軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

整いつつある装備

「トールちゃんはどうするの?」

指輪がよほど嬉しかったのか、口角が持ち上がったまま戻らないソラが声を弾ませて尋ねてきた。

対してトールは気乗りしない顔で応える。

「俺か……。男には似合わんだろ」

腕輪や髪飾りをチャラチャラとつけた自分を想像し、トールは内心で首を横に振った。

ただ宝玉の効能を考えると、似合っていないという理由だけで遠ざけるのはあまりにも惜しい。

特に十階以降は、強烈な攻撃を仕掛けてくるモンスターに何回も遭遇している。

<復元>があれば、どのような事態にも対応できる。

そう考えていたが、幾度も意識を刈り取られそうな事態に遭遇した今となっては、甘すぎる認識だったと言わざるを得ない。

少しでもそんな危険を減らせるなら、見た目のこだわりなど些細なことである。

「せめて飾り立てなきゃマシなんだが」

「それでしたら、防具自体に装着するという手もございますよ、トール様」

「そうなんですか? ふむ、それだったらちょうど良いかもしれんな。実は今、鎧を新調中でして」

「おや、それは素晴らしい機宜でございますね。少しばかり拝見させていただいても?」

「ええ、ぜひお願いします」

そんなわけで急遽、予定を変更して路地裏の防具屋へ寄ることになった。

付き添いのエンナに、トールたちは裏口で待機していた黒塗りの馬車まで案内される。

「トーちゃん、おなかすいた」

「お前さっき、焼き菓子たっぷり食べてたろ」

「いつもなら、広場の屋台で買い食いして帰るからねー」

残念そうな口振りのソラだが、御者が馬車の扉を開けた瞬間、驚いたように可愛く鼻を持ち上げる。

「あれ? この匂いって」

「はい、ソラさんのお好きなのを用意しておきましたよ」

「ほんと!?」

慌てた顔で馬車へ駆け込んだ少女は、大好物の串焼きが置かれていることに気づき歓声を上げた。

「いつも気を回してくれて助かるよ」

「いえいえ、どういたしまして」

柔らかな笑みを浮かべたエンナは、さり気なくトールへ小さなメモを手渡す。

「これが最近、局長のよく行ってらっしゃるお店です」

「何から何まで、ありがとう」

「その、できれば、トールさんお一人で伺ったほうがよろしいかと思います」

どうやら女性客は入りにくい店のようだ。

頷いたトールは、エンナに別れの挨拶をしながら馬車へ乗り込む。

防具屋のある路地の前までは、十分も経たずに到着した。

馴染みの古ぼけた扉を突き飛ばすように開けたムーが、元気よく声を張り上げる。

「じいちゃん、いるかー?」

「おう、そりゃ俺の店だからな。俺が居なくちゃ始まんねーよ」

「こんにちはー、ラモウさん」

「お、嬢ちゃんとベッピンさんか。あいかわらずの美人っぷりだな」

「あら、ありがとうございます」

一通りの挨拶が終わったところで、トールが声をかける。

「よう、おやっさん。頼んだアレはどうなってる? あと紹介したい人が居るんだが」

「また嫁が増えたのか? うん、ハイラじゃねえか。久しぶりだな」

「お元気そうですね、ラモウ親方」

じろりと銀細工師を睨めつけた老職人だが、それ以上は何も言わず立てた親指で自らの背後を指差した。

「ほれ、見やがれ。注文の品だ」

そこにあったのは、木製の人形の胴体に着せられていた真紅の鱗鎧だった。

基本の部分は小さな鱗が並んでいたが、胸部や肩口は大きな一枚鱗が迫り出すように覆っている。

鱗のつなぎ目は滑らかで不自然さは欠片もなく、まるで最初からそのように生えていたかのような造形だ。

想像を軽々と超えてきた出来栄えに、トールたちは思わず目を奪われる。

その反応に気を良くした店主は、親指の腹で鼻先をこすりながら言葉を続けた。

「ったく手こずったぜ、こいつには。だが、いい出来だろ?」

「まっかっかだなー、じいちゃん」

「おー、なんかすごい!」

「立派な仕上がりですね。驚きました」

じっくりと目を光らせていたハイラが、鱗に浮かぶ独特の突起に気づきトールへと振り返る。

「…………これはもしや?」

「ええ、アレの鱗ですよ」

それは以前にトールたちが仕留めた湖水竜の群生相の革を使った鎧であった。

ほとんどはボッサリアの冒険者局に売り払ってしまったが、上質な鱗の部分は残しておいたのだ。

それらを手作業で一枚一枚つなぎあわせたのが、この鱗鎧というわけである。

しかもトールにぴったりになるよう、わざわざ寸法を測って木製の胴体を作った念の入れようだ。

「ありがとう、おやっさん。期待以上だよ」

「当たり前だ。客の要望を超えてこそ職人だからな」

「で、その言いにくい話なんだが……」

「ふん、銀細工師なんぞ呼ぶってことは、おおかた派手な飾り付けをしてえってとこだろ」

「いえ、ただの飾りではありませんよ、ラモウ親方」

ここからは自分の仕事だとばかりに、進み出たハイラが宝玉の効能について語りだす。

最初はしかめっ面で聞いていた店主だが、説明を聞いてすぐに納得したらしい。

何度も頷くと、トールの肩をバシッと叩いてくる。

「それならそうと、さっさと言いやがれってんだ。てっきり気障な色の冒険者札ぶら下げたせいで、お前も変わっちまったもんだと」

「すまなかったな、おやっさん。安心してくれ、俺はそうそう変わらんよ」

「よし、加工するって話は納得したが……。ここじゃさすがに無理だな」

その言葉を受けて、ボッサリアに店を構える銀細工師は考え込む顔になる。

「はい、できれば私の工房まで持ち帰りたいですね。ただ、鱗鎧についてはさほど詳しくないので、助言をいただかないと難しい細工になりそうですが」

「ふむ……」

顎に手を当てたラモウは、しばらく沈黙した後、重々しく口を開いた。

「よし、仕上げはあいつに任せるとするか。ちょうどボッサリアに居やがるしな」

「どなたですか?」

「ふ、俺の自慢の一番弟子だよ」

そう言いながら老職人は、目を細めて笑ってみせた。