軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エーレルトのお祝い

ジークとアリーセは、この二週間ほど狩猟祭で屋敷を不在にしていたが、今日騎士たちと共に戻ってきた。

溌剌とした笑顔のジークとアリーセを見るに、狩猟祭というのはよほど楽しい行事らしい。

ヘルフリートはカレンが毒を見つけてしまったことで途中で抜けて戻ってくることになってしまったし、ユリウスに関してはカレンのお守りで狩猟祭には行けなかった。

もちろん、エーレルトの依頼のためにカレンはここにいるわけだが、若干申し訳なさを感じるほどに、騎士たちも晴れ晴れとした楽しげな雰囲気なのである。

カレンが暮らす冒険者街の冒険者たちはダンジョンに潜っては魔物を殺しまくってヒャッハーしていた。

それは冒険者の頭がおかしいのだと思っていたが、もしかしたら貴族もあまり変わらないのかもしれないなとカレンは遠い眼をした。

戦う者の共通項とでも言うべきものなのだろう。

戦わないカレンには中々理解しづらい感覚である。

すっかりリフレッシュして元気に戻ってきたジークに夕食会に招かれ、カレンは今、ジークとアリーセ、ユリウスとヘルフリートと同席していた。

「カレン姉様、王女殿下の血筋の祝福を癒やしたって聞いたよ! 殿下からの依頼も解決したって。やっぱり姉様はさすがだね」

「お褒めいただきありがとうございます、ジーク様。結局、毒の白粉の謎は解けませんでしたが……」

「姉様は錬金術師なんだから、毒だと見抜いてくれただけでいいんだよ」

「そういうものでしょうか」

カレンは力なく笑った。

毒白粉が意図的に広められたものかどうか結局わからなかったし、エーレルトからの依頼は達成したものの、本人に喜ばれていないという事実はカレンだけが知っている。

お茶会で血筋の祝福が癒えた姿をお披露目したあとから、ヴァルトリーデのもとには大勢の貴族が押し寄せて連日大忙しのため、カレンはお目通りする機会もなかった。

今夜もどこぞの貴族やギルドの人間と会食だそうだ。

体型を維持するためにデトックスポーションは侍女伝いに渡しているものの、ヴァルトリーデがカレンをどう思っているのか、どう処すつもりなのか、未だ不明である。

まな板の上で待機を余儀なくされている。生殺しである。

「Eランク昇格もおめでとう、カレン姉様! ぼくからお祝いを贈ってもいいかな?」

「ええ、なんでしょう。楽しみです」

これが今夜の本題で、ジークがカレンのためにお祝いをしたいと言ってくれたのだ。

せっかくなのでカレンは楽しむことにして、気持ちを切り替えた。

サラが箱を持ってやってくる。

受け取ると、ジークたちが一様にうなずく。

温かい眼差しにうながされ、カレンがリボンで飾られた箱を開封すると、中には水色の皮の手袋が入っていた。

「ケルピーの革手袋だよ。耐魔力素材で完全防水。カレン姉様が魔法薬を作るときに使ってくれたら嬉しいな」

「すごい……ありがとうございます、ジーク様」

ケルピーはDランクの魔物だ。

Eランクのカレンにとっては背伸びした道具だが、不釣り合いというほどでもない。

滑らかで柔らかいが、魔物素材だけあってしっかりしていて、錬金術に没頭するカレンの手を守ってくれるだろう。

これがあればうっかり毒に触ることもない。

「大事に使わせていただきますね、ジーク様」

「うん! 本当はぼくが狩猟祭で狩った魔物素材でつくった魔道具を贈りたかったんだけど、コッコしか獲れなかったんだ。まあ、魔物が少ないってことだから、悪いことじゃないんだけどね」

