軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

合流

黒い柱の間を抜けると、そこは青ざめた氷の洞窟だった。

洞窟の中でありながら、透きとおる青い氷でできた洞窟の遙か上のどこからか光が射しているようで、明るい。

滑らないように中腰姿で慎重に足を踏み出すカレンの前で、リヒトはスタスタと数歩歩いてから振り返った。

「ルミー? どうした?」

「キュキュキュ……」

騎乗竜のルミーの鳴き声を聞き、カレンもやっと異常に気づいて振り返る。

ルミーは十階層に入ってきた瞬間から、一歩も歩いていなかった。

リヒトが轡を引っぱっても、その場に踏ん張り前に進みたがらない。

「……まあ、ダンジョンボスのいる階層だと、騎乗竜が こう(・・) なることは稀によくある。十階層では珍しいが、ないわけじゃない」

リヒトはよくあると言う割に、眉間にしわを刻んだ険しい顔つきで言った。

「つまり、ユリウス様はまだこの階層のボスを倒していないんですね」

「そういうことになるだろうな」

それだけとは思っていない顔をしてリヒトは言う。

何が起きていると思っているのか、正確な予想を言わないまま、リヒトはルミーの手綱をダンジョン門の柱にくくりつける。

カレンはピアスに魔力をこめるか、悩んだ。

同じ階層にいる今なら、魔力が阻まれることはない。

カレンの耳に飾られたユリウスの瞳の色のピアスに魔力をこめれば、カレンの瞳の色をしたユリウスのピアスが熱くなるだろう。

迷い迷って、カレンはやめた。

もしもユリウスが戦っている最中なら、気を逸らしてしまうことになる。

「カレン、君の体が痛んでいるのはわかっている」

カレンがぎょっとして手を握って後ずさりすると、リヒトは呆れた顔をする。

「隠しても無駄だぜ? そもそも顔中真っ赤だからな」

顔がヒリヒリして痛いとは思っていたものの、傍目にも明らかだとは思っていなかった。

カレンは顔を手で隠したものの時すでに遅しだった。

「君の体に負担がかかることは百も承知だが、俺は今できる最速でユリウスのところへ向かいたい」

カレンはホッとした。

リヒトはユリウスにカレンのことを頼まれてはいるものの、リヒトの一番はカレンと同じでユリウスなのだ。

気づかわれることがなく、かえってくつろいだ気持ちでカレンはうなずいた。

「わたしも同じ気持ちです。体に負担がかかっても構いません」

「寛大な賛同に感謝するよ、カレン」

リヒトは微笑んでカレンに感謝を述べると――すでに気絶させたカレンの倒れる体を支えながら言う。

「君に負担はかかるが、気絶してくれるのが一番速い」

海に落ちて溺れる夢から、カレンはもがきながら目を覚ました。

「ゲホッ、ケホッ!」

無理やり飲まされた強烈なアルコールが鼻に入って鼻の奥がツンと痛い。

涙目になって咳き込むカレンを見下ろし、リヒトはスキットルを掲げて言った。

「この気付け薬、よく効くだろ? ポーションじゃなくてドワーフの火酒だけどな。だから何度でも使えるのさ」

カレンはたっぷり咳き込んだ後、周囲を見渡した。

「ここは……?」

いつの間に気絶していたのだろう。

覚えていないが、カレンは目的地に到着したらしかった。

氷の洞窟を抜けたのか、空まで続く大穴が空いた場所にいた。

空は遠く、崖の淵ははるか高くて霞んで見えない。

亀裂のような形の空の裂け目だけが見えている。

なんとなく見覚えのある空だと思ったが、何故そう思ったのかカレンは思い出せなかった。

氷の逆さつららが杭のようにあちこちにつき立っていた。

そして、カレンとリヒトの前には青い氷の壁に埋め込まれたように存在する、扉があった。

黒い両開きの扉に金の幾何学模様が描かれている。

冒険者街の居酒屋で冒険者たちが話すのを聞いたことがある、通称ボス部屋の扉。

正式名称は試練の扉。

「これから中に入るが、決して危ない真似はするなよ」

「わかりました」

「体が辛いようならポーションを飲むんだな。だが、飲んだなら決して前に出ず、下がっているように」

どんな運ばれ方をしてきたのか、カレンの体中、全身打撲したような痛みがあった。

顔に出さないよう無言で痛みをこらえる。

ポーションを飲んだらもう後がなくなってしまう。

カレンは荷物にくくりつけられた錬金釜や世界樹の柄杓の無事を確認しながら答えた。

「まだ大丈夫です」

「君に何かあったらユリウスに縁を切られかねないからな。……とはいえ、こんな場所まで君を連れてきた時点で、嫌われるだろうけどな」

寂しげに哀愁を漂わせるリヒトに、カレンは赤くなった頬で笑う。

「わたしがリヒト様を連れてきたんですよ。だから、ユリウス様が怒るならわたしです」

「君はいいよな。ユリウスに嫌われることはないだろうから」

リヒトも嫌われはしないんじゃないだろうかとカレンは思った。

こんなところまでカレンを連れてきてくれたのは、間違いなくリヒトのユリウスへの想いのためで、それをユリウスも理解するだろうから。

敢えては言わずに口を噤むと、カレンは別のことを言う。

「中にユリウス様がいるんですよね?」

「多分な。俺の後についてくるように」

「はい」

カレンが短く返事をすると、リヒトはゆっくりと扉を開けた。

そこもまた、空に通じる吹き抜けのある、氷の壁と逆さつららに囲まれた牢獄だった。

そして、その牢獄の中程には五メートルはありそうな巨大な青い色の人型の魔物が寝ている。

リヒトはカレンを自分の背後に押しやってつぶやく。

「寝ているだけか……いや」

カレンはリヒトの腕の隙間から探し人を見つけて叫んだ。

「ユリウス様!!」

「――カレン!?」

倒れた魔物のその向こう側。

氷の牢獄の奥にある黒い二本の柱、十一階層に繋がる門の前にユリウスは立っていて、カレンが名前を呼べばあまりにあっさりと振り返った。

その姿は多少くたびれてはいるものの五体満足で、健康そうで、十階層にいるのに肌はピカピカで、何ならツヤツヤすらしていて、カレンの登場に心底度肝を抜かれた顔をしていた。

カレンは目を潤ませると、思いっきりピアスに魔力をこめた。

「うわっ!?」

ユリウスが強烈に熱くなったピアスにビクッと体を震わせる。

そんなユリウスをねめつけて、カレンは走り出す。

魔物は寝ているわけではなく血を流して横倒しに倒れていた。

その横を走り抜け、カレンはユリウスに飛びついた。

ユリウスは飛びついてきたカレンの体を難なく受け止めた。