軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

危険を冒す者たち その一

"昏き大穴"への遠征は結局二週間後どころか、一ヶ月後の出立となった。

延びた主な理由だが、神の鏡による若返りの件は、数日のうちに央国中のみならず周辺六国の主要な人物へ伝わってしまったようだ。

そうなると当然のごとく、神器の確保に走ったり遠征に対する主導権争いが勃発する。

それを真正面から跳ね除けたのが、央国西側の街長会議の面々であった。

境界街の利点の一つは、その徹底した現場主義にある。

本国や各神殿の影響は確かに大きいものの、舵を切る先は基本的に街長らが中心となって決定している。

最前線で生き延びるためには、悠長に遠くの誰かの判断を待っている猶予などないのだ。

そういった考えが染み付いているため、いざとなれば他の意向など簡単に無視してしまえる。

むろん援助が打ち切られる場合もあるが、街や人が残りさえすれば何度でも立て直すことは可能である。

その取捨選択が素早く行えたからこそ、境界街はたくましく生き残ってこれたとも言える。

トールがダダンを通じて、街長たちを最初に味方に引き込んだのも、それを見越してのことだった。

そして生存への嗅覚が抜きん出て鋭い元英傑たちは、言われるまでもなく直感的に悟っていた。

今、迎えている山場をどうにかしなければ、もう後がないだろうと。

そのため一致団結して、余計な干渉の排除に当たれたというわけである。

ただし街長会議も一枚岩ではない。

やはりそれぞれが違う国の生まれである限り、どうしても祖国や同胞に対し思惑が出てきてしまう。

それを抑えてくれたのが、伝説の舞姫たるアニエッラだった。

元英傑たちより一世代前の彼女は、それぞれの街長とも顔見知りであり、また少なくない恩義を貸し与えていた。

その人物が睨みを利かせているのだ。うかつな真似はできようもない。

さらに施療神殿の水冠の大巫女が、無条件での協力と参加を表明していたのも大きかった。

名を冠した境界街は多くない蒼鱗族であるが、その癒やしの技からどの街にも必ず施療神殿はあると言われている。

その教主の言葉の波及は、多くの暴走を止める結果へ繋がってくれた。

ただそれで大人しくなってくれれば話は早かったのだが、予断が許されない状況なのは周辺六国も同じである。

ならばと本国の統治者たちが次に選んだ手段は、少しでも遠征への参加者を増やし功績を得ることであった。

そのためにと、大量の遠征への参加候補者を送り込んできたのだ。

当初の予定では八つの境界街から金剛級に近い人員をそれぞれ五十名ほど厳選し、計五百人程度の規模を予定していた。

しかしあまりにも希望者が多く、最終的に二千人まで膨らむこととなる。

この絞り込みに、余計な時間を費やされたというわけである。

もちろん中には、若返りの恩恵だけを目当てにダダンへ集まってきた連中もいた。

そこで活躍したのが、法廷神殿に属するザザムやネネミミら神官たちだ。

<雷眼看破>を使うことで、参加の真意は容易に見抜ける。

おかげで選別の時間を短縮し、トールの<復元>の節約にもなった。

さらに事前に逃亡者が出た境界街は、参加人数を減らされる取り決めのため、街長たちも本気を出さざるを得ない。

他にも決めておかなければならないことや引き継ぐべきことは無数にあったが、それでも一月でなんとか形を整えることはできた。

古の時代、央国は何度も軍隊を用いて、"昏き大穴"を目指したとの記録はある。

だがどれも、大きな成果を残すことは出来なかった。

人が多く集まれば集まるほど、モンスターもまた群れをなして襲ってくる。

しかも力を合わせて倒したところで、 修練点(スキルポイント) を獲得することも出来ない。

大穴にたどり着くどころか、それを見ることさえ無理な話である。

だがそこから長い時が過ぎ、人々は多くの経験から様々なことを学び取った。

少数でモンスターに対峙し、己の技能を弛まず高めてきた。

そして今、その身体は若いながらも、数十年に亘る研鑽を経た戦士たちがこの地に集うこととなる。

かくして、人の未来を賭けた最後の抗戦が始まった。

"昏き大穴"を取り囲む境界街から、それぞれ出撃しても効果は薄い。

そのため出発地点は、中心部に一番食い込んでいるラムメルラの街の予定地が選ばれた。

一点突破を狙った作戦である。

幸いにも一ヶ月の時間経過で、沼地を覆っていた瘴気はかなり薄れてしまっていた。

青縞を持つ蛇や泥中に潜む蜘蛛たちも、大幅に小型化しており障害にもならない。

一日で沼地の先にあった荒野を抜けた冒険者の大集団は、その先に天幕を張って拠点を形成する。

そして二日目。

たどり着いた連峰の山腹で待ち構えていたのは、巨大な地竜の群れであった。