軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二階層の様相

陽光の届かない地下深くでも、体の感覚はだいたいの時刻を覚えているようだ。

夕方近くになったので、トールたちは六階の探索を切り上げ螺旋階段まで引き返していた。

狭い踊り場に寝袋を並べ、宿泊の準備を整える。

温め直した岩トカゲの尻尾のスープを一口飲んだソラは、ほっとしたように安堵の息を吐いた。

「ふう、あったまるねー」

「ああ、体が冷えていたから格別に美味いな。しかし、なかなかに腕を上げたもんだな」

「ええ、汁物はもうソラさんの独擅場ですね」

「えー、まだまだですよー」

「おかわりくださいな!」

和気あいあいとした夕食が終わり、トールたちは地図を囲んで次の行き先を相談する。

ムーは虫かごから取り出したかぶと虫を、腕の上で歩かせてうっとりとした眼差しで眺めていた。

「今日でだいたい、西側部分は埋められたようだな」

「うん、結構広いんだねー」

本日、歩いた部分だけでも、おおよそ外街くらいの広さはありそうである。

それなら一日もかからずに走破できそうではあるが、そうもいかないのは障害物であるモンスターの存在だ。

特に北西辺りの区域は、集団脱走でも起きたのかと思えるくらい通路に囚人の亡霊が満ち溢れ、数歩ごとに襲いかかられる始末であった。

さらに通路が行き止まりだったりすると、帰り道にはもう再発生している鬱陶しさである。

「おかげでかなり時間を食いましたね」

「ここで気になったのは、牢屋の扉の有無ですね」

「ああ、それは俺も気になってました。開いてるところが異常に多かったような」

「そのせいで、牢から出てきてしまっているのかもしれませんね」

「そうか。それはうっかりしてました」

骨格子の扉がなくなり完全に開放された牢屋が大半であったが、中にはただ開いているだけの箇所もそれなりにあった。

「次からは閉めて進むことにしましょうか」

「こっち側は番人さんばっかりだったねー」

ソラの指差した北東区域は牢屋の数が少ない分、通路が多くまた入り組んでおり、非常に迷いやすい構造であった。

そしてどの通路にも、もれなく見張りと探査の妨害を受け持つ小型の鋼人形が天井に張り付いていた。

「こちらは壁も厚くて、厳重に警戒しているといった感じでしたね」

「ええ、重罪人でも入ってたんでしょうか」

現状、死霊どもはトールの剣とムーの雷系魔技が有効で、ソラとユーリルの出番はほとんどない。

逆に斬撃に強く雷にもそこそこ耐性がある鋼人形は、二人の魔技がいかんなく発揮されていた。

「受け持ちがハッキリ分かれてしまったな」

「じゃあ交互にするのはどうかな?」

中央にある太めの通路を、少女は得意げに指し示した。

トールたちの居る螺旋階段は西側に有り、その通路はそこからまっすぐ東へ走っていた。

「そうだな。この通路を軸に明日は南東と北東をそれぞれ順番に探索してみますか」

いつの間にか膝の上に乗っていたムーの頭を撫でつつ、トールは明日の方針を伝えた。

ユーリルたちも異議はなかったらしく、頷いて会議は終了となった。

二人は半分眠りかけの子どもを抱きかかえると、階段を少し上ってトールの目が届かない場所へ移動した。

そして装備を外すと、濡らした布で体を拭いて清める。

冷たい布で体を擦られたムーは、苦しそうな寝言を呟いていた。

その間にトールはもう一度、地図を眺めながら考えを整理していく。

今の大きな目標は、最下層にいる迷宮の主を倒し大瘴穴を封じることだ。

そのためには、やるべきことや備えておくべきことがいくつかある。

まずやらねば先へ進めないことは、下層への階段探しだ。

これは順調に地図を埋めていけば、遠からず見つかるであろう。

そして十五階まで進み、そこで第三階層へ通じる階段へ入る青い髑髏の鍵を手に入れれば、この冥境の階層は攻略完了である。

ちなみに新たな螺旋階段の扉は、ここのすぐ隣にあったりする。

ただそう簡単にいかないことは、トールも重々承知済みだ。

十五階にはとてつもなく厄介なモンスターが、番人として居座っているのだ。

それを倒さない限り、先へ進むことは叶わない。

黒い剣鉈にチラリと視線を向けたトールは、難しい顔で顎の下を掻いた。

「そのためにも、より鍛えないとな」

小目標として捉えているのは、まず魔技の強化だ。

死霊のスキルポイントは五十点で、鋼人形は八十点。

あの小型のは不明である。

今日の戦果は死霊が百体ほどで、鋼人形は合わせて四十体ほどであった。

<成長促進>で二倍となるため、ざっとした計算だがトールとムーは五千点近く、ソラは三千点近い獲得となる。

ユーリルに至っては、五倍のおかげで八千点となった。

このまま続けていけば、遠からずトールとソラは三つ目のスキルを完枝状態にできるだろう。

ムーも上手くいけば十五層へたどり着く前に、中枝スキルを一本くらい完枝に持っていけそうである。

「なるほど、どうりで先へあまり進まないわけだ」

ストラッチアたちもこの第二階層で、よくスキルを鍛えていたらしい。

炎系の魔技や武技は、死霊どもと非常に相性のいい組み合わせである。

逆に第三階層はそうでもなかったらしく、"白金の焔"たちの探索が停滞していた原因となっていた。

「あとは装備の充実だな」

回収した金剛片は、まだ手のひら一杯ほどである。

武具や防具を作るには、この数十倍は必要となるはずだ。

先の長い話であるうえに、さらに解決すべき点がもう一つあった。

作成には特殊な技能を要するため、費用もそれなりに掛かってしまうのだ。

一応、鋼人形を倒した証として金剛片を提出すれば、一体につき大銅貨八枚が支払われる。

そのまま欠片を売却すれば、一つ銀貨十枚である。

もっとも、そんな端金で売り払うのは馬鹿げた話だが。

ただ死霊や骸骨では討伐証拠が残らないため、いくら倒しても収入は零となる。

湖水竜や魔女退治の報酬がなければ、トールたちも少しばかり困った状況になっていたかもしれない。

「ただいまー。あー、さっぱりした」

「お待たせしました、トールさん」

「むにゃむにゃ、ぴかぴかムーの……」

歯磨きも済まして戻ってきた三人の装備に触れ、新品同様に戻してから寝袋に潜り込む。

「じゃあ、おやすみ」

魔石灯を消して、その日の冒険はようやく終わりを告げた。