軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

巨大な贈り物

アースフィル王国王都の、中央広場から少し商業ギルド側の通りに向かったあと、横道に入って進んですぐのところにあった。

青い屋根、蔦の這う白い壁に、橙色の扉の可愛らしい家。

二階建てで、元々錬金術師の家だったそうで錬金工房として完成している。

貴重品をしまっておくための金庫の魔道具が備え付けられていて、小さな庭と井戸もついている。

家庭菜園もできそうだなと、以前見たときに思ったものだ。

「この家が私とアリーセからの、君のEランク昇格祝いの贈り物だ」

「ナタリアと共謀されましたか??」

「はっはっは。君の友人は非常に協力的だったよ」

ヘルフリートは悪役じみた台詞を吐いて笑った。

迎えの馬車に乗って連れてこられたのは、エーレルトに向かう前、錬金術師をやっていればいずれ専用の錬金工房のある家が必要になるので、今のうちから考えておこうと言われ、ナタリアと見て回った不動産のうちの一つである。

当時は何にも疑問に思わなかったが、あれはエーレルト伯爵家からのナタリアへのカレンの意識調査依頼だったらしい。

「この家が一番君の気に入ったようだと教えてもらったよ」

「……おっしゃるとおりです」

「もしも自分の力で手に入れたいと思っているようであったならすまない。だが、いい家はすぐに売れてしまうし、ユリウスがドロップし当家が譲った鑑定鏡がいつまでも錬金術ギルドに預けられたままというのも、何とも残念な気がしたものでな」

「あ~、ご存じでしたか……」

せっかく鑑定鏡をもらったのに、よほど意志を持って使おう、と思った時以外は錬金術ギルドに預けっぱなしである。

カレンとしても、もったいないとは思っていたのだ。機会損失である。

「この家ならば魔力認証の魔道具の鍵と金庫がある。そこにしまっておけば、いつでも取り出して使えるだろう? そうすればジークの名を使う研究論文もはかどるだろう」

「それもお待たせしていますもんね……!」

「我々の依頼でエーレルト領に連れ出したのだから、論文が進んでいないことを責めるつもりは毛頭ない」

カレンへの贈り物と言いつつ、ちゃっかりジークのためでもあるのかもしれない。

そう思うと家一軒という壮大なプレゼントが、ほんの少し受け入れやすくなってくる。

「本当にこんなものを受け取ってもいいんでしょうか……?」

「君の コッコカレー(・・・・・・) の価値の百分の一にも満たないだろう」

ジークの依頼について、カレンは達成報酬として鑑定鏡を受け取った。

だがそれとは別に、ポーションの代金もいただいている。

無魔力ポーションということで値付けが難航した。

カレンが値引きをしようとし、ヘルフリートが値段をつり上げるという意味合いで。

結果的にあらゆるポーションを一律中回復ポーション相当の価格で売ることとなった。

コッコカレーもとい万能薬(小)も同様なのだが、これがヘルフリートたちには大層気に入らないらしかった。

ここぞとばかりに報酬分を上乗せされている気がしつつ、カレンはありがたく受け取ることにした。

それはサラと、ジークの命の値段でもあったから。

遠慮する方がきっと失礼にあたるだろう。

「――ありがたく、受け取らせていただきます」

「うむ。これは鍵だ。中に入り、扉の内側にある魔石に触れながら魔力をこめた者しか使えない。すぐに魔力登録をするように。契約書類は後ほど届けさせよう。今日からでも住んでもらって構わない」

ヘルフリートはカレンに鍵を渡すと、馬車に乗って去っていった。

カレンは馬車が見えなくなるまで見送ってから、はやる心を抱えて家に入った。

家に入ると、まず扉の魔石に触れて魔力をこめてみる。

すると扉の魔石と連動するように鍵の魔石が輝いた。

これで、カレンの魔力が登録された。

「ここがわたしの錬金工房……」

住居兼工房になっていることは知っている。

いずれ弟が戻ってくることを考えて、元の家はそのままにしておくけれど、住居はこちらに移していいだろう。

商業ギルド通りの南側の路地に入ってすぐの場所だ。

元いた場所は顔見知りばかりで安心だったけれど、治安は間違いなくこちらの方がいい。

「トレント材の机に、耐魔力煉瓦の竈……」

どれも錬金術をする上で必須だと言われながら、これまでカレンは持っていなかったものばかりだ。

前ここで暮らしていた錬金術師の置き土産だろう。傷や汚れはあるが、綺麗に掃除されていて、全然気にならない。

「洗面所だけじゃなく、お風呂も、ある!」

カレンがこの家を気に入った最たる理由のうちの一つだ。

排水設備があるタイル敷きの部屋に、バスタブと給湯の魔道具が置かれている。

この魔道具を動かすためには魔石がいるので、魔石さえ買えばすぐにでもお風呂に入れる。

「エーレルトのところで贅沢しちゃったからな~。これからもお風呂に入りたかったんだよね~!」

カレンは二階に上がるとすべての部屋を覗き込み、心に決めていた部屋の窓を開けて外を見た。

下を見下ろせば商業ギルド通りを行き交う人々がいる。

まっすぐ遠くを見れば、隣の家の屋根が被りつつも、王宮が見える。

見えはしないものの、この方角にはエーレルト伯爵家の屋敷がある。

「……ここをわたしの部屋にしよっと」

そうつぶやくと、カレンはいつまでも窓からの景色を眺めていた。