軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

からがらの脱出、久しぶりの寝台

トールが通路に駆け込むと同時に、待機していた土人形たちがいっせいに集まって出入り口を塞ぐ。

簡単に蹴散らされそうな障害物だが、気休め程度にはなるのだろう。

「おっちゃぁぁん! すごかったですよ!」

小さく息を整えていたトールへ、かなりの勢いでぶつかってきたのはクガセだった。

力強く抱きついてくるが、籠手や胸当てがゴリゴリと当たって痛い。

肩を軽く叩くと、意味を誤解したのか少女は余計に力を入れてきた。

「……大丈夫ですか? これ、良かったらどうぞ」

「ふう、助かるよ」

おずおずとした態度でラムメルラが差し出してきたのは、小さな牙の容器だった。

受け取ったトールは、中身の体力回復薬を一息に飲み干す。

「見直したですよ! あんなに強いとか、もうカッコ良すぎるですよ!」

「怪我はないですか? 痛む箇所があれば教えてください」

「特にないな。それより……」

まだ動ける二人と違って、年上の赤毛二人組はしゃがみこんだままである。

全力での戦闘や二度の上枝魔技の使用で、余力は完全に残っていないようだ。

あれだけの無茶をしたうえに、呪詛の影響もある。それに、ここまで濃い瘴気の中で戦闘を繰り返してきたのだ。

こうなってしまうのも仕方がない。

「よし、俺がストラッチアを担ぐ。クガセはニネッサだ。ラムメルラは警戒しながら先導してくれ」

「分かったですよ」

「はい、任せてください」

土人形は力は強いが移動は遅く、狭い通路や斜面では使いにくい。

ぐったりとした赤毛の剣士を背負ったトールは、用心のために腐屍龍の牙の剣を一本拝借する。

刃こぼれが生じているが、刃先を失った剣よりはマシである。

「よく剣まで回収できたな」

「おっちゃんが時間をたっぷり稼いでくれたおかげですよ。おかげでこれまで取れたですよ」

笑みを浮かべながら差し出してきたクガセの手のひらには、黒く妖しい輝きを放つ結晶がのっていた。

どうやら倒した女王蟻の宝玉も、ちゃっかり取ってきたようだ。

自慢気に見せびらかした後、少女はこれまでと同じように宝石を腰の袋にしまい込んだ。

このダンジョンの蟻どもの再発生は、数日を要するらしい。

往路できちんと殲滅しておいたので、何度か休憩を入れつつも無事に五層の迷宮主の部屋までたどり着く。

といっても途中でクガセやラムメルラたちも精魂尽き果ててしまい、最終的にトールが色々と引きずって運ぶ結果となったが。

全員に水を何とか飲ませて寝袋に押し込むと、トールもようやく一息つく。

あれこれ思い出していると、傍らで横になっていたストラッチアが小さく息を吐く音が聞こえてきた。

両目を開けた剣士は黙って天井を見上げた後、かすれた声で呟いた。

「…………不様な負け方を見せてしまったな」

「そうだな。なんだ、あの剣さばき。らしくもない」

「ああ、我らしくないか。……勝ちを焦ったか」

狂乱に近いストラッチアの動きを思い出しながら、トールは思いついた言葉を口にする。

「死ぬ気でもあったのか?」

「かもしれんな。倒しさえできればそれで良いと」

「英傑を目指す男が、そうそう無茶をするな」

その指摘にストラッチアは小さく唇を歪めた。

笑ったのか苦しいのか判然としない。

「前に冒険者を続ける意味を問うたな?」

「ああ、聞いたな」

「名を残すこと。それだけだ、我が望むのは。たとえ地の底で何も果たせずに散った様でもな」

ストラッチアは砂の国ズマの王族の末子に近い生まれだと聞いたことがある。

そして彼の故郷では、血で血を洗う継承争いが起きているらしいとも。

