軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

双子襲来

こちらを見下ろしていたのは、以前に出会った紫眼族の双子の冒険者だった。

とっさに身を起こしかけたトールに、姉であるキキリリはそっと人差し指を自分の形の良い唇へ当ててみせた。

それから、すいっと指を離してトールの胸元ヘと向ける。

そこに居たのは、安らかに寝息を漏らすムーであった。

寝台に倒れ込む前に小用に付き添ったのだが、どうやらそのままトールと一緒に眠ってしまったようだ。

白鼬の毛皮で全身を覆っていてもまだ冷えるのか、手足を畳み背中をくるりと丸めて縮こまっている。

子熊のようなムーの寝姿に、キキリリはにんまりと犬歯を覗かせた。

ゆっくりと伸ばされた指が、眠ったままの子どもの頬を突っつく。

ただし優しく触れるのではなく、グリグリとかなり強引な接し方だ。

熟睡していた子どもは、ほっぺたにかかる圧力に煩わしそうに顔を揺すった。

そして寝ぼけた声で抗議の声を上げる。

「もう、トーちゃん、チューはあとにして。ムーはまだねるの」

だが犯人はトールではない。

顔を見合わせた双子の姉妹は、唇の端を大きく持ち上げた。

今度は妹のネネミミも近寄ってきて、人差し指を子どもの額に添える。

二箇所をグリグリされたムーは、たまらず唸り声を発しながら目を開いた。

そこでようやく誰かが己の顔に触れていることに気づく。

「もう、ソラねーちゃん、まだねるっていってるでしょ!」

怒った口ぶりでキキリリらの指を跳ね除けた子どもは、さらに体を丸めて隣りのトールの体にしがみついた。

しばらくその格好でいたムーだが、違和感を抱いたのか首を小さく回して薄目を開ける。

そして至近距離で覗き込んでいた双子と、バッチリ目が合った。

口をまんまるに開けて飛び起きた子どもは、枕元に置いてあった天威の雷環を慌てて抱えた。

それから片手を持ち上げて、可愛くこぶしを握る。

「き、きたなー! ムーのグーはいたいぞ! なみだでるぞ!」

懸命に強がりを言ってみせるが、双子は無言のまま退く気配はない。

圧を掛けるように顔をさらに近づけてきた二人に、子どもはブルブルと身を震わせると、輪っかをお腹に抱え込んでうつ伏せに丸まった。

そして顔を伏せると、いやいやと首を横に振リ出す。

「やーやー! とっちゃやー!」

「おい、お前ら、それくらいにしておけ」

さすがに見かねたトールが口を挟んだが、双子は意に介する素振りもなく一層、距離を詰める。

そしてムーの体に手を伸ばしたかと思うと、子どもの脇腹をいきなりくすぐり始めた。

亀のように丸まっていた幼子は、その不意打ちに耐えきれず寝台に顔をつけたままクスクスと笑い出す。

とたんに双子の姉妹も、息を合わせたように笑い声を漏らした。

「クフフフ、やっぱり。フフッフフッ、簡単に同調しちゃうわね。ンフフッ、なにこれ、楽しい」

「クヒヒ、あれ、やってみよう。リリ、クヒヒッ」

「いいわね、ンフフッフフフフ」

戦士のしなやかな腕が、笑いすぎて息も絶え絶えのムーの体をあっさりと抱え上げた。

そのまま無造作に放り投げる。

唐突に宙に飛ばされたムーは、紫の瞳を最大限に見開いた。

そしてそのままの姿勢で、誰かの腕の中にすっぽりと収まる。

子どもを受け止めたのは、いつの間にか階段を数段上に移動していたネネミミだった。

双子の妹とムーは、息を合わせたようにまばたきをしてみせる。

奇妙な笑い声を上げたネネミミは、ひょいと子どもを投げ飛ばした。

受け取ったのは下の段に居た姉のキキリリだ。

くるくると器用にムーの体の向きを変えながら、弾んだ声を上げる。

「クフックフフフ。すごい、目がちゃんと回るわ」

「クシシッ、リリ、もっかい投げて」

「ウギャー」

尻尾を踏まれた猫のような悲鳴を上げるムー。

だが何度も空中を飛び交ううちに慣れてきたのか、楽しげに大声で笑い始めた。

双子の姉妹も心地よさげに笑っている。

起き抜けに始まった不可解な状況に、トールは呆れたように息を吐いた。

