軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

祝いのパーティー2

「カレン姉様、ようこそ」

「ようこそ!」

ジークと子どもたちが出迎えてくれる。

場所はエーレルト伯爵家で主催はジークだが、子どもたちも準備を手伝ったと聞いている。

だから開催時間は昼間で、パーティーと銘打たれているものの雰囲気としてはお茶会である。

カレンは笑顔で言った。

「皆様、歓迎いただきありがとうございます」

「ハラルドさまも、ようこそ!」

「僕のことは呼び捨てで構いません……!」

子どものうちの一人に様付けされてびっくりした顔をするハラルドに、子どもたちは顔を見合わせる。

賢い子どもたちのうちの一人が気を利かせて、「ハラルドせんせいは?」と提案した。

「錬金術師の、ハラルドせんせい! これもいやですか?」

「それなら、まあ……」

子どもとはいえ相手は貴族だ。恐縮した様子のハラルドを見て、カレンは我が身を振り返る。

エーレルト伯爵家に来る分には、もうすっかり緊張がなくなってしまった。

顔合わせの時には緊張したけれど、あれはまた別物である。

「カレン姉様、こちらへ」

「ハラルドせんせいも、こちらへ!」

ジークにエスコートされて、カレンはおやと目を瞠った。

以前、快気祝いでジークとダンスをした時より腕が組みやすい。

「ジーク様、大きくなりましたねえ」

「そうかな?」

嬉しそうにはにかむジークを周りの子どもたちが憧れの籠もった輝く目で見上げている。

子どもたちからすれば、ジークはまさに先駆者なのだ。

自分よりも年上で、自分たちよりも先に血筋の祝福に苦しんでいて、自分たちよりも先に死ぬかもしれなかったのに、助かった。

そして、助けたカレンとその弟子であるハラルドを純粋に尊敬してくれている。

子どもたちの親がエーレルト伯爵家の関係者であり、親に言い含められているところもあるだろうが、その目を見れば真心が伝わってくる。

「軽食を用意させたから、カレン姉様とハラルド先生はここに座って飲んだり食べたりしながら寛いでいてね」

そう言って、ジークはカレンたちを光がよく入ってくる明るい応接間に用意された丸テーブルに案内した。

机の上にはサンドイッチや様々なお菓子が並んでいる。

食へのこだわりが強いカレン的には一部謎の料理もあるが、アーモンドの砂糖菓子やプディングはカレンでも文句なしに美味しく食べられるデザートだ。

他の子たちの机はなく、カレンたちのテーブルの前には舞台が作られていた。

舞台の上には子どもたち用の小さな椅子が並んでいる。

サラがやってきてカップに注いでくれたお茶を飲みながら、カレンはすすめられるままに椅子に座った格好のまま身じろぎもしないハラルドに声をかけた。

「何か見せてくれるみたいだね。楽しみだねえ。ハラルドもお茶をいただいたら?」

「……喉が塞がって、何も飲める気がしません」

ハラルドが緊張に青ざめて言う。

カレンはサンドイッチをパクパクと食べながら首を傾げた。

「緊張しているのはハラルドだけじゃないんだよ?」

「まったくそうは見えませんが?」

生ハムとレタスっぽい野菜の塩気たっぷりのサンドイッチを食べたら、次はアーモンドの甘い砂糖菓子に手を伸ばす。

しょっぱい甘いの無限ループを楽しみはじめたカレンにハラルドは胡乱な眼差しを向けた。

「わたしじゃなくて、子どもたちだよ」

「え?」

「あれだけ小さい子たちだと、お客様をもてなすのもはじめてだと思うよ。そんな子たちがわたしたちを楽しませようと、あれこれ準備してくれたんだよ? お茶も、ご飯も、お菓子も、きっと悩んで用意してくれたんだと思う」

カレンはこれでアリーセやヴァルトリーデとお茶会の経験がある。

並んでいるメニューがお茶会としては若干違和感があることがわかる。

きっと、メニューを考えたのも子どもたちなのだろう。

大人たちの姿はない。

この屋敷のどこかに控えているかもしれないが、使用人以外の大人はカレンたちの見える場所にはいなかった。

これはあくまでジークとジークよりも幼い子どもたちの催しなのだ。

「貴族だって、小さな子なら、最初は右も左もわからなくて不安だよ? きっと。年上のハラルドがドンと構えて、子どもたちの歓迎を存分に楽しんであげなくてどうするの?」

「年上……」

ハラルドはぽかんとしてつぶやいた。

平民として貴族に招待されたという考えに囚われていたせいか、幼い子どもが一生懸命お祝いを考えてくれたという事実に気づいていなかった顔をしている。

「あっ、はじまるみたい」

ハラルドは息を呑んで背筋を伸ばした。カレンは手にしていたサンドイッチを置いた。

一度部屋からはけた子たちは、それぞれ抱えられるぐらいの大きさのハープを手に部屋に戻ってきた。

ジークを合わせて、全部で十六人。

舞台の上にずらりと並んだ子たちがハープを構える姿は可愛らしく、この姿を子どもたちの親が見ていないなんて――とカレンが嘆いたのはつかの間。

使用人が身を隠して給仕するための衝立の裏側からかすかに洟を啜る音が聞こえ、子どもたちの保護者が案外近くにいることを知ってカレンは笑いそうになった。

幸い、ハラルドは気づかなかったらしい。

もしも大人の貴族たちが隠れていると知ったら、たとえ彼らが子どもたちを見るためにいるだけだと言われてもハラルドの緊張は解けなかったろう。

だが、緊張と不安に強ばる子どもたちの顔を見ているうちに、ハラルドの肩からは力が抜けていく。

「一曲目は、春を祝う妖精の歌です」

春を祝う妖精の歌。それは平民がよく歌う庶民的な曲だった。

四月の終わり頃にある聖樹祭という春を祝うお祭りで、あちこちの辻で善意の音楽家がこの曲を演奏したり歌ったりして、それに合わせて平民が踊っている。

孤児院で歌われているのも見たことがあるから、ハラルドも知っているだろう。

貴族の間でも流行っていると考えるよりは、子どもたちがカレンとハラルドに聞かせるために練習してくれたと考える方が自然だろう。

子どもたちが奏でる高く澄んだ音に、カレンは目を閉じて耳を傾けた。

おじさんが陽気に歌いながら踊っているイメージの曲だが、竪琴の繊細な音色で奏でられると妖精が舞い踊っているようなイメージが湧いてくる。

カレンには小さな竪琴の演奏レベルはわからなかったが、前世の基準で考えても、幼い子どもたちにしてはかなり上手な演奏に聞こえた。

これまで、寝台から起き上がれる時間もそれほど多くなかった子たちばかりだ。

人生で竪琴を練習できるような時間はほとんどなかっただろうに、カレンがダンジョン調査でダンジョンにいる間にどれほどの練習を重ねただろう。

演奏が終わると、カレンは拍手をした。

拍手をする文化はこの世界にもある。

茫然としていたハラルドも、カレンが拍手をしているのを見て慌てて後に続いた。

一生懸命な力強い拍手で、子どもたちの頑張りを褒めたたえていた。