軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地底二十階で待ち受けるもの

聖遺物絡みの騒動が終わって二日後。

準備を済ませたトールたちは、廃棄された地下監獄の奥底を目指していた。

参加者はクロシマ隊七名に白金の焔の五名と、計十二人でなかなかの大所帯である。

人数が多ければ多いほど、道中のモンスターを引き付けやすい危険はあるが、討伐自体の安全性は増す。

ただ通常、迷宮主に挑む人数は、多くても七、八人程度らしい。

主な理由としては、固定ダンジョンの迷宮主に挑めるだけの技量を持ち合わせる人間は、そう多くないというのが一点。

そしてもう一つ、迷宮主を倒した後で、報酬を巡って揉めやすいというのが大きいようだ。

大瘴穴を塞ぐために聖遺物を使用した人間かその親しい者は、解放された地を統治する権利を得る。

討伐に参加した仲間たちはそれを補佐したり、懸賞金だけをもらったりと様々だ。

だがどちらにせよ地位や金銭を多く用意しなければならず、新たな境界街の財政や権利を圧迫してしまう要因となる。

その点、トールたちには、そんな心配はない。

ユーリルが黄金樹の力を解放して大瘴穴を封じた場合、それを助けるためにまだまだ冒険を続けるつもりでいるからだ。

当然、統治権などは放棄する予定であり、だからこそこの多勢での挑戦であった。

十六階までは鍵を使う階段や下り通路を経由し、そこからは邪魔なモンスターを排除しつつ最短路で奥底を目指す。

特に苦戦する場面もなく、二日目の夕方には二十階への下り通路へたどり着く。

一晩、ゆっくりと体を休めたトールたちは、万全の体調で最下層を臨んだ。

「よーし、いつも通りがんばろー!」

「ムーもがんばるぞ! あとくろすけも!」

元気よく杖を掲げるソラと、かぶと虫が入った虫かごを持ち上げるムー。

考えてみればこんな場所に連れてこられた昆虫は、瘴地奪還の長い歴史の中でも初めてかもしれない。

気勢を上げる二人の姿に、ユーリルは馴染みの笑みを浮かべた。

「頼りにしてますよ、ソラさん、ムムさん」

その様子に、双子がやれやれと肩をすくめた。

「もう、ここまで付き合う気はなかったのに。え、お爺様に恩を売れる良い機会? まあ、ネネの言う通りね。怪我しない程度にがんばりましょうか」

姉であるキキリリの言葉に、妹のネネミミは黙ったまま頷き返す。

すでに同調態勢に入ってる辺り、かなりのやる気のようだ。

「私たちも全力でお助けしますね、トール様」

「うう、緊張してきたですよ。でも、ここで勝てたらガッポリ儲かりますからね。やるしかないですよ!」

「おお、やる気に満ち溢れてますね、クガセ殿は。ここは私もと言いたいところですが、こんな地面の奥深くで、頭の上に大量の土があるかと思うとゾッといたしませんか? 私はもう先ほどから震えが止まらず、いやはや情けない話ですが」

「そんな時はお金のことだけ考えるといいですよ、おっちゃん」

「それで元気が出るのってあなただけでしょ、クー。そうだ、愛する人のことを思いながらというのはどうでしょう? バルッコニアさん」

「それこそ、頭の中がお花畑なラムちゃんだけですよ……」

かしましい三人の会話を、無言のままラッゼルとモルダモが眺める。

その隣りでは、リコリが声の代わりに軽やかに笛を吹き鳴らした。

始まった<武勇曲>の調べに、一行の顔つきが瞬時に変化する。

各々が武器を携え、追従するように魔技の祈句を唱える。

<電棘>、<迅雷速>、<陽炎陣>、<衛命泡>、<硬刃>、<地解>、<石鱗守>。

強化が終わったのを見計らい、トールが一声だけ発した。

「行くか」

かくて十二人は、誰も足を踏み入れたことのない地の底へと進んだ。

トールを先頭に、双子とラッゼルが並び、次いでクガセ。

その後ろにソラとムーが続き、他の魔技使いたちは最後尾に固まる。

かなり長い傾斜路を黙々と下り、平行に戻った地面が見えてきた辺りで、トールはその両目に未来を映し出す。

そして大声で叫んだ。

「中へ飛び込め!」

その掛け声で、全員がいっせいに動き出す。

間を置かずして、頭上から激しい音が響き渡った。

同時に通路の天井が次々と崩れ落ち、降り注いだ岩石が傾斜路を埋め尽くしていく。

あと一秒遅れていたら、確実に崩落に呑み込まれて絶命していたであろう。

しかし<地解>の助けもあって、誰一人遅れることなく部屋へ逃げ込めたようだ。

一番後ろを歩いていたリコリが通路から飛び出してきたのを見届けたトールは、安堵の息を漏らしながら今居る場所を素早く確認する。

そこは今までで、一番広い空間となっていた。

天井は高く、建物なら数階分の高さはありそうだ。

奥行きも大いにあり、予想以上に広々としている。

壁や地面には赤く溶けかけた岩があちこち剥き出しており、常人であれば息をするのも苦しいであろう。

目立つ出っ張りや凹みも見当たらず、隠れたり避難できる場所もないようだ。

「見て! トールちゃん」

少女の声に振り向いたトールは、先ほどの大きな衝突音の理由を悟る。

入口の上には、巨大な何かが突き刺さっていた。

歪な楕円に近い形をしたそれは、中程まで壁にめり込み岩肌を大きく穿っている。

そのせいで、通路の天井が崩れたのであろう。

「逃げ道が断たれたか……」

入り口は落ちてきた岩で完全に塞がり、引き返すことは無理なようだ。

重なる岩塊から視線を引き剥がしたトールは、部屋の中央へ向き直った。

そこに居たのは、凄まじい圧迫感を叩きつけてくる存在だった。

二本の手と足を持ち、直立した姿勢はトールたちとさほど違いはない。

だが一目で人とは違う、相容れない生き物であると理解できる。

そびえ立つモンスターの大きさは、トールの身長の五倍から六倍はあろう。

長い両腕は、肘から下が何本もの触手に分かれている。

膝から下も同様で、無数の根がうねうねと絡まっているようだ。

さらに滑るような赤い肌とくれば、何度も倒してきた火頭にそっくりである。

そしてその魔族の長らしい存在には、三つ首の特徴もちゃんと備わっていた。

首や胸の辺りに、巨大な人の顔を模した瘤のようなものが並んでいるのだ。

ただし耳障りな笑い声はなく、白い眼球をギョロギョロとうごめかすだけである。

最後にその上、頭部に当たる部分にあったのは、気持ち悪い色をした花弁であった。

数枚の肉厚な花びららしき形状をしたものが、満開の花のように開いている。

その中央。

花芯があるはずの部分に、ゆっくりと内側から歪な楕円形が突き出されてくる。

それが先ほど入り口の上に撃ち込まれた物と同じであると、トールは直感的に悟った。

「来るぞ、前衛は前に出ろ! ユーリルさんはあいつの足止めを!」

「はい、冥き地へ――」

次の瞬間、トールたちはあり得ない声を耳にする。

ユーリルが放つ上枝魔技の祈句。

それと全く同じ言葉が、部屋の中央から響いてきたのだ。

「クラきチへトドめよ――」

音の出処は、モンスターの首の下に生えた顔の一つからであった。

無機質な音声が、ユーリルにわずかに遅れて放たれる。

「――<冥境止衰>」

「――<メイキョウシスイ>」

押し寄せてくる灰色の氷の波を、トールたちは愕然とした顔で見つめるしかなかった。