軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三つ巴の攻略

「この迷宮の骸骨たちは基本的に死にません。もうとっくに死んでますからね」

赤毛の美女は軽い口調で説明しながら、杖をほんの少し差し出した。

たちまち真っ赤な炎の線が生じ、剣と化した両腕を振りかぶる骸骨を直撃する。

高温の火に巻かれたモンスターは、そのまま数歩だけ前に進むが膝の関節が焼き切れたらしく床へ崩れ落ちた。

その場でうごめきながら、灰を撒き散らして燃え尽きていく。

「あら、でも燃えてなくなっちゃってますよ?」

「ほら、よく見てごらん」

ニネッサの指摘に、まだ燃え盛る骸骨へ焚き火にあたるように手をかざしていたソラは顔を傾けて覗き込む。

その足にしがみついていた白い獣の着ぐるみ姿の幼子も、合わせたように首を伸ばす。

「あ、ムーちゃん、見て! なんかすごいよ」

「おー、うにょうにょしてるなー」

二人が見守る中、白く飛び散った灰の粒は、床の上でもぞもぞと動き出していく。

そして飴に群がる蟻のように寄り集まったかと思うと、小さな骨片が出来上がった。

拍手するソラたちの背後で、美形の剣士がいつもの調子で呟く。

「ふ、灰と化してもなお生に執着する様ほど、滑稽でかつ美しい見世物はないということか」

「しっぽのにーちゃん、むずかしーことばしってるなー」

太ももをペチペチと気安くムーに叩かれたストラッチアは、大仰に頷いてみせた。

「灰にすると、再生に結構、時間がかかるようだな」

「だいたい二、三時間ほどですね。なので、この階層は一回倒しておくと邪魔されずに探索できるという感じです」

廃棄された地下監獄には、いくつかの階層が存在するらしい。

そのうちの地下一階から五階は、白屍の階層と呼ばれ、無限に蘇る看守どもに守られていた。

この骸骨どもは休むことなく通路を徘徊しており、戦闘を避けることは非常に難しい。

さらに精霊系の武技や魔技などで丁寧に破壊すれば時間は稼げるが、通常の戦い方だけだと延々と立ち上がってきて戦闘が長引いてしまう。

しかも腹立たしいことに、看守どもに勝利したところで倒したわけではないので、スキルポイントは全く入らないときた。

さっさと通り抜けるのが正解としか言いようがない場所であるが、そうもいかない理由も当然あって――。

「あ、居ましたよ。あれが看守長です」

ムーの先導でのん気に会話しながら進むこと三十分。

曲がり角の先で大柄な骨を取り囲む一団を見つけたニネッサが、嬉しそうに声を上げた。

<激発炎>で取り巻きを一瞬で片付け、看守長と呼ばれた骸骨だけは剣で切り刻む。

うずたかい骨の山に手を差し込んだストラッチアは、そこから環状になった小さな骨を見つけ出してみせた。

輪っかには、細長い骨片がぎっしりとぶら下がっている。

「これって……、なんか鍵っぽいですね?」

「お、よく気づいたね、ソラちゃん。ほら、ご褒美にキスしてあげちゃうよ」

「ムーもしてやるぞ!」

二人に両側から挟まれて口づけを受けた少女は、楽しそうに目をつむってみせた。

「じゃあ、これで適当に開けてみてください」

受け取った骨の束から一つ選び、牢屋の骨格子にある鍵穴らしき部分に差し込むトール。

骨同士がカチリと噛み合ったかと思うと、次の瞬間、ボロリと崩れてしまった。

同時に格子から鋭く長い骨の棘が、いっせいに突き出される。

「ハズレでしたね、残念。じゃあ、次試しましょうか」

<遡行>で一瞬速く元の位置に戻っていたトールに、ニネッサは平然と声をかけた。

「これ鍵が合わないと壊れる仕組みなのか」

「ええ、だから鍵が大量にいるんですよ。なので鍵持ちの看守長は燃やさずに連れて歩くのがコツですね」

「なるほど、骨だけにですね」

ソラの言葉に沈黙が広がる。

得意げに周りを見回した少女は、不思議そうに首をひねって再び言い切った。

「骨だけに、コツがいるんですね――イタッ! なんでお尻叩くのムーちゃん」

「なんとなくむぅ」

「で、この牢屋を開けるとどうなるんだ?」

「当たりだと、これがたまに落ちてたりしますね」

ニネッサが差し出してきたのは、またも小さな骨の欠片だった。

五つほどが手のひらに乗っている。

「これをこんな風に……、こうやって、こう。はい、できました」

出来上がったのは、小さな頭蓋骨であった。

さっそくムーが目を輝かせて手をのばす。

「ムーにもやらせて!」

「はい、壊しちゃ駄目だよ」

「まかせろー!」

「その小さい頭骨の部分が、各階に一個あるという仕組みか。で、それを見つけるために、このズラッと並ぶ牢屋を片っ端から開けて回る必要があると」

「たいへんな労力ですね」

「ええ、たいへんでしたね。でも慣れてくると、当たりの部屋が不思議と分かってきたりもするんですよ」

「そうなるまで、どれくらい試したんだ?」