「…………そうか」

それ以上は何も言えず、トールはただ一言だけ返した。

翌日、体力と魔力を取り戻した一行は、地上へ向けて出発した。

来る時は結構な時間を要したが、戦闘がなければそう手間取る道のりでもない。

昼前に地上の光が見える通路で待機していると、口笛のような物が聞こえてきた。

迎えの飛竜艇が到着したようだ。

二日ぶりの陽の光に、沈んだ顔つきの少女たちはようやく少しだけ楽しげに笑った。

それまでズッシリと伸し掛かっていた呪詛の重みが、とうとう消え失せたのも大きいのだろう。

ダダンの境界街には、一時間ほどで到着した。

と言っても、直に外壁の中に乗り込むのは無理なので、街道沿いにある専用の発着場に降り立つ。

柵が巡らせてある敷地内には、大きな厩舎が見えた。

飼料用に何頭かの家畜も飼われているらしい。

すでに何台かの馬車が待ち構えており、飛竜艇から下りたストラッチアたちに従者が群がりだす。

手持ち無沙汰にしていたトールも、気がつくとそのうちの一台に押し込まれていた。

十分ほどで馬車は外街の冒険者局前の広場へ着く。

そのまま各自の家に向かうというので、トールはここで止めてくれと頼んだ。

「えっ、おっちゃん、ここで下りるんですか?」

「あの……、今から施療神殿へ行きますので、ご一緒にいかがですか?」

「いや、結構だ。今回は色々と参考になったよ。ありがとう」

感謝の言葉を告げて扉を開こうとしたトールへ、二人の少女は慌てて呼び止める。

「ちょ、ちょっと待って。これ、私の紹介状。受付で見せたら、最優先で治療が受けられるから」

「これ、治療費の足しにすると良いですよ、おっちゃん」

思いつめた顔で書状を渡してくるラムメルラと、宝玉が溜めてあった腰の袋を強引に押し付けてくるクガセ。

二人の懸命な様子に、トールは唇の端を持ち上げてそれぞれの贈り物を受け取った。

下宿先に戻ると、ちょうど洗濯したシーツを取り込んでいるソラが出迎えてくれる。

無言で駆け寄ってきた少女は、トールの腕にしがみついてスンスンと子犬のように息を吸い込んだ。

「うーん、トールちゃんの匂いひさびさだー。……って、すっごく汗臭いよ。どうしたの?」

「ああ、色々あってな」

「トーちゃぁぁぁぁん!」

次いで二人の話し声に気付いたムーが、奥の部屋から猛烈な勢いで飛び出してきた。

力強くトールの腰にしがみつくと、声を張り上げる。

「ムーにあえなくてさみしかったか? ムーはむちゃむちゃさみしかったぞ!」

ぐりぐりと押し付けてくる金色の巻き毛を撫で付けていると、騒ぎが聞こえたのかユーリルも顔を出した。

安堵したような笑みを浮かべて近づいてくると、手を伸ばしトールの顔にさり気なく触れる。

そして自分の行為にわずかに驚いた表情を見せた後、いつもの穏やかな口調で話しかけた。

「お帰りなさいませ、トールさん。ご無事で何よりですね」

「ただいま、戻りました」

「そうですね。夕食までまだお時間ありますし、その前にお風呂でもいかがですか?」

トールの臭いに気づいたのか、それとなく勧めてくれる。

せっかくの洗いたてのシーツだ。

今夜は身奇麗にして、ぐっすりと休みたい。

「では、お言葉に甘えて」

「じゃあ、みんなで行きませんか?」

「ムーがキレイキレイしてやるぞ!」

「ふふ、そうしましょうか」

帰ったばかりですぐに引き返すこととなったが、それも悪くない気分だとトールはひとりごちた。

「しかし、シーツを洗濯してくれているとは、ずいぶんと気の利いた出迎えだな」

「ああ、それ……」

「えっへん、ムーのおてがらだぞ!」

なぜか誇らしげに胸を張る子どもだった。