軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

持ち運び用万能薬2

「真の問題はここからなんだよ」

「真の問題?」

きょとんとするトールたちにカレンは大きくうなずいた。

「ポーションとは魔法の薬。だから、その調和を壊すような異物を入れれば当然壊れる――だけどね、カレーのルーはそのまま食べるより、肉や野菜と煮こんだ方が絶対に美味しいの。すでにみじん切りの野菜をちょっと入れて固めているけど、ゴロゴロ大きな食材も入っていた方が、絶対に食べ応えがあるんだよ……!」

「ねーちゃん、待って?」

「さあ、もう一度挑戦してみようか? ――肉や野菜を入れた、本物のカレー作りを……!」

「このままだって十分美味いって! つか、食事じゃなくて万能薬なんだからな?」

「食事にもできれば二度美味しい!!」

拳を握って力説すると、カレンはくるりと傍観していたトールの仲間たちを振り返った。

カレンがにっこり笑うと、彼らはビクッと肩を震わせる。

「皆さんも練習してみましょうね?」

「い、いや、私たちは……!」

「万が一、貴重な万能薬を壊したら……!」

「トールが動けない時には皆さんに作ってもらわないといけないんですから、練習してってくださいね。大丈夫。これはわたしにとっても有用な実験ですから、万能薬代はとりません!」

カレンは強引に青い顔をする面々をうながして、カレー作りに挑戦させた。

ダンジョン内で煮炊きをしているからだろう、さすがにみんな手際はよかった。

カレーと同じように、食材を切ってお湯で煮こんだあとでカレールーを溶かしてもらう。

涙目になるトールたちに何度も万能薬を壊されながら、カレンはひとつ理解した。

「――なるほど。鑑定鏡で鑑定できる魔力食材だと、成功率が高いですね?」

かつてユルヤナが魔力素材でなら石鹸ポーション作りに成功したように、鑑定結果としてその素材を理解できるからだろう。

だが、すべてが成功したわけではない。

それに素材一種類が限界のようだった。

彼らは錬金術師ではないので、ポーションの素材として魔力食材を入れているわけではないのだ。

理解できていること、カレーの具材として適切であることからポーションをぎりぎり壊さずにいられるだけで、ポーションをポーションたらしめている何かは魔力食材を入れるごとに減損している。

恐らくカレンの作ったカレールーには--ポーションには、受け入れ許容量が存在する。

そして受け入れ許容量は、同じ理解できる素材ならば無魔力素材よりも魔力素材の方が容量を食う。

だが鑑定できない、『理解』できない無魔力素材の方が、圧倒的に要領を食ってポーションを壊してしまう。

「無魔力食材を入れても万能薬を壊さずに済んだのはトールだけだね」

何度か成功と失敗を繰り返しつつ、今トールは三つの食材を入れたカレー作りに挑戦していた。

「タマネギは血がよく流れる効果があって、ニンジンはベータカロテンがなんちゃらで、レモンと同じもんが入ってて……豚肉はタンパクシツが筋肉で……」

ブツブツ言いながらトールはタマネギとニンジン、豚肉の入ったカレーをぐるぐる混ぜる。

「ねーちゃん、できた!」

「鑑定するね」

鑑定すると、三種類の食材を新たに加えたにもかかわらず、小万能薬として完成した。

「すごいわ、リーダー。私たちはカレンさんに説明してもらっても無理だったのに……魔法使いの私の立つ瀬がないわ……錬金術は魔法のうちのひとつだから、私の分野なのに」

落ち込むワンダたちにも、無魔力食材についてその効能を説明していた。

だが、ただ説明を聞いただけでは理解に至れるわけではないらしく、トール以外の全員が無魔力食材を入れた万能薬作りに失敗していた。

「いや、これは多分、ワンダがどうこうって話じゃねーな」

「リーダー?」

「入れても万能薬が壊れないのは、ガキの頃にねーちゃんから聞いて、その効果を覚えてる無魔力食材だけだ。ガキの頃、ねーちゃんの言うことだからって疑いもせずに頭から呑み込んで、『理解』してたやつ。ごめん、ねーちゃん。他にも色々教えてくれてたよな? 全部覚えてたらよかったんだけど」

「いやいや。少しだけでも覚えててくれて嬉しいよ。小さい頃のことだし、それにわたししか言ってないようなことなのに」

それに――トールのおかげでカレンの中でとある推測にほとんど確信が持てた。

だから(・・・) 『暗夜の子どもたち』は子どもを狙うのだ。

子どものうちなら、『理解』させやすい。

だから魔力の少ない子どもを攫って苛烈な教育を行い、本来なら理解しようもないことを『理解』させる。

思い込ませ、信じさせるのだろう――表世界とは真逆の真理を。

「ねーちゃん、なんか楽しそうだな?」

「はっ。いや、別に、楽しいなんてそんな」

カレンはトールに指摘されて慌てふためいた。

悲惨な境遇にある子どもたちの事を考えていたのに、カレンは笑っていたらしい。

「獲物を嬲り殺しにして哄笑してるリーダーみたいな顔をしてたわよ、カレンさん」

「……ヤバイ時のリーダーに似過ぎてて、カレンさんをもう可愛い女の子として扱えなくなりそう」

ワンダが指摘し、ルイスはカレンから顔を逸らした。

「さすがはトールの姉じゃな」

「女神に好かれる人間って、多かれ少なかれそういうところがあるよなあ」

オードはうんうんとうなずき、クリスは苦笑した。

ばっちり目撃されてしまったカレンは、否定を諦めて認めることにした。

「そうだね――この難しい世界が面白くて、つい笑っちゃったみたい」

決して子どもたちのことを笑ったわけではない。

この世界の仕組みが、神秘が、隠された真理が――目の前で少しずつ紐解かれていくのが楽しくて楽しくて、仕方なかったのだ。