ジークたちはエーレルト領の領境の森に赴いていた。

狩猟祭とは各領地の貴族が催すお祭りだ。

年に一回、領地に入り込んだ魔物をここで一掃するそうだ。

領地に入り込んだ魔物が少ないのは間違いなくいいことであるはずだが、言葉を濁すジークに、ユリウスがくつくつと笑った。

「私がダンジョンを攻略してしまったから、ほとんど魔物が出なかっただろう」

「うーん、ユリウス叔父様はぼくのために攻略してくれたんだし、攻略自体が領地にとってはとてもありがたいことなんだけどね……」

「男なら狩猟祭で活躍したいと願うのは何もおかしなことではないよ、ジーク。悔しい思いを隠す必要はない」

ユリウスはジークの遠慮がちな物言いに温かく笑った。

カレンはその美しい横顔をじっと見つめた。

ユリウスがその後ヴァルトリーデをどう思うようになったか、カレンは知らない。

というより、カレンが知ることを避けている。

視線を感じたのかユリウスがカレンを見ようとしたので、カレンはあからさまに視線を逸らした。

「今年は魔物がほとんど出ないことはわかっていたからな。外部の客を招待もしていないし、祭自体も小規模で、ジークにとっては味気なかっただろう」

ヘルフリートも朗らかに笑った。

「私もアリーセを招待した年の狩猟祭がこぢんまりしたものとなっていたら、肩を落としていたかもしれない。狩猟祭が盛大であるのは必ずしもよいことではないのだが」

「うふふ。殿方が女性に良いところを見せられる場ですものね」

狩猟祭に関する話しぶりがほとんどスポーツか何かのようである。

だとしたらやはり、魔物の討伐を恐れる王女ヴァルトリーデはこの世界では異端だろう。

そんなヴァルトリーデを苦境に追い込んだカレンがどう思われているのか、ますます気になるところである。

「私と夫からの贈り物は、王都に戻ってから一緒にお渡ししますね」

アリーセの言葉に、カレンはきょとんとした。

「えっ? すでにブドウ酒をいただいていますけど……?」

「あれはサラに持たせたただの手土産ですよ。あれでお祝いが終わるはずがないでしょう」

「アリーセの言う通りだ。あれがエーレルト伯爵家からの祝いの品のすべてと思われては我々の沽券にも関わる」

沽券に関わると言われてしまえば、カレンも固辞はできない。

「ところで祝いの品って、一体どんなものなのでしょうか?」

「ヒントをあげましょう」

そう言ってアリーセはにっこりと微笑んだ。

「大きくて領地に持ってくることはできなかったのです」

「持ってくることが……できない? 馬車を所有しているエーレルトが……?」

「馬車よりも大きなものだぞ、カレン」

「馬車よりも……大きい……!?」

ヒントをもらってもまったくわからず困惑するカレンをくすくすと笑いながら、ジークが言った。

「帰ったら論文執筆も頑張ってね、カレン姉様」

「今も鋭意執筆中ですよ、ジーク様。もしかしたらこの論文が認められて、飛び級しちゃうかも!」

調子に乗るカレンに、ジークが優しく微笑んだ。

「そうなったらいいけど、そうならなくても落ち込まないようにね、カレン姉様」

「カレンならいずれ認められるだろうがな」

「新年祭のときに領民に紹介しましょう。いずれは大錬金術師になる我らのエーレルトの恩人として」

論文一つでは飛び級にはならないだろうというのはエーレルトの総意であるらしい。

誰もが未来のカレンに期待してくれている。ありがたい話だった。

「というかわたし、新年祭で紹介されるんですか? 気楽に楽しむつもりでいたんですが」

「カレンはいつも通りで構わないよ。我らが恩を感じて紹介するだけなのだからね」

「すでに領民はカレンのことを知ってはいるがな。中々平民の間で人気なのだぞ、平民である君の立身出世物語は。どうしてユリウスと結婚させないのかと私に苦情が来るくらいにな。何度も説明しているのだが……」

シンデレラストーリー的な広まり方をしているらしい。

ユリウスは頭を抱える兄を見てくすくすと笑う。

笑うユリウスをついつい見ていたカレンの油断をついて、ユリウスが振り返った。

ばっちりと目が合ってしまい、カレンは目を逸らすタイミングを失った。

「カレン、よかったら新年祭の市場を一緒に回らないかい?」

その相手はカレンで本当にいいのだろうか。

カレンを籠絡するために無理をしているのではないか?

他に回りたい相手がいるのではないか。

――ヴァルトリーデでなくてもよいのか、という質問が喉元までせり上がってきたけれど、カレンはどうにか飲みこんだ。

飲みこんで、カレンはあることを決めてから言った。

「……喜んでご一緒させていただきます、ユリウス様」

新年祭当日――たとえユリウスの心がヴァルトリーデの上にあろうとも自分とデートしたいと思わせてみせようと、カレンは心に決意した。