危害を加える気はなさそうなので、寝台の上に座り直し階段の下に居た男へ声をかける。

「ベッドを勝手に占領してすまんな」

「いや、気にしないでくれ、泥破り殿。それより、ずいぶんとお疲れのようだな」

頭部の緑の羽根を軽く揺らして答えたのは、顔見知りの冒険者チルだ。

視線を上に向けると、同じく起きたらしいソラやユーリルと話すチタの姿も見える。

彼ら天嵐同盟とは、四日目にこの階段の寝台の使用を交代するつもりであったが、うっかり寝過ごしてしまったようだ。

「ああ、十三階まで落とされてな。いろいろと大変だった」

トールの言葉に、チルの鋭い眼差しが大きく揺らいだ。

双子たちも呆気にとられた顔で、ムーの投げ合いを止める。

「…………まさか、連獄を抜けてきたのか?」

「そういう呼び名なのか? 大きな牢獄が三階重なっていた場所だったが」

「トーちゃん……、そろ……そろ、たす…………けて……」

「うむ、間違いない。しかし、よく無事で……。いや、今さら驚くこともないか。やはり別格だな、泥破り殿は」

心底、感嘆した口ぶりでチルは頷いてみせる。

双子のほうは懐疑的な眼差しを向けてきたが、ムーを抱きしめたまま黙り込んでしまった。

子どもは完全に目が回ったようで、頭をフラフラさせながらトールへ懸命に手を伸ばしている。

「もしかして、もっと楽に下りられるやり方があるのか?」

ムーを受け取ろうと手を伸ばしながら、トールはさり気なく尋ねた。

鷹のような眼に戻ったチルは、わずかに双子へ視線を送った後、あっさりと答えてくれた。

「連獄を抜けたという情報のお返しだ。こちらも少しばかり明かさせていただこう」

十一階への階段は、トールたちが上がってきた際に使ったのがやはり正解らしい。

ただ通常なら、石棺の蓋は中から留め具を外さない限り開かない仕様だそうだ。

ではどうするかというと、南側に出る看守長の亡霊を追い詰めるのが正解という話だ。

鋼人形らに交じって通路を徘徊しているこの悪霊は、見た目が囚人とは違いきちんとした軍服を着ているのですぐに分かるらしい。

だが看守長の亡霊は非常に臆病なため、見つかるとすぐに逃げ出してしまう。

それをなんとか無理やり誘導して、あの石棺の並ぶ部屋に追い込むと、階段のある棺を開けて中へ逃げ込むという仕組みになっているのだとか。

「それはまた面倒そうだな」

「うむ、手こずる相手だぞ。面倒過ぎて、時々本当に倒したくなってくるくらいだ」

チルの返答に笑みを浮かべながら、トールは再びムーを受け取るべく双子へ手を伸ばした。

二人がかりで子どもをもみくちゃにしていたキキリリは、不承不承といった感じでやっとムーを手放す。

「どうやら嘘は吐いてないようね。まあ、連獄を本当に抜けたかどうかは、石棺を調べればすぐに分かることよ、ネネ。ええ、確かにあの子に怪我はなかったわね」

キキリリが独り言のように呟いたあと、姉妹は揃ったように腕組みをしてトールをぐっと睨みつけた。

そして姉のほうが口火を切る。

「貴方、勝負しましょう」

「ん?」

「私たちが勝てばこの子はいただくわ。方法はそうね……、腐屍龍ゾルダマーグを先に倒したほうが、勝ちというのはいかが?」

腐屍の龍ゾルダマーグとは、この廃棄された地下監獄の十五階に幽閉されたモンスターであり、青い骸骨の鍵を守る番人でもある。

先へ進むなら、いずれは倒さねばならない強固な壁ではあるが――。

「いや、遠慮しておくよ」

トールはあっさりと即答した。

「なんでよ、そこは受けなさいよ! 格好つけるとこでしょ!」

「そんなこと言われてもな」

突拍子もないうえに、そもそもトールたちに勝負を受けるメリットは欠片もない。

寝台を譲り渡すべく荷物をまとめた出したトールへ、姉妹は悔しそうに足元を蹴りつけながら強い視線を向けてくる。

トールにしがみついたままのムーは、その眼差しを受けて自慢気な顔になるとケロッと呟く。

「もう、ムーがモテモテすぎるから、こまっちゃうねー。トーちゃんは、もっとムーのことだいじにして!」

「だったら、もうちょっとお姉ちゃんと遊んでもらうか?」

一瞬で青ざめた子どもは、顔を激しく左右に振ってみせた。