな。だが四六時中出るってわけでもないのか?」

出来たての石山へ視線を送りながら、トールは気になった点を尋ねる。

ロロルフたちの話が本当なら一匹くらい姿を現しているはずだが、それらしい気配はない。

軽く頷いた長男は、振り返って翠羽族の青年へ問いかける。

「どうだった? タリ」

「……週末までほぼ安定。そこから崩れるはず」

「そうか。実は川スライムってのは、雨が降ると湧くんだよ。すまないが週末辺り、出張ってくれないか?」