軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地の底の光明

東に続く通路を進むと、地面はゆっくりと下降し始める。

しばらく歩くと平坦に戻るが、闇の濃さは明らかに変わっていた。

二層についたトールは、通路の先をうかがう。

低い視界の中、二十歩ほど先に身をかがめる影が二つ。

さっそくのお出迎えのようだ。

振り向いたトールが頷くと、ムーが無言で<雷針>を発動させた。

幼い体のあちこちで小さな青光が輝いたのを皮切りに、剣をぶら下げたトールが進み出る。

半分の距離まで近づいた瞬間、闇に潜んでいたモンスターたちも動き出した。

見越していたように、前に踏み込むトール。

その瞬間、寸前まで居た場所に、こぶし大の石が通り過ぎる。

強化されたムーの目は、すでに奥にいる新たな二匹の存在を見つけていた。

加速して投石をやり過ごしたトールは、すかさず手前のホブゴブリンどもとの距離を詰める。

地面すれすれに伏せた状態から、モンスターは近づくトールへ伸び上がるように剣を突き出してきた。

振り上げてから下ろす斬るという動作と違い、一直線に動く突きを避けるのはかなりの困難をともなう。

さらに低い姿勢から放たれると、人間の視界では余計に捉えにくい。

しかし絶妙の位置で、いきなり足を止めるトール。

その鼻先の空隙を、目標を見失った剣先が通り過ぎる。

一閃させた剣が伸び切った手首を斬りつけ、反撃を封じてから喉を貫く。

そのまま巧みに立ち位置をずらしたトールは、もう一匹を後ろの二匹の射線上に呼び込んだ。

くぐもった唸り声を上げるホブゴブリンは、錆びた剣を力任せに横薙ぎする。

一見、雑な攻撃に思えるが、まともに受ければ間違いなくトールの剣はへし折れるだろう。

だが下がって距離を取れば、後方の仲間が攻撃を仕掛ける手筈というわけだ。

前か後ろの二択のうち、トールが迷わず選択したのは前進であった。

軽やかに足を踏み出しながら、迫ってくる刃へ己の剣を合わせる。

硬い音とともに弾き飛ばされたのは、モンスターの剣であった。

――<反転>。

ソラの魔技により、放った斬撃の五割がもと来た方向へ返される。

そのまま弾きあった反動を利用して、トールの剣はホブゴブリンの顎を真下から高速で斬り上げた。

さらにがら空きになった喉元に、切っ先を差し込もうとしたその時――。

地面を蹴って下がりながら、トールは背中のマントをたぐり寄せ目の前に掲げた。

間を置かずして、そこにベッタリと真っ黒な泥のようなものがぶつかってきた。

闇技<腐弾>。

ホブゴブリンシャーマンが、仲間もろとも撃ち込んできたのだ。

マントでしのいだトールと違い、目の前のモンスターはそれをまともに食らってしまう。

闇の落とし子とはいえ、その肉体の構造は他の生物と大きな違いはない。

たちまち身が崩れ落ちて、骨まであらわになる。

だが仲間に裏切られたはずのホブゴブリンは、口の端を持ち上げてずらりと並ぶ牙を見せつけた。

笑みのような表情を浮かべたまま、モンスターは素手でトールに抱きつこうと迫ってくる。

そこへ機を逃さず、シューターの放った投石がトールの後退を狙う。

背後を塞がれたトールは、またも前に出た。

伸ばしてきたモンスターの手を、くるりと鮮やかに身を回して避ける。

そのまま回転に乗せて、水平に刃が振られた。

腐りかけの首を斬り飛ばされたモンスターは、勢いのまま地面に倒れ込む。

それを見届けずに、トールは地面を蹴って残りの二匹へ肉薄する。

有利な距離を潰された後衛たちに、抗うすべは残されていなかった。

「二層からは四匹組になるのか。それと連携的な動きもしてたな……」

冷静に戦況を分析していたトールに、灯りを掲げた二人が近寄ってくる。

そしていつもとは違うモンスターの死体の様子を、興味深そうに覗き込んだ。

「うわわ、なんかすごい臭いしてるね」

「なんだこれ? トーちゃん」

「モンスターが使う魔技みたいなもんだ。うっかりさわると同じ目にあうから気をつけろよ」

「わかったー!」

嬉しそうに返事をしたムーは、ソラの杖をひょいと手にとって腐った部分を突き始めた。

「これ、おもしろいぞ。ソラねーちゃん」

「えっ、えっ? あれ、いつのまに! あああー」

慌てて子どもから杖を奪い返したソラは、石づき部分が小さく捻じくれていく様に悲鳴を上げた。

そして戦闘の最中の出来事を思い返して、慌ててトールに問いかける。

「ト、トールちゃん、だいじょぶ?! この変なヤツ、ぶつけられてなかった?」

「ああ。ほら、見てみろ」

心配してくるソラに、トールは背中を向けた。

青縞模様のマントにはまだ黒い汚れが少しだけ残っていたが、腐り落ちるような気配はない。

「この蛇はもっと濃い瘴気の沼を、平気で泳いでいるからな」

「そうなんだ。もう、心配したよー」

そう言いながらじっと闇技の残滓を眺めていたソラは、首を傾げながらトールに尋ねた。

「ね、ちょっと試してみていい?」

「ふむ。ムー、周りにモンスターは居ないか?」

頭を撫でて<電探>に切り替えてもらったムーは、すぐに紫の小さな蛇を四方に飛ばして確かめる。

「この先、えーと、もうちょっとのとこにいるぞ!」

「そうか、助かったよ」

再び頭に触ってもらった子どもは、いつもの鼻を持ち上げるポーズを決めてみせた。

すでに洞窟に入って一時間が経過していた。

そのため魔技の使用可能時間はリセットされてはいる。

しかし残り時間と距離からして、二層での二度目の戦闘は厳しいとトールは判断した。

「よし、やってくれ、ソラ」

許可をもらった少女は、杖を持ち上げて蛇革のマントを見つめた。

次の瞬間、黒い汚れはモヤのように浮き上がり、白い蒸気に変わりながら消え去る。

変化を見定めるためにマントを持ち上げたトールは、鞘から抜いた解体用のナイフを軽く突き立ててみた。

モンスターの毛皮を容易く切り裂いてきた細い刃は、食い込む素振りもなく表層を滑っていく。

腐敗の<反転>なら成長とかになるはずだが、そんな様子はみじんも見えない。

より頑丈になっている点からして、どうやら防御性能を落とす効果が逆転したようだ。

「む、これは……」

「どうかな? トールちゃん」

トールたちにとってこの迷宮でもっとも警戒すべきことは、魔力切れと魔技の使用回数切れだ。

瘴気が濃くなるにつれ、反比例して魔力の回復は遅れると言われている。

そして時間が経つと再発生してしまうモンスターのせいで、この場所では短時間での殲滅が求められる。

一回でも魔技を無駄撃ちすれば、あっという間に余裕は消え失せてしまう状況だ。

もっとも魔力切れならば、<復元>で何とかできる。

だが使用可能回数を使い切ってしまえば、トールたちには為す術がない。

現に一層の時点で、五回しか使えないソラの<反転>はいつも使い切ってしまう有り様である。

トールが防具を一新したのは、これを踏まえて<復元>の使用回数を少しでも減らすためであった。

だがそれでも、二層を攻略し迷宮の主が控える三層へたどり着くには厳しいというのがトールの見解だ。

さらに屈強なホブゴブリンチーフを攻略する手立ても、まだ思いついていない。

しかし、今。

トールは解決の糸口を、少女の魔技が施された外套に見出しつつあった。