軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

万能薬の依頼

「じゃあっ、この男を弟子にしますから! そうしたら万能薬を食べてもいいですよね!?」

「コイツ……」

トールがドン引きした顔になる。カレンも白い目をユルヤナに向けた。

ユルヤナにとって、アヒムとの約束は本当にどうでもいいことなのだ。

弟子にするためのリソースはある。ただ、面倒だから受け入れたくないだけで、その面倒もカレンの万能薬を食べることと引き換えにして引き受けられる程度の些事なのだ。

「アヒム、こう言ってるんだけど、この人の弟子にまだなりたい?」

「……なりたい」

アヒムはものすごく複雑な表情で答えた。

カレンは溜息を吐き、ユルヤナに向き直った。

「アヒムがこう言っているので師匠の分の皿も用意します。でも、今度こそ約束を破っちゃいけませんよ?」

「カレンさんの前でした約束なんですから、破ったりしませんよぉ」

ユルヤナはごくごく軽い口調で答えた。

あまりに信頼感がないものの、カレンに対して一目置いているのは事実らしいので、一応信じておくしかない。

アヒムはがっくりとうなだれた。

「……ユルヤナ様が見つからなくて、おまえに聞けば何かわかるかもって思ってたら、まさかおまえがユルヤナ様の弟子だったとはな。ついにユルヤナ様が弟子を取ったって噂は流れてきたが、それを聞いた時、オレのことだと思ってたんだぜ――自分が情けなくて嫌になる」

アヒムが渇いた笑いを浮かべて言う。

荒んだ目つきをしていたが、ふと目に光が宿った。

「……ん? つまりはおまえが姉弟子になるってことかよ」

「ふふん。敬ってくれてもいいんだよ?」

「まだおまえのBランク昇級論文、閲覧できる状態じゃないしな。そいつを見てからでなきゃ判断はできねーよ。だけど、さっき万能薬とか言ってたか?」

アヒムは最悪の師匠に翻弄されながらも、耳ざとく万能薬という単語を聞きつけていたらしい。

錬金術師として万能薬という存在に惹かれるからか、この状況でも気持ちを切り替えて笑みを浮かべられるのはさすがだとカレンは感心した。

カレンが説明しようとした時、再びベルが鳴ってカレンは口を噤んだ。

ハラルドが出迎えたのは、アーロンを背負ったウルテだった。

「ごめんアヒム、わたし行かなきゃ」

「オレのことは放っておいてくれていい。いきなり押しかけたオレが悪いからな」

「ちょっと待っててね」

アヒムやトール、ユルヤナに送り出されて、カレンはウルテを迎えにいった。

「約束の時間より少し早く来ちまったんだけど、問題あるなら外にいるよ。つい気が逸ってね」

「全然いいよ! 入って入って!」

「……前来た時より人の気配が多いようだが、お客さんかい?」

「師匠と弟弟子がいるだけだから、気にしないで」

カレンがウルテを応接間に案内すると、ウルテは怪訝な顔をした。

「夕食時かい? 悪いね。万能薬をいただいたらすぐに出ていくよ」

「これ、ウルテさんの分だよ。こっちがアーロンさんの分」

「なんでだよ……」

ウルテに背負われたアーロンが弱々しい突っ込みを入れてくる。

応接室には二つの皿が用意されていた。

何も知らない人が見れば、細切れの野菜がゴロゴロ入ったスープが用意されているようにしか見えないだろう。

二人とも、カレンがどういうポーションを作るのかまったく知らないのだ。

ソファの椅子を叩いて座るように促しながら、カレンは言った。

「わたしのポーションが料理ポーションだからだよ」

「つまり、これがポーションってことかい? だとして、どうしてあたしの分まであるんだい? あたしの分まで払うような金はないよ?」

「お金はいいよ。わたしのポーションがどんなものか、護衛として一度味わってもらおうと思ってね。セプルおじさんはもう食べたことあるからさ――わたしに何ができるのか知らないと、わたしを何からどう守らないといけないのかもわからないでしょ?」

「……なるほど。護衛として、ってことかい」

ウルテ自身は万能薬を必要としているわけじゃない。

だからこれは純粋に、カレンにできることを知ってもらうために用意した。

「今日の万能薬は、和風昆布出汁のスープカレーだよ!」

「ワ風? 今日の万能薬??」

「まっ、気にしないで。早くアーロンさんに食べさせてあげたら?」

ウルテはハッと息を呑んで、アーロンをソファに下ろした。

ゆっくり横たえたアーロンの背中にクッションを重ね、わずかに体を起こさせると、ウルテはスープの皿を手に取った。

「スープだけ先に飲ませてあげて。元気が出てきたら、柔らかい野菜から食べさせてあげてね」

「先にスープだね」

ウルテはスプーンでスープをひと掬いすると、ゆっくりとアーロンの口許に運んでいった。

アーロンはスープを口に含むと、震える体に力を込め、やがて何とか呑み込んだ。

カッと目を見開くと、アーロンは震えながらも首を動かしてウルテを見やった。

「次をくれ、頼む!」

「っ、ああ!」

ウルテは涙で声を濁らせながらうなずくと、アーロンの口にスープを運んでいく。

みるみるうちにアーロンの体の強ばりがほどけていくのが見えて、カレンはほっと息を吐いた。

ウルテはボロボロと涙を流しながら食事の介助を続けた。

アーロンはウルテを見上げて笑った。

「泣くなよ、ウルテ」

「うるさいよ。これまでずっと我慢してたんだ。今ぐらい、泣いたっていいだろう……!」

「……ごめんな、ウルテ。オレを見捨てないでくれて、ありがとうな」

「あたしたちは夫婦だ! 結婚した時、あたしは女神に生涯あんたと一緒にいる権利をくれって願ったんだ! こんなことぐらいで、見捨てるわけがないだろう……!!」

アーロンはまだぎこちない動きながらもゆっくりと体を起こすと、ウルテを抱きしめた。

ウルテはアーロンの背中に片手でしがみついて声をあげて泣き出した。

カレンは泣くウルテのもう片方の手にあるスープ皿を落とさないよう回収してあげようとしたものの、ウルテはしっかり皿を握りしめて離さなかった。