軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

動機2

「リヒト様はユリウス様が心配ではないんですか?」

「一言言ってから行けよなとは思うけどさ」

リヒトは肩を竦めた。

「心配は心配だが、ユリウスが過去を乗りこえるために戦っているのなら、応援するしかないだろう?」

「……つまり、たとえ過去に何があったにせよユリウス様にとって十階層程度の未攻略ダンジョンなら、実力的には何の心配もない、ってことなんですね」

「当然だろう。そんな疑問が出てくるなんて、君は本当にユリウスの恋人かい? ユリウスを知らないにもほどがあるな」

鼻で笑われカレンはむっとしつつポーションを鑑定した。

鑑定鑑の鑑定結果は、中回復ポーション。

カレンはポーチを開き、空になっている瓶にポーションを補充しつつ言った。

「中回復ポーションができました。空き瓶があれば、補充して構いませんよ、リヒト様」

「お代は?」

「今はある種の非常事態で協力関係にあるといっても過言ではないので、いりません」

カレンはにっこりと笑顔で言うと、周囲を見渡した。

「皆さん、中回復ポーションができました! 空のポーション瓶がある方は補充していただいて構いませんよ~! 同じ釜の飯を食べた仲間、ということで、お代はいただきません!」

「えっ、いいの!? 私の持っているポーション、小回復ポーションなのよ! 一つ中身を入れ替えさせてもらってもいいかしら!?」

「いいですよ~、ペトラ様。何なら、全部入れ替えちゃいましょう!」

遠慮がちに顔を見交わしていた騎士やロジーネにはとても追いつけない速度で、さっそくペトラがたかりにくる。

まったく遠慮会釈なく中回復ポーションを補充していくペトラの姿に負け時とロジーネが続き、その後に騎士たちが殺到した。

カレンは愛想のよい笑顔でポーションを配っていく。

「遠慮しないでくださいね。皆さん、大変な時なんですから、ポーションは補充できる時にしておきましょう!」

「太っ腹だな。お人好しすぎると言うべきかな?」

呆れたように言うリヒトに、カレンは笑顔で柄杓を掲げた。

「リヒト様も一杯どうです?」

「遠慮するよ。あいにく空き瓶がなくてね」

肩を竦めるリヒトの後ろから近づいてきたゴットフリートが、眉をひそめてカレンを見下ろした。

「カレン殿、あまり技術を安売りするものではないぞ」

「安売りしているつもりはありませんよ、騎士団長様」

カレンが笑顔で答えると、二人は怪訝な面持ちになる。

十分にポーションが行き渡ると、カレンはセプルとウルテの方に向かった。

カレンは二人を連れて貴族たちに声を聞かれない場所まで離れると、切り出した。

「わたし、未攻略ダンジョンの十階層に行きたいんだけど、二人に護衛って引き受けてもらえる?」

セプルは首を掻きつつ答えた。

「俺はDランクだぜ、カレンちゃん。つまり十階層は攻略したことがない。戦えないカレンちゃんを護衛しながらダンジョンに潜るなんて土台無理だぜ」

「ま、だよね」

カレンはウルテを見やったが、ウルテは肩をすくめた。

「あたしはCランクだが、同じく無理だよ、カレン」

「セプルおじさんは予想できてたけど、ウルテも無理?」

「ああ」

ウルテは堂々とうなずいた。

「戦えない人間を護衛しながらダンジョンに潜るっていうのはね、恐ろしく難しいことなんだよ。まして十階層なんてありえない。あたしがサポーターだから断るわけじゃない。そんな依頼はたとえあたしが冒険者だとしたって断るよ」

「十階層のボスを攻略するってわけじゃないよ。ユリウス様のあとを追っていく形になると思うし、魔物もそう多くないだろうし」

「それでも無理さ、カレン。あたし一人じゃ到底無理だし、セプルと一緒に力を合わせたって、命をかけたってあんたを守りきるのは難しい」

「そっかぁ」

カレンはうなずいた。

想定していた通りの回答だ。

「他にセプルおじさんくらいの実力の冒険者が何人くらいいたら、わたしを連れて未攻略ダンジョンの十階層まで潜れる?」

「六人一パーティ……叶うなら十人ぐらいは欲しいところだね。それだけ人数が揃っていても、十階層のボスの攻略はごめんだよ」

「なるほど」

「カレン」

ウルテはたしなめるようにカレンの名を呼んだ。

「付き合いたてで恋人に会いたくなる気持ちはわからないでもないけどねえ。あんたが行ったところで邪魔になるだけだよ、カレン。あの男は強い。あんたが心配することなんて、何にもないんだよ」

ウルテはユリウスがそのダンジョンに置き去りにされた過去を知らない。

だが、知っているリヒトもユリウスなら大丈夫だろうと腰を降ろしてくつろぐ構えだ。

カレンはきっと何の役にも立たないだろう。

そもそも、ユリウスは助けを必要ともしていないのだろう。

当時の状況をよく知っているはずのゴットフリートやリヒトが必要以上に心配も焦りもしていないのだ。

きっと、カレンがダンジョンに潜るユリウスのもとに向かう意味は何もない。

もう、どうあがいても、 間に合わない(・・・・・・) のだ。

「でも、今からでも迎えに行きたいんだよね」

かつて置き去りにされた、子どもの頃のユリウスを――。

カレンが呟きに、セプルとウルテが顔をしかめる。

迎え、という言葉の意味はわからずとも、カレンがダンジョンに潜るのを諦めていないことは伝わったらしい。

説教か、説得か。

更に言いつのろうとした二人に、カレンはくるりと背を向けた。

そそくさと貴族たちの領域に逃げ出すと、二人は顔をしかめて追ってこなくなる。

カレンは軽い足取りで騎士たちが背を丸めて身を寄せ合う陰気くさい木陰に向かっていった。