「ふふ、数え切れないほどです」

あっさりと言い切ってみせたニネッサの横顔は、誇らしげだがどこか寂しそうでもあった。

これらの仕掛けを解明するために、多くの年月を費やしたのだろう。

それほどまでに長らく挑んできたダンジョンから離れねばならない心境は、トールには想像もつかないものだ。

何も言えず顎の下を掻くトールに、ストラッチアとニネッサは静かに笑みを浮かべてみせた。

発端は少し前に届いた一通の手紙だった。

内容は二人にズマ本国への帰国を命じるものだ。

北東にある滑砂の砂海に突如、無数の地下迷宮が現れ、多大な瘴気を吐き出しているらしい。

放っておけば 水洛地(オアシス) にも影響が出るとして、Aランクの二人が呼び戻されたという次第だ。

深刻な事態を無視することはできないとして、ストラッチアらは帰郷を決心した。

当然、"白金の焔"としての活動は不可能となったため、その編成を変える必要が出てくる。

ストラッチアが次のリーダーに選んだのは、水使いのラムメルラであった。

その決定に反発して、紫眼族の戦士キキリリと雷使いのネネミミ姉妹がパーティから離脱してしまう。

双子が新たに勧誘したのは、同じく"白金の焔"を抜けたチタとその兄のチルであった。

そこに雷哮団で癒し手を務めていた蒼鱗族のモルダモも加わる。

痩せぎすの神経質そうな男性だ。

ラムメルラら三人の旧メンバーに、バルッコニアらが加わった"白金の焔"。

紫眼族の双子に翠羽族の兄妹が合わさった"天嵐同盟"。

そしてトールたちを加えた三つのパーティが、現在、この迷宮の制覇を狙う形となっていた。

本来なら、ここにベッティーナらも加わるはずであった。

だが魔女を倒した翌日、ボッサリアから緊急の知らせが入る。

常闇の渓谷の 石鬼(トロール) どもに、異様な動きが見られると。

父の要請を受けたベッティーナは、金剛級としての初仕事にその討伐を選ぶ。

去り際に馴染みのふてぶてしい笑みを浮かべたお嬢様は、いつもの口調で言い切ってみせた。

「すぐに片付けて追いつくわよ。まあ、これくらいのハンデがあったほうがいい勝負になると思わない?」

こうして瘴地奪還の最後の関門となる廃棄された地下監獄へ挑むのは、三パーティへと絞られることとなった。

だが挑戦する三組のうち、未経験者だけで構成されるのはトールたちのパーティのみである。

そこで帰国する前に、ストラッチアが軽い案内を申し出てくれたというわけだ。

以前に受けた恩を返すのと、天嵐同盟に対する牽制という意味合いもあるらしい。

そうこうしているうちに、トールたちは一階の地上へ戻る階段のそばまで戻ってきていた。

その隣りにある大きな扉に近づいたニネッサは、子どもに手を差し出した。

「じゃあ骸骨返してくれるかな、ムーちゃん」

無言でポンと置かれた黒い物体を、赤毛の美女は扉の取っ手部分にある窪みにはめ込む。

「これをこうやって回すと、ほらってキャァァ!」

わしゃわしゃと手に絡みつく感触に、ニネッサは目を見開いて似合わない可愛い悲鳴を上げた。

そして慌てて腕によじ登ってきた黒い虫をはたき落とす。

「く、くろすけー!」

「炎樹の枝よ、爆ぜよ――」

「まってまって、ニネッサさん!」

かぶと虫へ放とうとした魔技を間一髪で止められた炎使いは深々と息を吸ってから、やらかしたムーとその背後で笑い続けるストラッチアをジロリと睨みつけた。

「髑髏はどうしたのかな? あと、笑うな王子。その口、燃やすぞ」

氷のように冷えた言葉に、ムーはブルブルと震えた後、小さく首をすくめた。

「えっと、さいしょからこわれたけど、ムー、なんとかなおそうとしてなー」

「最初から壊れてない」

「そうかなー、ちゃんとみてた?」

「見てた。壊れてなかった」

「ほんと?」

「ええ、どうやら私以外の誰かが壊したようだね」

「…………ごめんなさい」

頷いたニネッサは子どもの金の巻毛をくしゃくしゃとしてから、骨の欠片を受け取る。

そして何度かひっくり返してから、もう一度ムーの髪をかき混ぜた。

「元から数回使えば、壊れるんですよ。これも一回目でそうなったということにしておきますか」

「ちょっと見せてくれるか」

くっつかない骨の欠片を受け取ったトールは、その履歴を素早く読み取る。

次の瞬間、小さな髑髏がその手のひらに鎮座していた。

簡単に元通りになった頭蓋骨に、紅尾族の二人は目を合わせて笑い声を上げた。

「この先の螺旋階段を降りれば、次の階層へ行けますよ」

「ふ、我らの助力など、所詮、その程度ということか」

「いや、凄く助かったぞ。これで数カ月分は短縮できそうだ」

しばし見つめ合ったあと、兄弟子に向けてストラッチアはこぶしを差し出した。

トールもそれに合わせる。

「また、いつか会おう」

「ああ、またな」

別れは短く、あっさりとしたものだった。