軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔力無しの夢2

カレンたちは孤児院の隣に併設されている神殿に移動した。

「カレン様――ヒンメル卿とお呼びすべきでしょうか?」

「まだどちらの呼び名も慣れませんので、どちらでも構いません」

「では、カレン様、と。人払いをご希望されるほどの内密のお話とはどのような件でしょうか? 子どもたちについてでしょうか?」

オーガストがあまりに不安そうに言う。

子どもたちの行く末を心から案じているのが伝わって来て、カレンはまず否定した。

「子どもたちのことではありませんよ。もしかしたら関係あるかもしれませんが……」

カレンは祭壇の間にやってきて、部屋の中を見渡すと言った。

「この神殿では女神像は飾っていないんですね」

オーガストはカレンの問いに虚を突かれた顔をしつつも答えた。

「ええ……女神の姿形を誰も知りませんので。人族の姿を模した女神像を飾っていると、異種族の方が神殿に参りにくくなってしまいます」

「魔力のない子どもに対してでなく、異種族に対してもお優しいんですね。王都の神殿には人族の女性型の女神像が飾られていますよ」

「それが悪いというわけでもございません。大抵の種族は、自身の種族の女性の姿をした女神像や肖像画を飾り、崇めるものです。ですが神殿長である私の我が儘で、女神の木の石版を飾っております」

そう言ってオーガストは石版を見上げた。カレンも同じものを見上げた。

石の板に彫刻されているのは意匠化された木の絵だ。

上には無数の枝が、下には無数の根っこが伸びている。

デザインが単純すぎて、上下ひっくり返っていても一瞬見分けが付かないかもしれない。

「これは世界樹なんですか?」

「エルフはそう信じていますね。ですが、違うと主張する宗派もありますよ。人族としてはエルフが管理する世界樹が女神の木だとされては不都合なので、人族の国ではあくまで別物だと考えるのが主流です」

「院長先生はどちらだと思いますか?」

「私も、世界樹とは違うと思いますね。この木はあくまで昔の人々が考えた、女神に至るまでの階梯の想像図だと考えております」

「なるほど、なるほど」

カレンは石版の周りをうろつきながら、様々な角度から彫刻を観察し――石版の裏で、見つけた。

「もしや、カレン様が人には言えぬ悩みを女神様の前で告白されたかったのでしょうか? 女神の肖像画でしたら倉庫にございますので、今、持ってこさせることも――」

「いえいえ、そういうわけじゃありません。ご親切にどうもありがとうございます」

カレンが石版の裏にあったそれを拾ってオーガストの方を見ると、オーガストが顔面を蒼白にしていた。

一気に十歳も二十歳も年取ってしまったかのようにくたびれきった顔をしていて、これから色々と聞きだそうとしていたカレンは拍子抜けした。

「この木製のコイン――メダル? のこと、知ってるんですね?」

「何故、それを……?」

「最近階梯を昇ったんです。昇ったら、魔力が少なすぎるものの位置がわかるようになりました。魔力が無い、を通り越して魔力が負の値にあるものの場所が。普通の人はその存在に気づくこともできないものなのに、院長先生はこれの存在をご存じだったみたいですね?」

しらばっくれられたら話を引き出すより他になかったのに、オーガストはもうすでに打ちひしがれていた。

「彫られているのは女神の木ですか?」

「――彼らにとっては女神の木です。ですが、私たちの知るものとは違い、上下が逆さまなのです」

「それはなんというか、冒涜的な感じのする代物ですね? これ、わたしの予想だと作れるのって暗夜の子どもたちしかいないと思うんですよね。もしかして、これが暗夜の子どもたちのシンボルなんでしょうか?」

「私を捕らえにいらしたのですね」

オーガストはカレンがまだ沙汰を言い渡さないうちから、観念したようにうなだれた。

「確かに私は彼らに近しい者たちと接触しておりました。前回王都のダンジョンを混乱に陥れ、今回各地のダンジョンを崩壊させたのも、暗夜の子どもたちの仕業とうかがっております。その物証により、暗夜の子どもたちとの関係を疑われても致し方ありません。ですが、子どもたちには罪はございません。ですから――」

「待ってください、院長先生。どうしてわたしが一人で来たと思ってるんですか!」

跪いて額を床にこすりつけようとするオーガストを押しとどめ、カレンは目を丸くする。

行きはハロルドもいたが、今現在、ハロルドとは別行動だ。

外に馬車を待たせてはいるものの、もしもオーガストを捕らえに来たなら丸腰で女一人はあまりに不用心だろう。

戸惑うオーガストの前にカレンもまた膝をつき、視線の高さを合わせて笑った。

「わたしはその人たちを紹介してほしくてここに来たんです」

「紹、介? 何故――」

「あの人たち、賢者の石を作ろうとしているんです。きっと、あの人たちにしかできないようなやり方で――わたしも賢者の石を作れるようになりたいんですよね。だから、会いたい。会って話がしてみたいんですっ!」

爛々と目を光らせながら夢見るように言う錬金術師カレンを、オーガストは唖然とした面持ちで見上げていた。