軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

支え合う関係

次の日、トールたちが向かった先は、瘴地ではなく馴染みの路地奥の防具屋だった。

疲れを取るための最低二日は間を空けるよう、冒険者局の指導があるためである。

それに頼んでいた品が、そろそろ仕上がる頃合いでもあった。

「今日もえらく忙しそうだな、おやっさん」

「ああ、誰かさんのおかげでな。ほれ、できとるぞ」

どうやら滞っていたスライムの粘液が供給されたことで、値上がっていた修理費用が落ち着き、いっせいに直しの注文が押し寄せている状況らしい。

十年近くトールのおかげで安定していた接着剤の値段が高騰したことで、思わぬ余波が生まれてしまったようだ。

「まずはべっぴんさんの分だな。ちょっと試してくれ」

「はい、こちらですね」

台の上に置かれた岩トカゲの後脚の裏皮を使った革靴に、ユーリルの細く美しい足先がすっぽりと収まる。

軽く歩き回った灰耳族の女性は、驚いた顔で立ち止まりその場で足踏みしてみせた。

「これは…………」

「どうだい? その靴底は。ここまで手こずるとは思わなかったぜ」

「驚きました。床を踏んでいる感触が全くありませんね。ええ、まるで……雪の上を歩いているような」

北国生まれのユーリルは故郷の大地を思い出したのか、懐かしそうに微笑んでみせる。

「どこかきつかったり、緩くはないか?」

「はい、ぴったりです。こんな素晴らしいものを作っていただき、本当にありがとうございます、ラモウ様」

「ふん、美人に礼を言われるのも悪くねえな。よし、次は坊主だ。お、その靴――」

子どもが履いていた雷獣の革靴に目ざとく気づいた店主は、驚いたように声を上げた。

その様子に、トールは黙ったまま顎の下を掻く。

ここ最近、あえてムーを連れてこなかった理由は、この靴のせいであった。

孫のように可愛がっている子が自分以外の誰かが作った靴を履いているのは、ラモウの職人としての矜持を少しばかり損ねてしまうのはないかと。

恐れていた事態の発生に固唾をのむトールたちを前に、店主はしげしげとムーの革靴を眺める。

そして顎に手を当てて大きく頷いた後、急にニッコリと顔をほころばせた。

「どうだ、それ。履き心地いいだろう?」

「うん、さいこーだぞ、じいちゃん!」

「はは、そうだろう?」

普段は気難しい店主の急変に、トールは大きく眉を持ち上げた。

その顔つきがおかしかったのか、ラモウはニヤリと笑ってみせる。

「おい、まさか気づいてなかったのか?」

「うん? これって、もしや……」

「ああ、俺が作ったに決まってるだろ」

言われてみれば、法廷神殿側がムーの足のサイズを事前に把握しているはずがない。

完全にその点を見落としていたトールへ、大げさに顔をしかめたラモウが文句をぶつける。

「ったく、お前にはガッカリだぜ。何年の付き合いなんだよ。こちとら局長様直々の注文だし、かなり気合を入れたんだぞ。なのに、ちっとも見せに来ねえしな」

「そいつは悪かったな、すまん」

「ま、坊主が気に入ったってんなら、それで十分だ」

「これ、じいちゃんがつくったのか? びゅーってすべるからムーのおきにいりだぞ!」

「そうか、そうか。滑るのが楽しいか」

「うん、きのうもクロとシマとルーでいっぱいあそんだぞ!」

その言葉に思い出したのか、ソラが心配そうに声をかける。

「ムーちゃん、ルデルちゃんは体弱いから、あんまりムチャさせちゃダメだよ」

「うん、ルーはすぐにおなかいたくなるしなー」

厄介な混交の病のせいで、ルデルにはあまり体力がなくすぐに息切れしてしまう。

その点はムーもよく分かっていたようだ。

胸を張ってサラリと言ってのける。

「だから、かわりにムーのおめめ、かしてやったぞ。いっしょにすべってるみたいで、たのしーてルーもいってたぞ!」

「そっかー。それなら安心だね。うんうん、ムーちゃん優しいねー」

「こぶんをたいせつにするのは、あたりまえだからなー」

ソラにつむじをグリグリしてもらいながら、ムーは自慢げに顎を持ち上げてみせた。

その愛らしい姿に、店主と少女が目を合わせて楽しそうに頷きあう。

しかし、和やかな空気に流されそうになったある事実を、トールは聞き逃してはいなかった。

「いや、まて。ルデルと感覚を共有したのか?」

「うん、どーした? トーちゃん」

「ムーの視覚、えっと目を見せてやったのか?」

「そうだぞ! こぶんだからなー。でも、パチパチはダメだけど」

ムーの希少な根源特性<感覚共有>は、他人の視覚や聴覚を使用することができる。

一方的にムーが誰かの感覚を利用することは、これまでもよくあることだった。

だがムーの感覚や魔技の効果までも共有するのは特別な人間、家族と認めた相手だけだったはずだ。

「うーむ、家族とは違う子分という区切りか」

「ムムさんのお話だと、感覚だけの共有を許可しているようですね」

「ダメだったのか、トーちゃん」

「いや、これは使いようがあるなと思ってな。だが、あまりおおっぴらにはするなよ」

「うん、わかったぞ。まかせとけ!」

さっぱり分かってないような返事をした子どもに、今度は全員が小さく笑みを漏らした。

「なんかよく分からんが、坊主はこれでも着とけ。嬢ちゃんの分もあるぞ」

首を傾げた店主が出してきたのは、白い鱗地が眩しいケープであった。

手渡されたムーとソラが、はしゃいだ声を上げてさっそく身にまとう。

「うわー、やったー。ありがとうございます!」

「じいちゃんはムーのことすきすきかー」

「ふん、たまたま革が余ってて、ちょいと気が向いただけだぞ。勘違いするなよ」

「わたしも好き好きだよー! ラモウさん」

「ムーもじいちゃん、だいすきだぞ!」

新しい装備を得て上機嫌になった三人は、店を出る際に店主に大きく手を振って別れの挨拶をした。

最後尾にいたトールが振り返って、ラモウへ手を差し出す。

何も言わず二人は固く手を握りあった。

その夜遅く、トールたち四人とガルウドとサラリサを乗せた馬車は再び、荒野へと向かった。