軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第40話 飲まれても 飲んでしまうよ 好きだもの

おごそかに冬が到来した。

風雪吹きすさぶ中を子供達だけが走り回っているこの街で、またまたヤバい技術を開発してしまった。

秋から研究を続けていた酒造りに関するものだ。

酒造りといえば麦を発酵させてゆっくり作るもんだけど、あいにく俺はせっかちなんだ。

せっかく魔法使いが酒を作るんだから、魔法でパパッと作ったらいいじゃないか……

というわけで作成したのが、麦を食って酒を吐き出す造魔。

この造魔と麦を樽に入れておけば、次の日には酒になっているという酒飲み垂涎の素晴らしい仕組み、になるはずだったのだが……

「これは……味がしませんね」

「っかー!キツい酒ですねこれ」

「これぐらいがちょうどよいです」

MSGの本部で冒険者組に試飲をさせてみたところ、意見がバッキリと別れた。

手の甲に1滴垂らして舐めたチキンは顔をしかめ。

一口飲んだロースは一瞬で真っ赤な顔になった。

そしてメンチはコップ一杯を飲み干して平然としている。

彼女達の体をスキャンしてみるが、血中アルコール濃度が高まっているだけだ。

とりあえずは酒になっているようだった。

俺も一口なめてみる。

うっ……

一瞬で舌が痺れるような感覚。

風味もクソもない香り。

これは、超高度数のスピリッツだな……

ポーランド原産のやつを、前世で飲んだことがあった。

コップに注いだ酒に火をつけてみると、青い炎が立ち上がる。

そう、火のつく酒なんだ。

「げえっ!」

「なんですかこれ!?」

「これは飲んで大丈夫なのですか?」

部屋の中のみんなが騒ぎ出した中、誰かが俺の服を引いた。

鳥人族のボンゴだった。

「…………た……い……」

「なんだ、飲みたいのか?」

ボンゴはこくりと頷いた。

ダウナーな彼女には珍しく、目をキラキラと輝かせながら火のついたコップを見ている。

なるほどな、こういう見た目のインパクトが好きなやつもいるのか。

「ほらよ」

「…………あ……り……」

「ボンゴちゃん大丈夫?」

窓から上半身だけ部屋に入ってきているケンタウロスのピクルスも心配そうだ。

ボンゴはピクルスに頷きをひとつ返してぐいっとコップを傾け、そのまま後ろに倒れ込んだ。

「ボンゴちゃーん!」

「そりゃそうだろ……」

ロースがボンゴの体を抱き上げてピクルスに渡してやる。

一応身体に活性化をかけてやろう、急性アルコール中毒が怖いからな。

とにかく、この酒の作り方は成功といえば大成功で、失敗といえば失敗に終わったのだった。

親父なんかは小躍りして喜んでた。

高濃度のアルコールなんか使い道はいくらでもあるからな。

清掃、医療、燃料に飲料、なんでもござれだ。

なにより製造コストが素晴らしい、従来の蒸留にかかるコストをまるまるカットできるんだ。

ここいらは麦の原産地でとにかく材料が安いからな、片っ端からアルコールに変えて輸出してやってもいいぐらいだ。

親父に売ってもらう分はラインを作って製造するとして。

一応俺の方でも奴隷たちに果実なんかを漬けさせて、リキュールを作ることにした。

商売の種は多ければ多いほどいい。

出来上がりには時間がかかるが、まぁ楽しみにして待とうじゃないか。

酒単体でも荒くれ者を気取る冒険者なんかには売れそうだ、鱗人族のメンチも平気で飲んでたしな。

次の実験ができたのは春になってからだった。

ここのところ、とにかく忙しかったんだ。

結婚の準備とか、学校の研究とか、芝居とか、芝居とか、芝居とかな。

一応冬に売ってみた超高度数スピリッツは、案の定冒険者の間で話題になったらしい。

雪が降って暇な彼らはひたすら酒場にたむろしていて、カードに負けたりした者にスピリッツを飲ませて楽しんだのだとか……

まぁ、風味もクソもないしね。

普通に考えて罰ゲームだよな……

そんな失敗は横に置いておくとして、とにかく今度の手法は凄いぞ。

なんと造魔を使うんじゃなくて、酒を作る酵母に直接支援魔法をかける超ストロングスタイルだ。

酵母の働きを強化して強化して強化して……

俺は無事、ほぼ一昼夜で酒を作ることに成功した。

湯気が出るほど温度が上がっても死なない酵母はモリモリと糖を分解してアルコールに変え、その後も全く力の衰えを見せずに二次発酵までをやってのけた。

普通は酵母が死んで悪臭が出るのを防ぐために酵母を抜いたり色々とやるわけだが、その過程は完全に無視だ。

あまりにストロング、あまりに粗雑、しかし出来上がってきたものはたしかにエールのようなものだった。

強すぎて体への影響が心配な酵母は魔法で取り除くとして。

問題は味だ……

俺は下の兄のシシリキを自室へと呼び出して、何も言わずにグラスに酒を注いだ。

ちょうどいい人が家にいて良かった。

彼は無駄に舌の肥えた酒飲みなんだ。

「これ飲んでいいのかい?」

「ああ」

俺が笑顔で勧めると、子供のように破顔した兄貴は一気にエールを煽った。

もにゅもにゅと口で味わい、うまそうに飲み込んだ。

よしよし、そう悪い味ではなさそうだな。

「ここらへんの麦だけど、トルキイバの酒倉じゃないな」

「えっ!?なんでわかるの?」

「そりゃここらのは全部飲んだことあるから」

うちの兄貴は思ったより意識の高い酒飲みだったらしい。

ニコニコしながらグラスを突き出す兄貴に、俺はもう一杯ついでやった。

「エールみたいに見えるけど、全然エールの味がしないね」

「えっ!?どういうこと?」

「お前まだ飲んでないのかよ、飲んでみろよ~」

兄貴に肘でつつかれながら言われて、俺も少しだけ飲んでみた。

んっ?

苦さを期待していた舌が感じたのは、物凄い甘さだった。

ジュースみたいに飲みやすいな。

今度はグラスにいっぱい注いでみる。

横から「おれも~」と袖を引っ張られたので、兄貴のグラスにも入れてやった。

「うーん」

なぜだかわからないが妙に懐かしい気持ちになって、思わず声が出た。

うまいんだけど、ちょっと癖があるんだよな。

麦の味の中にどことなく薬臭いような、杏仁豆腐のような味が……

いや……

やっぱりこれ、飲んだことあるぞ。

これ、ドクター○ッパーだ。

「でもこれ面白い味じゃん、どこで買ったの?」

「いや、俺が作ったんだよ」

「お前が!?凄いじゃん!」

「魔法で作ったら変な味になっちゃって」

「いやいや、面白い味じゃないか、これはこれで売れると思うぞ」

「兄貴がそう言うならそうなのかな」

「ああ、もう一杯くれよ」

こうして無事に我が家の酔っぱらいのご推薦を頂いたド○ペ酒だったが。

これに婚約者のローラさんがドハマリして、引き出物用に何百本も用意する羽目になるとは、この時の俺には思いもよらない事なのだった……