軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カレンの部屋

案内されたのは前回とは別の部屋だった。

「カレン様のお部屋はこちらとなります」

「前より広いね。わたしがBランクになったから?」

広いだけでなく、調度品もかなりいいものに見えた。

依頼のために様々な貴族の屋敷を訪ねた結果、カレンも目が肥えつつある。

王都のエーレルトの屋敷で寝泊まりしていた部屋とは違って、平民用ではなく貴族用のグレードの部屋になっているのが何となくわかった。

カレンは王都のアリーセの寝室に入ったことがあるが、あの部屋と比べても遜色ないかもしれない。

カレンがBランクの錬金術師に昇級したから、待遇が上がったのだろうか。

それともエーレルトの人々の義理堅さで、ただただカレンへの感謝の気持ちでこの部屋を用意してくれたのかもしれない。

予想するカレンに、サラは意味深な笑みを浮かべた。

「そうですね。それもあるかと思います」

「えっ、他に何かあるんだ。何? 何があるの??」

「いずれわかりますよ」

サラは荷物を置くとさっさと部屋を出ていった。

カレンについてきたセプルとウルテを案内しにいったらしい。

すぐ近くの部屋に案内されたらしく、少し空いた部屋の扉の向こうから歓声が聞こえてきた。

カレンの護衛の冒険者にもいい部屋を用意してくれたらしい。

喜ぶ声に微笑みつつ、カレンは部屋を見回した。

だが、一体この部屋に他に何があるのかはわからなかった。

そもそも、前に泊まったのはジークの管理する東館だった。

ではこの西館を管理するのは、エーレルト伯爵家の誰なのか――。

その時、窓の外で聞こえた物音でカレンの物思いが途切れた。

諍うような声が聞こえた気がして、カレンは窓を開けて見下ろした。

そこには開けた広場が設けられていた。

的場があるのを見て、エーレルト伯爵家の騎士たちの演習場だろうとカレンは察した。

直後、風向きが変わったためか演習場の声がカレンのもとまで届いた。

「お気づかいいただかずとも結構です! あなた様の剣は騎士が学ぶべき剣ではございません!!」

聞こえた荒々しい男の声に、言われた方は反論しなかった。

だがカレンの心臓は、その姿を見る前から誰がその言葉を投げつけられているのか悟っていた。

――ユリウスは、部屋に案内されるカレンを見送ったあとどこに向かったか。

カレンは部屋を飛び出して演習場に向かった。

屋敷の外に出たところで、窓から飛び降りたセプルとウルテが追いついてきた。

「カレンちゃん、出かけるなら声をかけてくれや」

「あ、ごめん。まだ護衛されることに慣れてなくて……」

「カレンは自由に動けばいいさ。あたしがついていけるようになりゃあいい」

カレンはセプルとウルテを連れて演習場に向かった。

道中、演習場から西館に戻ってくるユリウスと行き会った。

「ユリウス様!」

「カレン、急いでどうしたんだい? この先には騎士団の演習場しかないよ?」

目を丸くするユリウスはいつもと同じ穏やかな顔つきに見えた。

だが、その金色の目に陰りがある気がするのは、カレンの心持ちのせいなのだろうか。

「声が聞こえました。ユリウス様、大丈夫ですか?」

「もしかして、先程のかい? 聞かれていたとは恥ずかしいな。だが大したことではないよ」

「そうなんですか? なんだか嫌な感じのことを言われていませんでしたか?」

「騎士団をもっと強くしたいらしいと聞いてね。私が指導を申し出たのだが、私の本来の剣術は独特なので、それを知る団長に断られたというだけだ」

「それは……」

カレンはダンジョンの中でトールと戦うユリウスの姿を思い出した。

確かに、あれは騎士団が見習うような戦い方ではなかった。

口ごもるカレンに、ユリウスは苦笑した。

「私も騎士の剣術は習得してはいるのだが、あれを使っている状態では大して強くないのだよ」

「その状態で剣術大会に優勝したじゃないですか」

「真の強者はダンジョンや影響圏外で魔物と戦っているものだからね。名を売るための剣術大会ぐらいなら、あの程度でも勝てるのだよ」

同じ剣術大会に出場して敗退したライオスが聞いたらきっと憤慨するだろうが、ユリウスは本気でそう言っているようだった。

「そのような私に習いたい剣術などないし、私独自の戦い方を習得してしまうと騎士としては困るのだろう。彼らが切実なようだったから声をかけてみたのだが、余計な真似をして騒がせてしまったようだね」

ユリウスは穏やかに言う。

まるで大したことはないとでも言うかのように。

だが、カレンの聞いた声にはユリウスに対する敬意が感じられなかった。

「――先程の声の主は、エーレルト騎士団の団長さんなんですよね?」

「そうだよ。昔から、エーレルト領を守ってくれている」

そんな人物が、ユリウスの剣は騎士団が学ぶべき剣ではないと言っていた。

ユリウスはトールとの戦いで見せた姿を、本当の姿と呼んでいた。

カレンが信じるものとは違う姿だろうと言っていたあの姿を、きっと団長も知っているのだろう。

ユリウスはあの姿を、カレンに恐れられると思っていた。

その原因は、すでに恐れられ、疎まれた経験があるからではないか。

王都では三国一の婿候補として大いに知られていたユリウスである。

きっと、ユリウスが厭われる経験を積んだとしたら、その現場はエーレルト伯爵領でしかありえない。

今も騎士団の団長でいられるということは、ホルスト側の人間ではなかったのだ。

ヘルフリートの味方であるということだろう。

それでも、カレンは演習場を睨まずにはいられなかった。

そんなカレンを見下ろし、ユリウスはささやいた。

「ところでカレン、新しい部屋は気に入ったかい?」

「え? はい。素敵な部屋だと思いました、けど」

ユリウスは明らかにこの話を流そうとしていて、カレンは警戒しつつ答えた。

そんなカレンにユリウスが顔を近づけてくる。

カレンは下っ腹に力を込めた。

ユリウスの美しい顔を近づけられたからといって、脳が溶けてすべてを誤魔化されてしまうこれまでのカレンとはもう違うのである。

「廊下を挟んで向かい側にあるのが、私の部屋なのだよ」

「……え?」

言葉の意味を飲み込めずにきょとんとするカレンに、ユリウスは目を細めた。

「君の部屋は、私の妻となる人のための部屋なのだよ、カレン」

ぽかん、とするカレンをユリウスがおかしげな笑みを浮かべて見下ろした。

カレンは用意された部屋がある二階の一室を見て、ユリウスを見て、再び二階の一室を見やると、叫んだ。

「きゃーっ!!」

黄色い歓声をあげるとカレンは部屋に向かって走り出す。

そんな部屋だとはつゆ知らず、まったく見物できていない。

部屋を見るべく一目散に駆けていくカレンの姿に、ユリウスは笑いながら後をついていった。