軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

記念日デート2

「あんたが前回の剣術大会の優勝者か」

ユリウスが紹介状だと言うカードには、アースフィル王国剣術大会の紋章である黄金の薔薇と茨の冠が描かれていた。

門番にそれを見せるとカレンとユリウスは丁重に中に招き入れられ、ドワーフに出迎えられた。

ユリウスが手にしていたカードは、剣術大会に優勝した者に与えられる優待券のようなものなのだろう。

背丈はカレンの胸より低い。顔の半分以上が髭で覆われている。

酒瓶を片手に持ってはいるが、ドワーフに限っては不真面目なのではなく、彼らにとって酒はほとんど水と同じだ。

ユリウスは事前に連絡を入れていたのか、ドワーフはユリウスが来ることを知っていたらしい。

「お初にお目に掛かる、魔道具師ウルゴ。手紙でも伝えたが私はエーレルト伯爵家の騎士ユリウス。彼女は錬金術師のカレンだ」

「は、はじめまして」

明らかにデートの装いをしているユリウスとカレンを見て、ドワーフの男は明らかに胡散臭げな目つきになる。

「ふうむ? わしはここの店主のウルゴだ。まあ、護国の戦士が優勝者の特権をどう使おうと勝手ではあるが、女にいい格好をするために来るにはちいと敷居が高いと思うぞ?」

「そうだろうか? 愛する女性にはこの世でもっとも良いものを贈りたいと思うものではないか?」

「まあ、わしの作る魔道具が世界で一、二を争うのは間違いなし、相手が唯一無二の相手ならそうなるだろうだな。おまえ、さては人間にしては一途だな?」

ユリウスがカレン好みの言葉を口にしたことも、ウルゴというドワーフが人間に抱いているらしい偏見も、カレンにはまったく聞こえていなかった。

「あ……ああ……アッ……!」

ウルゴの肩越しに、平民学校の教科書でしか見たことがないような魔道具がすでに見えている。

カタカタ震えながら中に突進するのをこらえるカレンの姿を見下ろし、ユリウスはうっとりと目を細めた。

そんなユリウスを見上げ、カレンを見やり、ウルゴは肩を竦めた。

「自由に見て回って構わんが、勝手に触るんじゃないぞ。触りたい時にはわしに触っていいかどうか聞け。いいな!」

「はいっ!!」

カレンは元気に良い子の返事をすると精一杯のお行儀の良さで競歩で中に突入した。

うっかり触ってしまわないよう、両手を腰の後ろで組んで歩き出した。

魔道具には未だ人間の手では生み出せないアーティファクトと呼ばれる女神の魔道具と、それを模して人為的に作り出された人造魔道具の二つがある。

大抵の魔道具店ではその二つの違いは明らかで、見間違えようもない。

だが、この店に並ぶ魔道具たちを見ても区別がつかない。

人が作れる魔道具でよく知られているのは属性魔石を使った火・水・風・土を出す道具だ。お風呂や台所周りで使われている水や火を出す道具はまさにこのあたりの発明品である。

カレンが水を生み出す革袋を見た。

ダンジョンで使う水を出す革袋は、飲み水として使うものについては必ず女神の魔道具を使うべきで、人が作った人造魔道具は避けるべきだとされている。

これは口の部分が飲みやすい形になっているので、女神の魔道具なのだろう。

だが、カレンの予想はすぐに外れた。

「そいつはわしが作った魔道具だ。女神の魔道具と見分けがつかんだろう?」

「えっ、でも」

「人が作った水の革袋の水を飲むと、体を壊すやつがいるというが、そういう魔道具を作ったやつらの水袋への理解が足りていないだけだ。わしが作った水の革袋でなら体をぶっ壊すやつなんておらんぞ。ここ百五十年見取る限りではな。ガハハ!」

エルフほどではないが、ドワーフも人間より長生きな種族だ。

百五十年大丈夫なら、人間の半分ぐらいは寿命が来るので問題があったところでどうでもいいだろうという、長命種ジョークである。

「すごいですね。もしかして、土の魔石を使っているんですか?」

カレンが何気なく問うと、ウルゴが顔から笑みを消した。

「――どうしてそう思う?」

「え? あ、ごめんなさい。企業秘密ですよね」

「魔道具の製法は無論、わしら職人の最大の秘密だ。だからこそ、それが漏れているなら秘密の漏洩の経路を確かめたいところだが……おまえは錬金術師だったか」

「はい。ウルゴさんの魔道具の製法が漏れているわけではなく、わたしが錬金術師として水を理解しているだけだと思います」

カレンはもじもじとして言った。

水の魔石が生み出す水は、水以外のものが何も含まれていない超純水なのだろう。

汗をかいて塩分が体から流れ出ている時に、塩分などのミネラルを含まない水を飲み過ぎたら、水中毒になる人が出てもおかしくない。

だから、今もカレンは家に水を生み出す魔道具はあっても、飲み水は井戸水を汲んで煮沸していたり、ジュースやワインを飲んでいたりする。

おそらくは、魔力量が多い人は魔力が体を補うので、表面的には問題は起こらない。

だが赤ちゃんや、病人や老人など。体が弱い人にとっては毒になるのは経験的に知られていて、基本的に飲用水には使われないのだ。

水を生み出すのと同時にミネラルを含ませられるような水の革袋を作るには、水の魔石の他に土の魔石が使えるのかなと、とっさに思いついただけなのだ。

とはいえ、秘密の製法を言い当てられるのは気分がよくないだろう。

首を竦めるカレンを見すえ、ウルゴは髭をわしゃりとしごいた。

「なるほど、おまえはそこそこ腕の立つ錬金術師のようだな。名前はなんと言ったか?」

「カレンです!」

「錬金術師のための魔道具はこっちだぞ、カレン」

「ありがとうございますっ!」

カレンはぱあっと満面の笑みを浮かべて、ユリウスには一目もくれることなくウルゴの案内にピコピコついていった。